01-09 出立/三人目
これまでのあらすじ:銅級に昇格したのぜ。
孤島でBBQをした五日後、僕達は冒険者ギルドへやって来た。
「ユートさん、キリエさん、こんにちは! 今回のご用件は何でしょう?」
何だか、すっかり僕達の担当みたいになっているソフィアさんである。
「こんにちは、ソフィアさん。今日は届けを出しに来ました」
「え、届けって……もしかして」
「はい、国外に出る届けです」
姉さんが、ソフィアさんに一枚の羊皮紙を差し出す。国外へ出る際は、冒険者ギルドを通して国へ届け出る必要がある。
今日は、それを提出しに来た。
「そ、そうですか……行ってしまわれるのですね」
残念そうに肩を落とすソフィアさん。えっ、そんなに?
「ええ、世界を見て回るという目的がありますので」
「ちょくちょく帰ってこようとは思っていますけどね」
「そう、ですか……それで、どちらに行かれる予定なんですか?」
ソフィアさんが羊皮紙に目を落とすと、次の瞬間ギョッとした。
「はい、ミリアン獣王国へ行こうかと思っています」
「ミリアン獣王国ですか!? ちょっ……危険ですよ!!」
――ミリアン獣王国。
南の大陸の中部にある、獅子の獣人が治める獣人族の国だ。
そう、この世界には獣人がいる。
獣人だけではない。エルフ族、ダークエルフ族、ドワーフ族、竜人族、魔人族。
他にも種族がいるのだが、国家を形成する程の人数には至っていない。
さて、人間族と獣人族なのだが……基本的に、仲が悪い。
獣人族は人間族を憎み、人間族は獣人族を魔物扱いしたりする人もいるそうだ。
人間族は、捕らえた獣人を奴隷にして、慰みものにしたり過酷な労働を強制したりする事もある。イングヴァルトでは無いんだけどね。
逆に、獣人族が人間族にゲリラ戦を仕掛けたりする所もあるという。
最もミリアン獣王国を治める獣王は、高潔な武人なのだという。その為、ひどく礼を逸したりしなければ問題ないらしい。問題を起こしたりしたら、厳しい処罰が下るらしいけど……。
この情報元は、父さん達とその友人だ。
「大丈夫ですよ。父の友人にお世話になる予定なので」
「ユートさんのお父様……っ!! まさか!?」
「「ソフィアさん」」
驚いたソフィアさんを制止する為、僕と姉さんが口元に人差し指を当てる。所謂、シーッのポーズだ。
僕の両親の事は、一般や一部を除く貴族には秘匿されているのだ。一般人レベルでそれを知っている稀有な人、ソフィアさんである。
「すみません……思わず興奮してしまいました……」
「いえいえ、今後気をつけて下さるなら」
「で、多分ソフィアさんの予想通りですよ」
そう、ソフィアさんも知っているのだろう……勇者レオナルドと親しい獣人族を。
「もしかして、ベアトリクス様……ですか?」
同じ轍を踏まない為か、小声でそう問いかけて来た。
「ええ、その通りです」
「あ、あの拳聖と呼ばれるベアトリクス様とも、面識が……?」
拳聖……そんな風に呼ばれてんのか、ベアトリクスさん。
「二カ月に一回は、家に遊びに来てましたからねぇ……」
「ベアトリクスさんは商人なので、正確には売買で来ていたんですよ」
「で、ついでに僕達と遊んで、父さん達と飲んで、泊まって帰る」
「……ユートさん達、多分凄い事を口にしているって自覚、無いですよね……」
すると、そこへギルマスがやって来た。
「お、ユートじゃねぇか。どうした?」
「どうも、ドーマ支部長」
飲み会以来、僕達を呼び捨てでフレンドリーに呼ぶようになったフレイン・ドーマ支部長。
何でも、この人勇者が大好きらしい。僕の父さんを始め、ショウヘイさんやショウタローさんの事もご存知だった。
なので、あの後でもちょくちょく一緒に飲んでは、そういった話を教えて貰っている。
「ほーぅ、ミリアンにねぇ……」
支部長にも旅に出る事を話すと、難しそうな顔をしていた。
「いや、獣人族に知り合いが居るとしても、人間族はいい顔されないぞ? 人間族と獣人族の確執は、根っこが深いからなぁ」
「まぁ、それも承知の上ですから」
よほどの事が無い限りは、世界各国を巡りたい。その地の文化や風習、そして伝承を知りたい。
遺失魔道具や魔道具も、見れるようなら見てみたい。
「まぁ、そこまで言うなら止めやしねぇよ。だが、ちゃんと帰って来るんだぞ? 飲み仲間が減るのは寂しいもんだ」
「ええ、必ず」
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ドーマ支部長・ソフィアさんに挨拶を済ませ、僕達は王城へ向かう。
アンドレイ叔父さんへの謁見は、すぐにできた。
「もう行くのか、もう少しゆっくりしてもいいだろうに」
「時間は有限だからね」
「ふむ、決意は固いようだな」
叔父さんは溜息を吐いて、次に穏やかな笑顔を浮かべた。
「ベアトリクスによろしく伝えてくれたまえ。いつ出立するんだい?」
「明日、朝一のつもりだけど……」
「それなら、今夜は泊まって行ったらどうだね?」
前から思っていたけど、叔父さんって僕達を泊めたがるな。しかし、今回は……。
「いや、宿の方にも挨拶をしたいから、今回は辞退するよ」
「ふむ、残念だ……アルファルド達は今、所用でここには来られないし、挨拶出来なくなってしまうのだがなぁ」
「うっ、そう言われると……」
アルファ達に、挨拶をしないわけにもいかない。いくら“腕輪”でいつでも話せるとしても、だ。
やはり、顔を合わせて挨拶はしたい。
「それではユーちゃん。今日は宿に戻るのは変わらずに、明日は叔父様のお世話になるのはどうでしょうか? 出立を一日遅らせるくらいなら、構わないと思いますよ」
姉さんにそう勧められた。
「うーん、そうだなぁ……一日くらいなら、確かにいいかぁ」
「ふむ、それでいいではないか。ならば、明日は晩餐会としよう」
「いつも済みません、叔父様」
「ははは、構わないとも!」
結局、お世話になる事になってしまったな。
……
その日の晩。
「そっかぁ、行っちゃうんだね」
少し眉尻を下げて、エマちゃんが残念そうに言う。しかし、すぐにいつもの明るい笑顔を見せてくれた。
「でも、また戻ってくるんだよね?」
黄色の月亭は……いや、この宿に限らず王都の宿屋には、冒険者や商人が泊まる事が多い。
だからこそエマちゃん達は、旅立つ人達を何人も見送ってきた。
二度と会えない人達だって居るだろう。しかしまた会えると信じて、笑顔で送り出そうと頑張っているんだろう。
また、会える事を信じて。
「勿論そのつもりだよ。その時は、またココにお世話になるつもり」
「あはは、リピーターをゲットしちゃったね!」
だから絶対に、またこの宿に泊まりに来よう。
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翌日、エマちゃん達に挨拶をして、宿を後にする。
僕達はそのまま、冒険者達がよく集まる酒場に顔を出してみた。そこには、ゴンツ達やテリーさん達が居た。
「兄貴! ここに来るなんて珍しいですね!」
「お、ユート! こんな日の高い時間から酒か?」
こちらに気付いたどちらのパーティも、気安い感じで挨拶をしてくれる。
「良かった、どっちのパーティもここに居るなら丁度いいや」
そして、旅に出る事を伝えた。すると……。
「兄貴、姐さん!? 俺達を置いていかないで下さいよ!!」
「いや、アンタらまだ銅級に復帰してないだろうが。真面目に頑張れよ」
「そんなぁ……」
そして、テリーさん達は。
「折角だし、一緒に行きたい所だが……」
「申し訳ないのですが、私達もあまり大っぴらに出来ない事が少しあるので」
少しどころじゃないけどな!!
「ふむ、まぁそうだろう……よし、今日は俺達の奢りだ! 店主、旅に出るこの二人の為に、酒をくれ! 一番いいのを頼む!」
……
酒をご馳走になった後、僕達は王城へ向かう。
応接の間に通されると、そこにはアルファやアリス、シルビアやアクセル君が待っていた。晩餐会の準備が出来るまでの、僕達のホスト役なのだそうだ。
「ん? 酒の匂いがするが……」
「冒険者仲間が、奢ってくれるって言うから少しね」
やっぱ、こんな少しの時間じゃ染み付いた匂いは抜けないらしい。
最も、呑みすぎても“守護の首飾り”が過剰なアルコール分とかを排除してくれるので、ほろ酔い程度にしかならない。
以前、ドーマ支部長と飲んだ時は“宝物庫”に入れっぱなしにしていたんだよなぁ……お陰で二日酔いになった。
「ふむ、そう言えばお前達と酒を酌み交わした事はなかったな。今日は少し、呑むか?」
「ふふっ、それもいいですね」
ちなみに、姉さんはお酒大好きだ。
天使達の世界(天界というらしい)のお酒は一種類しかない上、あっさりとした味わいらしい。下界のお酒は種類も豊富だし、味も様々だから呑んでいて楽しいんだそうだ。
「そうだな、今日は呑もうか」
「ええ、私もお付き合いしますね」
アリスも、笑顔でそう言った。
その後、晩餐会を終えると、僕達はサロンへ通された。サロンには僕達二人にアルファとアリス、そして叔父さん達が揃っている。シルビアとアクセル君は、成人前なので渋々部屋に戻った。
そして、酒宴。
ワイワイとあっちこっちで話しながら、酒を呑んでいた。
そんな中、隣に座っているアリスが僕に話し掛けてきた。
「ユート君……」
「ん、どうしたのアリス?」
言い難そうな、躊躇うような表情。
「ユート君とキリエさんは……二人で旅をするんですか?」
「まぁ、今はそうかな?」
「今は……ですか」
「うん、旅先で知り合った人と一緒に旅をしたりするかもしれないしね。旅の仲間は多い方が楽しそうだし」
そう言うと、アリスはさっきの表情が嘘のように、顔を綻ばせた。
「そうですか……ふふっ、そうなんですね。あ、お注ぎしますね」
「あぁ、ありがとう」
よくわからないけど、元気になったなら良かった。
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王城にお泊りして、翌朝。今度こそ出立だ。
僕達はアンドレイ叔父さんとの謁見を済ませ、冒険者の装備に着替えて王城の門へ。
すると、そこには……。
「ユート君、キリエさん。おはようございます」
「おはよう、アリス……ねぇ、その格好って……」
アリスが身に纏うのは、白いブラウスに濃紺のキュロットとベスト、上から白いローブを纏っている。そして同色の帽子がワンポイントになっていて、可愛い。
足には黒い革製のロングブーツを履いており、キュロットとブーツの間で絶対領域を形成している。
その格好自体は、別段おかしいわけではない。しかし、その手に持った魔導師の杖。背中にはリュックサック。それは、何?
「私もお二人の旅に連れて行って下さい!!」
「……は?」
ちょっと何言ってるのか解らないです。
「やはりそうでしたね、アリスさん。では、一緒に頑張りましょう」
「はい、キリエさん!」
「アルェ!? 姉さん普通に了承しちゃってるんだけど!?」
流れるように了承したな!
「いや、アリスは公爵令嬢じゃないか。そんな身分の高い、成人直後の女の子が旅って……アレックス叔父さんだって止めるでしょ?」
「お父様には許可を頂いています!」
「アレックス叔父さん!?」
僕は後ろに立っていたアレックス叔父さんに、視線を向けた!! アレックス叔父さんは眼を背ける!!
「……アリスの意志は固いんだ、ユート君」
「前々から思ってたんだけど、叔父さんアリスに弱くない?」
「アリスはティアナに似て、がん……意志の強い子でな」
なるほど、母娘揃って頑固なんだな。
そんなティアナ叔母さんは、笑顔でアレックス叔父さんを見る。目が笑ってない、やだ怖い。
触れてはいけない気がするので、アリスに向き直る。僕も、結局自分が可愛いのだ。
「ユート君……私が一緒では、ダメですか……?」
そんな哀しそうな顔をしないでくれ、心が痛い。
「アリス、旅は思っているよりも危険だよ?」
「はい、ですから五年前から宮廷魔導師のエカテリーナ様に師事して、魔導師として訓練を積んで来ました。エカテリーナ様からも、太鼓判を頂いています」
五年前……。
――私も五年後、もっと成長して……お二人と並べるようになっています!
あれは、こういう意味だったのか。一緒に旅をしたい、という意思表示だったのか。
その為に五年間、魔導師として修行して……そして、宮廷魔導師のお墨付きまでもらえるレベルにまでなったのか。
その意志や、彼女が積み重ねてきた五年間を否定する事を、僕は出来ない。
そして……彼女にそうさせた要因は……そういう事なのだろうか? 自惚れだったら恥ずかしいので、その辺りを聞くのは憚られるが。そういう事なのかなあ……。
まぁ、元より僕は身内を甘やかすという方針なのだ。いざという時は、僕が全力でアリスを守ればいい。
「解った、一緒に行こう」
「ユート君……!!」
その言葉に、アリスは満面の笑顔を見せた。
公爵令嬢という身分なら、国外に出る事に支障は無いだろう。しかし、イングヴァルトの外ではそうも行かないだろうし、冒険者としての身分を得ておくべきかな?
「ミリアン獣王国で、冒険者登録しないとね」
冒険者ギルドは、国家に属さない。だから、基本的にはどの国にも冒険者ギルドがあるのだ。
「いえ、冒険者のライセンスなら、もう持っています。ユート君達と同じ銅級冒険者ですよ、私」
「アグレッシブ公爵令嬢!?」
公爵令嬢が銅級冒険者って、ちょっおまっ……!! こんな時こそ、真実の目先生お願いします!!
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【名前】アリシア・クラウディア・アークヴァルド
【種族/性別/年齢】人間/女/15歳
【国籍/階級】イングヴァルト王国/アークヴァルド公爵家令嬢
【職業/レベル】魔導師/18
【ステータス】
体力:51
魔力:79
筋力:48
耐性:46
敏捷:78
精神:69
【技能】水魔法LV4・風魔法LV2・光魔法LV3
【称号】公爵令嬢・エカテリーナの弟子・アグレッシブ公爵令嬢(NEW)
【賞罰】無し
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僕よりステータス高いんですけど!! っていうか、ゴンツ達レベルじゃ相手にならないくらい強いんですけど!!
あと僕が変な事考えたせいか、変な称号が最後に付いちゃったみたいでごめん!!
「……アリスは即戦力だ」
「え? あっ、はい! 頑張りますね!」
笑顔で可愛く力こぶを作るアリスだが、僕は内心しょんぼりだ。というのも、僕の今のステータス。
折角だし姉さんのも、カモーンヌ!!
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【名前】ユート
【職業/レベル】付与魔導師/12→15
【技能】付与魔法Lv5・遺失魔道具製作Lv6・魔道具製作Lv5・銃撃LV2・剣術LV2
【称号】魔物ハンター(NEW)
【名前】キリエ
【種族/性別/年齢】人間(人化天使)/女/16
【職業/レベル】剣士/18→21
【技能】法術LV10・火魔法LV10・水魔法LV10・風魔法LV10・地魔法LV10・光魔法LV10・神聖魔法LV10・剣術LV10・銃撃LV10
【称号】魔物ハンター(NEW)
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僕はチートじゃないけど、姉さんはチートだよ!
ちなみに余談だけど、鑑定板では種族や技能、称号は出ない。これは仕様なのか、それともわざとそうしたのかは不明だ。
さて、アリスだが……まぁ心配はいらなそうだし、大丈夫かな。
「ってか、アレックス叔父さん、本気でいいの?」
「ユート君とキリエちゃんに着いていくと、五年前からずっと言っていたからね。根負けしたのはこっちだった、それだけの事だよ」
それだけの事にすんなよ。
「それじゃあユーちゃん、アリスさん。行きましょう」
「あ、そうね」
「はい!」
二人が、僕の左右に並ぶ。
「それじゃ、行ってきます」
そう告げると、アンドレイ叔父さん達は微笑んで。
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
そう言って、送り出してくれた。
「僕達の旅は始まったばかりだ!」
「ユーちゃん、打ち切りフラグだからやめましょう」
「打ち切り……?」
※打ち切られません。
幕間をはさみ、第2章 ミリアン獣王国編となります。
楽しみにして頂ければ幸いです。
2018/5/2 キャラクターのレベル・ステータスを見直しし、訂正。




