01-08 昇級/製作
これまでのあらすじ:男爵がクビ(物理)になりました。
冒険者ギルドの受付で、毎度お馴染みソフィアさんから銅色のカードを渡される。銅級冒険者のライセンスカードだ。
「昇級、おめでとうございます!」
ソフィアさんがそう言えば、僕達から数歩下がった場所から拍手が起こる。
ゴンツ達三人と、テリーさん達四人である。わざわざ、お祝いに来てくれたのだそうだ。
「あっという間に銅級ですね、兄貴!!」
「ユート達なら、銀級昇格の最短記録を更新するんじゃないか?」
「銅級昇格、あと二日だったのにねぇ……」
そう、銅級昇格は最短記録を更新できませんでした。
別に狙ってたわけじゃないけどね。だ、だから悔しくなんてないんだからねっ!!
ともあれ、これでイングヴァルト王国の外に出る事が可能になった。僕の目的は世界を見て回る事だからね。
この世界に、まだ見ぬ知識や技術があるはずだ。そして文化や風習も。
僕は、そういうものをこの目に焼き付けたい。
その為の最低条件を、これでクリア出来たのだ。
国外へ出る為の、銅級ライセンスは取得できた。軍資金も確保できた。そして、遺失魔道具による武力も。
最も、今すぐ行くわけではない。ちょっとばかり、作りたい“モノ”が増えて来ているのだ。
作る時間も必要だし、素材も集めたい。
依頼をこなすついでに、それらに取り掛かろうと思う。少し戦力の拡充を図って、その後で旅に出るつもりだ。
……
さて、そんなわけで。
「全く、いきなり来て王城の離宮を貸してくれと言い出した時は、殴ろうかと思ったぞ?」
「すみません、アルファ君」
「我侭言って済まない、アルファ。離宮以外だと他者の目に触れそうだからさ。遺失魔道具の事は秘密にしたいからね」
今日は『突撃! 親戚の王城』という暴挙に出てみました。悪かったとは思っている。
「む? まさか、遺失魔道具を製作するのか?」
「製作するのは遺失魔道具だけじゃないんだけどね。それに近い物も作るよ。まぁ、遺失魔道具を作る時点で、人目に触れていいものじゃないだろ?」
「成程な」
納得したアルファだったが、真剣な眼差しを僕に向けてきた。
「なぁユート、少しお前の作業を見学したいのだが」
あぁ、成程。遺失魔道具を製作出来る僕が、どうやって作っているのかを知りたいのだな。
遺失魔道具製作の仕方……それも、特殊な僕の製法。
付与だけは見えないようにすれば、その秘密は説明しない限り気取られる事は無い。
そう判断し、姉さんに視線を向けると笑顔で頷いてくれた。ならば、大丈夫だろう。
「あぁ、構わないよ。それじゃあ早速始めようかな」
僕は宝物庫から、作業用の材料や道具を取り出していく。
……五分も保たず、アルファの目が死んだ魚みたいになった。
……
作業を始めてから一時間後、離宮の一室に来訪者が現れた。
「ユート君、キリエさん……いらっしゃいますか?」
来訪者は、アリスだった。僕達の来訪を、アレックス叔父さんあたりから聞いたんじゃないかな。腕輪で。
「やぁ、アリス」
「いらっしゃい、アリスさん」
「あ、こちらだったん、で、す………………なん、で、すか、これ……?」
部屋の中を見て、アリスは呆然とした。その表情は、作業を始めてすぐに凍り付いたアルファルドと、同じ表情。
そんなに驚く事かなぁ、と思うんだけどね。
「これは僕達が使う、銃弾や砲弾を作る為の遺失魔道具だよ」
「か、勝手に……弾が作られて……」
「……」
アリスは目を見開き、アルファは無言で口を半開きにしている。
机の上に置かれた透明なボックス。
その上にある投入口へ、材料となる金属を専用の宝物庫から自動的に投入。
最上段で、金属を自動的に加工する“成型”を付与した装置で、弾丸を部品ごとに成型。
成型された弾丸はベルトコンベア的な物によって自動的に横へ移動し、穴から下の段へ。
その先で火薬代わりとなる粉末を自動的に投入される。
更にベルトコンベア→穴→最下段で、自動的に組み立てられる、自動的に。
最後に、自動的に横穴から外に転がり落ちると、その先に展開している宝物庫へ収納(自動的)。
そんな工程が、机の上に置かれた複数のボックスで、各口径・各種類の弾丸・砲弾ごとに、同時進行で行われている、自動的に。
――遺失魔道具 “自動生産工場”。
大量生産するのに、全部人の手を使うなど時間の無駄でしかない。なので、僕は製造専用の遺失魔道具を作り、弾を補充している。
弾一種類につき一つの装置なので、広いスペースが必要になる。その為、離宮の一室を貸して欲しかったのだ。
「そ、それで……ユート君は何を……何を、しているん、ですか?」
“工場”から目を逸らし、アリスは僕の手元を見て……頬を引き攣らせた。
「新しい遺失魔道具の製作だよ」
「作ろうとしているのは、魔法の銃ですね」
しかし、アリスが聞きたかったのはそんな事じゃなかったらしい。その視線の先では、ガラスの様な箱。
その中で、手を触れずに鉄が粘土のように成型されていく。
「いえ、何か……鉄、ですか? それが、こう………………グニョッて? ……グニャッて!! 何で!?」
公爵令嬢がテンパり出した! 更に鉄がグンニャリしていく!! 王子の顔は更にげんなりしていく!!
「これは金属なんかを加工したり、成型する為の遺失魔道具だよ」
――造型専用遺失魔道具“創造者の小箱”。
“加工”と“造形”の刻印を刻んだ遺失魔道具で、ガラスの様に透き通った素材で出来ている。
中身が見える透明な箱の中に入れた物質を、粘土をこねるような感覚で好きな形に加工・成形できる優れものだ。
中の鉄には手を触れていないが、箱には手を触れていなければならないんだけどね。魔力とイメージを流し込まなければいけないから。
実は、製作した遺失魔道具の中でもコレは結構、使用頻度が高い。理由は、僕の鍛冶スキルにある。
そう、鍛冶って技能なのだ。
父さんが余裕の表情で剣とか鍛えるから、僕にも出来るって勘違いしたよ!! 付与魔法しか能の無い僕が、おいそれと手を出せる物じゃ無かったよ、あれ!!
悔しいから、得意分野=遺失魔道具の製作で、鍛冶をしなくても望んだ形の金属製の物体を造れるようにしちゃったぜ!! 感覚的には、粘土こねる様な感じでな!!
……この世界の技術的な面で言ったら僕、有罪。
そもそも、遺失魔道具を造る為の遺失魔道具っていう発想、この世界の人には無いだろう。つまり、簡単に言うと……色々はっちゃけた結果です。
「父上が、ビックリ箱と言っていた意味が解った……」
「もう何が何だか理解できないです……」
椅子に座り、思考停止してこっちを見ているアルファとアリスを尻目に、作業を進める。
折角なので、魔法の銃を更に三丁ほど量産。
最初の一回は部品ごとに、微調整等をしながら製作していた。しかし、この“創造者の小箱”は、一度作った物を何度も同じように微調整する、無駄を省けるようにしているのだ。
箱の下に、カードを入れるスペースがある。ここに入れたカードも遺失魔道具で、その名も“創造の記録”だ。
つまる所、このカードに記録された情報を元に、ボックスが自動的にその形状へ成型してくれるのだ。
無駄と手間を省いた、効率化。ビバ、大量生産。
勝手に形作られていく魔法の銃を見て、アルファとアリスが目を虚ろにしているのが、若干心配だが。
さて、完成した魔法の銃だが……ちょっと試射してみたいな。
「姉さん、試射しようと思うんだけど……大丈夫かな?」
「そうですね、むしろ喜ぶと思いますよ」
ふむ、大丈夫そうだな。それでは、材料や道具を宝物庫に仕舞っていく。
それが済んだら、呆けているアルファとアリスに声をかけた。
「アルファ、アリス。これから、この魔導銃の試射をするけど、一緒に来る?」
僕の呼びかけに、無言で頷く二人。そんなにビックリしたのか……普段からは想像出来ない姿なんだが。
「それじゃあ、場所を移そう。帰りはアルファの部屋に転移しても大丈夫かな?」
「あ、あぁ……それは構わない」
お、いつもの調子が戻って来たようだ。
「それじゃあ、行こうか」
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“門弾”で転移したのは、一軒のログハウスの一室だ。
「さて、今くらいならリビングかな」
「そうでしょうね」
勝手知ったる何とやら。淀みなく歩き出す僕達に、アルファとアリスが慌てたように続く。
「ユート、ここは何処なんだ?」
「ん、ここはね……」
すると、扉がガチャリと開く。
「お、帰ってたのか。どうした?」
「ただいま、父さん。新装備のテストをしようと思ってね。目立ちそうだから、転移して来た」
「おかえりユート、キリエ。そちらは?」
「ただいま戻りました、お母様。こちらはアルファ君と、アリスさんです」
「――“父さん”?」
「――“お母様”?」
呆けたように、アルファとアリスがそう言った。
「うん、僕たちの両親」
つまり……。
「ま、まさか勇者レオナルド様と、聖女アリア様ですか!?」
おぉ、アルファは普段見ないような、テンションが上がった様子である。
「お、おう……まぁな?」
「あなたがアルファルド殿下ね? アンドレイの若い頃にそっくりだわ~」
動揺する父さんと、いつも通りほわほわしている母さん。
母さんは、更に視線をアリスに向ける。
「そして、アリシアちゃんね。ユートとキリエから、よくあなた達の事を聞いていたの。会えて嬉しいわ」
「いえ、こちらこそ! お会い出来て、光栄です!!」
アリスも感極まったように、何度もお辞儀する。
「テンション上がりすぎじゃないか、二人とも」
「生ける伝説とも言えるお二方にお会い出来たんだ、こうなるのは当たり前だろう!」
「ユート君やキリエさんは、お子さんだから解らないでしょうけど! 私達くらいの年頃だと、お二人に憧れるのが普通なんですよ!」
「お、おぅ……」
何とか二人を宥めた後、家からいくらか離れた場所を訪れた。僕が作ったものが気になるようで、父さんと母さんも一緒だ。アルファとアリスのテンションが更に上がっている。
「さて、ここら辺でいいかな」
「おっ、いよいよか! で、今度はどんな物を作ったんだ?」
父さんに聞かれて、宝物庫から実物を出してみせる。
「魔法の銃だよ、コレね」
そう言いながら、弾を篭めたシリンダー部分を回し、赤く透き通る弾が上に来るように合わせる。リボルバー型の銃本体には、既に刻印を施している。
この弾は定義的には遺失魔道具じゃない。
「これは実弾ではなく、魔物から回収した魔核を“特殊な方法で”寄せ集めて作った擬似魔石なんです」
魔物の魔力の源である魔核なら、天然の魔力が凝縮した魔石と似たような効果があるのでは無いかと思い、実験してみた。
結果は成功だ。
「よ、よくそんな事思いついたな……」
「ちょっと何言ってるのか解らないです……」
「ははは、やる事なす事とんでもないな! 流石、俺の息子だ!」
「レオったら、いつもそんな事言って……」
ちなみに、純粋な魔石は付与する文字の制限が無い。それに対し、等級の低い魔石モドキ一つにつき、約五文字くらいが付与できると解った。
僕なら、五通りの刻印付与が出来るわけで……遺失魔道具では無いが、かなり使える技術だ。
また、疑似魔石は魔力を蓄積できる。”快適安全空間”等の魔力供給源、その正体がこれである。
最も、公にするのは憚られる。なので、この事は内緒だ。
「じゃ、撃ってみる」
そう宣言して、銃口を大きな岩に合わせ魔力を流し込む。銃口に赤い魔法陣が展開された所で、トリガーを引く。
――ドンッ!!
そんな音と共に、魔法陣から炎の玉が発射され、岩に直撃する。
「……攻撃魔法?」
「ユート、お前付与魔法以外はろくに使えないんじゃ……」
二人は、僕が“付与魔法以外は使い物にならない”って、知っているからな。
攻撃魔法を使ったと思って、驚いたようだ。
「僕が撃ったけど、正確にはコイツで撃ったんだ。魔法発射専用遺失魔道具でね」
実弾以外でも、攻撃手段が欲しいと思っていた僕は、色々と検討をしていた。
この魔法の銃を作る事にし、姉さんと設計計画を立てた。素材を集めて、今日製作に取り掛かり……ついに、完成したのだ。
「よっし! これで、僕も付与魔法以外の魔法が使える! 弾のバリエーションも増やせば、色んな魔法が使えるし!」
「おめでとうございます、ユーちゃん」
ニコニコしながら、拍手を贈ってくれる姉さん。唖然としているアルファとアリスに、宝物庫から取り出した魔導銃を差し出す。
「折角だし、ちょっとやってみる?」
……
五分後。
「ふむ、これは中々……!!」
「す、凄いですね……!!」
「うん、流石ユーちゃんですね」
魔導銃の引き金を引いて、魔法弾を撃った三人の感想がこれである。姉さんはともかく、普段の冷静沈着なアルファや、可憐で清楚なアリスとは思えないほどに、テンションが上がっているようだ。
「……ユート、絶対に公にするなよ。公になれば戦争になりかねない。便利すぎる武器、大き過ぎる力は、人の心に欲望を生んでしまうものだ」
「解っているよ、安心しろ。約束は破らない事に定評がある、それが僕だ」
安心した表情で魔導銃を見るアルファ。
「あ、そうそう。その魔導銃は二人へのプレゼントね」
「……は?」
「えっ?」
「友達にあげる分は作ります、それが僕だ」
そう言うと、アルファが詰め寄って来た。
「いや、お前な……!!」
「いざという時の備えだよ。白い擬似魔石の弾には、姉さんの回復法術が篭められている」
「……うぅむ、しかし……」
「もう既に“首飾り”も“腕輪”も“宝物庫”も渡しているじゃないか。それは、信頼しているからだよ」
僕の言葉に、アルファは目を細めた。
「はぁ、私の負けだ。そんな事を言われたら、受け取るしかないではないか……大切にさせて貰う」
「あぁ」
アリスは、魔導銃を胸に掻き抱くようにした。魔力を流さなければ大丈夫なんだけど、見た目的にはヒヤッとするね!!
「私も……大切にしますね」
「うん、そうしてくれ」
その後、アルファやアリスと魔導銃の試射を続け、それが終わったら皆で食事をしようという話になった。
アルファとアリスも乗り気だったので、“腕輪”で連絡を取ったら、イングヴァルト一家とアークヴァルド公爵夫妻も乱入して来た。これだけの人数の食事を作るのは大変なので、BBQしました。
 




