15-06 幕間/メグミVSフミナ
アヴァロン王国襲撃。その事件に加担する、勇者フミナ・ヌマジリ。
彼女は今、トルメキア王国の軍と共に転移魔法陣を抜けた。勇者であるタイシ・タナカによって齎された、遺失魔道具によるものだ。
フミナの心中は憎悪と歓喜、憤怒で満たされていた。アヴァロン王国に対する憎悪、それを蹂躙する機会に恵まれた歓喜、そして恥をかかされた事に対する怒り。
その怒りが、フミナに新たな力を与えた。
――固有技能”憤怒の魂”。
その力に気付いたフミナは、まずアヴァロンの民を蹂躙する事にした。
そして、いよいよ王都内に入ろうとして……その前にたちはだかる少女が居た。
「テメェは……っ!!」
「フミナ・ヌマジリ……ここから先は通行止めです。今引き返すならば、危害は加えないと宣言しましょう」
大盾を携える勇者……メグミ・ヤグチの姿。魔導衣装に見を包むメグミを見て、フミナの怒りが頂点に達する。
「ほざけよクソアマ! 何だその格好、狙い過ぎだろうがよ! そんな格好して恥ずかしくねぇの!? これだから誰にでもケツ振る阿婆擦れは……!!」
「……はぁ、やる気みたいですね」
「人の話聞いてんのか、クソが!」
「聞く気はありません。貴女と話すだけ、時間の無駄ですから」
メグミはフミナと関わるのは、本気で必要最低限にしたいと考えていた。その為、問答をする気も無い。
撤退を勧めたのは、その方がフミナと関わらずに済むからである。
「では、時間を無駄にしたくないので始めましょう」
そう言って、メグミは魔法を行使する。守護の根源魔法だ。
正面から聖域の壁を外側に向けて広がるように展開。聖域の外面部に衝突し、フミナや兵士達が吹き飛ばされる。
「ぎゃぁっ!!」
地面を転がるフミナが、体勢を立て直してメグミに警戒を向ける。フミナが周囲を確認すると、兵士達は全員気絶していた。
「驚きました、今ので意識を失わないなんて……少しは鍛えているんですね」
メグミは涼しい顔でフミナを見据えていた。更に、フミナの怒りが増す。
フミナの固有技能”憤怒の魂”は、怒りを覚えれば覚えるほどに自身のステータスを強化する。更に、対象となる相手にステータス弱体化の状態異常を与えるのだ。
他にも能力はあるのだが、この場では使用しても意味がないので、フミナはメグミのステータスを弱体化させようと睨み付ける。
しかし、メグミの固有技能がそれを跳ね除けた。”知恵の魂”は、魔法の改良という離れ業を可能とする。
状態異常を解呪する”解呪”をユートから教わり、それを”状態異常無効化”という魔法に改良している。
神の加護がない一般人ではそれでも状態異常は免れないが、メグミは勇者である。同じ神の加護を得た者同士であれば、”状態異常無効化”は十二分に機能する。
「貴女のステータス弱体化は、私には効かないようですね。では、終わりにしてしまいましょう」
よほどフミナに関わりたくないらしく、メグミは冷め切った視線でフミナを見る。その視線には、何の感情も浮かんでいなかった。
「……門の守護者」
瞬間、メグミが時空魔法である転移を発動。
これも改良を施しており、半径五十メートル以内の目視できる範囲ならば、どこにでも転移魔法陣を展開できる。
転移魔法陣から盾を構えたメグミが飛び出して、フミナに激突。ダメージを受けて吹き飛ばされるフミナ。再び転移魔法陣に消え、フミナの背後に現れるメグミ。
それが繰り返され、フミナは大盾の突進に轢かれ続ける。
そんな攻撃が続く事、十分程。フミナは身体も服も、ボロボロになっていた。
フミナも反撃を試みたが、守る事にかけては勇者随一のメグミである。遺失魔道具の大盾と、守護の根源魔法。その鉄壁の防御を抜く事も出来ず、フミナの攻撃はメグミに掠りもしなかった。
息絶え絶えの状態ながらもメグミを睨み、フミナは立ち上がる。
「てめ……絶対……ぶっ殺す……!!」
憎悪に歪んだフミナの表情は、メグミからすると醜いものだった。
「終わりにしましょう」
そう言って、メグミは切り札を発動する。
守護の根源魔法で大盾の表面をコーティング。力の根源魔法で、大盾に引力を発生させる。強化の根源魔法がそれを強化。
転移魔法陣を潜ってフミナの目前に現れたメグミの、シールドバッシュ。
「ぎあぁぁぁっ!!」
引力により大盾に引き寄せられ、フミナは激しい衝撃に襲われる。身体だけでなく、身体の奥底にまで響く衝撃。それは、魂魄の根源魔法によるものだ。フミナの魂にまでダメージを与える力。
四つの根源魔法の併用。メグミが研究の末に編み出した、最大の一撃。
フミナはその衝撃に意識を失い、仰向けに倒れた。見えてはいけないものが見えているが、メグミはそんな事に気を向けない。
「彼女を捕縛して下さい。まだ、殺す必要はありません」
背後に控える兵士達に捕縛を指示して、バイザーの地図を確認する。アヴァロン王国の王都アーカディアを確認し、戦況を把握する為だ。
戦争はまだ終わっていない。
次回、いよいよユートと悪魔族の戦闘です。




