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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第1章 イングヴァルト王国
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01-07 男爵/クビ

これまでのあらすじ:地雷パイセンは頼りになります。

 大迷宮からの魔物の氾濫スタンピードは止み、入口付近にばら撒いた地雷を回収する。


「しかし、とんでもない数の魔物の死骸だ……魔核や部位の剥ぎ取り、面倒だなぁ……」

 それ専用の遺失魔道具アーティファクトでも作ろうかなぁ。

「先程、撤退した冒険者から王国軍の方に話がいくはずです。そうすれば兵士が来るでしょうから、直接引き渡してしまえばいいでしょう」

「あー、それが一番楽そうだね」


 そんなやり取りをしている僕達へ、生き残った冒険者達の内、四人が歩み寄る。

「確か、ユートとキリエ……だったか?」

 リーダーであろう赤茶色の髪を短く切り揃えた、四十代くらいの男性。

 真実の目プロビデンスによれば、彼はテリー氏(四十ニ歳)。銀級の冒険者で、ジョブは剣士。言ってみれば、ベテラン冒険者だな。


「危ない所を助けてくれて、感謝する。私はテリー、こっちは私の仲間でハンスとフリオ、ミリアだ」

「助かったよ」

「助力、感謝する」

「ありがとう、二人とも」

 おや、意外だ。


 僕達の名前を知っているなら、鉄級の駆け出し冒険者だと知っているはず。しかも、片方は付与魔導師ハズレジョブ

 銀級ともなれば、格下に横槍を入れられた事に「余計な事しやがって」とか突っかかってきてもおかしくは無い。

 しかし、銀級冒険者はあっさりと頭を垂れ、感謝の意を示してきた。まぁ、トラブルに巻き込まれたいわけじゃないし、悪い気もしないからいいか。


「いえ、勝手に首を突っ込んだだけなので」

「お気になさらないで下さい」

 僕達がそう返すと、彼等はもう一度頭を下げた。

 あの乱戦で生き残ったわけだし、実力は申し分ないのだろう。更に、人格的にも信用のおける冒険者らしいな。


「それで……さっきのは一体何だったんだ? 大迷宮の入口で何度も爆発が起こっていたが、君達の魔法か? それに、君達の武器……あの魔物達を、簡単に斬り裂いていたが……」

 気になるのは仕方があるまい。この世界の常識からしたら、敵が特定位置に足を踏み入れたら、地面が爆発するような魔法は無い。

 銃剣もレイピアも名剣っぽくないのに、バターのように魔物を斬っていたしね。


 しかし、親しくも無い彼等に対し、「僕が作った遺失魔道具アーティファクトです! 凄いでしょ!」なんて言えるはずもない。

「それを答えたら皆さんのステータスや武器の詳細、弱点や切り札を教えてくれるんですか?」

「……いや、失言だったな。忘れてくれ」

 あっさり引き下がったな。やはり冒険者としてベテランなだけあって、相手の切り札を聞き出そうとする様な、マナー違反とかには厳しいのかもしれないな。


(地雷という未知の攻撃に加えて、残りの魔物を討伐する間にも、悪戯みたいな攻撃をするユーちゃんを、敵に回す事を恐れているだけでしょうね……)


 しかし、それに異を唱える者がいた。

「そう言わずに教えてくれよ、さっき回収していた鍋蓋みてぇなのは魔道具なのか?」

 三人組の冒険者が歩み寄ってくる。その顔はニヤニヤとしており、あわよくば僕の遺失魔道具アーティファクトを奪おうとしているのだろう。


「答える事は出来ませんね」

 自分達も魔物に相対していたから、僕達の戦闘をじっくりとは見ていなかったようだ。今回は地雷と銃剣、手榴弾しか使ってないから、東の村の時ほど派手じゃなかったし。

 不意を衝くなりすれば、倒せると思われていそうだ。


「何でだ、いいじゃねぇか。同じ冒険者だろ?」

「おいおい、先輩冒険者に向かって反抗的な態度は良くないぜ?」

 流石に止めに入ろうとするテリー氏達だが、それを手で制止する。


「手の内を簡単に晒すのが、冒険者の流儀なんですか?」

 ついに先頭の男が、剣の切っ先を僕に突きつけてきた。

「黙って答えりゃ、痛い目には合わずに済むんだぜ?」

 全くしつこい奴らだ、仕方ないなぁ。

「あーあ……」

 ほら、姉さんも呆れている。


 十分かけて、彼等の息子さんと実力行使おはなしし、納得して貰いました。


 ……


 その後、何故か内股になっているテリー氏達と今後について話し合う。

 後に兵士達が来るだろう事。その際、魔物の死骸を直接引き渡す事。そして魔物討伐の報酬の取り分だ。

 しかし、ここでテリー氏が待ったをかけた。


「俺達が討伐したのは多く見積もっても一割だ、三割も譲って貰うわけにはいかない!」

「そうすると僕達が二千匹近く討伐した事になって、悪目立ちするじゃないですか! ここは助けると思って!」

「えっ!? 理由がそれ!?」


 ちなみに、魔物の氾濫スタンピードで外に出た魔物は二千匹前後。

 地雷で死んだ魔物が千五百匹くらいだろうか? 残る五百匹の内、僕達は三百五十匹程を討伐した。

 しかし、当初の目標である千匹分あれば十分だ。なので、報酬は彼らと折半するつもりである。


 そんな訳なので、魔物の討伐報酬五割は貰って、残り五割を彼等に譲渡するつもりだ。

「それに、コイツらが倒したのはよくて二十匹くらいよ?」

「まぁ、見舞金でいいんじゃないですかね」

 残り二割は、息子を喪った三人に譲渡する。武士の情けだ、武士じゃなくて付与魔導師だけど。


 ちなみに、この二組の冒険者は元々五人ずつのパーティだった。

 テリー氏のパーティは、一人を喪っている。僕達が辿り着いた時には、もう助からない深手を負っていた。


 もう一組の冒険者達は、二人の仲間を喪った。彼等は銅級の冒険者らしく、氾濫前は一匹の魔物を五人で囲んで戦っていたらしい。

 そんな最中、魔物の氾濫スタンピードにより乱戦に。どうやら背後からの攻撃に対応出来ず、二人が重症を負ったようだ。恐らく、僕達が到着した後も立ち上がれず、魔物に喰われたのだろう。

 尚、三人の冒険者は今も、息子を喪った痛みで意識が無い。なので、テリー氏達の推測を含んだ説明を頂戴したのだ。


 何とかテリー氏達を説得し、三割を受け取って貰う事を了承させた辺りで、真実の目プロビデンスに映るマップに大量の光点が表示され始めた。

 これは王国軍の兵士だろうな。やっと話が進められるよ。


************************************************************


 進みませんでした。

 軍が到着すると、大急ぎで用意された天幕に僕達は連行され、軍の兵士達に囲まれ、隊長らしい男の前に連れて来られた。


 というか、こいつアレじゃん。僕の左目に刺さった折れた剣の持ち主だったヤツじゃん。その後、暴言吐いて姉さんに金的喰らったアイツじゃん。

 何だ、出世したのか。


「さぁ、何があったのか吐け」

 高圧的な物言いに、イラッときた。いやいや、ムカつく態度だが抑えるんだ僕。


 一つ、彼等は任務でここへ来ている。

 一つ、本来は大迷宮攻略の為に編成されるはずだった。

 一つ、迷宮付近の魔物は冒険者にて間引くという話になった。

 一つ、なのに冒険者が魔物から逃走し、救援を求めた。

 一つ、だから彼はイライラしている。


 つまり彼に非は無い。そうじゃないか僕? そうだよね僕?

 だから、誠意をもって事情を説明しよう。そうすれば、この隊長も解ってくれるはずだ!!


魔物の氾濫スタンピードで、間引きどころじゃ無くなったに決まっているじゃないですか。見て解りません?」

 天幕の中が静けさに覆われた。

 要点は簡潔に、そして可能な限り短く。相手バカに解りやすいようにするこの気配り! ナイスだ、僕!! 敵には容赦しねえ!!


「何だ貴様、その態度は!」

「えっ、なんで怒ってるの? やだ、怖い」

 ちゃんと簡潔に説明したじゃない、難聴なのかな。仕方ないなぁ、もう一回説明するか。


魔物の氾濫スタンピードで二千匹くらいの魔物が出て来ました。僕達が討伐しました。以上」

「二千匹だと? そんな大群を、お前らだけで討伐した? もっとマシな嘘を吐け!」

 唾飛ばすなよ、汚いな。

「死体ならその辺にありますが」

「くだらん、大方魔物同士が争った結果だろう!」

 魔物同士が争っても、黒焦げの死体にはならないよ? 


「フン、まぁいい。魔物の氾濫スタンピードは収まったからな」

 そう言うと、隊長はニヤリと嗤った。あっ、コレ悪い事考えているヤツの嗤い方だ。

「魔物は全て我々が討伐した、お前達は我々に救出された。そうだろう?」

 人が下手に出ていりゃ、調子に乗り出したぞコイツ。


 あまりの暴挙に、こちらも遠慮なく対応しようと腰をあげかけた所で、テリー氏が異議を唱えた。

「そんな馬鹿な話があるか! 我々の功績を簒奪するのか! あの魔物の大半はこのユート達が討伐したのだぞ!」

 そんな言葉に、隊長は顔を歪めた。


「冒険者風情が、この私に噛み付く気か! 反逆罪で処刑するぞ!」

「何が反逆だ、正論を言ったまでの事だ!」

「おい、こいつの首を斬れ!!」

 あまりの事に、呆然とその様子を見ていたのだが、側近の兵が剣を抜いた。


「ユーちゃん、私に考えがあります」

 姉さんの考えは僕にも解る、同じ事考えていたからね。あまり使いたくない手段だけど、今回はそうでもしなければ収拾がつかないだろう。

「うん、それしかないね。連絡よろしく」

「任せて下さい」


 さて、方針が固まった所で。

 ――パァンッ!! 

「ぐあぁっ!?」

 側近の手を撃ち抜く。今回はゴム弾じゃない、実弾である。


「とりあえず話が解る人間が()()まで、コイツら黙らせるか」

「貴様っ!」

 更に、目の前で踏ん反り返る例の隊長の足を撃ち抜く。

「ぎゃああぁっ!!」


 鳴り響いた銃声に、天幕の外から兵士達が飛び込んで来る。

「貴様、その御方がヴィスタリオ男爵と知らぬのか!」

「男爵様、ご無事ですか!」

「ああぁっ……くそぉっ!! 処刑しろ、このガキを殺せ!」

 あ、男爵だったのコイツ。しかも何かカッコいい家名。


 兵士達が一斉に剣を構え、冒険者達も迎え討とうとするが……。

「ユーちゃん、いいですよー」

 準備完了のようだ。

「おっけー、そこの布でいいね」

 僕は天幕を覆う布に、ある弾を撃つ。その弾が着弾した部分を中心に、魔法陣が展開する。


「な、何を……」

 怪訝そうにする兵士達だったが、魔法陣を潜って来た人物の顔を見て動きが止まる。

「……は?」

 兵士達は、全員唖然としている。こんな場所に、居ていい人物ではないのだ、本来ならば。


「……まったく、お前は騒動に巻き込まれてばかりじゃないか?」

「やっ! 済まないな、アルファ」

 そう、魔法陣から現れたのは、このイングヴァルト王国の第一王子。アルファルド・フォルトゥナ・イングヴァルトだった。


 先程撃った弾丸は、遺失魔道具アーティファクト門弾ゲートバレット”と名付けた特殊弾だ。

 付与したのは“空間接続”。そう、五年前に母さんがイングヴァルトの西海岸に送ってくれた時空魔法だ。


 撃ち出した弾は物に触れた瞬間自壊し、一定空間に門を作り出す。その門は、同じように付与をかけた物と繋がる事が出来るのだ。

 アルファの部屋の姿見に、同じ付与をかけていたのである。姿見は広さが申し分ないので、自壊はする必要無いから何度でも使い回せるけどね。


 ……


 至上の王族、雲の上の存在が唐突に現れ、兵士達は呆然としている。

「さて、話はキリエから聞いている。我が国の兵士達の愚かな振る舞い、この国を背負う者として謝罪する」

 そう言って、僕や姉さん、テリー氏達に軽く頭を下げる。


 簡単に下げていい頭では無かろうに。

 だが、そんなアルファだからこそ、国民からの尊敬を集めているんだ。そんなアルファだから、信頼出来る。


「で、殿下! これは、その……!!」

 隊長がアルファに謙ろうとするが、振り返ったアルファが向けたのは、冷ややかな視線だ。

「この場に居る者達は、全員我が国に泥を塗った。処分は追って下す」

 容赦無し!! アルファかっこいい!!


 兵士達は視線を彷徨わせると、力なく跪いた。

 しかし隊長のヤツだけは違った……目が血走り、肩が小刻みに震えている。このままだと、怒りと焦りで暴走しそうだな。


「こ、こうなったら……!!」

 ほらね。

 ってかこの男爵、ホントに貴族? まさか、自国の王子に剣を向けるなんて。


 とりあえず、撃つか……と思ったのだが、アルファが目で僕を制止する。アルファは驚きも見せず冷静沈着、滑らかな動作で腰に下げた剣を抜く。

「う、うぁぁあぁっ!」

「ハッ!!」

 男爵が斬りかかるが、逆にアルファの鋭い一閃が首を斬り飛ばした。


 元男爵となった首無し死体を睥睨し、アルファは血を拭った剣を鞘に収める。その間、眉一つ動かさずに淡々と実行に移していた、ちょっとだけ怖い。

「良かったのか? 仮にも男爵だろ?」

「ん? 王族に殺意を向け、実行したのだ、どのみち斬首刑になる」

「まぁ、そうだろうけど」


「むしろ、この場で処分した事で、これの家族には罪を問わずに済む」

 なるほど、この処刑自体もアルファの慈悲だったんだな。眉一つ動かさずに、そこまでの判断をした上で貴族であろうと首を斬る(物理)とは、流石は王子様。

「最も、この男は父親……前男爵の殺害容疑もかかっていたがな」

「それはなんとも、不穏な話ですね」


 それにしても、西洋風の剣を使っていたが……あれって斬れ味とかはそんなに良くないって聞く。日本刀みたいに、スパスパ斬れないらしい。だというのに、元男爵の死体は綺麗な斬り口だ。

「見事な腕だな、流石はアルファだ」

「お前にそう言われると、嫌味に聞こえるぞ。もののついでだ、詳細の報告は私が受けよう。済まないが一から頼む」


************************************************************


 その後、アルファに説明をし、軍に魔物の残骸を引き渡す事を確約して貰った。

 僕達への討伐報酬はキリ良く二千匹分となり、その証明をアルファの名前で出して貰う。

 テリー氏達から懇願され、証明書は僕が預かる事になった。


 銅級冒険者三人も途中で意識を取り戻し、僕を睨み付けて来た。しかし、僕とアルファが気安く会話している事にビックリし、アルファに話を振られて萎縮し、労われて感激したりと、とても忙しそうだった。


 そして、王都へは馬車で送られる事になり、三人の銅級冒険者は何度もアルファに頭を下げていた。

 これなら、もう絡まれまい。でも、謝罪の言葉が無かったので、息子さんはそのままだ。


 ちなみに僕と姉さんは、アルファを送る為の“門弾”に便乗した。王城で叔父さん達と晩御飯を食べて、宿に帰りました。

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