14-07 アヴァロンツアー/漏水
これまでのあらすじ:勇者フミナはやりたい放題です。
世界会議二日目、アーカディア島ツアー。各国の参加者を魔導列車に案内し、僕達は転移門付近の自然を堪能していた。
……寝たい。
「ユートさん、大丈夫ですか?」
「ユート様、渋豆水です」
渋豆水って、つまるところコーヒーです。僕はブラックでいく。
「ありがと、済まないね」
寝不足の理由は言わずもがな。昨夜の夜戦で寝不足だからだ。メグミやクリス、ノエルも眠そうにしている。
今回はユウキチームやフリードチームに接待をお任せし、僕や婚約者達はのんびり休憩である。
新加盟国の面々は、アーカディア島の景色や、魔導列車の乗り心地に一喜一憂している。
「成程、これは物流にも交通にも活用できるな!」
「うむ。アヴァロン王国のように、エルフ五国を環状に繋いでみるのはどうだ?」
「おぉ、それは素晴らしいな」
大はしゃぎのトルメキア王・ユエル王・シンフォニア王。そんな彼等を見ながら、ポーラ大公は微笑ましそうな顔をしている。
「いやぁ、こんな便利なモンがあるなら、馬車なんていらなくなっちまうね」
そんな風にぼやくエメアリア女王は、馬車は馬車で好きなのかな?
「いいや、エメアリア女王。アヴァロン王もそれは考慮している」
「馬車よりも利用料を高めに設定することで、馬車事業との住み分けを考えているのだよ」
アンドレイ叔父さんとファムタール騎士王の言葉に、エメアリア女王は成程、と笑みを零す。
「そうなのですか! 流石ですね、アヴァロン王は!」
プリシア王女がなんか目を輝かせてこっちを見てるな……皆で相談して決めたんだよ、それ。
「……けっ、なぁにが流石だよ。地球の文化のパクリじゃん」
「沼尻さん、聞こえるよ」
「うっせー! 聞こえるように言ってんだよ!」
フミナは相変わらずだな。そしてノブヨシは彼女を窘めるも、やはり彼女の我の強さは手強いのか、持て余し気味。
まぁ、だから何? って話だ。寝不足で相手をする気力も無いので、無視する。
「……」
凄い目で睨まれるわー、ってか化粧濃くないか? 本当に何処からメイク道具とか調達してんのかね。
うちの婚約者やユウキ・フリードチームの面々も、こういう他国のお客さんを招く時なんかは化粧をしている。
だけど元が美少女揃いだし、正直言うと歓迎のポーズ以外の何物でもないので、ナチュラルメイクである。いやまぁ、化粧をすると更に可愛さに磨きがかかるとは思うけどね。
「ユーちゃん、私達を見てどうしたんですか?」
「ん? いや……今日も皆、素敵だなと」
そう言うと、皆揃ってとろける様な笑顔を返してくれた。あはは、天使か。
……フミナの舌打ちが、折角の気分に水を差してるのが、遺憾である。
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魔導列車を降りた僕達は、転移門や自然を巡るアーカディア島ツアー第二部へと移行した。
「車……っていうか、バス!?」
「二階建てバスじゃん!?」
正解、皆で乗れる車ときたらこれだよね! 二階建てバス型の魔力駆動四輪で、転移門から開拓村を通って王都に戻る。
「この辺りは、まだ何も無いのだな?」
ユエル王の問に答えるのはユウキだ。
「えぇ、開発は王都から外側へという方針だそうです。ただ、この辺りはあまり開発は進めない予定みたいですが」
「そうなのか、勇者ユウキ?」
「えぇ、王都外縁は緑豊かな場所が多いですから、その自然を残したいと陛下は考えているそうです」
「ふむ……確かにな」
ユウキの説明に、皆は納得したらしい。
何で僕が答えないのかっていうと……。
「うぐぐ……まさか、疑似魔石不足になるだなんて……」
「先日の、強欲の化身討伐で大量消費しましたからね」
魔力タンク代わりに、バス型魔力駆動四輪に魔力を送ってます。
こっそりとネクタイに、集束を刻印付与したお陰で減るそばから吸収・補給しているのだが……出したり入れたりしているので、少し気持ち悪い。頑張って耐えるのは、折角の催しを楽しんで欲しいからだ。
「何アレ、マンションじゃね!?」
「……な、何階建てなんだろう? しかもでかいよ!」
やはり、異世界組はマンションを見て驚いたようだ。
こっちはそれどころじゃないけどさ。うぐぐ……寝不足と気持ち悪いのと怠さで、ちょっと辛い。
ぶらり途中で下車する系の旅。端的に申し上げると、僕が限界だった。
なので、アヴァロン王国の王都アーカディアに到着してから、うちの執事勢を呼び出して魔力駆動四輪で皆さんを散策させる事にした。都市内の往来は、その為に広くしてあるので問題無い。
執事君達とお客さん達には申し訳ないけど、流石に疲れたよ。
「そう言えば、冒険者ギルドもそろそろ開設ですね」
「あぁ、建物はもう建築完了で、今はギルド職員とギルドマスターを手配しているらしいよ」
確か、各種族から三人ずつをギルド職員として選んだとか。全種族の集う国であるアヴァロンだから、最初はそんな方針にするとギルド本部のウラノスさんが言ってた。
「冒険者ギルドか……またそろそろ、冒険者としても活動したいけど、難しいか?」
「お忙しそうですからね、ユートさんは。私としては、お会いする機会が減って寂しい限りです」
「それは大変申し訳……あれ、ソフィアさん?」
振り返ると、イングヴァルト王都で受付をしているはずのソフィアさんが立っていた。
「ご無沙汰してます、ユートさん。キリエさん達もご無沙汰しています」
「お久しぶりです、ソフィアさん」
最後に会ったの、確か王城の落成式か?
「今日はどうされたんですか?」
「ギルドの方は、よろしいんですか?」
「えぇ、ギルドの仕事で来ています。この度、冒険者ギルドアヴァロン王都アーカディア支部の職員として任命されました」
おぉ、そうなのか!
「ソフィアさんが居なくなると、フォルトゥナ支部の連中が泣きますねぇ」
「うふふ、そんな事ないですよ」
無自覚だね、ソフィアさん。
「おっと、それはそうと……ようこそ、アヴァロン王国へ! ソフィアさんなら大歓迎です」
差し出した手を、ソフィアさんが笑顔で握り返してくれた。
「エイル、ヒルド、ノエル。僕やキリエが冒険者登録した時の受付さんで、その縁で親しくしてくれているソフィアさんだよ」
「ソフィアと申します。エイル様とヒルド様ノエル様、よろしくお願いします」
「よろしくね、ソフィアさん!」
「こちらこそー、よろしくお願いしますー!」
「ノエル・アイングラムと申します。よろしくお願いします」
しかし、異動するギルド職員としてソフィアさんが僕の国に来るとはね。
世間は狭いねぇ。
「あっ、そうそう! ユートさんにお伝えしなければならない事が!」
「はい?何でしょう?」
「実は……」
「ん兄貴いぃぃぃぃぃっ!!」
……僕をこんな呼び方するやつ、三人しかいないね!
「ゴンツ、スイード、バッツ! 君達も来たのか!」
「兄貴ぃぃっ!」
「やっと会えたっす!」
「お久し振りっす!」
きっと名前も覚えられていなさそうな三人、今まで一体何してたんだろうね? ってか、何故アヴァロンに?
「とりあえず久し振り! 元気そうで何よりだよ」
「うおぉ、丸くなった兄貴!」
「優しそうな兄貴!」
「王様になって一皮剥けた兄貴!」
よし、その喧嘩買った!
「テメェら、そんなに股間にゴム弾欲しいんだな?」
「「「やっぱり兄貴だあぁぁっ!!」」」
「うるせぇっ!!」
謎のノリに、目を丸くするキリエとソフィアさん以外の面々。おっと、紹介してやらないとな。
「皆、彼等は冒険者仲間のゴンツとスイード、バッツだ。僕達の初めての依頼の時に色々あったけど、その後何かと気にかけてくれている」
「お初にお目にかかりやす! 兄貴の舎弟、ゴンツっす!」
「同じくスイードといいます!」
「バッツっす! お目にかかれて光栄っす!」
体育会系だなぁ、自己紹介。
婚約者達も紹介してあげて、ゴンツ達に気になっていたことを聞く。
「それで、今まで何処にいたんだ? 一度、指名依頼しようと思ったけど、旅に出てるってソフィアさんから聞いたんだよ」
「そうだったんすか!?」
「俺ら、銅級に復帰した後で兄貴のお力になろうって、後を追っかけたんっすよ!」
そうだったのか! そりゃあ済まない事をしたな。
「そしたら、兄貴が建国するって聞いて、ビックリしたんっす」
「で、アヴァロン王国に仕官して、兄貴のお役に立とうと思ってたんですがね……」
「転移門を通るの、中々出来なくてっすね……」
……今はまだ、国の許可を受けた人しか通れないからね。それは今でも同じなんだけど、どうやって来たんだろう? あぁ、成程。
「ソフィアさんが、彼等を連れて来てくれたんですね」
「えぇ、ユートさんに仕官すると言って聞かなくて。私に、”兄貴の所に連れて行って下さい!”って土下座するんですよ?」
「押し掛けたのかよ、やめてやってよ、仕事の邪魔だろ」
「それを三日連続で続けられて……根負けしちゃったんですよ」
「三顧の礼かよ、その根性は認めるよ」
しかし、きっと業務に支障が出ただろう。ソフィアさんにも手間をかけさせちゃったな。
すると、ゴンツ達三人は僕の前に一列に並んで土下座した。
「「「お願いします、俺達を雇って下さい、兄貴!!」」」
なんて、綺麗な、土下座!!
「いーよー。じゃあ、兵士でもする?」
「いいんすか!」
「マジっすか!」
「さすが兄貴ぃっ!!」
うるさいよ、アヴァロン王都民の皆が、なんだなんだと見に来てるよ。
「ソフィアさんにも手間かけさせちゃったし、骨折り損はねー。それに、ゴンツ達は会えたら誘っておこうと思っていたし」
「いやったぁっ!!」
「あざっす! 兄貴、あざっす!!」
「俺、頑張るっす!!」
元気な奴らだなぁ。
「そしたら、クラウス達に引き継ぐかね」
「えぇ、それが良いでしょう」
「ユート様、私がジルに連絡を入れておきます」
「それなら兵舎に送ってあげたら、お兄ちゃん」
相変わらず頼もしい嫁達だ。
「よし、それじゃあうちの文官筆頭と兵士筆頭に会って貰うぞ? そぉい!」
門弾さん、いつもお世話になってます!
「ほれ、行っといで」
「うっす!」
「兄貴、また後程!」
「行ってくるっす!」
手を振りながら、転移魔法陣を潜る三人。うーん、また賑やかになりそうだね。
さて、それじゃあ……。
「ソフィアさんは、この後の予定は?」
「いえ、特に何も」
ふむ、色々頑張ってくれたみたいだし、少しサービスしてもいいよね?
「それなら、僕達と一緒に来ません? 折角だし、アヴァロンを案内しますよ」
「えっ!? い、いいんですか!?」
「勿論」
少し逡巡して、ソフィアさんは首肯した。
「そ、それでは……お願いします」
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ソフィアさんを加えて十一人で移動している……やはり、目立つよね。
町の人達が笑顔で挨拶をしてくれるので、それに一つ一つ応対しているから歩みはゆっくりだ。
「何というか……とても、平和な国ですね」
「そうですね。ユート君の国だから、と言ってしまうと納得できると思いませんか?」
「解ります、アリシア様。ふふっ、ユートさんらしいですね」
笑顔で談笑する二人。
僕らしい国、か。道行く人達が、みんな笑っている……それが僕らしいと言って貰えるのは、嬉しいかもしれない。
「……とても、良い国ですね」
ギルドで受付カウンターに立つ時のソフィアさんは、どちらかと言うと……そうだな、デキる女! って感じだ。クールビューティーというか、キャリアウーマンというか。
しかし、今横を歩いている彼女は、少し年上の女の子……って感じだな。オフの時のソフィアさんは、どちらかというと可愛い人なのかもしれない。それ故か、更に親近感が湧いてしまうね。
「お! 丁度、魔導列車が通りますよ」
「わぁ! あれが魔導列車ですか!」
初めて見る魔導列車に、ソフィアさんは目を輝かせていた。ははは、やっぱりソフィアさんは可愛い人なのかもね。
そこに、子供達がやってきた。
「あっ、へいかだ!」
「へいかー!」
「おうひさまたちもいるー!」
「おっ、今日も元気だな!」
僕の所に駆け寄ってくる子供達。
「こんにちは、へいか、おうひさま!」
「「こんにちは!」」
きちんと挨拶できる、いい子達だ。
この子達は、どんな風に成長していくのかなー。今から楽しみだな。
「はい、こんにちは」
「こんにちは、皆。今日は三人で遊んでいたんですか?」
「うん!」
「今日はお家の手伝い終わったから、遊んできていいってお母さんが!」
「皆、お家のと手伝いをしっかりやって偉いですね」
「よし、ご褒美だ。これをあげよう」
宝物庫から取り出した、町の子供達へのプレゼント用に包んだ焼き菓子を持たせてあげる。
「わぁ! やったー!」
「へいかのお菓子、美味しいから好きー!」
「へいか、ありがとうございます!」
「「ありがとうございまーす!!」」
子供達の笑顔に、疲れが吹っ飛んだ気がするよ。
「俺、大きくなったらへいかの家来になるよ!」
「僕も!」
「私もなるー!」
焼き菓子で仕官してくれるのか、そいつは安上がりな。
「あはは、期待しているよ」
「頼もしい家臣になりそうだね!」
すると、子供達は顔を見合わせる。
「サムとシシリーもそろそろ来るし、皆で分けようね!」
「うん!」
おや、まだ二人いたか。
「……友達の、分だよ」
「仲良く食べてねー」
「「「わぁ! ありがとうございます!」」」
うんうん、元気があってよろしい。
「転ばないように気をつけるんだよ」
「はい、へいか!」
「へいか、さようならー!」
「おうひさまたちも、さようならー!」
手を振って歩き出す子供達を、僕達も手を振って見送る。
ああいう姿を見ると、子供が欲しいなと思うよね。
「子供に人気なのだな、アヴァロン王」
気がつけば、すぐ側にシンフォニア王が居た。シンフォニアの側近達や、勇者二人もいる。
「ノリが近所のお兄さん扱いなだけだよ。小規模国家だからね」
実際、国民も敷地面積も少ない。王や王妃と、国民の接する機会は割と多いのだ。
「いや、接し方から見て国民を大切に想う気持ちが伝わって来たよ。おや、そちらは?」
「あぁ、アヴァロン王都にできる冒険者ギルドの職員に決まった、ソフィアさん。僕が冒険者登録をした時の受付をしてくれた縁で、親しくしているんだ」
紹介してあげると、ソフィアさんが深々と頭を下げる。
「そういう間柄か。我はシンフォニア王国国王、ヴェルデ・デア・シンフォニアだ」
鷹揚に頷いて自己紹介するシンフォニア王に、ソフィアさんが目を剥く。
「シンフォニア王っ!? な、何故シンフォニア王が……!?」
「今、世界会議二日目でね?」
「早く言って下さいよ、それは!! 私の相手なんてしている場合じゃないのでは!?」
あはは、ソフィアさんもこんな風に慌てる事があるんだなぁ。
「今は自由時間だから大丈夫だよ。ねぇ、シンフォニア王」
「ふむ……それは良いのだが、アヴァロン王よ。折角友誼を結んだのだ、魔王や各国の殿下のように、俺の事も呼び捨てで構わぬぞ?」
「そう? じゃあヴェルデ、だね。僕の事も呼び捨てにしてくれて構わないよ」
僕の返答に微笑み、頷くシンフォニア王改めヴェルデ。
「解った、ユート。ふむ、対等の友人というのは良いものだな」
「それ、アルファも言っていたよ」
アルファは僕にとっても、初めての友人だからよく解るけどね。
「こ、国家間の交流が街角で……しかも内容が凄い……」
「ソフィアお姉ちゃん、これがアヴァロンクオリティだよ」
「よくある、事……」
話の展開に付いていけず目を丸くしているソフィアさんと、それを宥めるように話しかけるエイルとクリス。そんなにおかしいかな?
「アヴァロン王国内には、よく親しい殿下勢がツーリングに来たり、王が飲みに来たりしてるからなぁ……」
「その時点でおかしいだろう?」
「そぉ?」
感覚が麻痺してるのかもしれない。
「しかし、それなら俺がたまに飲みに来るのもありか」
「ん? ありだよ」
そう言って、笑い合う。
さて、この場には勇者もいる。勇者……つまり、フミナも同席しているわけで。
「また女かよ、このスケコマシが……」
暴言しか言われてないな、こいつには。
「フミナ、いい加減にしろ!」
ヴェルデの一喝にも、フミナは反抗的な態度を崩さない。
「僕に女性の友人がいる事に、何か問題でもあるのか?」
なるべく穏やかな声色で返してやるのだが、フミナが声を荒げた。
「どうせその女も誑し込むんだろ!」
「ちょっと、それは流石にユートさん……いえ、アヴァロン王に対して無礼でしょう?」
おや、ソフィアさんの反論。しかしフミナは瞬間沸騰だからな……。
「うるせぇ、お前に聞いてねぇんだよ阿婆擦れが! それともソイツに媚び売ってんのか? 尻振って男を取っ替え引っ替えしそうだもんなぁ!」
「な……っ!!」
はぁ、やれやれ。
「……ひっ!?」
大したことはしていない。いつものように殺気を向けて威圧するだけだ。
「”俺”への侮辱なら笑って許してやるが、俺の大切な友人への侮辱は看過できないな……フミナ・ヌマジリ、謝罪するなら今の内だぞ?」
「ふ、ふ、ふざけ……っ! 誰が……誰がてめぇなんかに……!」
やれやれ、救いようがないな。
「ユート、一応は……」
「安心しろ。ヴェルデんとこの勇者だから、肉体的損傷は無しにしておいてやる……今はな」
ただし、心にしっかり植え付けてやろう。俺を敵に回すというのが、どういう意味なのかをな。
「……ひぃっ!?」
殺気を更に強めた。足に力が入らなくなったようで、フミナは尻もちを付いて僕を見上げている。
「その反抗的な目、謝る気は無いみたいだな? じゃあ、もう一段階」
更に殺気を強めて、フミナ単独に向ける。さっきまでは周囲も「あ、これは殺気をフミナに向けているな」レベルだったのだが、今は周囲も少し圧を感じるくらいかな?
「う、うぁ……」
……あっ。やり過ぎた。
フミナの下半身に、水溜りが広がっていっている……こいつ、恐怖で失禁したな。
やれやれ、この程度でお漏らしするとはね。
「……ひっ、ひぐっ……」
「あっ、泣いてしまった」
「うわぁ……他人事みたいに言うね、お兄ちゃん……」
「容赦なしー」
失禁と恐怖で堪え切れなくなったのかな?
「いや、だってさ。だから何? って感じだろ?」
「「まぁねー」」
フミナの味方はいないようだ!
「はぁ、コレじゃあ僕が弱いものイジメしてるみたいじゃないか。仕方ないから、これくらいにしておくとするか」
「よ、容赦無いですね、ユートさん……」
あー、僕の威圧とか見るのって初めてだっけか?
「そうかな? 無傷で済んでいるだけ、だいぶ配慮してると思うけど」
「身体的には無傷だが、女性としての尊厳に傷が付いたんじゃないか?」
公衆の面前で漏らしたわけだから、それはそうだろうね。
「それが? 僕の大切な友人を侮辱したんだ、この程度で許してやるんだから感謝して欲しいくらいだよ」
「……はぁ。まぁ、それ以前に散々アヴァロン王であるユートに暴言を吐いたんだ、この程度で済むなら確かにマシだな」
ヴェルデも流石に折れた。まぁ、これまでのフミナの態度は酷かったからね。
「ソフィアさん、変なことになってすみません」
「い、いえ! 全然! 私も、もう怒ってないですから!」
この程度で許してやるなんて、ソフィアさんは心が広いな。
その後、ソフィアさんに暴言を吐いたフミナは、シンフォニアの側近達が連れて行った。うちの執事君が運転する魔力駆動四輪で。シートに布を何枚か敷いていたから、まぁ……大丈夫だろう。
ヴェルデとノブヨシからもソフィアさんに謝罪があったので、問題にはしない事になった。ソフィアさんもそれで良いと言っていたし。
でも、そろそろ仏の顔も……だ。
その後アヴァロン王城に戻って、晩餐会だ。
ソフィアさんはアリス達にお願いして、僕の側に控えるのはキリエ・エイル・ヒルド・メグミだ。
そんなわけなのだが、こんな提案があった。
僕とヴェルデのやり取りを見て、ユエル王とポーラ大公、プリシア王女も名前や愛称で! と言い出した。
なのでユエル王はクライン、ポーラ大公は愛称のファム、プリシア王女はプリシアと呼ぶ事になった。
トルメキアも乗ってきそう……と思ったのだが、そうはならなかった。側近が何事か話していたので、多分止められたんだろうな。
フミナは晩餐会を欠席した……まぁ、そりゃそうだろう。これで普通に来て、今までのように傍若無人に振る舞ったら、頭おかしいと思う。
お陰で、というのもなんだが、晩餐会は平穏無事に終わった。
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その後、僕は部屋で婚約者三人と過ごすのだが……。
「ユート君、ソフィアさんととても親し気ですよね?」
そんな事をアリスから言われました。
「まぁ、アリスやアルファ達の次に付き合いが長い友人だからなぁ」
「成程……」
「ユート様の友人、ですか……」
……待て待て、これ以上は収拾が付かないぞ?
「まぁ、それは追々……今は、婚約者としての時間を楽しみましょう?」
リインが、目を細めて近付いてくる。この娘さん、見た目は同年代か年下に見えるものの、実際は僕より年上な訳で、姐さん女房なのだ。たまーに、こうして外見に似合わぬ色気を醸し出してくる。
「あっ、そうですね」
「はい、折角の時間ですから……」
アリスとアイリも、微笑みながら近寄ってくる。
「それでは、ユートさん?」
リインからですか。主導権を握ろうとしてくるリインだが、弱点は既に把握済み。リインの敏感な部分を攻めて、主導権を死守するのだ。そんな掛け合いが恒例行事となっている。
アイリは、常に奉仕的に尽くそうとする。なので、そんなアイリが唯一受け入れてくれるこちらのご奉仕を、今日も念入りに。
アリスはいわゆるイチャイチャが好きらしい。五年間、胸に秘めていた想いが通じた反動かな。とても可愛らしいので、思う存分イチャイチャしましょう。
連日でも、神竜の加護のお陰か体力に衰えは無かった。変な称号が付きませんように……!!




