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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第14章 アヴァロン王国Ⅱ

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14-03 加盟希望/お仕置きⅡ

これまでのあらすじ:とりあえず、説明会は終わりですかね。


 折角、穏便に終わりそうだった各国の集まりだったが、クロイツ教国とヒルベルト王国の余計な口出しで、何とも居た堪れない結果に終わってしまった。いや、まぁ……卒倒させたのは僕だけどさ。

 両国の面々が起きるまで待って、僕は今回の件に結論を出す。

「ホシノ兄弟の件は説明したとおりだ、アヴァロンや世界同盟はその件についての責は無いもので相違無いか」

 特に、反対意見は出なかった。


「ついでだから、こっちも明確にさせて貰うぞ。アヴァロン王国に亡命して来た勇者は、本人の意思を尊重するものとし、アヴァロン王国の預かりとする……相違無いな、クロイツ教皇にヒルベルト王」

「認めぬ」

「承服しかねる」

 頑固だね。

「あっそ。まぁ言っただけで、お前らの意見なんぞ知ったこっちゃないけどね」

「何だと!」

「私を愚弄するか、この青二才が!」

 無視して、話を先へ進める。


「今回の集まりは、一部を除けば有意義なものだった。本来ならば、貴殿らを客人としてもてなすつもりだったのだが、どうやらそういう雰囲気では無さそうだ。残念ながら、今回はここでお別れだな」

 どこかの馬鹿のせいで、この後の予定は全てキャンセルだ。

 悪いのは僕じゃないよ? ギスギスした中で晩餐会なんて、誰得だよって話だ。


「やれやれ、仕方があるまい」

「そうですわね。折角のアヴァロン王のご厚意だというのに、2、3カ国だけ不在の晩餐会なんてしたらケチが付きますわ」

「全くだ、誠に遺憾よのう」

「不本意な終わり方だが、今回は確かに収穫もあったので良しとするしかないな」


 アヴァロンに好意的な国家が、そう言って席を立つ。歩き出した先は……僕の所だ。

「アヴァロン王、今回の件は貴国との国交に前向きに動き出すいいきっかけだったよ」

「ありがとう、ユエル王。共により良い関係を目指せたらと思うよ」

 朗らかな笑顔を浮かべるユエル王と、握手を交わす。


「私も同感ですわ、アヴァロン王。今度はポーラ公国にも御出でになって? とはいえ、アヴァロン王は大迷宮の根源魔法アカシックレコードを会得する旅をしているとか。いずれは我が国にもいらっしゃるでしょうけどね」

 そう言ってポーラ大公が手を差し出してくる。

 無論、僕はその手を握り返す。

「ありがとう、ポーラ大公。伺える日を楽しみにしているよ。大迷宮の攻略とは別件でもいいな」


「エメアリアにも来ておくれ。色々と話が出来たらと思うでよ」

「申し出に感謝するよ、エメアリア女王。女王もまた、こちらに遊びにでも来てくれ」

 初老の女性にしては、握手する力が強いんですが。

 多分、魔法技術についての話が聞けるって期待してるな? 

 遺失魔道具アーティファクトの事は、教えないよ? 


「これで終わるのは実に遺憾だ。そこでアヴァロン王、我がシンフォニア王国は、世界同盟への加入を希望する」

 シンフォニア王からの申し出に、各国も目の色を変える。

「それでは、加入について世界同盟で話し合おう。結果は追って報せるよ……朗報を待っていてくれ」

 そう言って差し出す手を、シンフォニア王が握り返した。


 すると、先の三カ国も世界同盟加入を申し出てきた。更には……。

「アヴァロン王。我がトルメキア王国も、世界同盟加入を希望したい」

 ……ほほぉ? 感情の色から、恐らく「乗り遅れたら、儲け話がフイになる」って所かな?

 まぁ、今はとりあえず置いておくか。

「解った、世界同盟では五ヶ国の加入について検討するとしよう」

 完全に、クロイツ教国とヒルベルト王国は無視されている……まぁ、当たり前だよね。トルメキア王国へも、白い目が向けられているけど。


「では、贈った姿見はそのまま渡しておこう。次回の世界会議までに、新加盟希望国の可否についてお伝えする」

 その返答に、各国の王は頷いた。

「それではアヴァロン王、今回はこれにて失礼するよ」

「またお会いしましょう、アヴァロン王」

「朗報を待っておるよ。老い先短い身だ、あまり待たせんでくれよ?」

「ではな、アヴァロン王。今度は酒でも酌み交わそう」

「それでは、私も失礼させて貰うよ」

 随員を連れて、各国の来訪者達は去っていった。


 残っているのは世界同盟加盟国と、クロイツ教国・ヒルベルト王国のみだ。

「それじゃ、お帰りはあちらだ」

「このままで終わると思っているのか?」

 苦々し気にそんな事を言うクロイツ教皇だが、自分の立場が解っていないらしい。

「そんなに浮遊殿が気に入ったか? なら死ぬまで居ても良いけど」

 僕の言葉に、クロイツ教皇は視線を険しくするだけだ。


 代わりに噛み付いてきたのは案の定、ヒルベルト王である。

「な、何だと! アヴァロン王、貴様は我々を害するつもりか!」

「ちょっと何言ってるのか解かんないです」

 害するも何も……。

「ここから出るには転移の姿見から出るしか無いだろう? 外は、アヴァロン王国上空なんだし」

「ぬっ……!!」

 浮遊殿を作ったのは、こういう輩が居るだろうからだ。自分達が、僕の掌の上だということに今更気付いたらしい。


「やれやれ、結局こうなるか」

「だねぇ。あぁ、叔父さん達はどうする? 帰る?」

 2カ国はもう放置しよう。

「この後の予定は無いし、新加盟国について話し合うのはどうだい?」

「うむ、確かにな! 折角空いた時間だ、有効に使おう」

 それもそーね。確かに良い考えだと思う。

「他の方々はどうかな? 僕は賛成だけど」

「うむ、ワシも賛成だ」

「折角の機会だしな」

「うむうむ」

 どうやら、満場一致だな。


「それじゃあ僕はお客さんのお見送りがあるから、先に王城で寛いでいてよ。アヴァロンメンバーは、皆さんの歓待をお願いできるかな?」

「解った、ユート」

「遊技場に連れていけば良いんですね、解ります」

「その方が時間も潰せますね!」

 勇者達の言葉に、目を輝かせる加盟国の面々。まぁ元々、歓待のために遊技場も準備していたわけだし、いっか。

「そうだね、構わないよ」

 そう言って、銃剣を取り出す。装填していた門弾ゲートバレットで、アヴァロン王城への転移魔法陣を開く。

「それでは、また後でな」

 アンドレイ叔父さんを筆頭に、転移魔法陣を潜っていく世界同盟国の面々と、勇者達。


 そして、婚約者達が残る。あれ? 

「どうしたの、皆」

「嫌ですね、ユーちゃん。未来のアヴァロン王妃としては、お客様をお見送りする旦那様を、1人にするなんて出来ませんよ」

「そうです、先輩。私達は先輩と共に、です!」

 キリエとメグミの言葉に、ウンウンと頷く他の面々。成程、好き。おっと、思わず顔がニヤけそうになってしまったよ。


「メグミ!」

 クロイツ教国の集団の中から、数歩前に出て来るマサヨシ。こいつ、やっぱりメグミに惚れてやがるな? 

「メグミ、一緒にクロイツ教国へ帰ろう! 桜井やマナも一緒に!」

「お断りします」

 うわっ、冷たい! こんな冷たいメグミ、初めて見たかもしれん! 

「くっ……やはりユート・アーカディアに洗脳されて……!」

 それはさっき違うと証明されたんだけどな。

「ユート・アーカディア! どんな手段でシンフォニア王を欺いたかしらないが、お前の思い通りにはさせないぞ!」

 あ、そういう方向性ね。


「どのような手段で各国に取り入ったか、偽りの王」

 クロイツ教皇の言葉に、神殿騎士達が殺気立つ。それを見たヒルベルト王は、愚かな決断を下した。

「おい、お前達! 今いるのはアヴァロン王とその婚約者だけだ、捕らえろ!」

 ヒルベルト王の号令で、兵士達が臨戦態勢に移行する。クロイツ教国の面々はそんなヒルベルト王に顔を顰めた。

 それにしても、学習能力が無いんだなヒルベルト王。仕方ないからもう一度昏倒させて、転移の姿見に放り込んでやるか? 


 しかし、前に歩み出るのは我が婚約者達。

「おいおい、僕はおあずけか?」

「ユート君? 愛しい旦那様を愚弄されて、黙っている妻はここには居ませんよ」

「そーそー、だからー、私達が相手だよー」

 可愛い事を言ってくれる。

「ふむ、上玉揃いだ……おい、女共は捕らえろよ! 解っているな!」

 ヒルベルト王がそんなふざけた指示を出す。やはり、僕が滅殺した方が……。


 と、思いきや。

「……潰す、でいく?」

「それか、切り取りましょうか」

「輪切りでいいのでは?」

 え、何を? もしかして、ナニを? 

「兵士も連帯責任で良いですよね?」

「ええ、ユートさんや私達への発言は看過しかねますし」

「少子化になりそうですね、ヒルベルト王国」

「お兄ちゃんを侮辱する国だし、別に良いんじゃない?」

 こわっ、うちの嫁怖いよ!? 

「やっぱり僕が対処する。異論は認めない」

「「「えー……」」」

「すごい残念そうだな!?」


 そんなやり取りをする僕達に堪忍袋の緒が切れたのか、ヒルベルト王が号令を出す。

「私を馬鹿にしているのか!? このっ……クソガキがぁぁっ!! 殺れっ!!」

 はーい、それじゃあ……。

「今回は無傷で済む、せいぜい感謝しろよ?」

 張り切っていってみよー。新しい遺失魔道具アーティファクト不可視の手ゴッドハンド”。

 ”力”の根源魔法アカシックレコードを利用した遺失魔道具アーティファクトで、単純に念動力で物を動かしたり掴んだりする。なので……。

「うわぁぁっ!?」

「う、動けんっ!!」

「浮いているぞっ!?」

 こうなる。

 クロイツ教国とヒルベルト王国の面々は、全員地面から不可視の手ゴッドハンドにより浮かされた状態だ。


「はいはい、しまっちゃおうねー」

 ぽいぽいぽいぽいっと。起動した転移の姿見で、先に兵士達から転移させる。

 ちなみに、こんな事もあろうかと一方通行に出来るようにしておいたので、あちらの兵士がこちらに戻る事は出来ない。

「そーれ、ぽいぽいぽいっと! ぽぽーいっ!」

 いやはや、ちょっと楽しくなって来た。

「やめろぉっ! やめてくいやぁぁぁっ!?」

「貴様、こんな事をしてタダで済むとぉぉうおおっ!?」

 いやー、悲鳴が心地良いね。


 さてさて、最後に残しておいたヒルベルト王にクロイツ教皇、そしてマサヨシ。

 まずは教皇からだね。

「貴様、何の真似だ!」

「ま、今回は見逃してやるからさ。今度舐めた真似したら、ただじゃおかない。じゃーねー」

 ぽいっ! 

「貴様あぁぁっ!!」

 教皇を転移の姿見に放り投げた。


「な、何だこの力はっ! これも、遺失魔道具アーティファクトの力かっ!」

「半分正解、根源魔法アカシックレコードを使った遺失魔道具アーティファクトだよ」

 浮かぶマサヨシを見上げつつ、僕はやれやれというジェスチャーをする。

「正々堂々戦えないのか、ユート・アーカディア!」

「お前に付き合ってやるほど、王様って暇じゃないんだよ。というか、お前には相手をしてやる価値がないんだよ」

 姿見に近付いていくマサヨシ。その速度はゆっくりだ。無論、わざとです。


「ユート・アーカディア! お前は! お前だけは絶対に許さないっ!!」

「あーはいはい、良かったね」

「メグミ! 必ず助けるから……キリエ達も、俺が助けてみせるからな!」

「いえ、頼んでないですから」

「呼び捨てにするなと何度言ったら解るんですか。えいっ!」

 キリエが棒で、マサヨシを転移の姿見に押し込めた。どうやら、直接触れるのも嫌だったらしい。哀れマサヨシ。


 さて、ラストだね。

 クロイツ教皇やマサヨシは、殺気立ちはしたけど実力行使は踏み止まった為、穏便にお帰り願った。しかし、ヒルベルト王はそうはいかない。

「後悔するぞ、小僧!」

 そんな事をほざくが、後悔するのはそっちかもね。

「えーと……あ、あったあった」

 ヒルベルト王を無視しながら取り出したのは、ただの墨と筆。

「……!?」

 あ、気付いたな? 

「とりあえず、眉毛からだなー」

「きっ貴様っ! 何をするっ!!」

「ん? ただの嫌がらせ」

 墨に浸けた筆で、ヒルベルト王の顔にいたずら書きしていく。

「顎髭で、もっとワイルドにしましょうよ」

「それなら、やはりカイゼル髭も……」

 婚約者達まで乗ってきた。流石は我が嫁達、いい根性してるよ。


「きっ、貴様らぁっ! やめろっ! やめろぉっ!!」

「あ、折角なので下睫毛を……」

「額に肉は定番だよね」

「やめろやめろやめろやめろぉっ!」

 喚き散らすヒルベルト王だが、不可視の手ゴッドハンドで身動きは封じられている。

「ぷっ……くくくっ、男前になったんじゃね?」

「ぶふぅ……っ!! あははははっ! お腹いたーい!」

 いやぁ、力作。

「折角だから記念撮影しようか」

 撮影用遺失魔道具カメラで、写真を撮っておく。

「貴様らぁぁっ!!」


 さて、じゃあ仕上げだ。

「それじゃあヒルベルト王、達者でな! ヒルベルトの兵士達によろしく!」

「なっ……! き、貴様あぁっ!」

 ゆっくり、ゆっくり、マサヨシの時よりゆーっくりと、転移の姿見に近付いていくヒルベルト王。

「おのれユート・アーカディア・アヴァロンッ!! 貴様だけは絶対に許さぬぞっ!!」

 こちらから言うべき台詞は、もう何も無い。

 なので、ただニヤニヤしながら、姿見に近付いていく姿を見てるだけだ。

「覚えていろよっ!! この屈辱は百倍にして返してやるからなっ!!」

 本性が出ているね。ははは、無様無様。


 既に下半身は転移の姿見を潜っており、もう少しで首元だ。

「おのれぇっ!! おのれえぇぇぇっ!!」

 そして、もう顔だけ。徐々に近付くスーパー屈辱タイム、ぜひ堪能して頂きたいものだ。

「うわあぁぁ……」

 そして、声が途切れた。とりあえず、転移の姿見は破壊しておこう。


「……ぶふっ」

「……くくっ……ぷくくっ……」

「……ぷはっ! あははははっ!! もーダメですっ!!」

 笑いを堪えていた婚約者達も、耐え切れずに笑い出してしまったアリスにつられて笑い出した。

「いやぁ、良い仕事したね!」

 僕のそんな台詞に、更に皆は笑い転げてしまう。そんな姿さえ可愛いと思ってしまう、僕も大概なんだろうなぁ。


************************************************************


 遊戯室に集まっていた世界同盟加盟国の面々に、事の顛末を説明する。

「……お前、鬼か?」

 ジト目でそんな事を言ってくるアルファだが、これでも配慮したんだよ? 肉体的な傷は一つ付けずに、穏便に済ませたんだから。

「しかし、そのヒルベルト王……見たかったな」

「クククッ、確かにな」

 そんな事を言うジオとグラム。やはり、そう来るよね?

「見れるよ、ほれ」

 撮影用遺失魔道具カメラで撮影した、ヒルベルト王の姿を空中に投影させる。これ、魔法ってよりSFっぽいかも。

 そして、投影された画像を見て、遊戯室に静寂が訪れた。


「………………ブフゥッ!! グワハハハハハハッ!!」

 最初に耐え切れなくなったのは、意外にも竜王だった。それが起爆剤になり、そこに集った者全てが笑い出す。

「ひー、ひー……お、お腹が! お腹が捩れますっ!!」

 シャルルなんて、床に転がってるよ。パンツ見えてんぞ。

「ぷくくっ……あははははっ! 流石に、これはっ!!」

「無駄に偉そうだったし、いい気味だよねーっ!! あはははははっ!!」

 エミリオとシャル、距離感が更に近いね? もしかすると、もしかするのかなぁ? 

「ぷぷっ……そ、そんなに笑っちゃ……可哀想……ぷふふっ!!」

 リアって、なんか可愛い笑い方すんのね。アルファの肩に顔を埋めて、微笑ましいったらありゃしない。


「う……ぬふっ……で、でも……こんな風に影で笑うのは、ぶふっ!! 騎士道的にっ……ふはっ!! あまり感心出来ないんだぶふぅっ!!」

「笑うか耐えるかどっちかにしてから言おうか、ほれ」

「ぶはぁっ!! ははははははははっ!!」

 お腹を抑えて、決壊したカミーユ。脆い自制心だったね。

「ちなみに、普段ならここまではしないよ? 今回、あれだけ言ったのに武力行使しようとしたんだからね。尊厳を傷付けるくらいの報いは、甘んじて受けて貰わないと。尚、自分の中では今回の対応は神対応だと思ってます」

「くくくっ……鬼対応の間違いだろう……っ!! くくっ……ははははっ!!」

 涙目になりながら笑うマックも、大概だと思うよ? 

「ふ、腹筋が……! 腹筋がっ!! あははははっ!!」

 マチルダも大爆笑だな。


 爆笑の渦も収まり、いよいよ本題に入る。

「で、新加盟国に名乗りを挙げた五カ国だけど……どうだろうね?」

 個人的にはユエル・ポーラ・シンフォニアは問題あるようには感じない。

 エメアリアは、アヴァロンの遺失魔道具アーティファクト狙いな気もするが、あの女王が暴走するとは思えないね。落ち着いた感じの女性だったし。

 そして、トルメキア……最初はうちに対して非難的だったが、途中からは黙って会議の推移を観察していたな。


「ユエル王国の王は、随分とアヴァロンに肩入れしていたな」

「ポーラもだな。ヴォルフィード皇帝、何かご存じか?」

 同じエルフの国だから、ヴォルフィード皇帝に質問が行くのは仕方ないよね。

「ユエル王国は不明だが、ポーラ大公は以前から世界同盟に興味自体は持っていたようでな。新設国であるアヴァロンや、新たに発足した世界同盟の事を独自に調べ、国内でも恐らく加盟に対して検討段階だったと思われるな」

 成程、今回の件はポーラ公国にとって、実際の所がどうなのかを見るいい機会だった訳か。


次いで、口を開いたのはクエスト王だ。

「ユエルの方は、世界同盟にこれまで参入していない経緯は不明だが、我がクエスト王国とも国交はあった。先代の王は堅物だったが、五年前に王位を譲られた現王は柔軟そうだな。こちらも恐らく、世界同盟加盟は視野に入れていたのではないかな」

 そっか、ドワーフ族とエルフ族は交流があるんだったね。

 しかし成程、ユエル王は最近王位を継承していたのか。エルフ族は見た目が若いから、二十代前半くらいにしか見えない彼も長いこと王位に就いていたのかと思ってたわ。


「それで、トルメキアはどうする。アレは問題を起こしそうな気がするが」

 そんな事を言うのは、竜王だ。

「うむ、終盤は大人しかったが、最初はアヴァロンに対し随分な物言いではなかったか?」

 獣王もそれに続く。

「トルメキアは商業国家だから、損得勘定で動く方針だろうな」

「アヴァロンの影響力を目の当たりにし、敵に回すべきではないと判断したのだろうよ」

 ヴォルフィード・クエストの両王が、苦笑しながら考察を述べる。


「成程、利に聡いと言うべきなのかね?」

「本当に聡いなら、最初からアヴァロンに噛みつかないだろう」

 苦笑するアマダムに、反論するケルム獣帝。僕も、それもそうかと思い直す。

「だが、それなら滅多な事はしないだろう。アヴァロン王国の影響力を認識したならば、敵対しようと決断するのは余程の大物か馬鹿だからな」

 アンドレイ叔父さん……余程の馬鹿が二カ国くらいあると暗に言ってるね?


「シンフォニアは良いよね?」

「ははは、新たな友人だったか」

 シンフォニア王、ヴェルデ・デア・シンフォニアは気持ちの良い人物だったな。最初は中立として、しっかりとこちらを見極めようという姿勢も嫌いじゃない。

 シンフォニア王ならば、うまくやっていけると思うんだよね。

「ふむ、あの様子ならば問題は無いだろうな」

「余にも異論は無いぞ」

 反対意見は無さそうだな。


「エメアリアは、アヴァロン王の遺失魔道具アーティファクト狙いとも思えるがな」

「その可能性は否定できないな」

 まぁ、魔法国なんて国名を掲げるくらいだ。遺失魔道具アーティファクトの秘密が目の前にあると思ったら、確実に手を伸ばしたくなるだろうさ。

「しかし、あの女王は一言も遺失魔道具アーティファクトを寄越せとか、製法を教えろなんて言わなかったな」

「あの場では、そんな事は言えないだろう?」

「言う国もあったではないか」

 トルメキアな。

「まぁ、あの女王はその辺りをしっかり弁えていたし、良いと思う。どうせ世界同盟に加盟したら、遺失魔道具アーティファクトを提供する事になるしね」

 悪魔族対策の種族看破眼鏡や、世界の窓ウィンドウズは必須だし。


「成程、それで収まるならば、問題は無さそうか」

「そうなると……五カ国全てが、新加盟国になるという事だな」

 そうなるね。

「では、意見も出揃ったようだし決を取ろう」

 僕の言葉に、加盟国の面々が頷く。結果、満場一致でユエル・ポーラ・シンフォニア・トルメキアと、エメアリアが世界同盟に加盟する事が承認された。

 これで西大陸及びエルフ五国は、全ての国が世界同盟に加盟するわけだね。


 世界同盟も、随分と賑やかになって来たな。

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