表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第14章 アヴァロン王国Ⅱ
164/327

14-02 説明会/真実の魔眼

これまでのあらすじ:いよいよ本題に入るよ。

「勇者ホシノ兄弟が死んだ、これは事実か」

 尊大にそう告げたのは、ヒルベルト王だ。

「事実だ」

 短く、あっさりと返す。それに対して紛糾しようとする国家を抑えるかのように、立ち上がるのはシンフォニア王。

「その経緯について、詳細にお聞かせ願えるか」

「無論だとも」

 シンフォニア王、中々に出来るな。


 アヴァロン王国のメンバーは、ラルグリス王公認の上でティルファニア大迷宮の攻略に挑んだ。

 しかし、大迷宮の試練で分散させられた僕達は、各々に大迷宮の攻略に挑む羽目になった。

 そんな中、ラルグリス王国の勇者であるツヨシ・ホシノとシキ・ホシノが、アヴァロン王国を害そうと襲撃して来た。


「アヴァロン王、質問をよろしいでしょうか」

 挙手して立ち上がったのは、ポーラ大公。

「どうぞ」

「何故、勇者はアヴァロン王国を襲ったのですか?」

 その質問に、トルメキア王やヒルベルト王が我が意を得たりとばかりに立ち上がる。

「そうだ! 勇者を敵に回すなど言語道断!」

「何故、勇者を敵に回したのだ、アヴァロン王!」

 小物感が更に増したな。


「それは、私から話すべきだな」

 立ち上がるのはラルグリス王だ。

「我が双子の弟・バルドレイの奸計により、拉致された私をアヴァロン王達が救ってくれたのだ。しかし、勇者ホシノ兄弟はバルドレイ側に付き、アヴァロン王はそれを圧倒した。それを根に持ったのが理由だ」

 淀み無く答えるラルグリス王に、トルメキア王とヒルベルト王が黙り込む。

「で、言語道断なのはどっち?」

「ぐぬぬ……」

「……むぅ……」

 ちょっと意地悪するくらいは、良いよね?

「はい、意見が無いのなら続けるとしようか」


 さて、まず襲われたのは僕だ。大迷宮で孤立していた僕は、魔物との連戦で疲弊している所に勇者二人の襲撃を受けた。

 仮にも勇者だ、その力で僕は追い詰められていく。そんな中、決定的な隙を晒したシキに対し、僕は致命傷を与え殺した。

「なんと愚かな!」

「然り、勇者を殺すなど!」

「アヴァロン王よ、その罪の重さを理解しているのか!」

 再度、爆発するアンチ共。今度はクロイツ教皇も混じって来やがった。


 よし、それじゃあ聞かせて貰おう。

「殺らなきゃ殺られる戦場での事だからな、”俺”は自分の身を守るために勇者を殺した。で、逆に質問だ……貴殿らは勇者に襲われたら命を差し出すんだな?」

 ピタリと怒号が止む。正論に加え、威圧もしているからね。

「どうした? 答えて貰おうじゃないか。勇者が死ねと言えば、お前達は黙ってその剣を受け入れるって事で良いんだろう?」


「そ、そうは言わんが……そ、そうとも! 殺さなければ良かったではないか!」

 ほほう、まだ噛み付くかね、ヒルベルト王。

()()()()()()()()の俺には、そんな器用な真似はとてもとても」

 その言葉に、加盟国の王達が一斉に吹き出す。というか、婚約者やうちの勇者達まで吹き出しやがったな。ってか、ポーラ大公も何を笑ってるのよ。

「な、何だ!? 何がおかしいのだ!」

「気にしないでやって。で? それなら貴殿は逃げる事も適わず、殺らなきゃ殺られる極限状態で、相手が決定的な隙を晒したとしたら……どうするのかね?」

「……う、ぐぅ……」


 口籠るヒルベルト王に代わり、クロイツ教皇が厳かに告げる。

「そもそも聖なる神に選ばれし勇者が、過ちを犯すなど有り得ぬ。アヴァロン王の言葉が真実とは思い難い。卑怯な奸計で、勇者を殺害したのではないのか?」

 ほほう、そう来るか。では、コイツにもクリティカルをくれてやろう。

「勇者が過ちを犯さないなら、シマ・ヨコタは?」

 再度、沈黙。世界を混乱に陥れた魔王オルバーン、それを討伐すべく召喚されたシマ。しかし、シマは己の欲望にひた走り、多くの犠牲を出しながら暴虐を奮った。


「シ、シマは……たまたま……」

「つまり、勇者は過ちを犯すわけだろう?」

「ぬ……ぐぐぐ……っ!!」

「で? 自国の、共に戦うべき兵士を再起不能なまでに痛め付けたり、町娘や王城の侍女を犯すような勇者が、正しいと?」

 僕の言葉に驚き、ラルグリス王に視線が集中する。

「事実だ」

 その言葉に、流石のクロイツ教皇も口を噤んでしまった。やれやれ、これだから教皇は。


「シキ・ホシノの事は解った。ツヨシ・ホシノはどうなったのだ?」

 ここで話を先に促そうと声を掛けてきたのは、ユエル王だ。それにシンフォニア王やポーラ大公、エメアリア女王も頷く。

 ふぅ、話の解る人達も居るから、助かるね。

「シキを殺害した後、大量の魔物に襲われた。僕もツヨシも、それぞれ魔物の群れを切り抜けたが……その先でツヨシは、僕の仲間達に遭遇した。ツヨシは僕の腹心であるフリードリヒ、そして勇者ユウキに重症を負わせ、そのまま殺害しようとしていた。故に、アヴァロン王国はツヨシを打倒し、捕縛した」

 今の説明は嘘ではない……レベルアップした僕単独でやったと言っていないだけだ。


「捕縛したのに、何故殺した!」

 はいはい、おつおつ。

「捕縛から抜け出して、ラルグリス王都を襲ったからね……こんな風になって」

 映像遺失魔道具アーティファクトで、強欲の化身の姿を見せる。

「な……っ!?」

「こ、これが勇者ツヨシだと言うのか!?」

「言うのだ。勇者の鑑定ステータスチェックは知っているだろう?」

 鑑定ステータスチェックじゃなくて、僕の左目の解析アナライズで確認したんだけどね。鑑定ステータスチェックで確認したとは言ってないから、嘘じゃ無いよ。


「……これが、勇者だと!?」

「どうやら、コイツは生物や鉱物、魔法まで取り込む性質を持っていてな。攻撃すればするほど、それらを吸収して肥大化していった。そのままラルグリス王国の王都ウェルキンに進んでいれば、壊滅的な被害を受けただろうな」

 これは事実だ。

「もしかしたら、悪魔族に取り込まれたのでは?」

 真剣な顔で、ポーラ大公がそう問い掛けてくる。

「我々が最深部に居る間の話だからな、その辺りを目撃できた訳では無い」

「そう、ですか……」

 目撃はして無いよ、理由は知っているけどね。


「それで、そんな怪物をどうしたのだ?」

「世界同盟加盟国による、総力戦で討伐した。身体に収まり切らない程のエネルギーを取り込ませて。最後には身体が裂けて、自壊した」

 その説明に、加盟国以外が「こいつ、何言ってんの?」という顔になった。すぐに、付近の加盟国に視線を向ける。

「うむ、事実だ」

「あぁ、余達も参戦したからな」

「世界同盟軍の総力で、あの怪物を討伐した事に相違無い」

「アヴァロン王の言を肯定する」

「うむ、ワシも保証しよう」

「凄まじい戦いであったなぁ……」

「これ程の大戦、そうそうお目にはかかれまい」

「アヴァロンから貸与された武器のお陰でもあったな」

「世界同盟の各国には、我が国の為に力を尽して貰った。感謝しても仕切れぬよ」

 加盟国の全肯定に、非加盟国が顔を引き攣らせる。

 流石に神竜エイルの事は内緒だよ。僕の可愛い婚約者だから、変なちょっかい出されないようにしないとね。


「アヴァロン王が勇者となったというのは本当ですか?」

「あぁ、本当だ」

 その言葉に、クロイツとヒルベルトの視線が険しくなる。しかし、彼等が何かを言う前にポーラ大公が言葉を続けた。

「まるで、勇者レオナルド様のようですわね。出来れば、目に見える証拠を見せて頂けないでしょうか?」

 まぁ、口で言うだけならタダだからな。その要望は当然だ。

「では、これで如何だろうか?」

 無詠唱で”雷の玉サンダーボール”を掌の上に出す。

「雷属性の魔法……!!」

「間違いないですね、雷魔法は勇者のみが使う事を許された魔法……アヴァロン王が勇者である事は、これで実証されましたわ。感謝致します、アヴァロン王」

 ポーラの大公は、随分とすんなり受け入れるな。まぁ、楽でいいけどさ。


「僕からの説明は以上だ。これまでの()()に偽りがない事を、アヴァロン王国と世界同盟、そして両親と敬愛する我が神に誓おう」

 その言葉に、各国の代表達が目を見開く。

 この世界で”神に誓う”というのは、とんでもなく重い意味を持つ。

 最も魔人族の世界神や、妖精族・亜人族の世界神の事じゃない。僕をこの世界に導いて下さった創世神様と、愛する婚約者ヒルドことヒュペリオンにだ。そんな事は、彼等には解らないだろうけども。

 ちなみに、言った事には嘘は無いけど、話自体はぼかしているから全て事実では無い。こんな回りくどい話の仕方をしているのには、理由があるのだ。


 さて、数名の国家元首は頷いて結論を出した。

「俄には信じがたい話もあったが、事情は概ね理解した。今の話から、私はアヴァロン王国や世界同盟の対応に非は無いと判断する」

 そう言い出したのは、やはりユエル王だ。この人、いい人やんな。

「ポーラ公国を代表し、ユエル王の意見に賛同します」

「エメアリア魔法国も、同じく」

 そして、立ち上がるシンフォニア王。

「アヴァロン王、我が目は真実を見通す魔眼でな」

 うん、知ってる。だってステータスに、”真実の魔眼Lv3”ってあるもん。

「気に入ったぞ、アヴァロン王。貴殿のこれまでの説明に、嘘偽りがない事をこの俺が保証しよう」

 嘘を吐かないように説明してきたのは、シンフォニア王のこの技能があったからこそだ。

 それにシンフォニア王は、こちらに敵意を向けずに中立の立場としてこの場に来たらしいからね。

「貴殿らの寛大な心に感謝するよ」


************************************************************


 さて、ここまで来るともう、話はまとまってしまったわけだ。

 しかも、シンフォニア王の魔眼により、嘘は無いと保証されているわけだからね。それに異を唱えるとなれば、世界同盟に加えてシンフォニア王国も敵に回しかねない。シンフォニアにも二人の勇者がいるし。

 トルメキア王、ヒルベルト王、そしてクロイツ教皇は苦々しい表情だ。


「他に質疑が無いならば、このまま少しばかり、空の遊覧会でもいかがかな?」

「ほぉ、それは面白そうよの」

 エメアリア女王は、さっきから視線が鋭い。遺失魔道具アーティファクトに興味津々といった様子だね。


「いや、待たれよ。折角の機会だ、アヴァロン王に問いたい事が他にもある」

 おや、待ったをかけたのはシンフォニア王だ。

「問いたい事とは?」

「うむ。アヴァロン王、貴殿は複数の遺失魔道具アーティファクトを所有している。それは……貴殿がこの島にあった物を手に入れたからという意見も出ている。その通りなのか?」

 あぁ、そゆことね。

「違うね」

 即答。

「……嘘ではない、か」

 その言葉に、クロイツ教皇やマサヨシ達が目を剥く。そりゃそうだ、今まで散々「あいつは島に遺された先代勇者の遺産を不当に手に入れた」と喚き散らしたわけだからな。


「成程、そうなると……アヴァロン王はどのようにして遺失魔道具アーティファクトを入手したのかという話になってくるのだが……」

 ユエル王が唸りながらそんな事を言う。

「先程、アヴァロン王は”自分の所有物”と言ったな。つまり、それが自分の物である証拠を提示できる。しかし、どこぞの国がどれだけ喚いても、それを今まで行った事は無い。その理由は?」

「相手にするだけ時間の無駄だからだな」

 どこぞの国からの視線が険しい物になる。それを鼻で笑ってやってから、視線をシンフォニア王に戻す。

「確かにな。だがそれだけではあるまい? アヴァロン王……貴殿が付与魔導師である事は、噂で聞いている。俺が察するに、貴殿の遺失魔道具アーティファクトの出処は……」

 ……ほほう? 気付きますか、気付いちゃったかぁ……。

「アヴァロン王、貴殿は遺失魔道具アーティファクトを作成する事が出来る付与魔導師なのではないか?」

 いつか、こんな日が来る事は予想していた。しかし!! 


「ノーコメントで」

 会場が、凍り付く。


「……ノーコメントとは?」

「今回の勇者討伐に関係の無い内容だからね」

 ニィ、と口元を歪める。

「答えては貰えぬか」

「答える必要が無いだろう?」

 鋭い眼光を向けられるも、こちらとて最前線で戦う王様よ? 明言しないのは、変に言質を与えないためだ。


 そして……僕はある意味、既に答えているとも言える。普通ならノーと言うだけなのに、そう言わないのは嘘と解るから。ノーコメントにする理由はイエスが正解だからなのだ。

「……うむ、よく解った」

 あっさりと引き下がるシンフォニア王も、それを察している。頭の回転早そうだし、ここまで言っておけば解ると思っていた。


 すると、続いて挙手をしたのはポーラ大公だ。

「アヴァロン王、世界の脅威たる悪魔族についての情報を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「無論、構わないとも」

 その言葉に、ポーラ大公はニッコリ微笑み、会釈をする。

「では、悪魔族について判明している事を伝えよう」


 悪魔族は、この世界の地底深くに生息する種族。連中は、地上で幾度となく暗躍してきた。

 その最終目的は不明だが、影人や影獣を生み出したり、苗床となる女性を攫おうとしたり、寄生生物で身体を乗っ取ったりという被害を出して来た。


「……奴らの目的は不明なのか」

「目下の行動指針の予想は付いている。多分、戦力の確保だ」

 そう、悪魔族の行動は全て、自分達の戦力を増やす事に繋がる。

「ふむ、確かにそうじゃのう」


「しかし、悪魔族なんて種族は永く行きてきたが聞いた事が無いぞ!」

 トルメキア王が声を荒らげる。一々噛み付くのはやめて欲しい。

「大迷宮を作った神代の魔導師集団……ワイズマン達が遺したメッセージから、少しばかり情報を得ている。彼等の生きた時代に、地上で暴れまわった悪魔族を封印したそうだ。ワイズマン達と地上の国家が力を合わせてね」


「そして、その封印が解かれ始めているか……既に完全に解けていると?」

「封印の地が何処か解らないから、何とも言えないな。一応、探してはいるんだけどね」

 封印の地が何処なのかはまだ掴めていない。エイルなら知っているのだろうが、それを聞くのは僕の中でルール違反なので、聞いていないだけである。エイル自身も、それを察してくれているしね。

 その言葉に、シンフォニア王とユエル王は、眉間に皺を寄せて考え込む。


「これまで悪魔族と対峙したことは?」

 そう問い掛けてきたのは、意外にもクロイツ教皇だった。

「ミリアン獣王国で一人、ヴォルフィード皇国で二人、ジークハルト竜王国で一人、ケルム獣帝国で一人か。都合四回戦って、討伐した」

 更に、獣王達が説明に加わる。

「ミリアン獣王国では余と倅に加え、拳聖ベアトリクスがユート殿達と共に戦っている」

「ヴォルフィードでは、ユート殿が悪魔族を圧倒して討伐だな。出る幕が無かった」

「ジークハルト竜王国を襲った悪魔族は、アヴァロン建国直後か。寄生された竜人や竜までも治療して貰ったな」

「ケルム獣帝国での戦いは、世界同盟軍による戦いだったが……悪魔族との戦闘は、アヴァロン王が一人で終わらせてしまったんだったな」


 視線が、また僕に集中する。

「殺っちゃった」

 てへぺろ。

 ……場が静まり返る。滑った。

「ユート、お前少しは空気読めよ」

「あっはい」

 アマダムに苦言を言われてしまったよ。


「……恐ろしい話だ」

 そう呟いたのはシンフォニア王だ。

「地底に棲む種族も、その目的も、攻撃の仕方も恐ろしくはあるんだが……それを大体単独で討伐してしまったのは、アヴァロン王という事だろう?」

「まぁ、確かにそうなる」

 マァモンだけは、エイルが粉砕したけど……石化させたのは僕だし。

「それは世界の脅威を退ける力を、一個人が持つという事だ。我はそれが恐ろしい。故に聞かせてくれアヴァロン王、それだけの力を持つ貴殿は一体何を目指す」

 何を目指すか……ねぇ。


「まぁ、世界平和だよね。それぞれの国が手を取り合い、それぞれの種族が歩み寄り、それぞれの人が笑って過ごせる世界になればいいと思う。その為に、世界同盟は発足した」

 究極的な目標って言ったら、やっぱそこだろ。

「……夢物語だな」

「まぁね、僕が生きている間に実現するのは無理だろうと思う。でも、もしかしたら子の世代、孫の世代で叶うかもしれない。次代のために、少しでもより良い世界を残すのが、先達の役目だろう?」

 そうなったら良いなぁ。


「くっくっく……面白い男だ、ユート・アーカディア・アヴァロン! ははははっ、俺はお前が心底恐ろしいよ! 底が見えん、はははははっ!」

 シンフォニア王、大爆笑。そんなに面白い事かな?

「アヴァロン王、後で個人的に話をさせて貰えないか? 俺は是非とも、お前と友誼を結びたい」

「あぁ、構わないよ。僕としても友達が増えるのは嬉しいからね」

 互いに王ではなく、一人の男としての口調。

 シンフォニア王を、世界同盟に勧誘するのも良いかもな。彼なら、仲良くできると思うんだよね。


************************************************************


 場の空気は僕とシンフォニア王のやり取りから、友好的なムードに変わっていった。

 しかし、その空気に馴染めない者もいる。

 納得のいっていない様子のクロイツ教国や、何事かを考えている様子のトルメキア王国。

 そして、ヒルベルト王も何やら険しい視線でこちらを睨んでいる。


「さて、それでは今回の集まりはこれでお開きか? それなら、遊覧会の後で晩餐会に……」

「いいや、まだだ!」

 大声で立ち上がり、こちらを指差してくるのは、やはりヒルベルト王だ。

「我が国から不当に奪った勇者を返して貰おう、アヴァロン王!」

 ……あー、そう言えば元々ユウキとマナは、ヒルベルト王国に召喚されていたんだったな。

「その辺の話は、本人の意思を確認した上ですべきだな。ユウキ、マナ」

 二人を呼び寄せると、今度はクロイツ教皇が噛み付いてきた。

「待て、メグミ・ヤグチを含むアヴァロン王国が拉致した勇者はクロイツ教国の預かりになった! 返還は我が国だ!」

 ……めんどくせ。


「メグミ、ユウキ、マナ。君達は何処の所属?」

「「「アヴァロン王国です」」」

 だよねー。

「私はクロイツ教国から謂れの無い疑いを掛けられ、救援に駆け付けて下さったアヴァロン王に保護され、教国から亡命しました」

「僕もそうです」

「私も同じです」

 視線が、クロイツ教国に向かう。マサヨシなんかは、まーた僕を睨んでいるよ。


「謂れの無い疑いとは?」

 ユエル国王が、厳しい視線でクロイツ教皇に問い掛ける。

「……それは……」

「僕がこの三人を洗脳したとか何とか言ってたっけ?」

 言い淀むクロイツ教皇に代わり、僕が声高に答えておく。

「……それは真実ですか?」

 ポーラ大公の視線が冷徹な物に変わった。穏やかそうな彼女がそういう目をすると、凄みが増すね。


 黙して語らないクロイツ教皇を一瞥して、鼻を鳴らしたシンフォニア王が僕に向き直る。

「アヴァロン王、身の潔白を証明するならばこの問いに答えて貰いたい。アヴァロン王国に在籍している勇者達を、洗脳などの不当な手段で自国に引き入れたか?」

「事実無根だ。この三人は自分の意思でアヴァロン王国に亡命して、僕はそれを受け入れた」

 視線は、シンフォニア王へ向かう。

「真実だな。アヴァロン王に嘘偽りは無い」

 その言葉に、集った国の王達はクロイツ教皇へ視線を向ける。無論、絶対零度の視線をだ。


 はぁ、こんな下らない事で時間を浪費したくないんだよね。

「じゃ、そういう事で。ヒルベルト王国とクロイツ教国の間の問題は、当事者同士で話し合ってくれ」

 そう言って終わらせようとしたのだが、勇者達はまだ言い足りないようだ。

「結果がどうなろうと、僕の答えは変わりません。僕はアヴァロン王に仕えると決めましたから」

「私も同じです。それに、ユウキの居る場所が私の居る場所だし!」

「私は既にアヴァロン王と婚約しています。クロイツ教国に戻るつもりはありません」

 余程、両国が嫌いなのかな? 三人とも、普段に比べて随分と厳しい言葉を口にするね。


 その言葉に、クロイツ教皇とヒルベルト王が立ち上がる。表情は怒りに染まり、ヒルベルト王に至っては顔が真っ赤だ。

「お前達、恩を仇で返す気か! 勇者の務めを何と心得ているのだ!」

 クロイツ教皇から受けた恩って何だろうね。後で確認しておこう。

「その通り! 第一、お前達二人は我が国が召喚したのだ! 我が国が所有するのが筋であろう!」

 そうほざいたのは、ヒルベルト王。所有、だと? 俺の目の前でそんな台詞を口にするとはな。


「……いい加減にしろよ?」

 ワンアウトだ。殺気をクロイツ教皇とヒルベルト王に叩き付ける。

 その後ろに控えている兵士や部下達が、まとめて卒倒した。守るべき王を置いておねんねとはいい御身分だな。

「拉致したの何だのと騒いでいるが、異世界からこの世界に拉致してきたお前らに、ゴチャゴチャ言う資格なんて無いだろ?」

 殺気を放ちながらそう言った俺を、他国の王達が驚きの表情で見ていた。まぁ、加盟国の面々は苦笑しているけど。


「な、な……」

「う……ぐっ……」

 苦しそうに呻く教皇と王。更に殺気を一段階引き上げる。

「いいか、勇者達は物じゃないんだよ。お前らの下らない見栄や願望の駒じゃねぇ」

 殺気に充てられた二人は、何も言い返せずに苦しそうにしているだけだ。静かでいいね。

「勇者達がそれを望むならば、俺は本人達の意思を尊重する事を宣言しておく。だが、よーく覚えておけよ? 今後も下らない真似をするようなら……国ごと貴様らを潰す」

 そう告げて、殺気を解く。殺気を解いた瞬間に、クロイツ教皇とヒルベルト王は意識を失った。


「……やり過ぎたかな?」

 力なく倒れ伏すクロイツ教皇とヒルベルト王に、僕は溜息を吐く。

「いいえ、先輩。良い薬になったと思います……私達の為に怒ってくれて、ありがとうございます」

 右腕に抱き着いてくるメグミに苦笑する。

 その様子を見て、殺気を耐え抜いたマサヨシがこれでもかってくらいに睨んで来ているが、無視だ無視。右腕の幸せな感触を堪能しているんだから、相手してやる暇は無い。


 しかし……二カ国はマサヨシを除いて轟沈してるな。あーあ、他にも催しも考えていたのに、これじゃ台無しだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ