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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第13章 ラルグリス王国Ⅱ
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13-09 幕間/世界神ヒュペリオン・ヒルドの独白

 私は創世神様よりこの世界の管理を任された、世界神の一柱・ヒュペリオン。かつては妖精族・亜人族・魔人族の世界神と共に、この世界を管理していた。

 しかし、魔人族の世界神・ディスマルクの謀略により管理権限を奪われ、神域に戻る事も適わない。

 ディスマルクに対抗しようにも力の源たる信仰心を横取りされ、ただ時間だけが流れていった。


 そんな中……私は彼に出会った。


************************************************************


 事の発端は、イングヴァルト王国の大迷宮でレイスに魂を奪われた少女兵士を何とか救おうと、手を尽くしている時だった。

 その時点では、彼は私を警戒していた。しかし、私は彼に何か親近感というか、懐かしい感じを覚えていた。後からそれは創世神様の気配だと解ったのだけれど、この時点では気付いていなかった。


 彼の名前はユート・アーカディア・アヴァロン。

 アヴァロン王国という新国家の王だという。王様が自ら、大迷宮に来るとは驚きだった。


 彼は私がヒュペリオンである事を見抜き、更には少女兵士……ノエル・アイングラムを救った。ついでに美味しいお弁当もくれた。

 事の次第を正直に話したところ、彼等は私の言葉を信じてくれた。更には、大迷宮攻略に同行させて貰う事となった。

 世界神としての務めに一刻も早く戻りたい私は、渡りに船と思いその言葉に甘える事にした。


 大迷宮攻略は順調に進み、ついに私は根源魔法アカシックレコードの一つを習得する事が出来た。だが適性が必要らしく、十全に扱う事は出来ないようだ。

 そして、ひと段落した所で私は彼に、質問をする事にした。彼が何者なのかを尋ねたところ、こんな答えが返って来た。

「そうだなぁ……両親は先代魔王討伐の英雄である、勇者レオナルドと聖女アリアだ。後は、遺失魔道具アーティファクトの製法に気付き、更に研究して編み出した製法で自己流の遺失魔道具アーティファクトを製作できるよ」

 ……色々と、驚きの返答だった。

 勇者と聖女の息子で、遺失魔道具アーティファクトを作れて、新国家を建国した王様。中々に面白い人物みたいだ。

 でも、まだまだ何かある気がする。後で、もう少し質問させて貰う事にしよう。


************************************************************


 様々なゴタゴタの後のイングヴァルト王国で、私はかねてから気になっていた質問をする為に、陛下の部屋を訪ねた。

 遺失魔道具アーティファクト……それは恐らく、異世界人が製作したものだと予想している。

 それならば、陛下は異世界から来た者なのか。しかし私の神眼で見える彼の情報は、その予想を否定している。


 すると、彼は苦笑しながら教えてくれた。

「僕は創世神様に転生させて貰った、元異世界人だよ。何故、前世の記憶が残っているのかは解らないけどね」

 まさか、創世神様にお会いしていたとは……!! だけど納得した、この懐かしい気配は創世神様のものだったのか。


 更に、創世神様の天使が守護天使についているらしい。その上、その天使が婚約者になったとは、中々に不思議な話だ。しかし……その気持ちも解る気がする。

「陛下はさー、色々と特別なんだよー。遺失魔道具アーティファクトを製作する事が出来る勇者と聖女の息子で、天空島の新王国の国王でしょー? しかも、勇者と同じ世界に生きていた前世の記憶を持っているわけだしー、はっきり言うと異常とも言えるねー」

 そう、良くも悪くも彼は異常だ。

 しかし……それなのに、彼ならばという気にさせるのだから、不思議な存在だろう。


「それにさー、私の事も受け入れて匿ってくれてるしー。惚れてもいいー?」

「おい待てやめろ、フラグを建てるな」

「私の事は嫌いー?」

「嫌いじゃないけど、これ以上とかどうすんだよ。収集つかないよ」

「えーん、遠回しにフラレたー」

「嘘泣きしない」

 バレてしまった。手強いなぁ、彼は。


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 それから紆余曲折あり、私はアヴァロン王国に逗留する事になった。しかし、何もせずにただ居座るのはどうかと思う。

 何かできる事は無いかと悩んでいたところ、王城の掃除をする侍女さんに出くわした。確か、彼女はクレアさんだったか。

「お疲れ様ですー」

「これはヒルド様、どうかなさいましたか?」

「うーん、それがー……」


 アヴァロン王国に留まる以上、何か出来る事が無いかを探している事を伝える。すると、クレアさんは私に一つ提案をしてくれた。

「今、この王城の侍女は私を除いて幼い女の子が多いんです。よろしければ、一緒に侍女として働きませんか?」

 その提案は、渡りに船だった。


 王城の玄関で掃除をしていると、彼……いや、陛下が帰って来た。

「ヒルド、そんな格好して何してるの?」

「んー? メイドだよー? 働かざるもの食うべからずだからねー、陛下達の役に立つためにー、メイドする事にしたのー」

 私の言葉に目を丸くして、陛下は苦笑した。

「気にする事は無いんだが、その心意気には感心するな」

 そして、キリエさんの提案で、私は陛下付きの侍女になった。これならば、大迷宮への同行も不自然にはならないだろう。


************************************************************


 アヴァロン王国での日々に、私は潤いを感じている。

 歌や踊りの練習をしたり、世界会議をやったり。これまでは人との接触を最低限にして、孤独感を抱きつつ生活していた。しかし、ここでは誰もが優しく、私を受け入れてくれる。


 そんな中、私達はラルグリス王国へ出向く事になった。

 その道中で、私達はブランク伯爵と出会い、ラルグリス王国の秘密を知った。国王の双子の弟が、兄を幽閉してなりすましているのだという。

 まさか、そんな馬鹿な話が……と思ったが、陛下はそれを信用して首を突っ込むと宣言した。この陛下、普通の王様とは一味も二味も違うみたいだ。


 様々な仕込みをして、いよいよラルグリス王(偽)と対面。

 私は専用の侍女服を貰って、戦闘メイドさんになった。

 ユー君の趣味かなー? でも可愛い服なので、ちょっと嬉しい。神様だって、女の子だからねー。


 ユー君の作戦はうまくいって、バルドレイ達との戦闘になった。

 私も与えられた遺失魔道具アーティファクトで変身して、敵を迎え撃つ。

 無防備に歩くユー君は、バルドレイ以外は私達に任せてくれるらしい。

 神様としてはどうかと思うけれど、今の私はユー君専属メイドだからー。能力も落ちているし、一冒険者レベルである今は本気で戦っても差し支えは無いよねー。


 最終的に、ユー君はバルドレイ達の処分は、ラルグリス王国に任せるみたいだねー。

 ラルグリス王国は世界同盟に加入する事になったしー、王位もあるべき者の元に戻ったしー、更には勇者ノゾミちゃんがアヴァロン王国に留学するみたいだしー。流石はユー君だねー。


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 最近の私はおかしくなったのだろうか。

 アヴァロン王国に馴染んだからか、自分が普通の少女の様な考え方になっている気がする。


 ユート・アーカディア・アヴァロン国王と行動を共にしているからだろうか。

 私が神であると勘付かれないために、表面上では普通の少女を装っている。しかし、最近は装っているはずの私の喋り方が、心の中でもその喋り方になって来ている気がする。


************************************************************


 私達は、ラルグリス王国の大迷宮に挑むよー……いや、挑むのだ。

 王都ウェルキンを散策した際に、双子の勇者達が悪だくみをしているのを耳にした。

 このメンバーにそんな事をして、ただで済むとは思わないなー。彼等の未来は暗いねー。


 大迷宮に向かう中、ユー君が真剣な顔で皆に語り掛けて来たんだー。

「さて、ここからは大迷宮攻略なんだが……今回、ちょっと厳しい戦いになるかもしれない。皆、決して油断しないようにしてくれ」

 アレキサンドリア大迷宮では、何でもないように進撃していたユー君がこんな事を言うなんてー……。

 そしたらー、エイちゃんも真剣な顔でユー君にアドバイスをしたんだー。

「大迷宮では一人になっちゃダメ。お兄ちゃんじゃ、すぐに死ぬかもしれないから」


 ……彼が、死ぬ? そんな馬鹿な。

 彼は神竜の加護に、創世神様の天使の加護、大迷宮踏破による強化がある。それに遺失魔道具アーティファクトも。そんな彼が死ぬなんて……。

 でも、彼は緊張の面持ちを崩さない。この先に、いったい何が待ち受けているというのだろうか。


 私の楽観は、大迷宮を甘く見ていたという事だろうか。加護も強化も無力化され、更にはそれぞれが別々の場所に転移した。

 私はすぐ側に居たキリエの手を掴む事が出来たので、孤立する事は避けられた。

 しかし、彼は違う……。彼は、たった一人だったように思える。早く……彼の元に行かなければ。


「ユーちゃん! ユーちゃん!? 聞こえませんか!? ダメです! 円卓の座ラウンドワンも繋がりません!!」

 取り乱すキリちゃん。そうだよねー、心配だもんねー。ここは、私が何とかしなくちゃいけないねー。

「ユー君なら、きっと諦めずに前に進むと思うんだー。だから、私達は今私達に出来る事をしよう? 早く、ユー君の所に行かなきゃね」

 私の言葉に、取り乱していたキリちゃんは言葉を詰まらせ……そして、深く息を吐いた。

「そうですね……まずは行動です。ありがとうございます、ヒルドさん。流石は聖母神ですね」

 ……言われるまで、自分が神だと忘れていたよー。


************************************************************


 ユー君と合流する為の道中で、私は自分の気持ちに気付いてしまった。

 側に居る事が当たり前で、自然な事になっていた。彼が絡むと、被っていた少女の仮面が外せない。それどころか、その仮面が私自身になり始めている。彼の前では、一人の少女になってしまう。


 でも……嫌な気分じゃない。

 神である私が、人間に恋をするなんて。


 だからこそ、胸が締め付けられるように苦しい。私はいつか、世界神としてこの世界を管理する為に、彼の元を去らなければならない。

 この恋は……実らない恋だ。


************************************************************


 私達は、途中でアリシア・クラウディア・アークヴァルドとノエル・アイングラムと合流した。二人も特に大したケガはないようで、安心だ。

 五人で大迷宮を駆け抜けて行くと、その先に勇者ツヨシ・ホシノと勇者シキ・ホシノの姿があった。

「てめぇら……丁度いい、シキの敵だ……お前らの力を奪って殺し、あのハズレ野郎の前に死体を晒してやるっ!!」

 どうやら、シキ・ホシノはユー君が倒したみたいだ。


 ユー君……やっぱり、一人でも戦っていたんだね。そして、きっと君はすぐ近くにいるんだねー。

 ……ダメだ、堪えなければ。私は、彼に想いを打ち明ける事も、添い遂げる事も許されないのだ。

 ただ、さよならをするその日まで、彼の側に居られれば……それでいいんだ。


 襲い掛かって来るツヨシ・ホシノ。しかしキリちゃんが一蹴して、大迷宮の先を睨む。

 大量のゴブリンに襲われるも、そこに勇者ユウキとフリードリヒが駆け付けた。同行する勇者メグミと魔王の妹クリスティーナ、竜人のマリアンヌに自動人形の身体を手に入れたクラリス、勇者ノゾミも一緒だ。この人数ならば、突破する事も不可能じゃない。

 更に獣人アイリ、エルフの貴族リイナレイン、勇者マナとドワーフ族のエルザも合流した。


 どうやらゴブリンが密集している先に彼が居るようだ。

 胸の鼓動が早くなる。

 ダメ、抑えなければいけない。

 ユー君は無事かな? 

 彼にはこんなにたくさんの仲間や婚約者がいる。

 私は必要無いじゃないか。

 でも、触れたい。

 気持ちは募り、胸が更に締め付けられるようだ。

 彼の姿を見たら、私は……どうなってしまうのだろうか。


「死ぃねぇっ!!」

 フリードリヒが、刺された。

 気絶から復帰したツヨシ・ホシノが、追いかけて来て強襲してきた。突然の強襲に動揺した私達に、ゴブリン達が好機とばかりに襲い掛かって来る。

 更に、勇者ユウキが刺される。致命傷は免れたものの、その傷は浅くない。

 だというのに勇者ユウキは槍を握り締めた。これ以上……仲間を攻撃させないようにだろう。


 私の仲間に、これ以上好き勝手はさせない。そう思って、メイスを思い切り握った瞬間だった。


 黒いコートは、ここで繰り広げた戦いでボロボロになっていた。

 身体は所々血塗れだ。更に、脇腹には刺された痕がある。だというのに……なんて力強い眼差しなんだろう。

 全力疾走からの飛び蹴りで、ツヨシ・ホシノを蹴り飛ばした彼。

「……これで、全員だな」

 目頭が、熱い……気を抜いたら、涙が零れ落ちてしまいそうだ。


「テメェは殺すっ!!」

 激昂するツヨシ・ホシノに対し、自然体で構えるユー君。

「死なないさ……ここからは”俺”の時間だ」

 力強い彼の言葉に、こんなにも安心してしまう。そして……解ってしまった。

 耐える事はもう出来ない。彼の側に居たい。ずっと離れたくない。私は彼が、どうしようもないくらいに好きなのだ。


 その戦いは、圧倒的だった。

 加護や強化が無くなったはずの彼。しかし、そのステータスが劇的に向上していた。

 一体何故なのか。それは解らない……だけど、解る事は一つ。

 あれは、いつものユート・アーカディア・アヴァロン。圧倒的な力で、迫り来る悪意を粉砕する私達の王様だ。


 ツヨシ・ホシノの瞬動も、その弱点を見切って反撃を繰り出す。大したダメージも受けずに、彼はツヨシを捕縛した。正に、圧勝だった。


************************************************************


 攻略を再開しつつ、私達はユー君の身に起こった変化の理由を聞いた。

 魔人族の世界神ディスマルク……ユー君にまで手を出していたなんて……絶対に、許さない。

 ユー君がそれに気付けたのは、神竜エイルの助言だったらしい。私も、ユー君の役に立ちたかったなー……。


「そうそう、この前のベヒーモス討伐のご褒美の件なんだけど」

 ユー君に、何で、くっついているのかな? くっついているのかな?

「色々考えたんだけど……ここは一つ、新しいお嫁さんとかどうかなぁ?」

 ……神竜汚い! さすが神竜汚い! わ、私だって……私だって……!! 

 口々に声をかける仲間達……このまま、何もせず、終わる? そんなの……無理だよーっ! 


「ちょっと待ったー!」


「ここでちょっと待ったコール!?」

 えっ、何でそんなに鋭い反応をするのかなー? 

「何よー! お兄ちゃんからの返事を貰えるタイミングだったのに!」

 あっ、タイミングが悪かったねー。でも、今の私にはこれが最後かもしれないチャンスなんだー。

「それは本気でごめんねー。でも、私も言うなら今かなーって思ってー」

 エイちゃんが抱き着いている右腕、私は逆側の左腕に飛びつくー。


 もう、偽るのはやめるよー。これもきっと、私なんだー。

 世界神ヒュペリオンも、専属メイドのヒルドも……全て私なんだからねー。


「私もユーくんのお嫁さんになりたいです!」

「「「「「な、なんだってー!?」」」」」

 声を揃えて、皆が驚いているよー。うんうん、良い反応だねー。

「あのねー、どうやら本気で好きになってたみたいー。大迷宮で離ればなれになったでしょー? そしたらさー、ユー君が心配で心配で、焦っちゃうくらいだったんだよねー」

 それこそ、我を忘れてしまうくらいにねー。


「そんなの私だって同じだよ! お兄ちゃんが死んじゃうと思ったら、もう自分ルールなんて関係ないってなっちゃったんだから……」

 あはは、エイちゃんも同じ気持ちだったんだねー。

「だよねー、そうなるよねー」

「うんうん、なるなるー」

 今、私はエイちゃんと解り合えた気がしたよー。更にはのえるんも、ユー君が好きだと自白したよー。流石、創世神様の天使とその同志達だよー。


 ユー君の返答を、エイちゃんやのえるんと一緒に待っていると、ユー君が苦笑いしたー。うん、そういう顔も好きだったりするんだよねー。

「ここは大迷宮で、今は攻略中だぞ? ムード的にこれで良いのか三人とも、一応プロポーズの言葉になるんだが?」

 ……プロポーズ。そう、プロポーズ……! 

「まぁ神竜でも世界神でも子爵令嬢でも、他の婚約者と扱いは変えないからな。それで良いなら……これからも付いて来い。俺の全力で幸せにしてみせるから」

 あぁ、言って良かったー。だって、今……こんなに胸が温かいもので満たされているんだもんー。


************************************************************


 全員が合流して、ユー君の婚約者になった。今の私に恐れるものなんてないよー。皆で連携して魔物達を倒してー、順調に大迷宮の攻略を進めていったんだー。

 そして、ついに守護者との戦いだよー。同じく婚約者になったエイちゃんもー、ユー君達の為に参戦するしー、これで不安要素は何もないよねー。


 待ち構えていたのは、三体の首無し騎士デュラハンだったよー。最初はその硬い防御で、物理攻撃の効果が薄いって解ったんだけどー……。

 やってくれました、ユート・アーカディア・アヴァロン。

 純粋魔力砲撃兵器デストラクターっていう遺失魔道具アーティファクトの砲撃で、デュラハン達がノックアウトしたよー。


「よし、囲もう!」

「武器を取り上げよー!」

「どうせだから、新しく覚えた魔法を撃ち込みたいなぁ」

「最後のトドメにしなさいよ、マナ。今なら一撃で倒せそうなんだから」

 皆でデュラハンをフルボッコにするよー!! 


 習得した根源魔法アカシックレコードは、”力”の根源魔法アカシックレコードだったよー。今回は適性があったみたいでー、私も十分使えるみたいだよー。


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 大迷宮を後にする時、ツヨシ・ホシノが”強欲の化身”という存在になったらしいよー。それも、身体や肥大化しているみたいだねー。

「……まずいな、ヤツが向かっているのはウェルキンだ。こんなのが王都に入り込んだら、大変な事になるぞ!」

 緊迫した様子のユー君。不謹慎だけど、そういう顔も好き。


 急いで王都ウェルキンに戻るんだけどー、強欲の化身になったツヨシ・ホシノは攻撃を吸収しちゃう状態になっていたんだー。それに対して、ユー君が作戦を立てたよー。

「攻撃を吸収するなら、吸収し切れなくなって身体が壊れるまで吸収させてやればいい」

 なんて大胆な発想ー。流石だよ、ユー君ー。


 神竜化したエイちゃんの背中に、ユー君やのえるんと一緒に乗って戦ったよー。更に援軍が来て、世界同盟総力戦だねー。

 どの国も、二つ返事で駆け付けてくれたらしいよー。ユー君の人徳だろうねー。

 数時間に渡る攻撃の末にー、強欲の化身は肉体が破壊されて消滅したよー。


************************************************************


 ユー君は、世界同盟の王様だけで会議に入ったよー。

 流石に今回の件は、倒しましたーはいおしまいー……とはいかないもんねー。

「……ねぇ、世界神」

「何、神竜」

 ……気まずい雰囲気―。

「ねぇ、ヒルドお姉ちゃん」

「何かなー、エイちゃんー?」

 互いに苦笑しちゃったよー。


「婚約したでしょ?」

「したねー」

「……ノエルお姉ちゃんから許可は貰ってるんだけど……先、良い?」

 先……あぁ、そういうー……ユー君との付き合いも、告白もエイちゃんの方が先だもんねー。

「いいってことよー」

 微笑んでそう言うと、エイちゃんが抱き着いて来たよー。

「世界神は嫌いだけど、ヒルドお姉ちゃんは……嫌いじゃないからね」

「私もエイちゃんの事、好きだからねー」


************************************************************


 はぁ……今日も、ユー君は世界同盟の方にかかりきりだよー。

 各国へ向けた、世界同盟の声明。それがまた、様々な事態の引き金になりそう。

 私は戦って歌って踊れる、ユー君専属婚約者メイドだからねー。お食事とかお茶とかを運んで、ユー君をサポートするよー。


 そして、王様としての仕事を終えただろうユー君。流石に、お疲れだよねー。しんどそうなら、今度改めてにしようかなー……。

 そんな事を考えながら、ユー君のお部屋のベッドメイクや、明日着る服の準備なんかをしていると、ユー君が帰って来たよー。

「ただいま、ヒルド。いつもありがとね」

 いやぁ、参っちゃうねー。そんな何気ない言葉で、こんなに胸があったかくなるよー。


「ユー君、お疲れ様ー。今日はもう寝るー?」

「ヒルド、もしかして僕が疲れてるって遠慮してる?」

 解っちゃうんだー? 

「……いいのかなー?」

「いいんじゃないかなー。それに、これも用意しているし」

 取り出したのは、銀色に輝いている指輪……私の左手を取って、ユー君がその指輪を薬指に嵌めてくれた。

 ……胸の鼓動が止まらないよー。


「神様・ヒュペリオンは今、休職中だろう? 復帰する時はまぁ、その時考えよう。それまでは……ヒルドとして、”俺”の側に居てくれ」

「……はい、旦那様」

 徐々に距離が縮まって……私は、初めての口付けを捧げた。

「ちなみに、世界神に復帰しても……俺はお前を離さないからな?」

 また、貴方はそういう事を……。


 そのまま、私は彼を受け入れていく。

 愛し合うという事を、私は初めて知った。もっと、もっと触れ合いたい。

 こんなに、激しい気持ちを抱くのは初めてだった。

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