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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第1章 イングヴァルト王国
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01-06 大迷宮/殲滅

これまでのあらすじ:ギルドマスターと酒盛りしました、ちなみに二日酔いしました。

 大群ゴブリン挽肉事件から七日後、僕と姉さんは、冒険者ギルドに訪れていた。受けた依頼の、依頼達成報告である。

「本当に凄いですね、四件の依頼を同時にこなしてしまうなんて!」

 驚いているのか、感心しているのか、喜んでいるのか解らないなぁ。


 あの酒盛りで親しくなったソフィアさんは、カウンターで書類に押印しながらも、興奮気味に目をキラキラさせている。

 何でも、ソフィアさんは子供の頃から勇者レオナルドの英雄譚を聞いて育った為、父さんのファンなんだそうだ。ミーハー……なのか?

 しかしまぁ、書類の処理や実務の手際良さから、受付嬢としてはかなりやり手なのだろうとは思う。


 そして、それだけではない。

「流石です、兄貴!」

「「兄貴!!」」

「騒がないでくれないかな、アンタら」

 そう、僕が東の村で息子さんにゴム弾をぶち当てた冒険者達だ。どうでもいいが、大男はゴンツ、取り巻きのノッポ男がスイード、チビがバッツだ。


 ギルドから、「除名処分はしないように」と僕からの嘆願があった事を聞き、彼等は翌日ギルドを訪れた僕達に土下座で感謝の意を示して来たのだ……超びっくりした。

 ならば、過去は水に流す事にして、不能になっただろう息子さんに回復薬をかけたのだ。

 無論ズボンの上からだ、誰が二十過ぎの男の息子さんと「こんにちは」したいもんか。


 それ以降、彼等は僕を兄貴と、姉さんを姐さんと呼ぶようになってしまった。こいつらの方が、年上なんだけどな。

 ちなみに冒険者ギルドでそれをやったので、回復薬をかけたズボンは股間に染み広がり、見た目では粗相したようになったため、周囲の視線が凍り付いたのは余談だ。


 まぁ、敬意から来ている態度なので、無碍にするのも何だかなぁとか思ってしまうのだ。お陰で、僕達のやり取りを見ていた周囲の冒険者の視線は、最初よりも暖かみを感じさせるものに変わっている。


「これで、兄貴達は鉄級の依頼を十件こなした事になりやすな」

「銅級昇格、行くんですかい?」

 そう、僕達はこの数日で依頼をこなして、銅級冒険者への昇格に手がかかった。後は銅級の依頼を達成すれば、銅級冒険者ライセンスカードが発行されるのだ。

「そうだなぁ……まぁ、国外を旅するって目的もあるし、早い分にはいいかな」


 すると、周囲の冒険者達が盛り上がりを見せる。

「昇格最短記録なんじゃねぇか?」

「付与魔導師のくせに、やるじゃねぇか!」

「ねぇ、私達のパーティに入らない?」

 そんな声がかけられてくる。

 まったく、最初はあんなだったのに、現金な連中だ。しかし、別段不快なわけではないので、気にしない事にする。

 父さんの様に、懐の深い男を目指さないとね!


「それでは、銅級昇格に相当する依頼ですが……こちらなどはどうでしょうか?」

 ソフィアさんが差し出してきた依頼書を受け取り、姉さんと一緒に覗き込む。

『大迷宮周辺の魔物を可能な限り間引かれたし。制限無し討伐依頼』


「大迷宮の近くですか」

「王都北西の方にある、地下大迷宮っていう、アレか」

 頷いて、ソフィアさんが補足をする。

「近く、大迷宮へ王国軍の選抜隊が進軍し、大迷宮攻略を試みます。その際、大迷宮までの道中で消耗しないよう、魔物を間引くようにという国からの依頼がありました」

 なるほど、依頼という形を取るならば、そういうのもアリなのか。


「この依頼は、銅級冒険者以上ならば誰でも受けられます。既に間引きに参加している冒険者も居ますね。報酬で魔物一匹につき銅貨一枚と、実入りのいい仕事ですから」

「依頼達成の条件は? 制限無しって記載されているけど、一匹でも依頼完了扱いになるんじゃない?」

 それでは、銅級昇格試験としてどうなんだろう? と思ってしまうので、確認しておく。


「最低討伐数は十匹です。まぁ、ユートさんとキリエさんなら……それだけで済ませはしないでしょうし」

 よくご存知ですね、ソフィアさん。根こそぎ狩ってやんよ。

「あの、他の冒険者の為にも、狩りすぎないで下さいね?」

 釘を刺されてしまった。


************************************************************


 ギルドを後にした僕達に、あるお誘いが来た。

 “腕輪型携帯念話クロスリンク”で、アリスからお茶のお誘いがあったのだ。なので、現在僕達はアークヴァルド公爵家の邸宅で、お茶をご馳走になっている。


「それじゃあ、明日の朝に大迷宮の方へ向かうんですね。この後はどうするんですか?」

「明日の準備かな? 目標千匹くらいだからねー」

「武器の手入れをしないといけませんねぇ」

「千匹……」

 呆れたような視線を感じる。


 銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚。魔物千匹を狩ったら、銅貨千枚……金貨十枚分の報酬だからね。それだけあれば、国外へ出てもお金には困るまい。


「大迷宮の方では、強い魔物も多いと聞いています。気を付けて下さいね」

「ありがとうございます、アリスさん」

「ありがと、アリス」

 相変わらず優しいアリスに、無事に帰ってくる事を約束する。


 ……


 その後、街で遠征中の食料を買い込んでいると、後ろから声がかけられた。

「ユートさん、キリエさん!」

 振り返ると、そこには先日知り合った兵士のノエルさんが立っていた。今日は鎧姿ではなく、私服だ。


「こんにちは、ノエルさん」

「ご無沙汰しています」

「はい、こんにちは! 遠征でもなさるんですか?」

 僕達が持つ食料の入った袋を見て、ノエルさんが首を傾げる。王都近辺で活動する分には、こんな量の食料は要らないから、ピンと来たのだろう。


「ええ、大迷宮付近の間引きです」

「あぁ、あの依頼の! あれ、という事はもしかして、銅級に昇格したのですか?」

 やはり王国軍に所属するノエルさんも、大迷宮の件は聞き及んでいるのだろう。そして、それが銅級冒険者向けの依頼という事も。


「いいえ、まだなんですよ」

「この依頼が無事に終われば、銅級に昇格です」

「なるほど、そうだったんですか!」

 その件について話を聞くと、ノエルさんも選抜部隊に抜擢される予定らしい。

 それなら、手を抜かないで頑張って討伐するかな。そう言ったら、ノエルさんは少し照れたように、でも嬉しそうに笑ってくれた。

 近くの茶屋で紅茶を飲みながら談笑し、その後別れた。


************************************************************


 翌朝、宿の看板娘エマちゃんに、鍵を預ける。

「それじゃあエマちゃん、行って来ます」

「ユートさん、キリエさん、いってらっしゃい!」

 すっかり仲良くなったエマちゃんは、手を振って僕達を送り出してくれた。


 乗合い馬車で、大迷宮の手前の村へ向け出発する。予想していた通り、馬車の中には同業者が何人も居た。

 残念ながら知り合いは居なかったが、まぁいいか。


「さて、この村から更に北か」

「徒歩で三時間くらいらしいですね」

 つまり、僕達なら一時間もあれば着くわな。

「じゃあ、行きましょう」

「あぁ、出発だ」


 荷物を最小限にし、身軽に動ける僕達が出発すると、先を越されるのを嫌がったのか、冒険者達が慌てて続いて来た。

 しかし、こちとら武器以外は手ぶらだ。進行速度は倍以上、つまり冒険者達は着いてこられない。

「獲物、残しておいてあげましょうね」

「前向きに検討するよ」

「何処の政治家ですか、もう」


 姉さんから向けられるジト目を受け止めつつ、真実の目プロビデンスに表示されたマップに注意を向ける。

「大迷宮の入口から東に一キロメートルが、一番魔物が多いみたいかな」

「では、そこに向かいましょうか」

 進路を変えようとした瞬間。


「いや、待った」

 僕は足を止めた。

「どうしたんですか?」

「迷宮の入口から、魔物がどんどん出て来ている……」

「……え?」


 “目”に表示されるマップを拡大、魔物の光点を黄色へ表示変更。同じく冒険者を緑へ表示変更、死亡している場合は表示を円形からバツの形へ変更。

 すると大迷宮の入口から次々と出て来る黄色い光点に対し、付近に居た冒険者の内、約半分が既にバツ印になっている。


「六十人程の冒険者は、約半分が死亡。生存者の内、約二十名がこちらへ逃走中」

「どうしましょうか?」

「当然、大迷宮の入口に向かうよ」

 稼ぎ時だからね。

「解りました、行きましょう」

 大迷宮から外に出たのであれば、“大迷宮付近の魔物”だ。間引いておきましょう、ガッツリと。


 ……


 全速力で大迷宮の入口へ向かうと、途中で逃走してくる冒険者達の姿が見えて来た。

「逃げろ、魔物の氾濫スタンピードだ!!」

 ――魔物の氾濫スタンピード。それは迷宮や、魔物に制圧された場所から魔物が溢れ返り、更なる魔物の領域を広げようとする事をそう呼ぶのだ。


 僕達はそのまま、冒険者を通り過ぎる。

「馬鹿野郎、死にたいのかーっ!!」

 そう叫んで、冒険者達はそのまま村へ向けて全力疾走を再開したようだ。死にたくはないし、死なないさ。


 更に駆け抜けて十分後。

 辿り着いた大迷宮の入口、そこでは劣勢ながらも必死に魔物を相手取っている冒険者が居た。その数、約十名。

「ほぼ全員が限界に近いみたいだな……まぁ、目的は一緒だし手を貸すかな」


「回復はどうしますか?」

「一人、回復魔導師がいる。姉さんは剣士って事になっているし、悪目立ちするからそこまではしなくていいよ」

「了解です、それじゃあ……」

 “俺”は両手に銃剣、姉さんはレイピアを構える。

「あぁ、殲滅の時間だ」


 一呼吸の後、俺達は同時に地を蹴る。

「なっ!?」

「いつの間に!?」

「一体、どこから!?」

 魔物を斬り伏せた僕達に気付いた冒険者達が、一瞬視線をこちらへ向けた。しかし、すぐに目前の魔物に注意を戻し、迫り来る攻撃に対応していく。


「死にたくなければ、迷宮の入口には行くなよ?」

 俺は近くに居る冒険者達に一言告げ、“宝物庫の指輪ストレージ”から直接、ある物を数個投擲する。投擲したのは大迷宮の入口だ。

「仕込みは完了、ってね」

 更に銃剣を振るい、魔物を斬り飛ばしていく。


「それじゃ、ポチっとな」

 スイッチオン。

 ――ドガアァァン!! ドガアァァン!! ドガアァァン!! 

 連続して起きる爆発。そう、東の村でも猛威を振るった、地雷型遺失魔道具アーティファクト! 地雷パイセンだ!


 ちなみにこの地雷パイセンが効果を発動するには、魔力が必要だ。では、供給する魔力は何処から調達しているのか?

 その答えは、踏んだ魔物の魔力を奪っている。

 踏んだ相手から魔力をドレイン。奪った魔力で爆裂魔法発動。相手は死ぬ。

 大迷宮の入口から飛び出してくる魔物達、その入口に無限地雷。大迷宮から出てくる魔物が勝手に吹っ飛び死ぬ。


「「「「あわわわわわわ……」」」」

 響き渡る爆音と、吹き飛び散乱する魔物の残骸を見て、冒険者達はドン引きだった。魔物の格好の餌食になりかねないんだが、魔物も呆然と後ずさる……ドン引きだった。


 その様子を見て、姉さんが苦笑する。

「残りはどうします?」

「そうだなぁ……」

「この前みたいに物量で攻めるんですか?」

「あれは性能実験だったからな、弾も勿体ない」


 俺は銃剣を一振りする。

「純粋に無双でいこうか」

「では、そうしましょうか」

 姉さんもレイピアを一振り。俺達は周囲の魔物に視線を向ける。


 そこから繰り広げられたのは、何て事は無い。

 ただ銃弾で敵を撃ち……ただ剣で敵を斬り……ただ拳や蹴りで敵を打ち。

 魔物の眼を潰し、人型の魔物に膝カックンし、両手足を斬り落としてダルマにし。

 耳の後ろに息を吹きかけて、口の中に手榴弾を突っ込んで爆発させ、脇腹をコチョコチョし、魔物を肉壁にし。

 鼻先で胡椒弾を炸裂させ、酸性の液体を頭からぶっかけた。

 やりたい放題やらせて貰った。


 ……


「で、コイツで最後だが」

 目の前に、哀れな一匹の角兎がいる。その様子は周囲の魔物の残骸に、戦慄し震えていた。


 今も入口では外に出ようと勢い付いて走って来る魔物達の姿が。

 最も、入口から外の風景を目に焼き付けた瞬間に、足元からの爆裂魔法エグスプロージョン昇天アイキャンフライしている。

 つまり、まともに戦闘なんてものを出来るのは、この角兎だけだ。


「キュ、キュゥ……」

 擦り寄ろうと、近付いて来た。

「そうかそうか、死ぬのは嫌だもんな」

 流石に命の危険を感じたか。魔物としての本能や、人間を喰って腹を満たしたいという欲求。それよりも、生存本能が勝ったようだ。

「じゃあ死ね」

 ――パァン!! 

 魔物死すべし慈悲など無い。


「「「「ひいいいいぃぃぃ……」」」」

 その様子を見ていた冒険者達が、俺を見て震えていた。

魔物の氾濫スタンピード発生なんて異常事態だったし、生き残れて安堵したみたいだな。それなら、仕方が無い」

「そんな理由じゃありませんから。自分の所業を振り返って見て下さい」

 溜息と共に吐き出された姉さんの言葉に、首を傾げる。これでも手加減していたのよ?

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