13-06 婚約者/守護者Ⅳ
これまでのあらすじ:レベルアップしたら、急成長しました。
互いに、無手で睨み合う俺とツヨシ。
尚、俺は銃剣を宝物庫に入れているだけ。ツヨシの槍は、ユウキの腹に刺さったままだ……今、引き抜かれたけど。
すぐにヒルドとノゾミが、ユウキとフリードの治療に取り掛かる。
膠着状態が続いたが……先に動いたのはツヨシだ。
瞬動の技能を発動し、先手を打つべく俺の目の前に向かって来る……のは予想済み。散々見せられたのだ、その弱点も既に見抜いている。
瞬動は移動方向に向けて直線的にしか動けないのが一点。その為、視線や体の向きで移動方向の見当がつく。
更に、瞬動を発動している間は無敵になる訳でもない。なので、動線に向けて蹴りを放てば……。
「ゴプゥッ!?」
自分の移動速度でダメージが倍加する。考え無しに使っていい技能では無いのだ。
「で……でめぇ……」
何か言おうとしているが、付き合ってやる義理は無い。
ヨロヨロと立ち上がるツヨシの腹に、腹パンを叩き込む。
「グエェッ!!」
腹を抱えて蹲るツヨシ。相当に効いているようだ。
「こ……のっ!! 死ね、火の矢っ!!」
無詠唱を自力で取得した……はずがないよな。これも、誰かから奪った技能だろ。
「”聖なる盾”」
法術、聖なる盾。魔法攻撃を防御する法術で、神官系のジョブを持つ者にとっては、基礎中の基礎となる法術。
「ば、馬鹿な!?」
そんな基礎法術で、ツヨシの放った火の矢を全て受け止める。
「お返しだ、雷の矢」
放たれる雷属性の魔法。勇者のみが使えるとされる雷属性魔法。それを俺が放った事に、ツヨシだけでなく仲間達も驚いている。
「ぐおぉぉっ!?」
雷撃をその身に受けて、ツヨシがスタン状態になった。
「どうした、勇者ツヨシ。いや……お前を勇者と呼ぶのは、他の勇者達に失礼だな」
そう、こいつは勇者なんかじゃない。
過去の勇者ショウヘイや勇者シンタロー、そして父さん。更に言えば、今代の他の勇者達にも失礼極まりない。うちの勇者達は勿論の事、他の勇者達。
正直、ウマは合わないがマサヨシに対してもだ。あいつはあいつで、ツッコミポイントは多々あるものの、自分の正義に従っているわけで。僕以外に対しては、一応は善意で行動しているらしいし。
僕としてもその点だけは、マサヨシを肯定している。
「黙れっ!! 俺は、俺は勇者だ!!」
「違うね、ツヨシ・ホシノ。勇者とは世の為、人の為に困難に立ち向かう者の為の称号だ」
父さんのように。ショウヘイさんや、シンタローさんのように。
誰かの為に力を尽くし、偉業を成した彼らの為の称号。それが、勇者だ。
「自分の欲望に負けたお前は、ただの愚かな異世界人だ」
その言葉に、ツヨシが醜く顔を歪める。
「黙れえぇぇっ!!」
スタンから回復して、すぐ様瞬動で突進してくるツヨシ。俺は身を屈め、拳を前に突き出す。
「グポェ……ッ!!」
その腹に、俺の拳が突き刺さる。学習能力の無い奴だ。
「果てろ、愚者」
そのまま、俺はツヨシの顔面に拳を叩き込み……加えて、右足を蹴り骨を折る。
「ギィァァッ!?」
「そっちもだ」
のたうち回るツヨシの左足を、全力で踏み抜く。
「ガアァァッ!?」
「これで、ご自慢の瞬動は使えないな」
両手はまだ残しておくか。この後、潰すかもしれないけどね。
「さて……お前には選択肢をくれてやる。ラルグリス王国の裁きを受けて処刑されるか、それともここで死ぬか……どっちが良い、選ばせてやる」
「ふざ……っけ……っ!!」
「ふざけてなんていないさ。ラルグリス王国での所業に、この大迷宮での所業。死刑には十分な罪状が揃っているんだ」
ここで起きた事としては、他国の王の殺害未遂にその臣下や勇者の殺害未遂。
その場に居た者も殺すつもりだっただろうし、婚約者や他の臣下達の殺害未遂も加えるべきだろう。
この時点で、コイツは死刑にするのが妥当な処分。ラルグリス王国の貴族達も、もう庇い立ては出来ない所まで来てしまっている。良くて終身刑だな。
「まぁいい、考える時間をくれてやる」
俺は封印の縛鎖を取り出し、ツヨシを拘束する。更に封印の縛鎖に”魔物除け”の刻印付与を施す。
「このままここで、息を潜めているといい。気が向いたら迎えに来てやろう」
魔物除けの事など知らないツヨシは、目を見開く。
拘束された状態で、足は折られている。このままでは、魔物の餌になるのが目に見えているのだ。
「待て! やめろ、死んじまうだろうが!」
「どう転んでも死ぬよ、お前は」
「ふざけるな、俺を誰だと思ってやがる! てめぇ、後悔するぞ!」
こんな小物に殺られそうになってたのかぁ……我ながら情けないな。
ツヨシはもう無視して、仲間達に向き直る。
「待たせて済まない……それに、心配かけたね。もう、これで大丈夫かな」
ユウキやフリードの治療が終わったら、いよいよ攻略再開かな。
「それは良いんだけど……ユート、何かすごく強くなってない?」
「あぁ、それについては道中で話す。ここだと、あの愚者もいるからね」
他人の耳に入れたくない情報もあるし、警戒はしておくべきだろう。
「これで大丈夫です、フリードさん」
「こっちもー、もうオッケーだよー」
治療を終えたようで、ユウキとフリードは立ち上がって身体の調子を確かめる。
「ありがとうございます、ヒルドさん」
「へへー、いいよー」
「かたじけない、ノゾミ殿」
「いえ! 大事にならなくてよかったです!」
よし、これで準備は万端かな?
「行こうか……さぁ、攻略再開だ!」
ようやく全員集合して、僕達は先へ向かう。
「待てっ! おい、本気で放置していくのか!? やめろ、おい! 助けろ! 助けてくれぇっ!!」
ラルグリス王国に処刑させるのが良いかなぁ。
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大迷宮を歩きながら、僕は自分の身に起こった事を皆に話す。
「そ、そんな事があったんですか……」
「ユート様は、確かにステータスや技能レベルの伸びが悪いと仰っていましたが……そんな理由があったとは」
「いよいよもって、魔人族の神は許せませんね」
やはり、驚きの内容だったようだ。
「……エイルの、お陰」
「そうですね。エイルちゃん、ありがとうございます」
そうだな、確かにあの時エイルの助言が無ければ、今頃どうなっていた事やら。
「ありがとう、エイル」
「いやぁ、本当は私が乱入する気だったんだけどねぇ。お兄ちゃんのレベルアップに気付いたから、結局助言だけになっちゃた」
「十分助かったさ」
僕の言葉に微笑みで返し、エイルが僕にくっついてきた。
「そうそう、この前のベヒーモス討伐のご褒美の件なんだけど」
ん? あぁ、そう言えばそんな話だったっけな。お互いに、すっかり忘れていたようだ。
ニッコリ微笑みながら、エイルが僕を見つめて……爆弾を落とした。
「色々考えたんだけど……ここは一つ、新しいお嫁さんとかどうかなぁ?」
……空気が、凍る。思わず、歩みを止めてしまった。
「……ユート、そんな小さい子まで……」
「いやぁ、クリスちゃんも見た目はいい勝負だから、今更でしょ」
「し、神竜が嫁……ユート、もうここまで来たら異常よ、あんた……」
「でも良いじゃん良いじゃん! これで七人目だね!」
ユウキとその恋人達は、口々にそんな事を言って来た。お、お前ら……。
「流石です、陛下! これは何と喜ばしい事か!」
「陛下って、本当に規格外ですね。でも、おめでとうございます!」
「ユートさんのハーレムに、また一人……誰か、そろそろ式場の手配をしようよ」
フリードチームはちょっと落ち着いてくれない? 最後のノゾミの台詞、気が早すぎる!
……ハッ、背後から……謎の圧が!!
「ユーちゃん」
「ユート君」
「ユート様」
「ユートさん」
「ユート」
「先輩」
……婚約者達の、この圧は、なに?
「「「「「「早く返事をしてあげて」」」」」」
「そっちを怒ってたの!?」
とりあえず落ち着かなければ……そう思った矢先である。
「ちょっと待ったー!」
「ここでちょっと待ったコール!?」
落ち着く暇など無かった!! それと我ながら、ツッコミが古臭い気がする。
待ったをかけたのは、ヒルドだ。
何かしらの、覚悟を決めたような雰囲気。僕知ってる、これって確実に……。
「何よー! お兄ちゃんからの返事を貰えるタイミングだったのに!」
「それは本気でごめんねー。でも、私も言うなら今かなーって思ってー」
そう言って、エイルとは逆側の腕に飛びついて来た。
待て、本気か!? というか、散々建てられていたフラグを回収するのか!?
「私もユーくんのお嫁さんになりたいです!」
「ですよね!? っていうか、アンタ神様じゃないの!?」
「「「「「な、なんだってー!?」」」」」
「どこのマガジンでミステリーをレポートする人達か!」
混乱が加速する中、ヒルドは胸に手を当てて、目を閉じる。
「あのねー、どうやら本気で好きになってたみたいー。大迷宮で離ればなれになったでしょー? そしたらさー、ユー君が心配で心配で、焦っちゃうくらいだったんだよねー」
……そ、そうなの?
チラリとキリエを見る。キリエは苦笑しながら、頷いてみせた……マジか。
「神と人間とか、そんなの関係ないって思っちゃうくらい、ユー君が好きだよ」
「そんなの私だって同じだよ! お兄ちゃんが死んじゃうと思ったら、もう自分ルールなんて関係ないってなっちゃったんだから……」
「だよねー、そうなるよねー」
「うんうん、なるなるー」
あれ、言い合っていませんでした? 僕を挟んで、何を意気投合しているの?
「で? どうするんですか、ユーちゃん?」
……煽って来るなぁ。
「どう、とは……やっぱ、受け入れるか受け入れないか、だよね?」
チラリと視線を落とすと、目を潤ませた二人の少女の姿。
ねぇ、君は神竜なんだよね? そして君は人間族の世界神なんだよね?
「ちなみに婚約者会議では既に、二人がその気なら受け入れると決まってます」
「あ、やっぱりそういう会議あるんですね……」
あるんじゃないかなーって気はしていた。
「ちなみに……あともう一人。ノエルさんがそのつもりなら、ですけど」
「わ、私ですか!?」
矛先を向けられたノエルさんが、ワタワタとした様子になる。
「はい。ノエルさん、ユート君が好きですよね?」
「すっ……そっ、それはっ……その……っ」
僕を見ながら、顔を真っ赤にするノエルさん。うん、察した。
「えーと、ノエルさん? 落ち着いて、ね?」
優しく声をかけると、何とかクールダウンしてくれたようだ。そして、意を決したように僕を見て……口を開く。
「その……はい……ユートさんを、その……お、お慕いして、ます……」
こっちが照れてしまいそうだよ。
さて、では落ち着いて考えてみよう。
エイルとヒルド、ノエルさん。その三人が、僕の婚約者になる……?
前々から仄めかしていたエイルとヒルドだが、その時は冗談半分だった。しかし、今の彼女達の言葉は真剣な想いだと思う……竜眼で見るまでも無い、きっと本気の告白だった。
ノエルさんは言わずもがな。
三人は身内で、仲間で……大切だと思う。これからもずっと、側に居て欲しいと……思う。これは、三人の事が好きだという事……なのだろう。
……九人ですか、ユートさんや。これはもう、女好きの誹りを受けても文句言えないね。
はぁ……とりあえず。
「ここは大迷宮で、今は攻略中だぞ? ムード的にこれで良いのか三人とも、一応プロポーズの言葉になるんだが?」
その言葉に、三人の表情がパァッと明るいものになる。もう、細かい事は置いて考えよう。
「ユ、ユートさんからなら、何処であっても構いません!」
「いやぁ、私達らしいよねー」
「ユー君が普通を気にするとはねー」
ひどくね!?
「怒るぞ、全く……まぁ神竜でも世界神でも子爵令嬢でも、他の婚約者と扱いは変えないからな。それで良いなら……これからも付いて来い。”俺”の全力で幸せにしてみせるから」
そう告げると、三人は力強く頷いた。
「流石は陛下、力強いお言葉……!!」
フリードさんや? 何か君、「流石は陛下」って口癖になってない?
「今の台詞、凄くキザったらしいんだけど……それを素で言えちゃうのがユート君だよね」
「というか、ユートさんみたいに実力がある人が言うから、説得力があるんだよねー」
マナとノゾミ、うっさいぞ。
「これで、婚約者も九人ですね」
「これからは同志です、今まで以上によろしくお願いしますね」
「これから、一緒……」
「エイル様、ヒルド様、ノエル様、改めて歓迎致します」
婚約者達が三人を温かく迎えている。
「ありがとう、お姉ちゃん達!」
「嬉しいよー、よろしくねー!」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
新たな婚約者達も、笑みを零してそれに応えていた。
そんな中、僕の側に寄って来るキリエとメグミ。
「よかったですね、ユーちゃん」
「先輩、あと一人で十人ですよ」
「そんなに娶る気無いから」
そんなに増やしたら、それぞれとの時間が減るでしょうが。こう見えて、二人での時間は取るようにしているんだよ、僕。
今後のスケジュールは過密になりそうだね。
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さて、めでたく婚約者が増えた所で、僕達は大迷宮の先を行く。
ステータスダウンも何のその、連携して対応すれば恐れるものなど何もない。いつもより戦闘や探索に時間がかかるものの、僕達は順調に大迷宮の攻略を進めていく。
やはり、一人では無いというのは心強いものだ。
仲間達のありがたみを再度実感しつつ、攻略を続けて更に十時間くらい経過した頃。
「この扉、だな」
「うん、過去の大迷宮でも見ましたね」
「守護者の控える、試練の間ですね」
ついに最深部へと辿り着いたようだ。いよいよ守護者戦だね。
今回は強化無力化によるステータスダウンがあるので、準備を万全にしておくべきだろう。
「魔導装甲や魔導兵騎は使わないの?」
「多分、機能不全を起こすだろう。今回はガチンコ勝負しかない」
というのも、エイルから説明を受けている。
どうやらこの大迷宮の無力化対象は有機物らしく、魔物の素材に付与した刻印が無力化されているようだ。だとしたら、普段と勝手の違う魔導装甲や魔導兵騎を使用するのは、逆に危険かもしれない。
それらを説明すると、仲間達の表情が若干曇る。不安がらせるつもりではなかったんだが。
「大丈夫、僕達の実力とチームワークなら、守護者なんぞ敵じゃない」
その言葉に、仲間達の肩から緊張が抜けたようだった。
「大丈夫だよ、戦力が一人分増えるからね」
……エイルさんや? 何を戦闘準備しているのかな?
「エイルちゃん?」
「た、戦いに参加するんですか?」
「ふふふ、だってほら、私もお兄ちゃんのものになったわけでしょ? なら、お兄ちゃんの為に戦うのは当たり前じゃない?」
よく、臆面もなく言えるな、そんなこっ恥ずかしい台詞……!!
「大丈夫、偽装しているステータス分の仕事だけに留めるよ。私が本気でやったら、皆の為にならないからね。でも、一応フォローはするけど油断はダメだよ?」
エイルはエイルで、僕達の為に色々と考えてくれていたようだ。ならば、その想いを無碍にするのはよくないな。
「解った、ただし基本はフォローに回って貰う。それで良いんだろ?」
「うん、任せて!」
こうなると、フォーメーションを考えるべきか。
今回は、ユウキチームが右翼。右翼との間にクリス、後ろにヒルドとリイン。
フリードチームが左翼。その間にアイリ、ノエルさん。後ろにキリエとアリスだ。
中心にメグミ。メグミと一緒に、僕とエイルで正面を担当。
この中央メンバーだけでオーバーキルな気がしてくるが、それは普段のステータスの場合なので、気を引き締め直す。
「今回は普段通りの闘いが出来ないだろう。決して無理をせず、時には引く事も考えてくれ。まずは全員で一当てし、ユウキチームとフリードチームで左右を支えてくれ。中右翼・中左翼は一当てしたら少し下がって、援護射撃を。左右と中央が厳しいと思ったら、援護を頼む」
「「「「はいっ!」」」」
「安全第一、いのちだいじに! 守護者戦だ、行くぞ!」
「「「「応っ!!」」」」
守護者の間の扉を開く。中はいつも通りの感じだな。
さて、今回の守護者はどんな相手なのか……。
真実の目も魔力不足で全開ではないのだが、解析は可能だ。部屋の中央に蹲るようにしている大きな黒い影……。
「……成程、そう来たか」
首無し騎士……それも、三体いる。
その内の一体は他に比べて大柄で、鎧に装飾がされている。
「首を落としてお終いにしたいのに、最初から首が無いのかよ」
「あちらもチームで来るようです、作戦はそのままでしょうか?」
明らかにあの大柄な個体がリーダーだろうな。アイツを先に潰すか、他を潰すか……だ。よし。
「まずは各個撃破、先に取り巻きを潰す。中央の個体は、俺達で抑えるぞ」
「はい、先輩!」
「オッケーだよ、お兄ちゃん」
メグミの鉄壁防御と、俺とエイルの攻撃。戦力としては安定するはずだ。
一気に殲滅は無理でも、他の二体を倒すまでの時間を稼ぐくらいは出来るだろう。
「よし、行くぞ!」
一斉に駆け出すと、例によって燭台に蒼い炎が灯る。それに伴い、デュラハン達も臨戦態勢になった。
まず、右翼組と中右翼組が前に出る。
「はぁっ!!」
同時に三本の矢を番え、胸と両肩に射るリイン。それを手にしたバスターソードでまとめて叩き落とすデュラハン。
「隙、あった」
「殴るよー!」
クリスの鎌とヒルドのメイスが襲い掛かる。金属音が響き、二人の攻撃は弾かれていた。
「……硬い」
「思い切り殴ったのになー」
中々に硬そうだな。三人は反撃しようとするデュラハンから距離を取り、構える。
その脇をすり抜け、ユウキチームが前に出た。
「”敵を撃て、雷の矢!! ”」
まず、マナの雷の矢がデュラハンに命中する。おっ、少しだけど効いてるみたいだな。
「追撃だ!」
「次手は任せて!」
拳を握りしめ、勢い良く懐に潜り込むマリアの正拳がデュラハンに命中する……しかし。
「硬い……わねっ!!」
続くユウキとエルザが武器で攻撃するも、デュラハンの身体には傷一つ付かないようだ。
もう一体のデュラハンにも、左翼と中左翼が対応している。しかし……。
「はぁっ!!」
肩と胴の鎧、その隙間にガンレイピアを突き刺そうとするキリエ。しかし、その刃先はちっとも刺さらない。
「耐久力が恐ろしく高いようです!」
「”水の矢!! ”」
距離を取るキリエを援護するように、アリスが放った水の矢。やはり、魔法攻撃ならばデュラハンにダメージを少し与えられるようだ。
「アリス様、魔法攻撃が効いています!」
キリエ同様に切り結び、距離を取ったアイリも同じ事を考えたらしい。
「それなら、お任せ下さい! ”来たれ、火の精霊五柱……”」
「”高貴なる妖精の神に願い奉る……”」
ノエルさんとノゾミは、それぞれ魔法と法術による攻撃の準備に入った。
「クラリス殿、ノエル殿を頼みます!」
「お任せを、フリードさん!」
詠唱に入った二人を守るように、フリードとクラリスが立ち塞がる。
さて、こちらは……。
「はあぁっ!」
両手にバスターソードを持ったデュラハンリーダーの猛攻を、メグミが防いでいる。動きが止まった所で、僕は魔法を放つ。
「”水の槍”」
やはり魔法攻撃が有効らしい、デュラハンにダメージを与えられている。
それにしても魔導銃による擬似的なものでなく、自分で放つ攻撃魔法……念願叶ったよ、チョー気持ちいい。
そして、エイルは……。
「いよっ! ほっ! やぁっ!」
銃剣の刃で、何度もデュラハンに斬り掛かっている。目的はダメージを与えるのではなく、デュラハンの注意を引き付ける……つまりタゲ集めを担当してくれている。
竜魔法や息吹は使わないのだろう。お願いしたら使ってくれるかもしれないけど、それは頼り過ぎだ。
さて、このままじゃ長期戦になりそうだ。戦闘時間が長引けば、集中力が低下して被弾が増えるかもしれない。
ならばどうするか? 魔力が弱点なら、アレがあるよね。
「総員、聞け! 魔力砲撃でダメージを与える! 巻き込まれないように、合図をしたら全力で下がれ!」
その言葉に、全員がデュラハンズを警戒しつつ、肯定を示すハンドサインや頷きで応える。
よし! 同時に三体を狙うべく、宝物庫から純粋魔力砲撃兵器を三台設置。疑似魔石を湯水の如く投入し、狙いを定める。
「これで、ちょっとは弱ってくれよな!」
腕輪を使い、強制念話。
『カウント、10、9、8、7……』
カウントと共に、仲間達が徐々に距離を開け始める。
6。更に、後衛陣が魔法攻撃で後退の補助をする。
5。デストラクターの充填は、完了。
4。狙いよし、デュラ達は魔法攻撃を受けて硬直している。
3。仲間達が急激に後退する。
2。更に、魔法攻撃が降り注ぐ。
1。後退完了、発射準備完了。
「喰らえ!」
水平に放たれる三本の光柱。デュラハンズが、光の柱に飲み込まれる。
「今の内に、息を整えましょう!」
「反撃に注意して!」
「陣形を再度、整えて!」
「今の内に魔法薬を……あれ?」
デュラハン達との再激突に備えていた仲間達の、動きが止まる。
「………………」
三体のデュラハンの現状を説明するなら、一言で言えば四つん這い。アルファベット三文字で表現するとorzかな。
どうやら、デストラクターはこのデュラハン共には相当なダメージだったらしい。
「……えいっ!」
とりあえず、矢を放つリイン。サクッと矢が刺さる。
「あー、どうやら魔力で耐久力を強化する技能を持っていたみたいだな。その魔力がデストラクターで吹っ飛んだから……」
つまり、魔力が枯渇した今のデュラハンは、普通に物理攻撃でいけるって事か。
「そうか、これって……悪魔の果実対策の試練なのか?」
「あ、成程……」
そういう事か。だとしたら、魔弾でも良かったんじゃん。
「よし、囲もう!」
「武器を取り上げよー!」
「どうせだから、新しく覚えた魔法を撃ち込みたいなぁ」
「最後のトドメにしなさいよ、マナ。今なら一撃で倒せそうなんだから」
……そこから始まった攻撃……傍から見たらリンチにしか見えません。うちの連中、怖いよ!
「いや、確実にお兄ちゃんの影響だよ」
うそ、俺って傍から見たらこんな風に見えんの……?




