13-05 幕間/ユートの呪い
「お兄ちゃん、もう少しでレベルアップだよ!」
義妹・エイルの言葉に、ユートは一瞬「何を言っているんだ?」と疑問を抱いた。
レベル……それは経験値を積み重ねることにより上昇する、実力の指標。それに伴い、ステータスや技能が上昇するのがゲームや物語の仕様であり、この世界にも適用されている仕様。
ユートとてレベルアップは何度も繰り返して来たが、元よりステータスや技能のレベルが上がりにくいのが自分……ユートという存在に課せられた仕様。
今更、レベルが一つ上がったからといって、この状況を打破できるとは思えない。
しかし、可愛い義妹の目は真剣そのもの。
更に言えば、大迷宮攻略において彼女は手を出さないと公言している。それでも尚、自分に向けられた助言。
それが、無意味なものとは思えなかった。
レベルアップした先に何があるのか……それは解らない。しかし……今は、エイルを信じる事にする。
「……残り一発だ、よーく味わってくれ」
銃剣に装填された最後の銃弾。それを、目前に迫るゴブリンの眉間に撃ち込む。ゴブリンはその銃撃を喰らい、息絶える。
瞬間、身体に満ちていく力。
徐々に軽減されていく全身の痛み。レベルアップによる、ステータスの上昇。
しかし、それは常識から外れた劇的な変化。
ユート・アーカディア・アヴァロン……いや、彼がただのユートとして生まれ落ちた瞬間に、彼はある干渉を受けていた。
魔人族の世界神による、呪いである。
レベルアップによるステータス・技能の向上阻害、技能取得の阻害。魔人族の世界神は、ユートから創世神からの加護を奪っただけではなく、更に成長阻害の呪いをユートにかけていた。
しかし、誰もが気付いていなかった。この大迷宮を製作した、本人でさえも。
大迷宮に設えた”強化無力化”は、正確には”有機物を対象とする効果の無力化”。遺失魔道具の一部が機能不全を起こしているのも、魔物由来の素材に対する刻印付与が無力化されている為である。
そんな無力化が、思わぬ恩恵を与えた。神の呪いも無力化されていたのだ。
その状態で、ユートはレベルアップした。
これまで成長阻害によって得る事の出来なかった、”本来のステータスや技能”はどうなるのか? 消えたわけでも、奪われたわけでもなかった。
その全てが、一気にユートに流れ込む……!!
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【名前】ユート・アーカディア・アヴァロン
【職業/レベル】付与魔導師/40→98
【状態】創世神の祝福(経験値取得+5%)(NEW)
【ステータス】
体力:55→132
魔力:53→140
筋力:52→129
耐性:56→130
敏捷:51→127
精神:54→125
【技能】法術LV11(NEW)・火魔法LV11(NEW)・水魔法LV11(NEW)・風魔法LV11(NEW)・地魔法LV11(NEW)・光魔法LV11(NEW)・神聖魔法LV11(NEW)・雷魔法Lv11(NEW)・魔法創造Lv5(NEW)
槍術Lv10(NEW)・盾術Lv10・斧術Lv10(NEW)・鞭術Lv10(NEW)・格闘技Lv10(NEW)・槌術Lv10(NEW)・弓術Lv10(NEW)
情熱の魂
【称号】ヴェルスフィアの勇者(NEW)・勇者殺し(NEW)
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「……これは」
身体に漲っていく力に、ユートは戸惑いつつ……迫るゴブリンに対して銃剣を振るう。
「ギャゲェッ!?」
一閃、ゴブリンの首が落ちる。振動剣を発動せずに、である。
「解る……身体が、これまで以上に動く……」
「そりゃそうだよ。積み重ねた経験や知識、それを活かす為に肉体に宿る力がステータスなんだから。これまで、神の呪いで与えられなかったステータスを、大迷宮のお陰で手に入れる事が出来たんだよ」
彼の本来のレベルは98という、達人達と同等のレベルだった。齢十五歳のユートが、何故この高みに到達しているのか?
理由は単純明快だ。
勇者と聖女の息子、両親と英雄達の愛弟子。
遺失魔道具と刻印付与魔法を駆使し、魔物の群れや悪党達……そして悪魔族との戦いで、常に最前線で活躍してきた少年。
彼が積み重ねてきた全てが、この逆境を好機に変えた。
余談ではあるが、ヴェルスフィアとはユート達が暮らすこの世界の名。
邪悪な勇者シマ・ヨコタを討伐したレオナルド同様、シキ・ホシノを討伐した事で勇者の称号を得た。
国や種族に依らない……世界に名を轟かせる存在。それが、ヴェルスフィアの勇者という称号。
ユートは父……勇者レオナルドと同じ、全世界の勇者となったのだ。
そして、創世神の祝福はその名の通り、ユートが転生する際に創世神が与え、それを魔人族の世界神ディスマルクが略取したものだ。
略取された祝福はシキに、加護や固有技能へと変化した上で与えられていた。それが、勇者の称号と共にユートは取り戻した事になる。
魔法創造は、創世神の祝福による恩恵の一つである。
尚、創世神の祝福が大迷宮の力で無効化されていないのは、ワイズマンですら最高神である創世神の力には干渉できない為だ。
そして、一気に会得した数々の技能。
英雄達に鍛えられたユートは、魔法や戦闘技術についても必死で覚えようとしていた。
レベルアップと同時に、それらの技能も会得出来た。
この大迷宮の中でただ一度のレベルアップ、それがユート本来の力を取り戻すきっかけだった。
「まさか強化を無力化する試練が、逆に超レベルアップを引き起こす事になるとはな」
「試練は試練だよ。今のお兄ちゃんがこの大迷宮でレベルアップするのは、相当に困難だからね」
それもそうだ。確かに、試練と呼ぶに相応しい苦戦だった。
「さ、お兄ちゃん。皆がそこまで来てるけど、勇者の片割れに襲われてる……行ってあげよう」
「エイル……何故、手助けを? 今までは……」
ユートの唇に人差し指を当て、エイルは微笑む。
「内緒だよ。今はまだ……ね?」
可愛らしい仕草に、ユートは苦笑する。本当に、神竜のイメージからかけ離れていっているな、と思いながら、壊れた壁の方を見る。
先程までは獲物を狙って襲い掛かって来ていたゴブリン達は、ユートとエイルを警戒するように立っているだけだ。
急激なレベルアップを果たしたユートや、神竜であるエイルの力を野生の勘で察しているのか。しかし、そんな事はユートやエイルの関知する所ではない。
「じゃあ今はとりあえず……突っ切るぞ!!」
「オッケー、それじゃあレッツゴー!!」
加減無しの突撃。体力や魔力は限界寸前。しかし、そんな事でユートとエイルは止まらない。
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ゴブリンの群れを強行突破し、隠し扉を抜けた先。
メグミの形成した聖域、その中で……ツヨシに貫かれながらも、槍から手を離さないで耐えるユウキの姿。
状況を理解した瞬間、ユートの中で何かが切れる音。
ゴブリンを蹴散らしながら駆け抜け……聖域の中に滑り込んだ瞬間に跳び上がる。突き出した右足で、ツヨシの顔面を蹴り飛ばし、着地。
「……これで、全員だな」
「お兄ちゃんも含めてねー」
やはり、付いて来ていたエイル。相変わらずの軽い調子は、緊迫した空気を弛緩させた。
「てめ……生きてやがったか……!」
「生き汚いのはお互い様だ。それじゃあラストラウンドと行こうか」
ユートもツヨシも、互いに無手。条件は対等。
「テメェは殺すっ!!」
その殺気に満ちた視線もどこ吹く風。ユートにとって、その程度の殺気など慣れたものである。
返答は普段と変わらない調子、しかし言葉には強い思いを籠めて。
勇者と聖女の息子。
英雄達の愛弟子。
アヴァロン王国の王。
ヴェルスフィアの勇者。
刻印の付与魔導師。
「死なないさ……ここからは”俺”の時間だ」
ユート・アーカディア・アヴァロンの反撃が始まる。
 




