13-04 双子の勇者/名前遊び
これまでのあらすじ:ふたごゆうしゃがあらわれた!
「そらぁっ!」
「おっと!」
突き出された槍をバックステップで避け、更に横飛びに地面を転がる。僕が居た場所に、雷の矢が降り注ぐ。
「ちっ、逃げるのはうまいんだな!」
「逃げているんじゃない、避けているんだ」
「ほざけ、ハズレ野郎!」
更に槍を振り回すツヨシ、呪文を詠唱するシキ。
流石に劣勢なので、銃撃も交えていきたい……のだが、ツヨシの攻撃が執拗かつ苛烈なので、シキを撃つ隙を中々見出だせずにいる。
「逃げ回ってばかりで、反撃もろくにできないみてぇだなぁ!!」
「いや、疲れてる相手を二人がかりで襲っておいて、その言い草は無くない?」
「アリなんだよ、俺らの中ではなぁ!!」
さいですか。
さて、双子との戦闘開始から、既に十五分くらい。
その間、攻撃魔法を何度も放っているのだから、流石にシキの魔力も尽きる頃だろう。そしたら、少し楽になるはずだ。
問題は僕の体力が保つかなんだよね。
しかし、この近距離戦闘中でツヨシに銃撃しようとしても、銃口を槍で逸らされたら隙になる。そこに槍のひと刺しが入るだろう。
かと言って、シキを狙えばそれも隙になる。
どうしたもんか……このステータスだと、厄介な相手だよ。
「ちっ、この野郎っ!」
攻撃が激しさを増す。こんだけ激しく動き回っても、然程疲れた様子は見せていない。
それに、ツヨシの槍捌き……サマになってるんだよな。もしかして、意外と真面目に訓練してたのか? そんな感じには見えないんだけど。
シキのやつも、何か魔法の威力が高い気がするし。
どういう事だ? くそっ、こう両方から攻め立てられたら、ステータス確認もできやしない。
激しい攻撃は更に続き、戦闘開始から既に三十分くらいか。
二人に疲労の様子は無い。おかしいな、先日の勇者の集いや、ラルグリス王城前広場で見た時は、そこまでステータスが高くなかったはずなのに。
「おう、ハズレ野郎……俺達が予想より強くて驚いてるって顔だな?」
正解、だけどポーカーフェイスで聞き流す。
「俺達が以前のままだと思ったか? お前にコケにされた恨みを晴らす為に、ちょっと色々頑張ってみたんだよ……そしたら、面白い力が手に入ってさぁ」
そう言って、並び立つ双子。
今なら、解析出来るな……って、これは? 成程、こりゃあ厄介なわけだ。
「冥土の土産に教えてやるよ! 固有技能で、俺らは強くなったのさ! もうテメェなんかに、でけぇツラはさせねぇ!」
「そういう事。俺達を怒らせたお前が悪いんだぜ?」
ふぅん……。
「戦闘で負かした相手の力を奪う”強欲の魂”に、関係を持った異性の力を奪う”色欲の魂”ね。どっちも奪う系の固有技能か。質悪いなぁ」
僕が固有技能の内容を言い当てた事に、ホシノ兄弟は目を見開いた。
こいつらのステータスを見ると、キリエ達には及ばないが、大迷宮でレベルアップしたユウキ達に匹敵する。
この短期間で、倍近くのレベルアップ。どれだけの人を喰い物にしたのやら。
さて、強欲と色欲……これらは、七つの大罪の二つだ。
そして、僕はある共通点に思考が行き着く。名前、だ。
シマ・ヨコタと同じで、こいつらには名前と性格、そして象徴する大罪が一致している。
ホシノは”欲しいの”ってところか……つまり、欲だ。ツヨシは漢字で剛、これでゴウとも読める。
ゴウ欲しいの、ゴウ欲、強欲。シキはそのままの読みで、シキ欲、色欲だ。
下らない名前遊びだね。魔人族の世界神は、かなりどうしようもない性格をしているみたいだな。
同時に、同じような名前遊びが他の勇者にもある。
メグミは本名、矢口恵。矢口は一文字にすると”知”で、知恵。
ユウキは言わずとも解るだろうが、あえて言っとく。勇気だ。
マナの漢字は”愛”。”愛の魂”の由来はこれか。
ノゾミは名前を漢字で書くと”希望”になる。彼女に与えられるのは恐らく”希望の魂”とかになるんだろうね。
ついでに、マサヨシは漢字で”正義”。凝り固まった自分勝手な正義だけどね。
知恵、勇気、愛、希望、正義……これらは七元徳と呼ばれる、人の徳だ。現在の立ち位置等も踏まえると、マサヨシ以外は納得できる。
「……成程、いろいろ合点がいったよ」
僕がウンウンと頷いていると、二人はその態度が気に触ったのか殺気に塗れた視線を向けてくる。
「何がだ! さっさと言え、ぶっ殺すぞ!」
「死ぬ前に話して貰おうか。そっちの勇者三人にノゾミもいるし、何か気付いてんの?」
話してから殺されるなんて御免だよ。
「足りない脳味噌を駆使して考えてみたら? それと、今回の件はラルグリス王にも伝えるからそのつもりでいろよ。流石に今回はこちらも容赦する気はない」
僕の言葉に、ツヨシとシキは口元を歪めた。
「笑わせるね、まさか助かると思ってるの?」
「ここでお前は死ぬんだよ、ユート・アーカディア・アヴァロン!」
そう言ってツヨシが槍を手に急接近し、シキが詠唱を開始する。
このままではジリ貧だ。しかし、こちらが持っている武器の性能は、彼等の持つ聖なる武器に引けを取らない。
――パァンッ!
距離が開いたなら、こちらのアドバンテージである銃撃を織り交ぜていく。しかし……。
「あめぇ!!」
なんと、ツヨシの奴が銃弾を槍で叩き落とした。
更に二発放つが、それもあっさり叩き落とされてしまう。技能じゃなくて、ステータスを活用したものだな。
「ちっ……!」
狙いを変え、シキに向けて銃弾を二発放つ……が、それも障壁に阻まれる。
今のは神官系のジョブが使える技能……法術だ。神官を犯したのか、こいつ。
「知ってるか? こんな技能もあるんだぜ!!」
その言葉を吐いた瞬間、こちらに迫っていたツヨシの姿が消えて……目の前に現れた。
「な……っ!!」
「死ねやあぁっ!」
必死で躱そうとするも、左の脇腹を槍の穂先が刺し貫く。
「ぐ……っ!!」
「ハハハ、”瞬動”だ!! ハズレ野郎の分際で、調子に乗るからこうなるんだよ!!」
激痛に耐えつつ、同様にツヨシの腹を銃剣で刺してやろうとした瞬間、槍が引き抜かれ更に蹴られる。
「ぐぅ……っ!!」
そのまま地面を転がって距離を取る。
しかし、そこへ狙い澄ましたかのようにシキの放った火の矢が飛来する。
「やっべ……!!」
更に地面を転がって距離を取るが、着弾の余波でダメージを喰らう。
それらを必死に避けて、壁に追い詰められ……たように見せかけて、解析で確認していた隠し扉にたどり着く。
「無様だな、王様よぉ!!」
「ほらほら、避けてちゃ楽になれないぞぉ?」
更に飛来した火の矢。それを躱して、隠し扉を破壊させた。
「何っ!?」
「隠し扉か! 野郎……っ!」
隠し扉を潜って、銃剣の弾をリロードする。
更に、ある物を宝物庫から取り出しておく。
「瞬動を使えば、てめぇなんざ……」
ツヨシは、そう来るよね。僕を殺す為に、入口で止まると思っていたよ。
「喰らえ!」
シキの移動速度は普通なので、先にツヨシを仕留める!
マシンガンの銃口をツヨシに向け、引き金を引く。
「くそっ……!!」
瞬動で回避するツヨシだが、移動しようとする方向に体全体を向けるので、再度狙いを付けるのはそこまで苦労しない。
「マシンガンだと……てめぇ、それは……!」
そして、こちらに向けて瞬動を発動すると同時に、左手にショットガンを構える。
僕の目の前、槍の攻撃範囲に移動するのは予想済み。ならば、そこに散弾を撒き散らす。
「ぎゃあぁぁっ!?」
腹を中心に散弾を喰らい、ツヨシは痛みにのたうち回る。
「ツヨシ!?」
隠し扉を潜ってきたシキ。その視線は、部屋の中央にいるツヨシに向いている。
これはチャンスだ。その頭部に銃口を押し付ける。
「あ、あぁ……!?」
こいつらは、自分達の力を強化するために兵士や町娘・王城の侍女達を喰い物にし、これからもその力で多くの人々を傷付けるだろう。自分の欲望のために。
そんな輩を生かしておく理由がないし、元の世界に帰還させるつもりもない。
「とりあえず死ね」
「やめ……っ!!」
――ドパァンッ!!
零距離から放たれた散弾が、シキの頭部を破壊した。ステータスがどれ程高くても、致命的な攻撃には耐えられない。
「シキィッ!! ぐっ……この野郎……!!」
血走った目で僕を睨むツヨシが、無限収納庫から回復薬を取り出して、一気に煽る。
回復し切る前に、仕留めてやる。マシンガンの銃口を向け、引き金を引く。
そこで、この隠し部屋が何の部屋なのかに気付いた。
この部屋は上の階層と繋がっている……そこから、大量のゴブリンが飛び降りて来た。
ツヨシを狙ったマシンガンの弾は、ゴブリンに命中してその命を奪い取る。運のいい事に、ツヨシは無事だった。
「魔物部屋かよっ!!」
回復薬ですっかり回復してしまったツヨシが、シキの方へと瞬動で移動する。
迫って来るゴブリンを無視して、シキの死体を抱え上げたツヨシは隠し扉を走り抜けた。
ツヨシを追う者は少数で、大半のゴブリンはこちらに向かって来る。こりゃあ、かなり厳しいか?
その時だった。
「お兄ちゃん、あと少しでレベルアップだよ!」
……エイル?
************************************************************
今、私……キリエ・アーカディアは、共に転移したヒルドさん、途中で合流したアリスさん・ノエルさんと共に、大迷宮の通路を駆け抜けています。その先に、ユーちゃんが居ると信じて。
そんな私達の目前に、ある人物達の姿がありました。勇者ツヨシ・ホシノと、勇者シキ・ホシノ。
勇者シキは仰向けに横たわり、ピクリとも動きません。そして、勇者ツヨシがこちらに気付き、睨み付けて来ました。
「てめぇら!! 丁度いい、シキの敵だ……お前らの力を奪って殺し、あのハズレ野郎の前に死体を晒してやるっ!!」
そう言って、槍を構える勇者ツヨシ。
まさか……ユーちゃんは彼等と遭遇したのでしょうか?
そして恐らく、シキはユーちゃんが仕留めたのでしょう。見れば、頭部が酷い損傷を受けています。多分ショットガンで頭部を破壊されて、息絶えたのではないでしょうか。
だとしたら、この近くにユーちゃんが居るのでは……!!
「邪魔ですっ!!」
全力で近付き、槍を持つ手をガンレイピアで貫きます。
「ぎゃあぁぁっ!?」
そのまま、勇者ツヨシの側頭部をガンレイピアの柄で強打。
「がぁ……っ!?」
そのまま気絶する勇者ツヨシを放置して、私は地面を見ます。血の跡……!
「この血の跡を追っていけば、ユーちゃんが……!!」
「行きましょう!」
血の跡を辿って進むと、大量のゴブリンが襲い掛かってきます。
「こ、これは……!!」
「ノエルさん、警戒して下さい! 尋常じゃない数です!」
こんな大量のゴブリン、一体……。
まさか、この先にユーちゃんが居るなら……このゴブリン達に……!? 今のユーちゃんには、対抗する手段も限られるというのに!
「皆様、ここからは共に!」
「ノエルさんは前衛を! メグミさん、マリアも行って!」
声がしたのは、後から。
「フリードさん、ユウキさん!」
メグミさんとクリスさん、更にユウキさん・マリアさん・フリードさん・クラリスさん・ノゾミさんが。あちらも合流していたのですね。
「守護はお任せ下さい!」
メグミさんの盾が輝き、聖域が展開されました。
「今の内に陣形を整えて下さい! この先にユート君が居ます!」
「この先に……!?」
「行くしか無いわね!」
フリードさんとマリアさんが、メグミさんのフォローのために両脇へ。クラリスさんとノゾミさんは、フリードさんの後に立ちます。ユウキさんはマリアさんの後へ。
「クリスさんと私はメグミさんと! アリスさんとノエルさん、ヒルドさんはマリアさんのフォローを!」
これなら、中央と左右に法術による回復役が揃います。
「よし、行けるぞ! メグミさん、いいよ!」
「はい、聖域を解きます!」
聖域が解除された瞬間に、襲い掛かって来るゴブリンの群れ。
弱体化している私達にとっては、非常に厄介な相手です。でも、この先にユーちゃんが居るなら……押し通ります!
ひたすらゴブリンを狩り続けて、私達は開けた場所に辿り着きます。
魔法で焦げた跡などが……もしかしたら、ここでユーちゃんは双子と戦っていたのでは……? 見ればゴブリン達の半分以上が、破壊された壁の方を見ていて……もしかして!
「どきなさいっ!!」
崩れた壁に向かいたいのですが、密集したゴブリン達が邪魔です。
その時でした。向かいの通路から、アイリさん・リインさん・マナさん・エルザさんが姿を見せたのです。
「皆さん!」
「やった、合流だー!」
アイリさんとエルザさんがゴブリンを排除しつつ道を作って、私達のすぐ側まで来ます。四人も、大した怪我はしていないようでした。
「皆様、よくぞご無事で……!」
「そちらも、よくご無事で! それで、あの壁の先に……!」
私が向けた視線の先、壊れた壁の向こう側。それを見た彼女達も、顔を青褪めさせます。
「まさか、ユートさんが……!?」
こうなったら、大量虐殺兵器であるガトリングガンを……と思った時です。
「死ぃねぇっ!!」
フリードさんの背後に突然現れた勇者ツヨシが、その手の槍を突き出しました。槍はフリードさんの肩を刺し、貫通します。
「フリードさんっ!」
響くノゾミさんの叫び声。
フリードさんが受け持っていた前衛が崩れた事で、ゴブリン達が後のクラリスさん・ノゾミさんに殺到します。
「くっ、不覚……!!」
「うるせぇ!」
フリードさんの背中を蹴り、勢いよく槍を引き抜くツヨシ。
即座に陣形を組み直し、ツヨシとゴブリンを倒さなければ……。
「もう一度、聖域……っ!!」
同じ事を考えていたようで、メグミさんが聖域を発動して接近するゴブリン達を堰き止めます。
「援護をっ!」
瞬発力に優れる私とアイリさん、クラリスさんが襲われる三人の救援に。そして、ユウキさんとマナさんがツヨシに向かいます。
「今度はお前らかぁ!?」
槍を振るうツヨシが二人に向けて槍を構え、また一瞬で移動します。
あれは……そうか、瞬動の技能!
「マナっ……ぐぅっ!!」
ユウキさんが、狙われたマナさんを庇って槍を受け止めようとするも、力で押し負けて腹部を貫かれます。
「ははははっ! 錬成魔導師如きが、俺様に適うかよっ!!」
更に追撃を加えようとするツヨシに対し、ユウキさんは驚くべき行動に出ます。その槍を、強く両手で握り締めました。
「て、てめぇ……っ!! 放しやがれっ!!」
力づくで槍を引き抜こうとするツヨシですが、ユウキさんは決してその手を放しません。
「絶対に……放すもんか……っ!!」
「ユウキっ!!」
槍を握り締めて放さないユウキさんを、足蹴にするツヨシ。
援護を……そう思った時、一つの人影が風の様に駆け抜けていった。
その人物は駆けながら跳び上がり、右足を前に突き出します。接近に気付いたツヨシでしたが、時既に遅し。
「ぶぎゃっ!?」
顔面にその跳び蹴りを喰らい、地面を転がっていきます。
黒い布地に、金色の縁取りがされたコートを纏った人物。そんなの……貴方しかいない。
「……これで、全員だな」
「お兄ちゃんも含めてねー」
何でも無い事の様に、いつの間にか側にいたエイルちゃん。
ええ、確かにこれで……やっと全員です。無事で……無事で良かったです、ユーちゃん……。




