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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第12章 ケルム獣帝国
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12-08 幕間/獣帝の思惑

 世界同盟軍の救援により、国家崩壊を免れたケルム獣帝国。

 帝城で玉座に凭れ掛かるように座る獣帝ケビンは、深い溜息を吐いた。

(数万を超える悪魔族の先兵、それを圧倒した世界同盟、どちらも脅威と言える。しかも、あの魔導兵騎。あれを造り出したアヴァロンの王は、その気になれば世界を滅ぼす事も容易いのではないか……?)


 当初、自国の戦力で悪魔族と影獣を打倒し、世界同盟に頼らずとも自国は戦えると証明する……そう息巻いて軍を動かした。しかし、結果は散々なものだった。

 帝国軍の総数、その三分の一を向かわせ……壊滅したのだ。


 更に、村や町が次々と犠牲になり、王都の目前まで敵は迫っていた。

 止むを得ず、王都の冒険者ギルドに遣いを出し、世界同盟への救援を出させたのだ。冒険者ギルドが、各国の王都支部に通信用の遺失魔道具アーティファクトを配備した事は、ギルドマスターから聞いていた。


 結果、ものの二時間程で戦闘は終結した。

 世界同盟が参戦してから、死者はゼロ……圧倒的な勝利と言っても過言ではあるまい。更に言ってしまうと、魔導兵騎は一国あたり十五機ずつしか運用していなかった。

 悪魔族一人に加え、八万前後の影獣と、百三十五機の魔導兵騎の戦い。

 魔導兵騎……それを生み出し運用するアヴァロン王国は、脅威でしかないだろう。


 戦闘の後、対面した世界同盟の王達の様子を思い出す。

 なんとも飄々とした様子であり、あの大規模戦闘の後とは思えなかった。身構えている自分が馬鹿みたいだとすら思った。

 しかし、歴戦の勇士として覇気溢れるジークハルト竜王やミリアン獣王。永い年月を生きるヴォルフィード皇帝やクエスト王・ラルグリス王の風格。人間族をまとめ上げるイングヴァルド王やファムタール騎士王の威厳。

 ……それらは、王に相応しい資質溢れる存在として受け入れられた。


 だが、アヴァロン王は違った。

 何処にでもいるような人間族の少年。付与魔導師の、成人して間もない少年。

 それが当然のように、世界の早々たる国家元首達の中心に立っている。

 至極当然の事のように、自然体で。異様だった……そして得体の知れない圧力を感じたのだ。まるで、人の皮を被った怪物のようにすら思えた。


「陛下、顔色が優れませぬ。少し休まれては如何でしょうか」

 見れば、宰相のボルノと兵士長バルマがそこに居た。思考の海に埋没し過ぎて、彼らに気付かなかったようだ。

「……休む暇はあるまい。やらなければならない事が、掃いて捨てる程あるのだからな」

「……どうか、ご自愛くださいませ」

 王として隙を見せる事などあってはならない……ケビンはそう考えていた。


「宰相、兵士長……世界同盟をどう見る」

 その言葉に、宰相と兵士長は眉を顰めた。

「正直、敵対するクロイツ教国が愚かに思えますな。あれは手を出してはならない存在でしょう……特に、あのアヴァロン王には」

「ええ。成人間もない小僧と聞いておりましたが、悪魔族を単独で討伐する手腕……遠見鏡で見ておりましたが、正気とは思えぬ戦いぶりでした」


 魔導兵騎のみならず、手にした武器も遺失魔道具アーティファクトだろう。悪魔族の頭部を一撃で消滅させた攻撃は、あまりにも強力過ぎた。あんな攻撃を自分に向けられたらと思うと、ゾッとする。

 更に言えば腹を貫かれて尚、反撃を繰り出し戦意を失わない胆力もだ。普通ならば、あれだけ深く腹を刺し貫かれれば、苦痛に呻き地を這うだろう。どれだけのステータスを持っているのかと、怖いもの見たさで聞いてみたくもある。


「……世界同盟を敵に回すのは愚策だ。そして、あの魔導兵騎やアヴァロン王の遺失魔道具アーティファクトは、是が非でも欲しい……余は世界同盟に加盟し、我が国の発言力を強める為に足並みを揃えて行動すべきだと考えているが、どうだ」

「ご英断かと存じます」

「ええ、友好関係を結べるならばそれに越したことはないでしょう」

 獣帝国は、アヴァロン王国を敵に回すよりも友好関係を結ぶ方が、得られる恩恵が大きいと踏んだ。それは賢明な判断であった。


************************************************************


 獣帝は息子と娘達を呼び出した。厳格な王である獣帝を前に、子供達は緊張の面持ちだ。

「お前達を呼んだのは、今後の国の方針を伝える為だ。我がケルム獣帝国は、世界同盟に加入し足並みを揃えるべきと判断した」

 その言葉に、子供達は安堵の溜息を漏らす。

 アヴァロン王国を中心とする世界同盟は、既に世界の中心ともいえる。そんな国々を相手取って、ちょっかいを出すなど愚の骨頂だ。

 王である父親が友好関係を築こうというなら、それに越した事はない。


「して、ファニールとオニール。お前達にはアヴァロン王国との友好関係を盤石のものとすべく、アヴァロン王かその側近に嫁いで貰うつもりだが、異論はあるか」

「いいえ、お父様」

「仰せのままに」

 異論はあるかと言われたが、それは確認でしかない。元より意見など言えようはずがないのだ。

 帝の決定であり、父の決定である。獣帝の娘として生まれた以上、政略結婚の道具となるのは自明の理。幼い頃から、覚悟は出来ていた事だ。


 アヴァロン王を思い出す。見た目はそれなりに良く、朗らかな笑顔も良い感じだ。

 それに、遠目に見た限りだが勇者ユウキや英雄の息子フリードリヒも、見た目や雰囲気は悪くなさそうだった。ならば、この輿入れは意外と良い話かもしれないと、二人は思っている。


「ルクス、フラム。お前達はアヴァロン王とも歳が近い。友好関係を結び、アヴァロン王国からの支援を引き出せるように立ち回れ」

「「はい、父上」」

 確かに年齢が近い自分達が適任だろうと、皇子二人も解っている。

 アヴァロン王は他国の王族と親し気に話していたし、あの輪に入るのは悪くないだろう。

 それに、ミリアン獣王の息子ブリック……彼も、アヴァロン王と親し気にしていたし、隣国との関係を良好に保つ一手になるかもしれない。

 ひいては獣帝を継ぐルクスとしても、今の内に他国とのコネクションを作っておくのは肝要だろう。


 打算や思惑があるものの、獣帝ケビンが決めた方針は大局的に言えば正解だった。

 彼らがそれを実感するのは、もう少し先の話である。

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