12-05 救援部隊/指揮
これまでのあらすじ:ケルム獣帝国から、救援要請が届きました。
帝都にキリエ達が到着したのを確認して、僕は門弾で転移魔法陣を開く。
「ここから帝都まで、村なんかはもう無い。帝都で世界同盟軍と合流し、総力を以ってこいつらを叩き潰そう」
僕の言葉に、仲間達は首肯で返答を返して転移魔法陣を潜っていく。聖域が消滅した事で、僕に向かって押し寄せる影獣達。一分の制限時間が経過して消える寸前の転移魔法陣を潜って、僕も帝都へ転移した。
ケルム獣帝国の帝都コルタナ前に到着し、ノアを待つ。
すると、帝都の門から歩み出て来る人物がいた。紅の髪を持つ狐人族の偉丈夫で、その眼光は鋭い。
真実の目によると、歩いてくる男性がこのケルム獣帝国を治める獣帝ケビンらしい。
「貴殿がアヴァロンの王か、若いな」
「お初にお目に掛かる、獣帝ケビン殿。僕はユート・アーカディア・アヴァロン、アヴァロン王国を建国した者だ」
探るような視線は無視して名乗ると、ふむと頷いたケルム獣帝が軽く頭を下げた。
「我が国の救援要請に応えてくれた事、感謝する」
おっと、その言葉はまだ早いぜ。
「まだ事態は進行中だ。まずは現状の説明……の前に、世界同盟軍の準備も整っている。ここに呼ぶが構わないか?」
「む? う、うむ……それは構わないが、呼ぶとは……」
その問答には付き合わずに、誰も居ない場所に向けて門弾を放つ。開かれた転移魔法陣は大きめに設定した。訓練場に集まった人達、を一気に転移させる為にね。
そうだ、こういうのはどうだろうか? 魔法陣を地面から上に向けて移動させる。おぉ、やれば出来るものだね。
「こ、これは……!? 何もない所から、これだけの人数が……!?」
驚く獣帝だが、この程度で驚いていたら、これからの防衛戦見て卒倒しちゃわないか? まぁ、その時はその時だな!
僕とケルム獣帝に気付いた各国の王が歩み寄って来る。先程までプールでバカンスを楽しんでいたとは思えない、真剣な表情だ。
「紹介しようケルム獣帝、こちらが世界同盟加盟国の国家元首達だ」
一通り紹介して、何とかケルム獣帝も驚きから復帰した所で、現在の状況を説明する。
現在、生存者は全てノアに回収して帝都の方へ移送中である事。帝都までは他に町や村は無く、逃げ遅れた国民も居ない事を遺失魔道具で確認済みである事。
そして、これから世界同盟軍で影獣達を殲滅する事。
全てを説明すると、ケルム獣帝は信じられないという表情だ。まぁ、これからそれを目の当たりにするのだから、嫌でも理解する事になるだろう。
「それでは、加盟国の王達に宣言する。アヴァロン王国国王、ユート・アーカディア・アヴァロンの名の下に、魔導兵騎全機の貸与を承認。使用者を十五人出して欲しい」
一国につき、現在十五機分ロールアウトしているからね。無論、武装も各々取り揃えている。
「あい解った。ユート殿、一度自国の騎士達の所に戻らせて貰うぞ」
「うむ、十五人の参戦者を揃えて来よう」
そう言って、各国の王達は各々の国のいる方へ歩いて行く。
よし、僕達も準備をしよう。
「他国に合わせ、僕達も十五人で出るぞ。僕が出るのは確定として、その内四人にはメグミ・ユウキ・マナ・ノゾミに頼みたい。勇者と共に戦うという事で、兵士達の士気を上げたいんだ」
「了解です、先輩」
「うん、任せて」
「オッケー!」
「解りました!」
気負いのない、普段通りの様子で四人は首肯する。
「それと、各種族の代表って訳じゃないけど、一丸となって事にあたる象徴として……アリス、アイリ、リイン、クリス、フリード、エルザ……頼めるか?」
それぞれの国に縁あるメンバーだからな。
「はい、任せて下さい!」
「ユート様の御心のままに」
「お任せ下さい、ユートさん」
「……んっ!」
「畏まりました、陛下」
「よっし、やるぞー!」
うんうん、皆やる気満々だな。
「キリエとヒルド、ノエルさんは怪我人の治療を頼む。エイルとマリア、クラリスは救護メンバーの護衛、魔導装甲を使用しても構わない」
「はい、ユーちゃん」
「ユー君の指令ー、了解したよー」
「解りました、ユートさん!」
「おっけー!」
「戦いたいけど、仕方ないわね」
「かしこまりました、陛下」
前線に出れないけど、それだけが戦いでは無い。支援部隊にも相応の実力者を配置すべきだと思い、この布陣だ。
『クラウス、兵士を三人選んでくれ。騎士団にも経験を積ませるぞ。ジルとメアリーは、ノアの制御を引き継いで帝都に向かってくれ』
『よっしゃ、任せて下さいご主人! 』
『解りました、ご主人様』
『やるよ〜! 』
ははは、本当に頼もしいな。よし、これでメンバーの割り振りはOKかな。
「それではアヴァロン王国コアメンバー、行くぞ!」
「「「「「応っ!!」」」」」
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その後三十分もしない内に、各国の代表メンバーの準備が揃う。
そのまま魔導兵騎に搭乗して帝都から進軍し、戦闘の準備を進めていく。さて、集った精鋭メンバー……なのだが。
「ふむ、流石に壮観だな」
「仰る通りです、殿下」
「うーん、凄い光景だよね……ちょっとテンション上がって来た」
「おう、各国の精鋭揃いってわけだ」
「いやぁ、この光景だけで、世界同盟が発足して良かったと思うよ」
「うむ、中々に心躍る光景だ」
「くくっ、腕が鳴るぜ!」
「一国の危地を救うか、騎士として参加しないわけにはいかないな」
「おう。それでまぁ……あまり調子に乗るなよ、カミーユ」
「承知してますとも、兄上! この僕がっ! そんな失態をっ! 侵すとでもっ!?」
「ふふ、正に総力戦というわけだな」
各国の殿下達までいます。
アルファ、ブリック、マックは予想してた。ジオとグラム、そしてクロード・キルト・カミーユも参戦して来た。アルファに付き従うエミリオとシャルも居る。これもまぁ、解る。
ラピストリア王女が参戦。まぁ、彼女は結構強いし……百歩譲っていいとしよう。
『ダーム王子、どうかお気をつけて』
「ありがとう、シャルル王女。吉報を待っていて下さい」
クエスト王国の王子、ダーム殿下も参戦した。しかも、シャルルといい感じになっている。わざわざ通信機を使ってまで声をかけるとは……。
戦場で始まったラブロマンス……フラグにしか思えないので、ちょっと殿下の方、気を付けて見ておかないと。
無論、それだけではなく……。
「ガハハハッ、どちらがより多く敵を倒せるか、競うか竜王!」
「グハハハッ、それも良いな獣王!」
「これは友の為の戦だ、南の王達よ。その戦に遊びを入れるのはどうかと思うが……」
「うむ、魔王の言う通りではないか?」
「むぅ、確かにな」
「それもそうだ、失礼した魔王、騎士王」
「ハハハ、しかし存分に腕を振るえるのは間違いないだろう?」
はい、獣王・竜王・魔王・騎士王・ダークエルフの王がやる気満々です。
アマダムは予想していたけど、他四人は……。
「あれ、いいの?」
思わず、息子・娘達に聞いてしまった。
「親父が出ないわけないからなぁ」
むしろ出るのが当たり前という顔のブリック。
「うむ、父上は先陣を切るのが好きでな」
「以前戦争をした国では、暴竜と呼ばれているそうだぞ」
ジオとグラムがうんうん頷いている。
「ユート、父上はあぁ見えて我々よりも強いんだよ」
「未だに剣の腕では負けるんだよなぁ」
「それはそうだろうっ! 何せ父上は、騎士の中の騎士っ! キング・オブ・ナイトなのだからっ!」
「普通に騎士王って言えばいいと思うの」
シャルルがダーム殿下と何やらいい感じになっている為、ツッコミが不在なんだよ、あんまり張り切るなよ。
「父上はバルドレイには劣るものの、ダークエルフ族の中でも相当な実力者だ、問題は無いぞアヴァロン陛下」
う、うん……そう? まぁ、とりあえず……四人共脳筋って事ですね(暴論)。
他の王……アンドレイ叔父さん・メイトリクス皇帝・ドルガ国王は本陣で兵士達を鼓舞している。うん、そこも後方とはいえ戦場なんだけどな。
おやや? そこかしこに、女性も居る……って、これはシルビアじゃねぇか? おや、リアにフローラ殿下にエリザベート殿下もいる?
出発前にマチルダもさっき見たし、ミレイナもいたな。どうやら、支援部隊を手伝っているようだ。
本気で世界同盟総動員っぽくなっているが、歳若い少女達を戦場に出すのは……と思って、犯人に気付いた。
……うちの国だわ。
うちの面子なんて、僕とユウキとフリード以外、皆少女だわ。
成人してるメンバーはまだしも、クリスとかエルザとかエイルとか見た目でアウトやん。なんて罪深い国家……!!
そんなどうでもいい事を考えていると、そこへ各国の王達が通信をかけて来る。
『ユート殿、今回の指揮についてなのだが……ユート殿に委任したい』
『うむ、これは世界同盟加盟国の総意でな』
なん……だと。
『真実の目で全体を把握し、的確な指示を出せるお前が適任だろう』
『頼めないかな、ユート君』
う、うん……そうは言うけど、行軍経験とかないからね?
「や、やるだけ、やってみる……ね?」
戦闘に向けて上がっていた意識が、だいぶダウンした。
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状況が動いたのは、日が暮れる前だった。
斥候部隊が影魔物の姿を確認し、魔導通信機で連絡をしてきた。
マップでそれも見れるんだけど、国としてやらない訳にはいかなかったらしい。僕を信用していない者も、各国には大なり小なりいるからね。
それで、影獣だが……恐らくは帝都に辿り着く時に日が落ちて、夜になる頃を狙ったのだろう。闇に紛れて、帝都を蹂躙しようという腹積もり……。
ミリアンの時の様に、親玉が何処かに居るのは間違いなさそうだ。
最初は数万だったが……どうやら、数が増えているようだ。真実の目で見ると、八万くらいいるね。
さて……既に準備は整っている。しかし、魔導兵騎に乗った経験のない者が半数だ。
その為アヴァロンメンバーを、各国の部隊に割り振る形にする。
影の特徴は物理攻撃や魔法攻撃に耐性があり、純粋魔力攻撃に弱い。加えて、刻印付与した”吸収”や”解呪”で影を剥がせる。
過去、ミリアン獣王国で影と対峙しているので、その辺は織り込み済みだ。
今回は影化しているのは獣や魔物なので、生かすようにする必要も無い。
それらを集合させた兵士達や王達に伝える。
「ついでに、魔導兵騎を運用するにあたって伝えておく事がある。魔導兵騎の安全措置についてだ」
魔導兵騎を貸与するにあたって、色々と安全に運用出来るように対策を講じてあるのだ。
「まず、魔導兵騎には搭乗者を保護する為に守護の根源魔法による防御魔法……そうだな、エネルギーシールドとでも呼ぶか。そいつを使用している。こいつの動力源は魔石だ。ただし、攻撃を受ければ受けるだけエネルギーシールドは消耗し、魔石に蓄えた魔力が枯渇したら消滅する」
正確には、魔石レベルにまで加工した疑似魔石なのだが、それを言うと面倒事になりそうだから内緒。
「よって、エネルギーシールドの残量が5%になった時点で、小さな魔石に蓄えた魔力と、僕の付与魔法で安全圏に転移させる」
エネルギーシールドと、転移の刻印付与魔法による緊急離脱の二段構え。これで搭乗者を守れるようにと、考案し実装した。
「「「おおぉ……」」」
その説明に、アヴァロンメンバー以外がどよめく。
「それと影獣に対抗するために、まず布石を打った。それをすり抜けてくる奴らを相手にすればいい」
そう、毎度お馴染みのアレである。魔力を奪い、純粋魔力攻撃を勝手に行うように調整した、あのパイセンである。
「多分、四割は減らせると思うから」
その言葉に、兵士達が唖然とした顔で僕を見る。うん、あのね? 慣れてきたよ、そういう視線。
「配置だが、連係を考えたら五機一組が良いだろう。防御役の二機が防御、狙撃役の二機が足を止め、近接役の一機がトドメか。まぁ、その辺りは臨機応変に」
さて、各国の配置だが、中央にミリアンとジークハルトを据える。イングヴァルトはミリアンの隣、ジークハルトの隣はオーヴァンだ。
更に右翼にクエスト・ラルグリス。左翼にファムタール・ヴォルフィード。
アヴァロンは三人一組で分かれ、最右翼・最左翼に一組。イングヴァルトとクエストの間に一組、オーヴァンとファムタールの間に一組。そして、中央に一組だ。
これは、魔導兵騎に慣れている者が側に居るべきと判断した為だ。
「ここまでで、何か質問は?」
俺の問いかけに、一人の兵士が挙手した。
「総指揮をアヴァロン国王陛下が執ると伺っております、具体的な指示については?」
「戦場で刻一刻と状況は変化するだろう。その都度指示を出すのは現実的ではない。なので、僕からは大指針を出すに留め、その先は現場の者の判断に委ねる。実戦経験豊富な、国の代表たる貴殿らだからこそ出来るわけだが、どうだ?」
その言葉……特に後半の部分に、兵士達の表情が引き締まった。
武に自信を持つ連中だ、僕の指示通り動くなんて矜持が許さないって奴もいるだろう。ならば自分のやり方でやってくれ、大指針だけは出すけど。
「陛下の御判断に、感服致しました」
そう言って、兵士は引き下がった。他の兵士達も頷いている。
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「他には……無さそうか。では作戦に備える……だがその前に」
少しばかり、気合を入れておこうかな。
「兵士諸君、今迫っているのは何だ?」
僕の言葉に、兵士達は戸惑いながら応える。
「影獣ですよね?」
「悪魔族の尖兵でしょう」
「ふん、ただの獣じゃねぇか」
うんうん、そうだね。
「その通りだ、”俺”達に喧嘩を売ろうとしている悪魔族の尖兵、だが所詮は獣だ。ならば、君達は何だ」
「兵士に決まっている」
「俺は騎士だけどな」
「その通り、君達は騎士や兵士、国を守る者だ。で? ただの獣が喧嘩を売ってきたわけだがどうする?」
俺の言葉に、精鋭部隊が言葉を失う。
訪れた静寂を破ったのは、俺の意図を察した兵士の言葉だった。
「……殲滅だ!」
その声に、触発された兵士達が続く。
「そうだ!」
「全滅させてやるぜ!」
やがて、その声が兵士全員の合唱になる。
「そうだ!! お前達にはそれが出来る!!」
その言葉に、兵士達が静まり返る。
「悪魔族も影獣も、一匹残らずブッ殺せ!!」
「「「応ッ!!」」」
「背後に守るべきものがある時、お前達は何よりも強いっ!!」
「「「オオオッ!!」」」
「躾のなっていない獣共なんざ蹂躙してやれ!! お前達歴戦の勇士の力を思い知らせろ!!」
「「「ウォォォォーッ!!」」」
「行け、勇士達!! お前らの獲物が迫って来てるぞ!!」
「「「オオォォォォォッ!!」」」
兵士達が一目散に自分に割り当てられた魔導兵騎に向かって駆け出して行った。
「……これだけやっとけば、士気は大丈夫かな?」
考えてみれば仲間で連携した事はあるけど、軍を指揮するの初めてなんだよね。なので、ちょっと発破を掛けてみた。
「や、やり過ぎな気も……」
「全員、殺る気満々の顔ですよ……」
「ノリノリでしたね、ユート様」
ちょっと荒ぶったのは認める。
「大丈夫だとは思うが、皆も気を付けて」
俺の言葉に、アヴァロンメンバー達も力強い首肯を返してくれる。




