12-02 幕間/それぞれの訓練
私、アリシア・クラウディア・アークヴァルドは、ある魔法技術を習得する為に訓練をしています。
私が得手としているのは、光属性・水属性・風属性の魔法。それと、彼から貰った槍杖による近接戦闘と、魔導銃。
これらを活かした、私の目指す力……それを実現する為には、生半可な努力では足りません。
この限られた数日間で実現できる保証はありませんが……でも、彼の隣に立つには、やるしかない。私も、壁を越えたい。
「“来たれ光の精霊一柱、水の精霊一柱。我が声に耳を傾けよ”……」
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私は獣人……名はアイリ。ご主人様にして旦那様であるユート様……そのお側に居る為に、何処までも付いていく為に、私はもっと強くならなければならない。
それ故に、私は獣人族に伝わる伝説の技を会得する為、特訓に励んでいます。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
激しい体力の消耗、身体にのしかかる倦怠感。
それを成し得る存在は、世界で三名しかいないと言われている獣人族の秘技。無論、一朝一夕で会得する事は出来ないでしょう。
でも……それくらい出来なくては、あの人の背中を追い続けるだけになる。
「私は……あの人の横に立ちたい……!」
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森の木々の声に耳を傾け、私は瞑想していました。このリイナレイン・デア・ヴォークリンデにとって、森は精神を研ぎ澄ますには最適の場所です。
精神を研ぎ澄ませて……精霊の存在をもっと、もっと知覚しなくては……。
脳裏に浮かぶ、愛しい人の顔。今すぐに会いに行きたい、その気持ちを抑え込む。私は甘えるだけの女にはならない……あの人を支える存在でありたい。
精霊との共存を掲げるエルフ族に伝わる秘技、それを必ず会得してみせる。
「精霊の御力を、ここに……」
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皆も、きっと今頃頑張っている頃ね。私も頑張らなくちゃいけないわ。
こう見えて私、クリスティーナ・ガルバドス・ド・オーヴァンはお姉さんなのだから。
これまで、魔導師として戦闘をしていた私だけど、どうやら鎌の扱いも上手になったの。彼の教え方が上手だったのよ。
だから、これからはそれをもっと高めるの……彼の事を守る為にもね。近接戦闘と遠距離攻撃、どちらも出来る私になるの。
「……もう一度、いく……」
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私、メグミ・ヤグチは勇者としてこの世界に召喚された……剣を持てない騎士だ。
守る事しかできなかった私は、あの人の言葉で色々吹っ切れた。魔物も、敵対する人もこの手に持った盾で命を奪って来た。
これからも戦いの日々が続く……だから、私は覚悟を決めなければいけない。
私は不特定多数の為の勇者じゃない。愛するあの人の為の盾になる。あの人の為の勇者になる。
「先輩を守る為に戦う……そのためには、もっと……力を……!」
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「いやー……やっぱり地力が足りないねー……」
散々魔物を倒してレベルアップして来たけど、やっぱり彼らに遠く及ばない。あぁ、お荷物にはなりたくないのだけれど。
私はこれでも世界神の一柱、ヒュペリオン。戦い方は心得ている。しかし、身体が付いていかない。
これは、本気で鍛えるしかないねー。
「ユー君や皆と一緒に居るためには、強くならないとねー」
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私、ノエル・アイングラムは必死に魔物の討伐に勤しんでいます。
特別な力なんて何もない、私はただの一介の兵士。そんな私が……恋をしてしまった彼は、あまりにも遠くて……。
彼の名前が風の噂で聞こえて来る度に、遠い存在に思えていた。でも、顔を合わせる度に彼はいつも通りに微笑んでくれた。
しかし彼は王様で、名実共に世界に名を轟かせる英雄だ。
親善大使の役職を賜り、アヴァロン王国に滞在しているけれど……未だ、彼を遠くに感じる。彼の周囲にいる婚約者の皆さんも、きっと大きな力を手にして彼の側に立つだろう。
このままでは、私はそれを見ているだけ……それは、嫌だ。
「私は……私だって、彼の事が……っ!!」
彼の側に居たい……その為に私は強く……もっと強くならなければならない!
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「……鬼気迫りますね、皆さん」
「いやぁ……お兄ちゃんって罪な男だよね」
創世神が遣わした守護天使キリエと、神代の竜エイル。
ユートの元義姉と現義妹は、ひたすら訓練に打ち込む少女達を見守っていた。
「そう言えば、キリエお姉ちゃんは訓練とかはしないんだね?」
「私、実は力をセーブしているだけなので……」
「あぁ、創世神の天使だもんね……私と似たようなものなんだね」
そう、実はキリエは、レベルアップ=本来の力を解放するだけなのだ。本来のレベルは相当高位にあるのである。
邪神討伐を創世神が直々に任せるくらいである、それも当然だ。
「天使の力を使えば、それなりに強いですけど……それでは、ユーちゃんの活躍が見られませんから」
「お兄ちゃん、ハチャメチャだもんねー!見てて飽きないよ」
カラカラと笑うエイルに、キリエは苦笑する。
「それでエイルちゃんは、ユーちゃんのお嫁さんにならないんですか?」
「え?」
そう言われて、エイルは真顔になってしまった。ユートの嫁に名を連ねる自分を想像して……そして、思ってしまった。
「あ、うん……うん、そう、だね?うん……あー……」
よくよく考えてみれば、ユートの側に居たいが為に今の姿になったのもある。つまるところ、ユートの周りの女性陣が少し羨ましいのもあった。
成程、これが意味する所は……そこまで考えて、エイルは首を振った。
「今は、まだその時じゃないかな」
「早くしないと、結婚式に間に合いませんよ」
「気が早いっ!!でも、そう言われるとちょっと焦る!!」
クスクス笑うキリエに、おどけるエイル。その様子は、確かに姉妹のそれを思わせた。
「さて、それじゃあ連絡をしてみましょう」
「連絡?」
円卓の座を取り出すキリエに、エイルが首を傾げる。
「ええ、皆さんのレベルアップの為に、アドバイスをしてくれる先生を呼ぼうかと思うんです……世界最強レベルの」
「あー……なるほど」
世界最強……そんなレベルに達していて、キリエが気軽に連絡を取ろうなどと思う存在。
「勇者と七人の英雄に鍛えられる王妃予定者かぁ……アヴァロン王国、本気で化物国家になりそうだね……」
「既に今更ですけどねー……あ、お義母様ですか?キリエです」
義理の母に連絡する義理の姉を見て、エイルは苦笑しつつ内心で思った。
――ユート・アーカディア・アヴァロンの婚約者。確かに、それは良いかもしれない、と。




