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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第12章 ケルム獣帝国

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12-01 大迷宮の準備/訓練希望

これまでのあらすじ:ラルグリス王国の偽王をぶっ飛ばした後で、ノゾミが留学して来た。

 バルドレイの事件が解決してから十日後、僕は謁見の間にコアメンバーを集めた。

 一度アヴァロン王国へ戻って来たが、僕達はもう一度ラルグリス王国へ向かう事になる。国の件はあれで良いが、僕達のもう一つの目的である大迷宮攻略はまだ達成していないからね。

 バルドレイが王座に君臨していた頃ならば勝手に行くんだけど、今はそれも外聞がよろしくない。なので、ラルグリス王へ連絡する事にして、堂々と大迷宮攻略に向かうつもりだ。


 そして攻略参加メンバーだが、これまでのメンバーは当然参加するはずだ。そうすると……アヴァロン留学生のノゾミ、そしてつい五日前に仮復活したクラリスがどうするかなのだが。

「あ、行きます! 行かせて下さい!」

「私は足手まといでは無いでしょうか? いえ、ご一緒出来るならしたいんですけど……」

 ノゾミは乗り気、クラリスは戸惑い気味だった。

 ノゾミはほら、フリードが居るから。それに、あの双子を瞬殺出来るくらいの力が欲しいんだろう、きっと。


 さて、そうするとクラリスだな。

「クラリスは、現状でうちの婚約者レベルのスペックを持っていると考えて良い」

「そっ、そうなんですかっ!?」

 驚くクラリスだが、自覚が無かったらしい。まぁ、復活しても特に戦闘などはしていないから、実感が無いのも仕方ない。

「いいかい、クラリス。君が使っているのは、僕が作った身体だよ?」

 静まり返る一同。え、何……? 


(((((なんという説得力のある言葉なんだろう……!! )))))


「何を考えているのか大体解るぞ? お前ら僕を何だと思ってるんだ……」

「暴君」

「常識ブレイカー」

「人間びっくり箱」

遺失魔道具アーティファクトのデパート」

「もういい、聞いた僕がバカだった……そんな風に思われてんの、僕?」

 ちょっと傷付いたわ。

「大半が冗談だけどね。語尾に良い意味で、が付いてくるんだよ」

 ユウキ、お前が言った暴君に良い意味で、を付けても暴君だろうが! 


「とりあえず、クラリス。大迷宮でもクラリスのスペックなら、十分通用する。根源魔法アカシックレコードが手に入るかは解らんが、蘇生後にもっかい連れて行っても全然構わないし……ディアマント大迷宮以外は」

「そうですね、ディアマント大迷宮以外は」

「私もお付き合いしますよ、ディアマント大迷宮以外は」

「ディアマント大迷宮……一体どんな恐ろしい迷宮なんだろう……」

 現時点で一番恐ろしい大迷宮だよ、ノゾミ。

「それなら……私もお供させて貰います」

「よし来た。そうしたら……」

 ノゾミとクラリスを加えて十七人か……うちのパーティも随分賑やかになったね。

「じゃあ、ラルグリス王に連絡してみるかね」


『……やはり、アヴァロン王にはバレていたか……』

 そういえば、あの大迷宮は隠されていたんだよね。何で隠していたんだろ? 

『あぁ、それは単純にダークエルフ族としてのプライドの問題だったのだ。自分達は他種族に劣らないと豪語していたダークエルフが、大迷宮を攻略出来ていないなどと外部に知られたくなかったのさ』

「予想外にどうしようもない理由だった……!!」

『どうしようもない……まぁ、そうかもしれんな。確かに今思えばどうしようもない理由だ。そういう凝り固まった考え方が、我等ダークエルフの最大の欠点なのかもしれぬな』

 おや、すっごく素直。見た目だけはバルドレイと同じなのに、受ける印象が全然違うね。


『よかろう、アヴァロン王国の大迷宮攻略を認めよう。代わりと言っては何なのだが……』

「あぁ、攻略情報は余す所なく伝えるよ」

『おぉ、それは助かる! よろしく頼むよ、アヴァロン王』

 うんうん、バルムンクが王様になった事で、他国との軋轢も徐々に解消されていくんじゃないかな。


************************************************************


「さて、それじゃあ装備を整えないといけないね」

 僕の言葉に、アリスが声をかけて来た。

「ユート君……ちょっと、良いですか?」

 おや、どうしたんだろう? 

「あの……正直な話なんですけど、私って役に立ててますか?」

「この娘さん、何を言っているのかな?」

 突然のネガティブ発言に、僕はちょっと理解が及ばない。


「このメンバーで役に立っていない人とか居ないでしょ」

 しかし、アリスは納得していない様子だ。

「私、最近色々と考えているんです……ユート君やユウキさんは、自分の持ち味を活かす為に色々と試行錯誤して、自分の戦い方を確立しています。でも、私は教わった事や与えられた事ばかりで……少し、自分を鍛え直したいんです」


 そんな事を考えていたのか……。

 自分を高めるのは良い事だと思うけど、無理してする程の事じゃない。

 僕とユウキの場合は付与魔導師と錬成魔導師という、非戦闘職が実戦に出る為の方策を練りに練ってみたってだけだし。


 しかしアリスの意見に、同調する者が居た。

「……ユート様、私も……もっと高みを目指したいと、そう思っています」

「そうですね。ユートさんの妻に相応しい女性となるべく、私も腕を磨きたいと感じています」

 生真面目なアイリに、少し茶目っ気を籠めて言うリイン。


「……私も、試したい事がある」

「うーん……今のままじゃ、置いて行かれちゃうからねー」

 無表情な中に、どことなく熱意を込めたクリス。腕を組んでウンウン唸るヒルド。


「先輩、私ももっと強くなりたい……そう思うんです」

「私も……! 皆さんに付いていく為には、今のままじゃ不十分だと思うんです……!」

 真剣な表情で、僕を見据えるメグミ。意外とストイックなノエルさん。


「ユーちゃん、たまには良いんじゃないでしょうか。皆の熱意は本物ですよ」

 苦笑しながら、キリエが僕に判断を促してくる。

「そうだねぇ……お兄ちゃん、少し特訓期間を作るのも良いかもしれないよ?」

 エイルまで、そんな事を言い出す。

 この娘さん達、既に一般人から隔絶した力を持っているんですけど? 大迷宮踏破ボーナスだけでも、勇者に匹敵するステータスを得られるんだから。


 ……しかし、身内に甘い系王様なのが僕である。

「そこまで言うなら、十日くらい訓練期間にしようか」

 僕の言葉に、皆が表情を輝かせる。全く、向上心が高いんだから。


「さて、特訓期間の前にノゾミとクラリスの装備かな? ノゾミは神官だし、ワンドとかメイスがいい?」

 ノゾミのセカンドジョブは神官だもんね。

「あ、それなら……その、刀とか作れますか? 実家が、剣道の道場で……私も、一応門下生だから」

 成程、そうだったのか。そういう事なら否はない。

「あぁ、構わないよ。むしろ前衛も後衛も張れるキャラは貴重だからね」

 刀型の武器は既に何度か製作したことがある。それを見せながら、ノゾミの意見を聞きつつ調整をしていくか。


「クラリスはどうする?」

「私は一応、槍を使います。なので、やはり槍がしっくりくるかと」

 成程、クラリスは槍使いか。

 ドワーフ族向けの槍ってどんなだろう? これも、本人の希望を聞きながら作成していく事になりそうだな。


「それなら二人の武器と、折角だし魔導衣装もそれ向きにしようか。他に調整して欲しい人いる?」

 他のメンバーは、笑顔で首を横に振る。

「お兄ちゃん、抱え込み過ぎだよ」

「そうですよ、ユート君。政務だけでも本来は大変なのに、街の様子を見て回ったり、おまけに専用機の開発も自分でしてるじゃないですか」


 いや、政務は緊急時や理由のある遠征以外で、他の人に任せるのは申し訳ないし。

 勿論、全てが全て僕の仕事にしているわけじゃない。他の人に任せて良いものは、執務室に作ったお願いゾーンに置いておく。

 大体は婚約者か、エイルやヒルド、ノエルさんが手伝ってくれる事が多い。それに出遅れると、ジルが悔しがるんだよねぇ。


「まぁ、無理のない程度にやるから大丈夫だよ」

 僕がそう言うと、リインが苦笑しながら言う。

「そう言うから、余程の事がない限りは頼らないようにしているんですよ」

 なんと、そうだったのか! 

「てか、ユート兄に頼んだら楽だけどさ、それじゃ自分の為にならないじゃん?」

「私達はユートを……アヴァロン王を支えるためにここにいるの。だったら、ユートの負担を増やすんじゃなくて減らす事を考えないとね」

 こ、こいつらっ!! 


「おいやめろ、泣くぞ? 嬉しすぎて泣くぞ僕」

「よしよししてあげよっかー?」

 子供じゃないんだから、それはやめて。

「とりあえずは解った、今はノゾミとクラリスの装備だな。後で、工房で話し合おうか」

「解りました」

「はい、陛下」

 そんな、優しい瞳で見ないでぇ……こういうの弱いんだよ、僕。


 ************************************************************


 ノゾミとクラリスの要望を確認した僕は、武器と装備の製作に取り掛かる。完成したのは、日付も代わってしばらく経った深夜だ。

「よし、明日……いや、もう今日だな。朝になったら渡す事にして、もう寝るか」

 しかし、腹が減った。宝物庫ストレージに、何か摘めるものとかあったっけか……。


 部屋に戻ると、そこには無防備な寝顔を晒すメイドが居た。なにやってんの。

 叩き起してやろうかと考え、ソファで眠るヒルドに一歩を踏み出し……そこで、ふとテーブルの上にある物に気付く。

 皿に乗せられているのは、おにぎりか? 夜食を用意して、待っていてくれたのか……。

 全く、可愛い真似をしてくれる。


 おにぎりを一つ手に持って齧り付く……うん、美味いな。

 今日は、もうこのまま寝かせてやろう。幸いな事に、無駄に広いからな……僕のベッド。

 ヒルドを横抱きに抱え上げ、そのままベッドに寝かせてやる見た目、あどけない少女だけど、世界神なんだよな……。

 残りのおにぎりも食べて、僕も寝間着に着替えて眠る。美味しいおにぎりのお陰で、空腹感は消え去っていた。


************************************************************


 身体を揺すられる感覚で、意識が覚醒する。

「……エイルか」

「おはよう、お兄ちゃん。もう朝だけど、起きれる?」

 ……起こしに来てくれたのか。確か、昨夜は……。

「で、何で世界神が側で寝ているの?」

 あ、そうでした。

「何か、夜食を用意してくれていたんだけど……どうやら、待っている途中で寝てしまったみたいでな」

「寝落ちか!」

 寝落ち文化がこの世界にもあるんですね。


「はぁ……もう朝食の時間になるよ、支度しないと。世界神は私が起こしておくから」

「そうだな、そうするか……シャワー浴びてから行くよ」

「オッケー。ほら、起きて世界神!」

「くー……すー……」

「起きろおぉ!!」

 ……優しく起こしてあげてね? しかし、これがあれか……朝起こしてくれる義妹とのやりとりとかいうイベントか。


 朝食の後で、ノゾミやクラリスに新装備を渡した。

 今日から九日間は、それぞれの訓練に充てる。どうするのかを聞いてみたところ、予想外の返答が返って来た。

「僕達は、オーヴァン魔王国のアヴリウス大迷宮に向かおうと思うんだ」

 そんな事を言い出したのは、ユウキだ。


「大迷宮内では、僕からの支援が出来なくなる。それも覚悟の上?」

「チッチッチ! 愚問だよユート君!」

「当然だね!」

「いつまでもユートにおんぶに抱っこの私達じゃないわよ?」

 どうやら、ユウキチームの決意は固いらしい。


「解った。ただし、期限は設けさせて貰う」

 条件として、七日以内に攻略する事。

 そして一日一度、定時連絡をする事にした。僕がアヴリウス大迷宮の入口から中に入れば、連絡は可能だからね。

「ユート兄、過保護……」

「自覚あるから、あんまり突っ込まないでくれる?」


 それに対し、フリードも決意を固めた表情で僕に告げる。

「私もジークハルト竜王国の、ディアマント大迷宮に挑もうと思います」

「やめとけフリード、あそこだけはやめとけ……」

 僕に続いて、他の面々も必死でフリードを止める。フリードと、それに付き合うつもりの様子であるノゾミ・クラリスが「え、何で?」って顔をした。


 ディアマント大迷宮の酷さを語り聞かせるのだが……逆効果だった。

「それは精神修行にもなりますな」

「うん、平常心を鍛えられそうです」

「陛下達が苦戦したという大迷宮ですか……腕が鳴ります」

 ……決意は、固いらしい。

 フリード達にも、ユウキ達と同じ条件付きで許可を出すしかなかった。とても、心配だ。


 そして、婚約者達なのだが……。

「実は、ちょっと宛があります。なので、毎日帰る代わりに詮索をしないで欲しいんです」

 キリエを始めとする婚約者勢+エイル・ヒルド・ノエルさんの言葉に、ちょっと寂しい気持ちになる。

 しかし、束縛系男子は嫌われるもんね。うん、ここは信頼して送り出そう。

「解った、何かあれば連絡してね」

 僕の言葉に、皆は笑顔で頷いた……寂しい。


************************************************************


 さて、僕は執務室で政務に励んでいます。大迷宮に入ると、攻略完了までアヴァロンに戻れないからね。書類とかを今の内に処理しておかないと。

「それにしても、大迷宮にはそれぞれコンセプトがあるみたいだけど、今度のは何が来るのかねぇ」

 僕の独り言に、側に控えていたジルが反応を返してくれる。

「これまでは、どんなコンセプトだったんですか?」

 これまで……か。


 オーヴァン魔王国のアヴリウス大迷宮は、純粋な実力だ。

 強力な魔物と大規模かつ複雑な作りの迷宮。それによる、攻略者の体力や魔力を試していた。

 ジークハルト竜王国のディアマント大迷宮は、思い出しただけで怒りが込み上げてきそう。

 罠の嵐と、ステータスダウンの連発。更には罠の合間に煽りコメントで、攻略者の怒りを煽り、冷静さを失わせる。

 イングヴァルト王国のアレキサンドリア大迷宮は、魔法の消費量を上げ、更に自然に魔力が回復しない厄介な試練だった。

 徐々に硬く強くなっていく魔物相手に、魔法を使わずに攻略出来るかが鍵となる。戦略性を試される大迷宮だ。


 それらを話すと、ジルは思案顔になる。

「という事は、他にやられたら困るような何かが待ち構えているのかもしれないですね。例えば、毒とか」

「あー、それは確かに困るだろうな、普通なら」

「困るでしょうね、普通なら」

 守護の首飾りタリズマンで、毒は無効化出来るからね。そんな感じなら、僕達的には余裕なんだけどなぁ……。


「その辺、エイルは知っているみたいだけど……事前にそれを聞くのはルール違反だし、エイルもそのつもりは無いだろうし」

「エイル様が教える気はないというのは解りますが、ルール違反というのは?」

 書類に目を落としながら、僕は苦笑する。

「ワイズマン達に対する侮辱って意味さ」


 ただでさえ、遺失魔道具アーティファクトによる力技で攻略しているんだ。その上、知己の神竜エイルから情報を得てから向かうなんて、冒涜以外の何物でもないだろう?

 それを説明すると、ジルが苦笑した。

「解るような、解らないような……ご主人様は、たまに妙な所にこだわりますよね」

「まぁ、僕なりの美学というか、そんな感じのものだね」

「フワッとしてますね」

 まぁね。


「でもまぁ、ご主人様なら大丈夫でしょう。他の皆様も、己を高める為に訓練をされていますし。大迷宮攻略中は、国の事は僕達にお任せ下さい」

「ありがとうジル。君達がいるから、こうして目的の為に行動できる……感謝しているよ」

「勿体無いお言葉です」

 若いのに、ジルは大したもんだ。アヴァロン王国の若き文官は、本当に頼りになるなぁ。


************************************************************


 さて、ユウキ達とフリード達の定時連絡に向かう。

 大迷宮の結界の中に入れば、内部を対象とした魔法は発動する。円卓の座ラウンドワンが機能するならば、連絡を取り合えるのだ。

 聞いてみたところ、どちらも順調に進んでいるとの事。また翌日に連絡する事を伝えて、僕はアヴァロン王国へ戻った。


 アヴァロンに戻ると、婚約者達+αが戻っていた。キリエとエイル以外、満身創痍なんだけど……?

「何して来たんだ、メチャクチャ疲れているみたいだけど……」

「いえ……大丈夫です」

「ええ、手応えはありましたし……」

 何か、とんでもない事をしていないか、この娘さん達。


 心配だけど、詮索する系男子は嫌われるし……ここは、グッと我慢して彼女達を信じるべし。

 旦那はドシッと構えて、彼女達を見守ろう。

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