11-11 幕間/クラリス、復活?
アヴァロン王国国王、ユート・アーカディア・アヴァロン……彼は今、自作した工房に缶詰め状態だった。
王としての業務や他国への遠征、世界会議の応対等で時間を取られつつも、ある物の製作に相当な時間を費やしていた。それは、ある目的……そして、仲間の為に。
<それで、私が呼ばれた訳ですね?>
「あぁ、クラリス」
クラリス……彼女はドワーフ族の少女で、クエスト王国の王都カルネヴァーレを襲った魔物の大群との戦いの中で命を落とした、ジョリーン率いる冒険者パーティのメンバーだった。
ユートの目的の一つは、部位欠損を癒す回復と死者蘇生の魔法を探す事である。部位欠損により戦線離脱したジョリーンとリリルル、そして命を落としたクラリスを救う。その為に、各地の大迷宮を攻略している。
しかし、ジョリーンやリリルルはまだしも、クラリスは幽霊状態で現世に留まっている状態だ。いつまでもそのままではいけないと思い、ユートはある物を製作していたのだ。
「これが、君の代用の身体だ。どうだろう?」
<わぁ、まるで本物の私みたいですね!>
そう、用意していたのはクラリスの為の身体だ。
身長は百二十センチメートル程……ドワーフ族では高い方らしい。淡い緑色のロングの髪、それなりにある胸囲、琥珀色の瞳。見た目は、本物の少女にしか見えない。そんなドワーフ族風自動人形の身体が、ベッドっぽい作業台の上に寝かされている。
一糸纏わぬ姿のまま放置するのも憚られたので、上から白いシーツを被せている。
これまでユートは執務や冒険の合間を縫っては、ゴーレムや自動人形について記された文献を読み漁り、必要な素材を搔き集め、根源魔法や遺失魔道具を総動員して製作を進めて来た。
その甲斐あって、完成した身体は生前のクラリスそっくりである。
<これ、何を使ってるんですか?>
「骨格は鉱物で、他は魔物の素材」
<ま、魔物の素材……>
魔物から作った身体と聞いて、ちょっと抵抗を感じるクラリス。しかし、見た目は完全にクラリスの物にそっくりだ。
「まぁ、人と似通った部分だけを使っているから。あと、ゴブリンは使ってないから」
<その配慮はありがたいですけど……うーん……>
皆の嫌われ者ゴブリンの素材など、使って欲しくは無いだろうという配慮である。最も、ゴブリンの肉体構造は、魔物の中で一番人間に近いのだが。
「蘇生までのつなぎと思って、我慢して貰えると……ほら、人の身体を解体して素材にする方が、僕としては抵抗があるし……ってか、それやったら狂った人だよ」
<それもそうですね!? よくよく考えたら、他に選択肢が無かったわけですね>
人間の死体を解体して、それを素材にして身体を製作するとか、猟奇的過ぎてかなりやばい。
「他に何かいい素材が見つかったら、更に改良していくよ」
<解りました、それじゃあ……お願いします>
クラリスは、ユートの側に近付く。
「それが、僕は魂魄の概念魔法にも適性が無いんだ。なので、コレを作った」
取り出したのは新たな遺失魔道具。
胸元にある窪みにピッタリ嵌るようにできた、輝きを放つ宝石のようだった。
<何ですか、これ>
「魔石。魂魄……つまり幽霊体のクラリスが、この体に自由に出入り出来る入り口みたいなものかな。これに入れるのはクラリスだけにしてある」
<本当に何でもありですね、陛下……>
苦笑しながら、ユートは魔石をクラリスの身体に取り付ける。
「さぁ、やってみてくれるかい?」
ユートに促され、クラリスは頷いた。
恐る恐る魔石に触れ……吸い込まれるように、その幽体が体の中に入っていく。
「……どうかな、クラリス」
「……あ、はい。凄い、まるで本当に自分の身体みたい」
起き上がり、クラリスは自分の身体を見下ろす。
そこで、気付いた。
「……あの、質問して良いですか」
「正直済まないとは思ってるんだけど、ちゃんと理由はあるのよ?」
完璧すぎるほどに、自分の身体そのものだった。胸のサイズとか、腰回りや臀部のあたりとか。
「陛下のスケベ……」
「いや、本当に済まない。でも、一応言い訳を聞いてくれる?」
ユートがそこまでしたのは、クラリスが元の身体に戻った際に生じる違和感を無くすため。それと、他人がクラリスを見ても怪しまれない為だ。
「そこまで精巧な自動人形を作れる人はそう居ないと思うし、蘇生の方も知られたら相当大変な事になる。君自身も碌な目に合わないだろう」
事実、ユートが製作した自動人形はこの世界に二つと無い、人間にしか見えないクオリティだった。更には、超高性能なスペックを備えた逸品なのである。
これが知られたら、クラリスを狙って襲い掛かる愚か者が出て来る可能性は高い。
「それと、身体データは数値で見ただけで、クラリスの本当の身体には指一本触れてないから! 創世神様に誓って!」
「あ、はい……信じますから落ち着いて下さいよ。私まで恥ずかしくなって来ちゃうじゃないですか」
クラリスも、本気で怒ったり嫌悪しているわけではない。ちょっとしたじゃれあいのつもりである。
「はぁ、でも精巧過ぎて本当の身体と変わらないですし。本当の身体の裸を見られたも同然だと思うんですけど。責任取ってくれます?」
そう言って悪戯っぽく笑うクラリス。本気じゃないというアピールだと、ユートも勿論気付いている。
「君が本気なら、僕も本気で考えるよ。それじゃあ皆に会いに行こうか!」
「そうですね! 早く皆に会いたいなー」
************************************************************
「……は?」
「……クラ、リス?」
「あ、あらー……まさか、もう蘇生したの? どうやって?」
上からエルザ・ジョリーン・リリルルである。ユートに連れて来られたクラリスにしか見えない少女の姿に、目を丸くしている。
「いや、本当の身体じゃないんだけどね。陛下が自動人形の身体を作ってくれたんだ」
「……ク、クラリスーッ!!」
思わず駆け寄ってその身体を抱き締めるジョリーン。
「済まなかった、私はお前を助けられずに……」
「いや、無理でしょあれは。私って心臓を貫かれて即死したんだから」
自分の死因についてあっけらかんと言い放つクラリスに、ユートは苦笑する。
「陛下、新種族でも生み出しました!? 生きてるようにしか見えない!」
「うわぁ、クラリスだよ! どっからどう見てもクラリスだよーっ! ユード兄ィッありがどう゛―っ!!」
泣き出したエルザにつられて、他の三人も泣き出す。クラリスも泣いている、ユートがそうできるように作ったから。
号泣する四人に苦笑して、ユートは部屋を後にする。積もる話もあるだろうし、好きにさせてあげようという配慮だ。
************************************************************
「あっ、ユートさん!」
「何か、泣き声が聞こえたんだけど!」
廊下を歩いていると、ノエルとマリアが駆け寄って来た。泣き声を聞き付けて、対応の為に直行したらしい。
「あぁ、ドワーフ勢だよ。クラリスに自動人形の身体を作って、仮復活させてあげたから、それでだね」
ユートの言葉に、二人は目を丸くする。この王様は一体何を言っているのか、と。
「後で夜ご飯の時にでも紹介するから、今はそっとしておいてあげて。それと、他の皆にも伝えてくれるかな」
「あ、はい! 解りました!」
「りょ、了解よ……」
二人にお礼を言って、ユートは謁見の間へ向かう。これでドワーフ少女達の再会に水を差す者はいないだろう。
「今は、ゆっくりと四人で過ごすと良いさ……さて、次は大迷宮攻略かなーっと!」
次回から新章に入ります。
今回、短いのでキャラデザ紹介でも。
まずは人化した神竜、エイル・アーカディア・アヴァロン。
人化した世界神、ヒュペリオンことヒルド。
続いて地味に可愛いお姉さん、ノエル・アイングラム。
ユウキの恋人、ドワーフ族のエルザ。
同じくユウキの恋人、竜人族の紅玉のマリアンヌ。
ユートの腹心、フリードリヒ。
留学勇者・ノゾミ。
復活のクラリス。
メインキャラはどんどん今後も上げていきますが、このキャラのイメージデザが欲しいという方は御感想等で頂ければ嬉しいです。
※こちらの画像は、http://khmix.sakura.ne.jp/様の配布するフリーソフトにて製作しております。
 




