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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第11章 ラルグリス王国

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11-07 王の帰還/留学

これまでのあらすじ:偽王の正体を暴露して無双してます。

「貴様……今何と言った」

 おや、さっきまではプルプル震えていたくせに、高圧的な態度が戻って来たじゃないか。

「だーかーらー、俺を倒せたら見逃してやるっての。ビビって震えていたお前に出来るかね?」

 俺の挑発に、バルドレイは剣を突き出して声高に叫ぶ。

「良かろう、王の力というものを思い知らせてやるわ! 覚悟しろ小僧っ!!」

 馬鹿かね、こいつ。馬鹿だろう、だって……先程の殺気を放っていたのは誰なのか、すっかり忘れているようだし。


 剣を振り被って、こちらに接近するバルドレイ……しかし、尻が痛いのか微妙に内股だ。

 何か、最初はここでマスカットの後で、某魔法少女アニメの第三話”首プラーン”でもしようかと思ったんだけど……間抜けな姿に萎えた。うーん、処刑はラルグリス王国に任せるか?


 ……とまぁ、こんな余裕で思案できる程度の剣筋である。

「このっ! このっ!」

 駄々っ子かよ。

 全て最小限の動きで、紙一重で躱していく。振り下ろされた剣を半身になって避け、薙ぎ払われた剣はジャンプして躱す。繰り出された突きはしゃがみこんでやり過ごし、首を狙って振るわれた剣はバックステップで空を切る。

「小癪なっ!!」

 更に激しさを増す攻撃だが、のろいのろい。避けて避けて避けて避ける、躱して躱して躱して躱す。

 はぁ……さっきまでのやる気を返して欲しい。めちゃくちゃ適当に避けてるのに、対策も何も無しに繰り出される剣は虚しく空を切るだけだ。


 うーん……あっ、そうだ。

「そろそろ、こちらも手を出すぞー」

 宝物庫ストレージから取り出した物……黒くて、長くて、硬い棒。それを見た瞬間に、バルドレイの口元が引き攣った。

「さて……お仕置きの時間だ」

「うっ……うおおぉぉぉっ!!」

 よほどトラウマになったのかね。じゃあ……もっと、イッておこうか。


 決死の形相で襲いかかるバルドレイの剣を躱して、片足立ちになる。一本足打法だぜ!

「じゃあ……そぉいっ!!」

 お仕置きバットのフルスイングだ!! 

 ――――ズパァンッ!!

「ン゛ァ゛ッ!!」

 おぉ、良い声で鳴くじゃないか。


「ぎっ……ぎざまぁ……っ!! お、俺は王だぞっ!!」

 俺も王ですが、何か? 

「偽物の王だろう? お前が王だと言うなら、何故今お前を助けようとする者が居ないんだ」

「お、おいっ!! 俺を助けろっ!! 何をしている、早くしろぉっ!!」

 だが、兵士も勇者も、宰相や軍団長も視線を逸らす。

「これは俺の持論だが、王だから人が集まるんじゃない、人が集まるから王になるんだ。人を惹き付ける力こそが、王の力だと俺は思っている。お前には……それが無い」

 俺自身まだまだだし、それを押し付けるつもりは無いけど、実際にこいつには求心力は無いな。


 それじゃあもう一丁……あっ、逃げようとしてるな? 

 しかし尻の痛みで全力疾走できないようで、その歩みは鈍い。では、こちらに向けられた尻に向けて……チェストーっ!! 

 ――ズパァンッ!!

「アガァッ!?」

「あはは、これ楽しいわ」

 ――ズパァンッ!!

「ぎひぃっ!!」

 ――ズパァンッ!!

「やめで……っ!!」

 ――ズパァンッ!!

「うひぃっ!?」


「んー……何か盛り上がりに欠けるなぁ……」

 四つん這いになりながら、尻の痛みに耐えるバルドレイを尻目に首を傾げる。

「ユート、あのセリフが無いとダメなんじゃない?」

「んー? あっ、あれかー!」

 デデーン、ね! 


 あっ、どうせだからみんなにもやって貰おうかな。まずはやはり、バルムンク王だね。

「アイリー、もう終わってる?」

「はい、ユート様。滞りなく」

 うんうん、流石だね。

「バルムンク王達を連れてきてー。ブランク伯爵、君達もおいでー!」

 まず、魔導兵騎ラッシュラビットで連れて来られたバルムンク王にバットを渡す。

「……アヴァロン王? もしかして……」

 戸惑いの視線を向けるバルムンク王に、僕はサムズアップして応える。

「やっちゃいなよ、YOU」

 皆でお仕置きターイム。


「バルドレイ……」

「あ、兄上っ!! や、やめっ……!!」

「……覚悟しろ、愚弟!」

 剣呑な光を宿したバルムンク王。さぁ、盛り上がって参りました!!

「デデーン! バルドレイ、アウトー!」

 ――ズパァンッ!!

「ア゛ッーーーー!!」

 良い音入った!! 流石ダークエルフの王だわ!!


「……まだまだ怒りは収まらぬが、多少は溜飲が下がったな」

「それは何より。ラピストリア王女はどうする、一本いっとく?」

「……あぁ、お借りする」

 その瞳に宿るのは純粋な怒りだ。

「や……やめ……っ!!」

「断る!」

 バットを構えて、力を溜める王女。

「デデーン! バルドレイ、アウト〜!」

 ――ズパァンッ!!

「ひぎぃっ!?」

 うわぁ、良いのが入ったな。凄いなこの王女。

 バルドレイは……うわぁ、痛みで涙と鼻水とヨダレが……きったねぇなぁ。


「ほれ、ブランク伯爵」

「感謝します、アヴァロン王」

 バットを手渡すと、伯爵は素振りをしだした。

「ブ……ブランク伯爵……っ!! う、裏切ったなぁっ!!」

「貴様も陛下を裏切ったであろう? ならば裏切られても、文句は言えぬな。第一、貴様に従ったのは全てこの日の為……真の王をお救いする、その為だけに耐えてきたのだ。積年の怒り、その数割でも晴らさせてもらうぞ!!」

 よほど腹にすえかねていたのか、普段に比べて口調がかなり厳しく冷たい。

「や、やめろ……っ!! 俺は、俺は王だぞっ!!」

「貴様は王ではない!!」

 ブランク伯爵はそう断言しつつ、痛みで身動きが取れないバルドレイの背後に立つ。


「それではー、デデーン! バルドレイ、アウト〜!」

「ふんっ!!」

 ――ズパァンッ!!

「ほごぉっ!?」

 鳴き声のバリエーション多いな、こいつ。

 それにしても、ブランク伯爵って文官じゃなかったっけ? あ、でも確か伯爵は武功を上げて叙爵されたって聞いたな。文武両道なのか。


 さてさて、他の貴族や兵士達にもバットを渡してあげようかな。人数も多いし、量産するか。

 一々俺がコールするのも面倒なので、そちらも遺失魔道具アーティファクトで解決しよう。

「それじゃ、適当に作るかぁ」

「はいはい、錬成しちゃおうねー」

「陛下、取り押さえた者達は全てこちらへ?」

「いやぁ、人数多いしトップスリーだけで良いんじゃね?」


 淡々と打ち合わせる俺達に、宰相や軍団長が顔を青褪めさせる。

「わ、私は命令されただけでっ!!」

「俺も、偽物だとは知らなかったんだっ!!」

「嘘つけよ。お前達も甘い汁は十分吸ったろ? さぁ、その代償を支払う時だよ。ユウキ、フリード、縛って転がそう」

「了解、陛下」

「お任せを」

「「や、やめろぉぉっ!?」」

 ははは、やめない。


 ――ズパァンッ!!

「ぎゃぁぁっ!?」

 ――ズパァンッ!!

「ぬおぉっ!?」

 ――ズパァンッ!!

「ふがぁっ!!」

 それから数時間に渡って、王城前広場にお仕置きバットが炸裂する音と、お仕置きを受ける者達の悲鳴が響き渡った。


************************************************************


「いやー、良い仕事したわー」

「リアル百叩きの刑とか、まさか見るどころかやる事になるとは思わなかったよ」

 あまりの痛みでビクンビクンしている連中を見ながら、僕達はそんな事を話していた。


「アヴァロン王、此度の助力に心から感謝を言わせて欲しい」

「気にする事は無いさ、ラルグリス王。こちらはただ首を突っ込んで、好き勝手しただけだよ」

 本当に好き勝手させて貰いました。

「アヴァロン王、貴殿は何故そこまで……」

 何故……ねぇ。

「まぁ世界同盟とか、ヴォルフィード皇国との事とか、色々あるっちゃあるんだけどね……一番の理由は、脳筋剣鬼の故郷だからかな」

 そう、剣鬼ローレン……ダークエルフ族の英雄であり、僕にとっても叔父のような人。

 つまり、身内の故郷である。ほら、僕が介入するには十分な理由だ。


「そうかそうか、俺の為にここまで大騒ぎを起こしたのか」

「あの人には沢山鍛えて貰ったからね。ちょっとは恩返しでもしないとさ」

「ハッハッハ、あのハナタレ小僧が随分と大人になったもんだ!」

 ……あれ、何で? 

「剣鬼ローレン!?」

「おう、バルムンク殿下……いや、もう王なんだったな!」

「ご無沙汰しております、陛下」

「エメリアさんまで!?」

 何で二人がここに居るの!? 

「ユーちゃん、もう五年経ったんですよきっと」

 ……あー! そう言えばこの二人は、ヴォルフィード皇国とラルグリス王国を五年毎に行き来してるんだっけか! 


「あー! さっきのセリフは忘れろ! 聞かなかった事にしろー!」

「ダハハハハ! 照れんな照れんな! これはレオにも教えてやらないとなぁ!」

「やめろっての!」

 ――ズパァンッ!!

「ぬぉっ!? 何だそれ、超イテェ!!」

 頭にぶち込んだら、記憶を失わないかな?


「ア、アヴァロン王……? その、剣鬼ローレンや大魔導師エメリアと、知り合いなのか……?」

「ん? あぁ、知り合いと言うか何と言うか……」

 どう説明したもんかなぁ……。

「バルムンク陛下、このユートはな、俺達の仲間であるレオナルドとアリアの息子だ!」

「なっ……勇者と聖女の息子だと!? そ、そうなのk」

「サラッとバラしてんじゃねーよっ!!」

 ――ズパァンッ!!

「んぐっ!? おい、それ止めろユート、いてぇよ!」

「ねぇユート、それ私にもくれないかしら……良いお仕置き手段になりそう」

「エメリアっ!?」

 よし、後でエメリアさん専用に作ってあげるか。


「……うん、何でも無い」

「済みませんね、ラルグリス国王陛下……いつもあんな感じでしてねぇ」

 あっ、バルムンク王ゴメン。


 ……


 さて、混乱も収まった所で、いよいよ来たるべき時だ。王城前広場に集った民衆が固唾を呑んで、壇上に立つバルムンク王を見る。

「ラルグリス王国の民よ、長い間苦労をかけて済まなかった」

 僕が貸した拡声の遺失魔道具アーティファクトで、王城どころか王都中にこの声は届いている。

「愚弟バルドレイの暴挙、そしてバルドレイに従った者達の裏切りは、私に王としての資質が足りなかったが故だったのだろう」

 ざわめく国民達。


「王とは人を惹き付ける者……そう言った者がいる。私に求心力が足りぬばかりに、皆には迷惑をかけた」

 それ言ったの、何処の誰だっけー。見んな、こっち見んな! 恥ずかしいんだよ、そういうの!

「先の言葉を言った者のように、私もこの国を支える皆が自然と集うような王を目指したいと思う……至らぬこの身だが、どうか力を貸して欲しい」

 数秒の静寂。

 その後に、誰かが手を叩いて拍手をし出す。その拍手は伝播していき、やがて盛大な拍手へと変わった。


「アヴァロン王、どうぞこちらへ」

 えっ、このタイミング!? くっ……行かないわけにはいかない。壇上に上がり、バルムンク王の横に並ぶ。

「此度の件、こちらのアヴァロン王達が居なければ、恐らく私はバルドレイに殺されていたであろう。故に、アヴァロン王達に我が国の最上級勲章、深青湖勲章を贈ろう」

 おぉう、毎度お馴染み叙勲タイムだったか。

 そういや、アヴァロンにも勲章を作った方が良いかな?


「この度は、本当に世話になった……この恩は決して忘れぬ」

「自分がすべきと思った事をしたまでだ。それに、貴国が忙しくなるのはこれからだろう?」

「ははは、それもそうだな……さて、アヴァロン王。この場を借りて、貴殿等に相談したい事があるのだが……」

 あぁ、やはりそう来たね。

「我がラルグリス王国は、世界同盟への加盟を改めて希望する」

 その言葉に、民衆が盛大に沸いた。ラルグリス王国がどうなるかはこれから次第だろうが、今のバルムンク王や民衆を見る限りは大丈夫だと思う。


「ふむ……では、その話をここから正式に始めようじゃないか」

 はい、銃剣入りまーす! 門弾ゲートバレット入りまーす! 転移魔法陣開きまーす! 各国の王が出て来まーす! 

「……はっ?」

 銃剣を取り出した辺りでこちらを取り押さえようとした兵士達が、間の抜けた声を出す。

「それでは僕から紹介しよう。こちら、世界同盟加盟国の王達だよ」

 僕の言葉が、広場に響き渡る。痛い程の静寂……そして、次の瞬間。

「「「「「えええぇぇぇぇっ!?」」」」」

 そんな驚きの声が、広場を満たした。


************************************************************


 バルドレイとその手下達は、現在牢屋の中に連行された。

 尻の痛みに耐える三人のトップ、そしてそれに従った者達の処遇に関しては、ラルグリス王国にお任せする。まぁ、十中八九極刑だけど。


 そんな事後処理を終え、僕達は王城内にある会議等に使われる部屋で、臨時世界会議だ。

 まずは各国の王達と協議をした結果、ラルグリス王国は世界同盟加盟国として迎え入れられた。

 正統なラルグリス王は外交に前向きだったので、各国の王もそれを快く受け入れた。無論、メイトリクス皇帝もだ。


「これからは、歩み寄って溝を埋めて行きたいものだ」

「うむ、世界同盟の同志となったからには、互いに助け合って行こうぞ」

 そんな言葉を交わしながら、エルフ族とダークエルフ族の国家元首同士は固い握手を交わしている。

 種族間の問題だし、一日や二日ですぐに「はい、仲良くしましょうね」とはなるまい。

 だがこの交わされた握手は、問題解決への貴重かつ大きな第一歩だと思う。何かあれば、こっちも助け船を出して行こう。


 その後で、お馴染みとなった世界の窓ウィンドウズ魔導通信機マギフォン守護の首飾りタリズマンをバルムンク王に渡す。

 円卓の座ラウンドワンは親交のある殿下勢+アマダム用だから、魔導通信機マギフォンだ。

 加えて二十組の種族看破眼鏡と王笏セプター宝物庫の指輪ストレージと机の上に並べる。


 これには流石のバルムンク王も、口を開けて呆然としていた。

 ラルグリス王家は王妃が既に亡く、公爵もバルドレイのみだったらしい。なので、他の王族用遺失魔道具アーティファクトはラピストリア王女に渡す。

 当のラピストリア王女は遺失魔道具アーティファクトに驚きながらも、ユウキをしきりに気にしている。


 さてさて、もう一つ問題なのが勇者だ。

「……此度の件で、勇者がアヴァロン王を攻撃した件についてなのだが……」

 あー、そう言えばそうだったね。

「その辺の処置は、ラルグリス王国に全て任せる。特に実害は無かったからな。なので、お咎め無しでも再教育でも、好きなようにすると良いだろう」

 僕の言葉に、バルムンク王はホッと胸を撫で下ろした様子だ。

 自分が関わっていないとはいえ、相手は勇者だからね。その戦闘力は、普通の兵士とは比べ物にならない。

 苦々しくこちらを睨むホシノ兄弟だが、無視する。相手にしても碌な事にはならんだろうからね。


 そんな中、ノゾミ嬢が挙手した。

「発言をよろしいでしょうか」

 おや、どうしたんだろうか。

「発言を許可しよう。何かあるのかね、勇者ノゾミ」

 バルムンク王の先を促す言葉に頷き、ノゾミ嬢はある一方を見る。そう……僕達アヴァロン王国のメンバーの方だ。

「私はアヴァロン王国へ移籍したいです」

 その爆弾発言に、会議室内にどよめきが起きる。アヴァロン・ラルグリス・他の世界同盟国全体でだ。

 僕としては解らなくもないけどね。


「……り、理由は何だね。ラルグリス王国としては、待遇の改善や支援ついては無論、改善していくつもりなのだが……」

「まず一つ、ホシノ兄弟と行動を共にしたくありません。昨夜、この二人に強姦されそうになりました。兵士達も私を助けようとはしませんでした」

 その兵士達、今牢屋にいるんだけどね。


 突然の暴露に、ホシノ兄弟が慌てて反論しようとするが、ノゾミ嬢は更に畳み掛ける。

「その際、私を守ってくれたのはアヴァロン王国の使者として来訪していた、フリードリヒ様です」

 まぁ、でもそこまで言えば……皆も察しただろう。

「それに、彼らはバルドレイが偽物の王様だと知っていたのに、アヴァロン王に対して攻撃していました。信頼出来ない人の側に居たくありません。移籍を認めて貰えないなら、亡命します」

 クロイツ教国の二の舞だな、それだと。

 しかし……どうしたもんかねぇ。はい、そうですかーって受け入れたら、角が立つよなぁ。


「勇者ツヨシ、勇者シキ。今の話は真実か?」

 厳しい口調で問い掛けるバルムンク王に対し、慌てて立ち上がるホシノ兄弟。

「俺達はそんな事していないぞ!」

「そうだ、何かの間違いだって!」

 必死に否定する双子達だが、ノゾミの視線が更に冷たくなっていく。

 と言うか、王様に対してタメ口きくなよ、お前ら……勇者だからって、何でも許されると思うなよ?

 ユウキ達は良いんだよ、僕が許可しているんだから。


 バルムンク王は、こちらを……正確にはフリードを見る。

「どうだ、フリード」

「私には、彼等が勇者ノゾミ殿に不埒な真似をしようとしているようにしか見えませんでしたが。その為、ノゾミ殿に確認をした上でお助けした次第です」

 フリードは淀みなくその時の状況について説明する。双子勇者の視線が険しくなる。

「成程、言い分としては二対二だな」

「別に彼等が認めなくても構いません。ですが、彼らの側に居るのは嫌です」

 相当腹に据えかねたのか、厳しい口調で拒絶するノゾミ嬢。


「勇者二人の外聞の為にも、この件は内々で済ませるべきだろうな」

「しかしそうなると、ラルグリス王国は勇者を一人、アヴァロン王国に差し出す形になるぞ?」

「だが、それはアヴァロンのせいではなく、勇者二人の行いによるものではないか?」

 各国の王が溜息交じりに意見を出し合う。うーん、どっちに転んでも厄介だ。


 ノゾミ嬢を受け入れたら、ラルグリス王国は勇者を一人失う事になる。アヴァロンに対し表面上は普通にしていても、勇者を奪ったという気持ちが残るのではないだろうか。

 しかし逆にノゾミ嬢の申し出を断れば、それはアヴァロンは彼女を切り捨てるという事だ。

 それはよろしくないし、僕も彼女に対してそんな真似はしたくない。ほら、さっき守る為に防壁張ってくれたし、絶対いい子だと思うんだよね。

 となると……これしかないかな。


 パンパンと手を叩き、注目を集める。

「解った解った、では折衷案を出そうじゃないか」

 会議室内の全員が、僕に注目して静まり返る。口を開いたのは、やはりバルムンク王だった。

「……何か良い案があるのか、アヴァロン王?」

「かなり無理矢理な案にはなるが、ラルグリスと勇者ノゾミにとっての要求は満たされると思う」

 そう、どちらも立てる方法が一つ、あるのだ。


「勇者ノゾミ。移籍や亡命ではなく、アヴァロン王国に留学するのはどうだ? 籍はラルグリス王国に残しておき、アヴァロン王国でうちの勇者三人と共に鍛えるという話だな。国の用事でラルグリス王国に戻る際には、アヴァロン王国から護衛を付けよう」

 僕の言葉に、ノゾミの表情が明るくなった。

「成程! その……アヴァロン国王陛下。護衛には、どなたを……?」

「そうだなぁ、勇者の護衛が務まるとすれば、同じ勇者か? もしくは、同格の実力者だなぁ。そうなると選択肢が限られるわけだが……どうだ、フリード。やってみるか?」

「はっ、お任せ下さい」

 その言葉に、ノゾミ嬢の表情が和らいだ。

 逆に双子勇者の顔が怒りに染まる。しかし、双子の事などどうでもいいので無視だ。


「どうだ、ラルグリス王。一応、これならノゾミ嬢はラルグリス王国の所属のままに出来るし、彼女の意向も達成される。国の行事だったり、勇者としての活動の場合には、ウチのフリードを護衛として付ける」

 扱い的には、ノエルさんと近い感じだね。

「成程、確かに折衷案だな……うむ、勇者ノゾミもそれで良いのだな?」

「はい、それなら私は大丈夫です」

 ノゾミの返答に、バルムンク王も深く頷く。

「よかろう、ではノゾミ・モチヅキのアヴァロン王国への留学を認める」

 こうして、アヴァロンにまた勇者が一人増える事となった。

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