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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第11章 ラルグリス王国
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11-06 ラッシュラビット/真の王

これまでのあらすじ:偽物のラルグリス王と対峙しています。

 バルドレイ・デア・ラルグリスを前に、僕は魔導装甲を纏った黒騎士バハムートの状態で歩み寄った。

 それに対し、苦言を呈すバルドレイ。

「これは失礼した……いやなに、クエスト王国で使ったこの鎧を着ていれば、貴国の民も盛り上がるのではと思ったのだが、これは失敗だったな。しかし、これを脱ぐのは手間がかかる……流石にこの衆人環視の中で、鎧を脱ぐ間抜けな姿を晒すのも避けたいのだ」

「ふん、その状態ではアヴァロン王だとは解らぬではないか! それとも、顔を隠さねばならぬ事情でもあるのか?」

 うん、あるんだな。


「ふむ……あぁ、それならば僕がアヴァロン王であるか、証明する手段があるじゃないか」

 そう言って、僕はラルグリスの勇者達に顔を向ける。

「勇者達には人物鑑定ステータスチェックの人理魔法があったであろう。それで僕を鑑定して見ると良い」

「っ!? ば、馬鹿な事を! ならぬ、それはならぬぞ!」

「えっ、何で?」

 ……かかった。


「……他国の王に対し、人物鑑定ステータスチェックをするなどという無礼を、勇者にさせるわけにはいかぬ!」

「いや、先に無礼をしたのはこちらだからな。それくらいは構わない。見られて困る事も無いしな」

「ぬ……っ!!」

「それに、勇者の人物鑑定ステータスチェックならば賞罰確認や、僕のステータスも見えるだろう? そこまでしておけば、貴国としても安心ではないか?」

「ぐっ……ぬぅ……よ、良かろう! そこまで言うならばアヴァロン王と認めてやろうではないか! 人物鑑定ステータスチェックも不要だ、その覚悟に免じてな!」

 ざわめく民衆達。それではまるで、勇者が人物鑑定ステータスチェックをするのに不都合があるような印象を受けたのだろう。


「ふむ、そうか? では、それで良いだろう。ところでラルグリス王、実は先日ダークエルフ族を保護してな。国に帰りたいと言うので連れて来たのだが、受け入れて貰えるのかな?」

「……ふん、それはご苦労な事だ。身柄を預かろうではないか」

 うん、高圧的に、こちらを見下した態度で来たね。

 これは多分、黒騎士姿の僕を一気に殺害するのは困難だから、とりあえず高圧的に振る舞って不況を買い、世界同盟加入を断らせるつもりかな。それでも、バルムンク王の評判は下がるもんね。


『アイリ、頼む』

『はい、ユート様! 』

 ノアから飛び出した、銀色の魔導兵騎。

 魔導装甲と違って魔導兵騎の専用機製作には、それなりの時間を必要とする。なので、くじ引きで専用機を作成する順番を決めた。

 専用機第一号はアリス、そして第二号がアイリだ。


 装甲の色は、アイリのパーソナルカラーである灰銀と、黒のツートンカラー。二本の大銃刀を肩に背負い、背面ブースターで高速機動を可能とした白兵戦向けの機体だ。

 機体名称は”ラビットタンク”にしようかと思ったのだが、勇者達から怒られたので泣く泣くやめた。

 ウサギっ娘が乗る重装甲兵器だから、ピッタリだと思ったんだけどなぁ。

 やむを得ず、”ラッシュラビット”と言う名称になった。

 速度と手数で相手を圧倒する、スピードファイターだ。なので飛行時は、専用追加ユニット”エアレイド”を背面に装着しないといけないけどね。


 量産機ともバハムートとも違う機体に、ラルグリス王国の者達が驚きを見せる。

「さ、三種類もある……のか……!」

 バルドレイが何か言っているが、馬鹿を言ってはいけない。

 まだ、二種類ある。アリス用と、くじ引き三番目のエイル用が。しかも、更に増える予定だ。


 そして驚くのはまだ早い……保護した二人のダークエルフの姿は、黒いローブに隠されているから、まだ解るまい。

 さぁ、とどめを刺してやろうじゃないか。

「お連れしたぞ。真のラルグリス王、バルムンク・デア・ラルグリスを」

 拡声の遺失魔道具アーティファクトで、僕の声は広場にいる者全ての耳に届いている。

 バルムンク王とラピストリア王女が、ローブを脱ぎ去った。共に、こちらで用意した王族が着ても問題ない、それなりに豪華な衣装を身に纏っている。


「なっ……!?」

 昨夜の侵入者の正体に思い至ったのか、バルドレイが僕達を睨む。

「貴様ら、あれは偽物だ! 引っ捉えろ!」

 即座に指示を出すバルドレイだが、それは不可能だ。

「エネルギーシールド、展開」

 アイリがそう言うと、真っ先に駆け出した兵士達が不可視の壁に遮られ、その衝撃で崩れ落ちる。

「なっ……何だこれは!」

「くっ……ここに、見えない壁でもあるのか!?」

 その通り、見えない壁があるのだよ。


「おのれ、偽物が……!!」

「何を以って偽物というのかね? 僕の目には、君こそ偽物だと見えるのだが。さぁ、勇者達……今度こそ、人物鑑定ステータスチェックを」

「や、やめろ! これは命令だ!」

 迷っているような表情の、ノゾミ・モチヅキ。多分、どっちの指示を実行すべきか判断しかねているのだろう。

 対して、ニヤニヤとバルドレイを見るホシノ兄弟。やはり彼等は、既に人物鑑定ステータスチェックで、彼がバルドレイだと知っていたのだろう。


「仕方ない、ならば……僕が見えるようにしてあげよう」

 そう言って、ある物を取り出す。これは、ある遺失魔道具アーティファクトの起動スイッチだ。

 エイルとヒルドの仕込みのお陰で、この王城前広場一帯に居る人物にある魔法効果を付与する事が出来る。

「それじゃ、ポチッとな」

 スイッチを押した瞬間、ごっそりと魔力が持って行かれた。僕じゃなかったら、枯渇してそうだなコレ。


「なっ……何だこれは!?」

「な、名前なのか!?」

「人の頭の上に……名前が!!」

 そう、この広場に居る者全ての頭上に、自分の名前が表示されるようにしたのだ。これ、なんていうネトゲ? 状態。

 実はただそれだけのために、新しい人理魔法をメグミとマナが作ってくれた。仕込みをしてくれた二人とメグマナコンビには、後で何か御礼をしないとね。


 さてさて。

「何か申し開きはあるかな、バルドレイ・デア・ラルグリス」

 そう、バルドレイの頭上にも真の名前が表示されているのだ。

 僕の言葉に、バルドレイは顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けている。迫力が足りないなぁ、全然。

「こっ……こんなのは偽りだ! 全てコイツのでっちあげに決まっている! ダークエルフ全てを侮辱する行為だ、この罪は重いぞアヴァロン王!」


 だが、そこへ決定的な言葉が告げられる……。

「い、いえ……本当に、その人は国王陛下じゃないです……バルドレイ・デア・ラルグリス……それが、その人の名前です!!」

 ノゾミ・モチヅキ……勇者による人物鑑定ステータスチェック

 僕の狙いはピッタリはまった。ここまでやれば、勇者の中の誰かが人物鑑定ステータスチェックをしてくれるはずだと思ったのだ。


「き、貴様ぁっ!!」

 おっと、ノゾミ嬢には手を出させないぞ? もしかしたら、フリードとのフラグが立っているかもしれないからね……あぁ、それだ!

「フリード、僕からの勅命だ。勇者を守れ」

「かしこまりました、陛下」

 ホシノ兄弟は守らなくてもいいと思うけど、外聞がねー。


「アイリ、ラルグリス王とラピストリア王女は任せる」

「お任せを、ユート様」

 魔導兵騎ラッシュラビットは、流石に対人戦で使うにはオーバーキルだ。アイリはラッシュラビットから降りて、主武装の双銃刀を構える。

「他は好きに動いていい……が、最大限殺すな。”俺”はバルドレイに用がある、他は全て任せる」

「「「「「はっ!!」」」」」

 仲間達の頼り甲斐のある返答に首肯し、俺はバルドレイに向き直る。

「ぐっ……貴様ぁ……!」

 殺気を叩き付けてくるのだが、弱いなぁ……。


 俺の背後で、仲間達が円卓の座ラウンドワンを起動した。

「「「「変身!!」」」」

 そうだよね、変身だね。やはり、変身コールは重要だ。惜しむらくはポーズが無い事かな! 

 魔導装甲を纏ったユウキとフリード。女性陣も”魔導衣装”と呼ぶ事にした、各個人用の調整を済ませた装備に変身。

 何やらラルグリス王国民が騒ぎ出したが、敵意が無い者は傷付けるどころか守る予定だから、大人しくしていてほしいね。


 さて、俺はと言えば舐めプです。変身を解除し、武器も手に持たずにバルドレイへ向けて歩き出す。指示は出したからね。

「こ、殺せっ!! 奴らは侵略者だ、一人残らず殺せぇっ!!」

 バルドレイの部下らしき者達は、その指示に淀み無く動き出し……そして、本来の王国軍は戸惑いつつ従う者、逆にバルドレイに向けて剣を構える者に分かれた。

 思ったよりもバルドレイの部下が多いな。まぁ、大丈夫だろう。


 俺に向けて斬り掛かってくる兵士の肩から、銀色の突起が生えた……様に見えるが、これはキリエのガンレイピアだ。

 その背後に居る兵士達の両手足に、光の矢ライトアローや実物の矢が刺さる。

 更に俺に迫ろうとした兵士に、ユウキの蹴りが叩き込まれる。


 宣言通り、バルドレイ以外は全て任せる。皆がどうとでもしてくれる。俺は迎撃も回避も防御もせず、バルドレイに向けて歩き続ける。

 彼等の実力や、俺達の信頼関係を知らぬ者には、異様に映るのかもしれないね。


************************************************************


 フリードは勇者達の側で、専用スタイルに換装し、迫る兵士達を一撃で昏倒させていく。

 メインカラーはシャンパンゴールドで、フェイスマスクは俺の物と似たドラゴンタイプだ。

 両手足の装甲が厚くなっており、その装甲が盾としても機能するので、攻撃を防ぎつつ強烈なカウンターをぶち込むという合理的な攻撃手段が可能となっている。


 次々と迫る兵士達の攻撃を難なく防ぎ、カウンターで腹パンやフック、アッパーカットを決めて相手を沈める姿に、一分の隙もない。流石は竜騎士の息子である。

 その後で、頬を染めているノゾミ嬢……良いぞフリード、もっと頑張れ!


 アイリも魔導衣装姿で、バルムンク王やラピストリア王女を狙う兵士達を迎撃している。

 両肩・両腰・両手足に軽量の鎧を備えており、胴体部分はデフォルトだ。これはアイリの意向なので、決して俺の趣味嗜好による偏りではない。


 敵兵士の武器を斬り、兎人族の長所たる脚力で蹴り飛ばす。

 人って水平に飛べるんだね。俺でも遺失魔道具アーティファクト抜きだと難しいよ、自分で飛ぶ方は。

 四方八方から迫る敵兵士も、アイリにとっては大した脅威ではない。


 しかし、王族の護衛が一人というのも、少し座りが悪いかな? 今更かもしれないけど、うん……こっちは余裕だから、誰か向かわせようかな。

「リイン、クリス。アイリと一緒に二人を守れ」

「はい、ユートさん」

「んっ!」

 周囲の敵に一当てし怯ませた所で、素早く包囲を潜り抜けて駆けていく二人。

 リインの魔導衣装は腰布と外套を追加した装備で、身軽かつ高機動。

 クリスの魔導衣装は胴鎧以外は軽装で、鎌の取り回しがしやすくなっている。

 行く手を阻もうとする兵士を退けながら、二人はあっという間にアイリと合流する。これでアヴァロン王国として、申し訳も立つかね。


 さて、わんこそばのように次から次へと襲い掛かって来る兵士達を、婚約者や仲間達が駆逐していく。

 アリスが槍杖で薙ぎ、メグミが大盾で殴打する。

 アリスは結局、神官っぽいヒラヒラしたオプションを備えたスタイルだ。前垂れみたいな布+短いローブをご所望だった。

 アリスを守るように大盾を振るうメグミの魔導衣装は、胴から下はしっかりしているのだが、胸元や肩が露出しているスタイル。本人の意向だったのでそうしたが、理由は解らない。


 マナが魔法で撃ち抜き、エルザが戦斧の腹で叩く。

 マナは魔導師らしいマントと、ミニスカートを追加したスタイル。本人と協議した結果、見えそうで見えないギリギリを狙った衣装である。きっとユウキの好みなのだろう。

 エルザは両手足・肩以外はデフォルトのまま。アイリと似ているがこちらはそれなりに厚い装甲で、ドワーフ族の腕力を活かすスタイルだ。


 マリアが拳や足の装甲で殴り、ノエルさんが盾と槍を駆使して仕留めていく。

 マリアは逆に両手足の装甲が軽めで、胴部分がまぁお馴染みのビキニ鎧風だ。竜人族の耐久力に優れた肉体だからこそ可能なスタイルだね。

 ノエルさんは胴・肩・腰に両手足と、全体的にバランスの良い装甲を付属させた騎士っぽいスタイル。手にする槍や盾もそれに合わせてデザインされており、ちょっとセクシーな鎧騎士みたいな感じになっている。


 キリエがガンレイピアで手足の腱を切り、エイルが手足を銃で撃ち抜き、ヒルドが死なない程度にメイスで殴る。

 キリエの専用スタイルは、必要最低限の軽装装甲を付属している。代わりに飾り布が腰や肩に施されているので、軽やかに舞うように動く度、飾り布がヒラヒラと舞う。

 エイルは黒ベースにオレンジのカラーリングが入ったスキン、その上に胴鎧とマントを羽織ったスタイル。所々の意匠が僕の魔導装甲バハムートと似通っていて、並ぶとちょっとお揃い感がある。

 ヒルドが纏うのは白いベースと黄色のカラーリングのスキンで、前後に法衣っぽい布地が前後に付属したスタイル。アリスの物と似通っているが、胸元の飾り布が独特の形状をしていて差別化を図っている。


 ユウキが錬成魔法で生み出した針や手裏剣みたいな物で、サクッと無力化する。

 メインカラーを藍色にした、ユウキ専用魔導装甲。フェイスマスクは、俺やフリードと同じでドラゴンの意匠にしている。最もフリードとユウキはバイザー型、俺は複眼型だけど。

 装甲は俺の物とほぼ同じだ。

 俺が遺失魔道具アーティファクトの乱発に対し、ユウキは錬成武装の嵐という相違点があるものの、付与魔導師と錬成魔導師……後衛・非戦闘型という共通点があるから、同じ仕様になるんだよね。


 クラウスやマルクは、量産機を使用している。最も、量産してばら撒く気がないので、量産機というのも語弊があるが。

 スキンと装甲はダークグレーで統一され、ヘルムの形状はフラットな形状だ。


************************************************************


 さてさて、無双状態に入った仲間達は、次々と兵士達をノックアウトしていく。傷の程度の差はあれど、死者は現状いない。


 バルドレイを守る者も最早わずか……と言ったところで、予想外の敵が道を塞ぐ。

「よぉよぉ、アヴァロンの王様よ……俺らの国で何を勝手してくれてんの?」

「全く、理解に苦しむねー。何、正義のヒーロー気取ってんの? そういうのは、勇者の役割だよ」

 ツヨシ・ホシノとシキ・ホシノ。双子の勇者だ。

 見れば、フリードの側から離れて俺の方に来たらしい。


「な、何をしているの!?」

 ノゾミ嬢が叫ぶが、それを馬鹿にしたように見るツヨシ少年。

「何をしてんのって、そりゃ国の敵を迎え撃つんだよ。お仲間は大層強いみたいだが、お前は付与魔導師なんだろ? なら、ハズレジョブじゃねぇか」

「王様だろうが何だろうが、俺達の邪魔をするなら倒すぜ。それとも勇者様に刃向かうかい、ハズレの王様?」


 勇者を相手にするつもりは無かったんだけど……まぁ良いや。

「言っておくが、俺はお前達に興味が無い。だから今、大人しく道を譲れば無様を晒さずに済むぞ?」

「ははは、勇者に対して大口を叩いたな!」

「なら、お望み通りぶっ殺してやるよ!」

 やれやれ、オツムが弱いんだなこいつら。


 ツヨシは聖なる槍を、シキは聖なる杖を無限収納庫イベントリから取り出した。

 聖槍を構えながらこちらに駆け出すツヨシに対し、シキは詠唱省略で雷の矢サンダーアローを十本準備する。

「「死ねや、ハズレ野郎!」」

 やなこった。


 瞬間、俺の前に立ち塞がる一人の少女。アヴァロンの誇る盾の騎士、勇者メグミ・ヤグチ。

 おや? それに加えて魔力障壁が張られている。張ったのはノゾミ嬢……なるほど、彼女のセカンドジョブは神官プリーストか。

「ノゾミ・モチヅキ、礼を言わせて貰おう。フリード、彼女に指一本触れさせるな、俺の恩人だ」

「お任せを、我が王」

 ノゾミ嬢を守るように、フリードが構える。

「メグミ、いつもありがとう。後は任せてくれ」

「はい、先輩」

 盾に込めた力を緩め、俺に道を譲るメグミ。


 さぁて……格の違いを見せてやるか。

「う……っ!?」

「……あ、あぁ……!?」

 突如、ホシノ兄弟やバルドレイ、バルドレイの周囲の兵士が息苦しそうに口をパクパクし出し、脂汗を流し始める。

 なんて事はない、ちょっと殺気を向けて威圧しているだけなんだけどな。慣れている者でも震えが来ると言う程だし、初めて体験する強烈な威圧感プレッシャーは、彼等にとって”こうかはばつぐんだ!”


 直接、殺気を向けられているホシノ兄弟とバルドレイは、滝のように汗を流している。

 広場の制圧は終わりそうだし、双子こいつらはどうしよっかなー。

 ギリギリ未遂だけど、俺を殺そうとしたわけだし? それにノゾミ嬢を強姦しようともしたんだっけか? となると、ギリギリでツーアウトだな。

 ノゾミ嬢にはフリードを付けているし、僕としてもあのまま攻撃を受けても痛くも痒くもなかったし……今回は、威圧で許してやるか。

「ぐぅ……っ!!」

「く、くそ……っ!!」

 威圧で許してやるから、更に殺気を込めたよ。考えてみれば、俺はバルドレイ以外に手を下さないって決めてたしね。


 一歩、また一歩と歩を進める度に、バルドレイ・兵士達・勇者兄弟が後ずさる。

 そんな状況が続き……やがて、王城の門に辿り着いた。

「くっ……おい、門を開けろ! おいっ!!」

 しかし、門はピクリとも動かない。

「おいっ!! 聞こえないのか、俺はこの国の王だぞ!!」

 門を蹴りつけながら、バルドレイが喚き散らす。


 しかし、それは間違いである。

「否、この国の王はバルムンク・デア・ラルグリス陛下だ。陛下の名を騙った逆賊バルドレイ、ここに貴様の居場所は無い」

 城門の上にある物見から、数名の貴族達が姿を見せる。その先頭に立つのは、ブランク伯爵だ。

 彼等は全て、バルムンク王を救出するためにバルドレイに近付いたか、バルドレイに逆らい辺境に飛ばされたラルグリス王国の臣下達だ。ブランク伯爵に集めさせたのだ。


「……お前達は!!」

 目を血走らせて城門上を睨むバルドレイだが、彼等の関心は既にバルドレイには無かった。

「陛下、殿下、ご帰還を心よりお待ちしておりました!」

「良くぞご無事で!」

「しばしお待ちを、今すぐこの逆賊を……!」

 臣下達の熱の籠められた言葉は良いものなのだが、邪魔立ては許さない。

「手を出すな、俺がこの偽王の喧嘩を買ったんだ。お前達は黙ってみていろ……力が有り余っているなら、これからバルムンク王と共に国を立て直すために取っておけ」

 優先権を主張し、更にバルドレイに向けて歩み寄る。


「ひっ……来るな!」

 さて、それでは仕上げだ。

「バルドレイ、貴様にチャンスをやろう」

 俺の言葉に、バルドレイの表情が引き攣った。

「俺を倒せたら、アヴァロン王国の者は手を引く。さぁ、どうする」

 バルドレイの暗く濁った目が、ある種の決心を宿したものに変わり……バルドレイは、腰に差した剣を抜いた。

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