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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第1章 イングヴァルト王国

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01-03 初依頼/村長

これまでのあらすじ:テンプレ展開が起こりました。

 とりあえず新人イビリは無視し、ゴブリン討伐依頼を受注して宿へ戻る。

 最も、穏やかではない連中の視線を感じるので、馬鹿正直に真っ直ぐ帰る事はしない。尾行を完全に撒いた所で、黄色い月亭に戻る。


「お帰りなさい、すぐ食事は出来るけどどうする?」

「それじゃあお願いするよ」

 “宝物庫の指輪ストレージ”のお陰で、嵩張るような荷物を持っていた訳でもない。鍵を受け取って、そのまま食堂に入る。


 そして出された食事を前に、呆然としてしまった。

 米、味噌汁、そして焼き魚……なんという定番和食!! この世界で和食が食べられるとは思っていなかったので、ちょっと感動してしまった。

「驚くのも無理はないねー。この料理は“ワショク”って言って、五百年前に召喚された勇者様が広めたんだよ!」

 五百年前? ショウヘイさんは千年前って話じゃなかったか? って事は、別の勇者なのかな?

「勇者が?」

「うん、勇者“シンタロー”様!」

 シンタロー……何てファンタジーテイスト溢れる異世界だと、違和感がある名前。ま、いいか。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます」

 米から口に運ぶ。

 ……うーん、パッサパサしてるな。多分、日本米とは違う品種だからか。

 味噌汁は……ちょっと酸っぱいけど確かに味噌の味がするな。

 焼き魚は塩焼きにされた魚だ。鮎みたいな感じの味がする魚……川魚なのかな?

 うん、確かに和食っぽい味だ。別段米もマズいわけじゃないし、十分だ。

ついつい食が進み、おかわりまでしてしまった。おかわりは銅貨一枚でした。


 ……


 夜。食後、部屋で魔道具のチェックをしようとしていた時に、“腕輪クロスリンク”が震える。

 これは、着信の合図だ。腕輪に魔力を通す。

『繋がってるでしょうか……?』

『あぁ、アリスだったか。繋がっているよ』

『ユート君? 良かった、無事に繋がりました!』

 喜色を滲ませる声が脳裏に響く。

 そんな安心した様な声に、苦笑する。使用方法については、アルファと一緒に王城で試していたんだから、そんなに不安も無いだろうに。


『それで、何か用事だったのかな?』

『いえ、今日は冒険者登録をするという話だったので、どうだったかなと思って……』

『なるほど、そういう事ね』

 まるで、夜に友人同士が携帯電話で話すような感覚。少し懐かしく感じてしまった。


 それから一時間ほど、今日あった出来事を話す。

 宿の和食が美味しかったとか。冒険者ギルドでの出来事とか。明日のゴブリン討伐の依頼とか。

『ゴブリンですか……その、気をつけて下さいね?』

『大丈夫ですよ、アリスさん。私もユーちゃんも、ゴブリン程度なら苦戦はしませんから』

『ふふっ、そうですね。勇者レオナルド様のお子さんなんですもの』


 勇者レオナルドによる魔王オルバーン討伐は、物語や舞台になっている。父さんが嫌がってウチには書物なんかは無かったので、こっそり知り合いの商人(獣人で、父さん達の友人)から物語を購入したのだが、父さんが嫌がる理由がよく解った。

 恥ずかしいのだ、言い回しやら何やらが。父さんをよく知る者ならば、あの物語は人物像を極限まで美化していると言っても過言ではない。

 無論、父さんが英雄然としていないとは言わないが、豪気で剛毅な父さんとは思えなかった。


 それから更に一時間、長念話を終えて僕達は眠りに就いた。

 ……姉上、何故こっちの布団に入ってくる、自分のベッドがあるでしょうが。


************************************************************


 涙目の姉さんに根負けし、同衾した翌朝。

 外は快晴、気温も適温。外出には最適な日和である。

「ゴブリン討伐じゃなければですけど、ね」

 そうね。


 東の村に行く事を伝えて宿に鍵を預け、外に出る。今日は僕達も、冒険者の装いだ。

 アンドレイ叔父さんに下賜された革鎧(無論、昨夜の内に刻印付与済み)を身に付けている。

「東の村は、ここから徒歩で半日くらいですね」

「僕らなら、三時間程度か。それじゃ、行こう」

 王都の東門から出て、草原の街道を歩く。


 普通の冒険者ならば装備や荷物で歩みが重くなるが、僕達には関係ない。宝物庫ストレージのお陰で身軽だ。

 その為、倍近くの速度で移動可能だ。当然、この依頼も日帰りのつもりでいる。


「ユーちゃん、気付いてますよね?」

「尾行? 気付いているよ」

 そう、王都の門を出てから、ねちっこい感じの視線がこちらを捉えている。

 真実の目プロビデンスのマップには、昨日の冒険者三人が表示されているのだ。それも、敵意を示す赤い光点で。

 恐らく僕達が東の森でゴブリン討伐する隙を狙って、昨日の報復をしようと企んでいるのだろう。


「執念深い事で……全く、昨日ので懲りてくれれば良かったのにね」

「どうします?」

「別にたいした障害にもなりはしない、手を出してきたら倍返しでいいんじゃない? ギルドに突き出してやるから、命だけは奪わないでやろう」

「解りました、ではそうしましょう」

 姉さんは基本的に僕に方針を決めさせる。する事と言ったら、僕の手伝いみたいな事のみだ。


 ……


 この五年で、僕はある信念を持つに至った。

 正確には“左目君、さよなら。さよなら左目君”事件からだ。

 ……何でこんな呼称にしているかというと、姉さんが悲しそうな顔をするからなんだよね。気にしてないとアピールする為に、軽く受け止めて貰おうとこんな風に呼んでいるんだ。

 僕が癒えない傷を負ったのを、悔やんでいるらしい。守護天使としての使命感なのかな?


 ともあれ、ここは力が無ければ、奪われる世界。綺麗事だけでは、損をする世界。現実逃避など、許されない世界。

 この世界に生まれ落ちた瞬間から、ここは僕の生きる世界だ。

 染まるしかない、剣と魔法の異世界ファンタジーに。暴力に、悪意に。

 しかし捨ててはならない、剣と魔法の異世界ファンタジーでも。誠意を、仁義を。


 この五年間考え続け、僕の出した結論。

 それは……味方にはダダ甘で、敵には容赦無し。これである。ちなみに、相手をする価値が無ければ無視、その他大勢はお好きにどうぞ、だ。

 後は、自分のエゴを貫く為に、ちょっとはっちゃけてもいい。多分、前世の両親の前でそれを言ったら、泣かれるな。


************************************************************


 三時間くらいかけて東の農村に立ち寄り、村長にギルドから依頼を受けてやって来た事を伝える。

「討伐依頼を引き受けて頂き、感謝しております……ですが、お二人だけですかな?」

 訝しげに、僕と姉さんに視線を向けて来る村長。

「ゴブリン三匹程度なら、二人で十分です」

「そう、ですか……」

 その態度が気になり、“目”でマップを確認する。


 ……三匹どころじゃないじゃん。

 森の中には四百五十匹程のゴブリンがいる場所と、五十匹程のゴブリンが森を彷徨っている。数が多い場所には、大きな集落があるのだろう。

 そんな集落に、人間族の女性が二人いる。どうやら浚われたようだ。ゴブリンは多種族の女性を浚い、強姦して子供を生ませ繁殖する魔物だからな。


 さて……この目の前の村長は、五百匹とまでは把握していなくとも、ゴブリンが三匹だけではない事を解っていたはずだ。

 恐らくゴブリンの集落を見つけ出し、浚われた女性達を救出して欲しかったのだろう。

 しかし、そうすればこの依頼は銀級冒険者への依頼になる。依頼の報酬が、高額になってしまうのだ。


 だから、鉄級冒険者向けの依頼にすべく、三匹等と嘘を吐いたのだろう。

 ゴブリンの集落に、二人の要救助者。三人の報復を企てる冒険者に、嘘吐き村長。まったく、記念すべき初依頼はやり甲斐があるなぁ。


「村長さん、ゴブリンは()()なんですよね?」

「っ、え、ええ……」

「つまり、この依頼は三匹討伐すれば、依頼達成になる。そうですよね?」

「……ゴブリンが、増えていなければ、そう、なりますな……」

「いえ、依頼は()()()()()ですから。もし、三匹以上いた場合はどうしましょう?」

 別に討伐してあげないというつもりは無いが、確信犯に目を瞑ってやるつもりも無い。僕は正義の味方じゃないのだ。


「それは……その……」

 返答に困って、視線をあちこちへ泳がせる村長に、僕は妥協案を出す事にした。

「三匹以上居た場合でも、討伐しないとは言っていません。三匹以上の場合、追加報酬というのはどうでしょう」

「う、うぅむ……それは……そこを何とか……」

「冒険者は慈善事業ではありません、勘違いなさらないで下さい。報酬が惜しいならば、この村の男手で何とかする事になります」

 村長はついに黙り込んでしまった。


 追い詰めすぎかなと思ったが、こちらだって命懸けで戦うのだ。

 この村に僕にとってメリットがあったり、この村の誰かに恩義があったり、この村長に手を差し伸べる価値があるならばサービスしなくもないんだけどね。


「討伐出来たのなら、追加報酬を……お支払いする事を約束致します」

「解りました。では、その旨を記載した依頼書を用意しておいて下さい。討伐依頼を完了したら、そのまま冒険者ギルドに提出する事にしましょう」

 言質は取ったが、知らぬ存ぜぬの水掛け論は避ける。もし、討伐後にごねられたら……まぁ、その時は“おはなし”をするだけだ。


「では、早速森の中に入りますので。ゴブリンを目撃した位置を教えて頂けますか?」

「それについては、こちらの地図を……」

 手渡された地図に、バツ印が付けてある。勿論、日本で販売されている地図とは比べるべくも無い簡素な手書きの地図で、村の位置と大体の方角、そしてバツ印が描かれているだけだ。

 最も、詳細な地図等は一般には出回らず、国や軍が所有している程度である。商人ならば地図は自分達で作成し、それを商人ギルドで共有しているんだけどね。


「解りました、では行って来ます」

「どうかお気をつけて……」

 姉さんを連れて、村長に背を向ける。

 苦々しい感情を篭めた視線を向けて来ているな……自業自得だろうに。

「気にしなくていいと思いますよ、ユーちゃんはユーちゃんのスタンスを貫いていれば大丈夫です」

 僕を気遣ってくれているのだろう、姉さんがそんな言葉を投げ掛けて来る。

「ありがとう、姉さん。さぁ、狩りを始めようか」


 ……


 森の入口に差し掛かり、装備の確認を行う。僕は銃剣、姉さんはレイピア。

 装備に異常が無い事を確認して、僕達は森へ踏み込んだ。

 森の中は木々や雑草が鬱蒼と茂っており、歩きにくい。しかし、孤島の山や森で狩りや野草・木の実を集めていた僕達にはぬるい。障害物をサクサクと避けながら前進して行く。

 目的地は、当然ゴブリンの集落だ。

「ゴブリンは十匹でした、浚われたっぽい村人は助けておきました、でいいか」

 その時の村長の対応次第で、集落をどうするか決めよう。

 ちなみにゴブリン十匹というのは、集落までに遭遇するであろうゴブリンの数である。


「早速一匹目だ」

 視界に捉えたゴブリンの姿。緑色の肌に、尖った耳、身に纏ったボロ布、手には棒と石で作った槍。ファンタジーでよく出てくるゴブリンそのままだ。

「ギィッ!!」

 こちらに気付いたゴブリンが、姉さんを見て厭らしく嗤う。そして、邪魔であろう僕に向けて槍を構え突っ込んで来る。


 姉さんがレイピアを構えようとするのを手で制した。

「僕にやらせて貰っていい?」

「解りました、では下がっていますね」

 大丈夫か、等と言わないあたり、僕の事をよく解っている。

「じゃ、試し斬りだ」

 銃剣に魔力を流せば、刃部分からキィィィンという高音がする。

 駆け寄るゴブリンが突き出して来た槍をかわし、銃剣を振るう。

 斬れ味は、実に満足いく出来だ。抵抗が驚くほど少なく、ゴブリンの首が飛んだ。


 甲高い音の正体は、僕の持つ銃剣の刃の部分が高速振動している音。そう、某汎用人型決戦兵器の使う、プログレッシブなナイフと同じ原理である。

 “超高速振動”を付与した、遺失魔道具アーティファクト振動剣バイブレーションソード”。

「流石ユーちゃん、お見事です」

「コイツのお陰だよ」

「それを作ったのもユーちゃんじゃないですか」

 やめてくれ、照れ臭いから。


 さて、そんなゴブ・即・斬を見ていたであろう、尾行して来た冒険者達三人だが……気配から察するに、害意が膨れ上がって、こちらに近寄って来ている。

 どうやら、ちょっかいを出して来るつもりらしい……あ、良い事考えた。

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