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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第10章 イングヴァルト王国Ⅱ
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10-09 幕間/断罪騎士団の末路

 俺はクロイツ教国の特殊部隊、断罪騎士団に所属するレイルだ。


 先日、教皇猊下から密命が下り、我等断罪騎士団は三十人規模でイングヴァルト王国に潜入している。

 国籍と職業を偽り、ヒルベルト王国の吟遊詩人やファムタール騎士国の冒険者、ギルス帝国の商人に扮してイングヴァルト王国の王都に入る。それぞれが打ち合わせ通り、月の隠れる今夜に作戦を実行できるようにと、準備を整えていく。


 そして、いよいよ夜になった。

 俺の担当は、王女だ。一度、顔と名前を確認すべく王都の公開謁見に紛れ込んだが、あれは中々に上玉だった。まだ女になり切っていない所が、またそそる。

 捕まえた後、楽しむ分には構わないと言われている……実に楽しい夜になりそうだ。


 ……そう思っていた時期が、俺にもありました。

 王女の部屋の中に入ったら、そこにあったのは人形だった。何故、人形が?

「……なっ、何だこれは!?」

「まずいぞ、我々の潜入が気付かれていたという事だ!」

 仲間達の焦った声色に、別の意味で焦る。潜入している身で、大声を出すな!


 馬鹿な仲間を窘めようと口を開きかけたそんな中、冷たい声が部屋の中に反響する。

「ご名答、しかし気付くのが遅いな。それでも暗部の人間かよ?」

 ……誰だ、何処にいる。必死に精神を研ぎ澄まし、闖入者の気配を捉えようとするも……何処に居るのか、解らない。


「な、何者だ!何処に居る!?」

「す、姿を見せろ!」

 だから、大声出すなよ!

「仕方ないなぁ、じゃあ何処に居るかを教えてやろう。ついでに何者なのかも教えてやるかね」

 ……聞き覚えがある、この声の主に会った事がある……いや、会ったのではない……会話をした訳ではないのだ。

 この声は、まさか……!!


「俺、ユートさん。今、お前達の真後ろにいるの」

 全身を冷たい何かが通り抜けた気がした。

 教国の神殿で、立て続けに俺の腹に打ち込まれた弾の痛み。

 勇者の集いで、天から舞い降りた巨大鎧を纏う姿。

 冷たく、感情を感じさせない極寒の声色。


 ユート・アーカディア・アヴァロン……!! 何故、何故ヤツがこの部屋に!?

 途端に、室内が明かりで照らされる。夜闇に慣れた目に差し込む光は、大した光量ではないのだが……強烈な閃光のように感じられた。

「じゃ、死ね」

 首筋に、何かが触れた。視界が一瞬で逆さまになった。

 首がなぜかいたみだした。

 いたい、いたい、いた……い。


************************************************************


 クロイツ教国の断罪騎士団に属する私の名はケルン。私は今、絶望の淵に居た。

 目の前に立つ男……彼は勇者だ。

 勇者ユウキ・サクライ。クロイツ教国への恩を、仇で返した愚か者。

 勇者でありながら、魔人族の手先であるユート・アーカディア・アヴァロンに降った裏切り者。


 奴が姿を見せた瞬間、痛め付けてついでに連行してやろうと思った。こんな奴でも勇者だ、使い道があるだろう。

 手信号で制圧を指示した瞬間、その腕が折られた。更に足も折られた。目にも止まらぬ速度で。


 痛みに喘ぐ同志達……まさか、今の一瞬でここまでやったのか?

 馬鹿な……この男は、錬成魔法しか取り柄のない木偶の坊だったはずだ。厳しい修練を耐え抜いて来た我々が、こんな木偶に……。

「君達の思想や信条はどうでもいい、天空王に代わって判決を言い渡すよ」

 眼鏡越しに見えるその瞳……なんて昏い黒。

 あぁ、勇者ではない。こいつは、神に仇成す邪悪な存在に違いない。

「死刑だ」

 邪悪な者に、聖母ヒュペリオン神の裁きを……!!


************************************************************


 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なっ!! 何故だ、何故我々が潜んでいる場所にこいつらがいる!!

 こいつらの情報は、既に出回っている……アヴァロン王に傅く雌犬共が! おっと、一人は雌兎だったか。上手いことを言っている場合ではない!

 この俺、マディはこれまで百人の神敵を断罪してきたのだ! この雌共を捕らえ、調伏し、素っ首をアヴァロン王に送り付けてやろうではないか!


 ……ん?


 仲間の手足から、いきなり血が噴き出したと思ったら、糸の切れた操り人形のように倒れ伏した……えっ、問答も何もなしに刺し殺すんですか?

 うわっ……あっちの兎が、首を刈った……あんなにスパッと斬れるなんて、あの剣何だろう? 変わった形をしているけど。

 あっ、あれは勇者じゃないか。あんなに高くジャンプできるの……えっ。盾で仲間が押し潰された……えっ、盾の使い方間違ってないッスか?


 お? あそこで幼い雌を、魔人族の雌とアークヴァルド公爵家の雌が抑えてるな。何やってんだよ、戦場で。

「撃つの〜!竜の息吹ドラゴンブレス撃つの〜!!」

「ダメですって、エイルちゃん!」

「王都、ヤバい……!」

 竜の息吹ドラゴンブレス? えっ、撃てるの? そのメスガキ何者?


 その瞬間。

「ぎぃっ!?」

 俺の股間に、痛みがっ!! い、いでぇっ!いでぇよぉっ!! 誰がこんな非道な真似を!?

 痛みを堪えて、視線を巡らせると……エルフ族の雌が、矢を番えた奇形の弓をこっちに向けていやがった。やめろ、このまな板がっ!!

「……今、不愉快な事を考えたわね?よろしい、死ぬがいい」

「ちょっ!?やめっ……!?」

 迫る矢……眉間に鋭い痛み。ああぁ……っ!! あ……。

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