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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第10章 イングヴァルト王国Ⅱ
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10-08 幕間/ナブサック公爵の独白と、救い

 謁見の間に呼び出された後、私は怒りを堪えて執務室へ戻った。

 王を言い包め、アヴァロンへ大迷宮攻略に協力するように要求させようと思っていた。しかし、結果的に私は立場を失いつつある。


 今思えば、負傷した兵士や衰弱した兵士が、大迷宮攻略の何の役に立つというのか。アヴァロン王の言葉は、今思えば正論だった。

 確かにアヴァロン王の婚約者は法術が使えるが、それにも法力を消費する。魔法や法術が使えない中で、転移させるのがアヴァロン王国の面々にとっては最善だった。


 だがしかし、ここまでせずとも良いのではないかと思ってしまう。

 アヴァロン王は私を公然と晒し者にしたのだ。

 更に、アヴァロンが救出した兵三十人……一人に着き金貨十枚、しめて金貨三百枚。

 その費用は、我が公爵家が負担する事となってしまった。負担を低減しようにも、王は聞く耳を持たない。

 おのれ、アヴァロン王め……!!


************************************************************


 その日の夜、私は王から呼び出しを受けた。

「陛下、御用向きをお伺い致します……」

 叱責か、それとも降格か。

「ナブサック公爵、先程アヴァロン王から緊急の報告があった。クロイツ教国の者が王都に潜入し、王城へと徐々に近付いているそうだ」

 またアヴァロン王か!! ……いや、待て。


「クロイツ教国の者が、ですか? もしや、アヴァロン王国の面々を狙って……」

「いや、その可能性は低いだろう。何せ、世界同盟加盟国以外で、アヴァロン王達がここに居る事を知る術が無いのだからな」

 それもそうである……つまり、狙いはイングヴァルト王国という事か。


「どう見る、ナブサック公爵」

「は、クロイツ教国の目下の狙いはアヴァロン王国でしょう。アヴァロン王国に干渉する為には、転移門が必要です。なれば転移門を使用する為に、イングヴァルトを脅す方法を取る……狙いは恐らく、殿下方の拉致かと」

「うむ、やはり公爵も同意見だったな。シルビアとアクセルは、アヴァロン王が厚意でアーカディア島に匿ってくれた。ナブサック公爵に、これを渡すようにとの連絡があった」

 出しゃばりおって、アヴァロンが!!


 しかし……陛下が差し出したもの、これは……?

「アヴァロン王が、ナブサック公爵の為に用意した遺失魔道具アーティファクトだ。ナブサック公爵は騎士や兵士を動員し、王都内部に点在するクロイツ教国の潜入者を捕らえよ」

 アヴァロン王が、私に……だと? 何故、そんな事を……?

 しかし事は急を要する、考え込む時間など無い。

「すぐに兵や騎士に指示を出して参ります」

「うむ、頼むぞ公爵」


************************************************************


 この遺失魔道具アーティファクトは、凄い……。

 クロイツ教国の連中が何処にいるのか、何人いるのかが一目瞭然ではないか!

 そして、点在して潜伏しているクロイツ教国の者達を捕らえていき……最後に、二十人程が集まる場所へと向かう。


 そこで見たのは、凄まじい光景だった。

 アヴァロン王の婚約者達が、次々とクロイツ教国の者達を殺害していく。それも……相当えげつない方法で。


 手足の腱を斬り、身動きを取れなくした上で刺し殺したり、首を落としているキリエとかいう女と、兎獣人……正直言って、怖い。

 更に盾の勇者は手にした大盾を使い圧殺した……あれ、私の知っている盾の使い方と違うぞ?

 エルフ族の公爵令嬢が、股間に矢を射た上で眉間を撃ち抜く……同じ男として同情せざるを得ない、いっそ一思いに殺してやって欲しい。

 アリシア殿と魔人族の王妹は、アヴァロン王の義妹を何やら止めているのだが……竜の息吹ドラゴンブレスがどうこう言っているのは何なのだろう。

 それと、件の冒険者の神官娘……メイスで頭部を殴打しているのに、表情が変わらない。


 やだ、あの娘達、怖い。


 そこへ、アヴァロン王と錬成の勇者がやって来た。神官娘やアイングラム令嬢と何事かを話したアヴァロン王が、こちらに気付く。

「ナブサック公爵、こちらの方は対応を完了したようだ。そちらの方は如何か?」

「え、ええ……既にこちらも、王都に潜伏したクロイツ教国の者達を捕縛し終えておりますが……」

 その言葉に、アヴァロン王が頷いて口元を笑みの形にする。

「流石だな。イングヴァルト王からも、ナブサック公爵は的確な指示と迅速な対応で、兵士や騎士からも信が厚いと伺っている。貴殿に遺失魔道具アーティファクトを託したのは正解だったようだ」

 ……何で、こんなに普通に接してくるのだ、この男は。


「さて……おーい、皆? もうそいつら死んでるから、死体蹴りは程々に切り上げてくれよー?」

「あ、はい。そうですね」

 アヴァロン王の婚約者達は、返り血の一滴も浴びていない。

 足元に転がる死体の山が無ければ、可憐な少女の笑顔なのだが……。


「さて、それじゃあクロイツ教国へのお仕置きの準備なんだが……どうせだから、恐怖のどん底に突き落としてやるのが良いね」

 何か不穏な事を言っているぞ、この小僧……!!

「ユーちゃん、やり過ぎはダメですよ?」

「そうですよ、流石にもう一国の王なんですから、外聞もあるんですし」

 やり過ぎというが、何をやり過ぎる気なのだ? ちょっと聞いてみたい反面、聞くのが怖いぞ。


「ユート……嫌な予感しかしないから聞いておくんだけど、何をするのか説明してくれない?」

「ん?そこまで大した事じゃないんだけど……」


************************************************************


 私は数名の騎士と共に、アヴァロンの面々に交じってアヴァロン王の今後のプランを聞いた。

 ……悪魔の所業ではないのか? ちょっとアヴァロン王の正気を疑ってしまうのだが……。

 騎士達も、表情を凍り付かせて視線を泳がせている。


「さ、流石にそれはやり過ぎじゃない?」

「……ユート、鬼?」

 鬼というよりも悪魔だろう。この男が悪魔族の王と言われても信じられそうだぞ。

「ハッハッハ、これでもヌルいと思っているよ。だって、シルビアとアクセル君を……僕の大切なイトコを狙ったんだよ? 本来なら、クロイツ教国全土を“破滅を呼ぶ星リュシュフェル”で焼き払ってやりたいくらいだ」

 何の事か解らないが、平然と言い放つこの男……こいつには、やると言ったらやる……“スゴみ”があるッ!!


 しかし、シルビア殿下とアクセル殿下を害そうとした事で、怒りを爆発させたのか。

 ……アヴァロン王は、身内を何よりも大切にすると聞く。それは、こういう事か。


 ……アヴァロン王に歩み寄れば、もっとマシな状態になっていたのだろうか。

 私は自分の利益のみを考えて接した気がする。互いの立場を慮れば、アヴァロン王はある程度応えてくれたのかもしれぬ。


 ……まだ、遅くは無いだろうか。それには……まず、私から歩み寄ってみなければ、解らない。

「アヴァロン王、そのですな……これまでの失礼、まずは詫びさせて頂きたく……」

「ふむ?」

「自国の強化を優先するあまり、無礼を積み重ねてしまった。誠に申し訳無い……」


 すると、アヴァロン王はフッと表情を緩めた。

「謝罪の言葉を受け取ろう、ナブサック公爵。大迷宮攻略に我々が立ち会う事は、正直出来ない……あれは、自らの意思と覚悟を示す事で資格が得られる、ワイズマン達の遺した試練の迷宮だからな。しかし、攻略における情報等は提供するので、活用して貰いたい」

 ……あぁ、成程。敵対した者であっても、誠意を見せれば誠意で返すのか。これがアヴァロン王か。

「ご厚情、心より感謝申し上げる……」


「では、過去の事は水に流そう。こうしてクロイツ教国の暗躍も阻止できた事だしな」

 そう言って、アヴァロン王は魔導通話機マギフォンを取り出す。

「あ、叔父さん? ユートだよー」

 ……叔父さん、という事は……まさか、王か!? それとも、アークヴァルド公爵か!? というか、いきなりユルい感じになったぞっ!?


「ナブサック公爵と和解したから、金貨三百枚なんだけど、あれ無しにするから。うん? いや、別に。公爵が謝罪して、僕もそれを受け入れたからね、禍根は残したくないんだよ。えー、それじゃあイングヴァルトが損するじゃんか、別に構わないのに。んー、じゃあ一人金貨一枚までまけます、計金貨30枚ね! はい決定、これ以上は要りません!」

 ……何か、普通に会話している姿は年相応に見えるのだが。内容がちょっとおかしい。

「はいはい、それじゃあ事後処理を終えたら戻るからさ。シルビアとアクセル君はもう大丈夫だから、迎えに行ってあげたら? ん? 勿論、後で僕達も合流するよ。はーい、それじゃあねー」


 通話を終えたアヴァロン王が、こちらを向いて笑顔を見せる。

「ナブサック公爵。金貨三百枚の件だけど、アレ無しにしたからそのつもりで。イングヴァルト王国から、兵士救助の報酬は金貨三十枚出るけれど、それは王国が負担するそうだ」

 ……何という事か。


 彼の、器の大きさを見せ付けられた。これに対し、私はどうすべきか? ……とりあえず、誠意を見せるべきであろう!

「……アヴァロン王! せめて私から、これまでの謝罪の印に……金貨百枚をお渡しする、どうか受け取って頂きたい!!」

「え!? いや、良いんだけどそんなの……」

「それでは私の気が収まらないのだ、どうか! どうか受け取って下され!!」

 困惑する様子を見せるアヴァロン王も、私の熱意を感じ取ったのかようやく首を縦に振ってくれた。


 これで全て済んだとは思わぬ。しかし、この少年王の懐の深さに、私は何か忘れていたものを取り戻したような気分だ。

 そうだ、大迷宮攻略にあたって、騎士達や兵士達に稽古を付けて貰えないだろうか。目下の案件が落ち着いたらば、アヴァロン王に相談してみよう。

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