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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第10章 イングヴァルト王国Ⅱ
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10-06 攻略の後で/親善大使

これまでのあらすじ:アレキサンドリア大迷宮の攻略が完了した。

 アレキサンドリア大迷宮でやるべき事は終わった。転移魔法陣が光り輝いているので、そちらへ向かおうとしたのだが……ノエルさんの表情が暗い。

「どうしました、ノエルさん?」

「いえ……イングヴァルト王国の兵士達だけで、この大迷宮を攻略する事って可能でしょうか?」

 その問いに、即答はできなかった。しかし、無責任な希望的観測を口にする事はしたくない。


 仕方が無いな、ハッキリと僕の考えを告げよう。

「……無理ですね。僕達がこんな風に攻略出来たのは、各々の能力に加えてハイスペックの装備、潤沢な回復手段があってこそです。王国軍の兵士達が弱いとは言いませんが……」

 僕の言葉に、ノエルさんの表情が曇る。


「やはり、兵士達が大迷宮を攻略するのを手伝うというのは……」

「ええ、不特定多数を相手に、そこまでするつもりはありません」

 ”自力で得た力は、与えられた力に勝る”というのが僕の持論だからね。


「あ、あの……それならば、何故私は同行させて頂いたんでしょうか……?」

「え? ノエルさんは友達みうちだからですけど。それに、大迷宮攻略に初めて参加した時のエルザと、同等の力を持っていましたし」

「じゃあじゃあ、私はー?」

「真実を嘘偽り無く話したし、ノエルさんの為に枯渇するまで神力を使った所から、信頼に値すると思ったからだね」

 友達の為に力を尽くした人を、無碍に扱ったりしないよ。


「それに、今回は二人とも自分でその機会を手に入れたんだよ?」

 僕達と友好を深めていたノエルさん。僕達の信頼を勝ち取ったヒルド。

 その要素がなければ、他の兵士達のように大迷宮の入口に飛ばすだけだった。

 それを告げると、二人は嬉しそうに微笑んだ。


「でも……やはりそうですよね。ユートさん達に同行しているから何とかなっただけで、本来なら私の実力ではここまで来れないって解っているつもりですから」

 いやいや、流石にソロで攻略は無理でも、ノエルさんは普通に戦力になってた気がするぞ? 


 そう思ってノエルさんのステータスを見て、状態欄が面白い事になっていた。

 更に、ユウキ達に視線を向けて、その原因に気付いた。

「マナ、自分に人物鑑定ステータスチェックしてみ?」

「えっ? あ、うん……」


 ブツブツと詠唱をして、人理魔法”人物鑑定ステータスチェック”を発動しようとする。マナ、君はもうそれくらいなら、無詠唱で出来るんだぜ……?

 僕の言葉に、ユウキも遺失魔道具アーティファクト化した眼鏡を通してマナを見て……口をあんぐりと開けている。


 そして魔法を発動し、マナは目を見開いた。

「なにこれ!?」

「マナ、何があったの?」

「ど、どうしたの?」

 エルザとマリアに声を掛けられても、目をぱちくりとさせて口をあんぐりと開いたまま、呆然としているマナ。


 無理もないだろう、代わりに説明してあげるか。

「マナの技能が増えたんだ……所謂”固有技能ユニークスキル”がね。その内容が勇者らしいと言うか、マナらしいと言うか……ね」

 その技能とは”愛の魂ラブソウル”という技能だ。


 詳細を見ると、中々に興味深いものである。

「ステータスを見ると、ユウキには+100のステータス強化が入っているし、マリアやエルザには+50、僕達には+30だ。更に、マナ自身には+130……効果対象人数×10のステータスアップだ。仲間が多ければ多いほど、マナは強くなるし仲間にステータスを与えるわけだな、これは凄い技能だぞ?」


 恩恵を受けている者は、真実の目プロビデンスで見れば一目瞭然だった。

 僕達には”親愛の絆”。エルザやマリアには”友愛の絆”。ユウキのは、”愛の絆”だ。

 そして、ノエルさんにも”親愛の絆”が適用されていた。


「……何でこんな技能が増えたんだろう……」

「さぁ? でもまぁ、使える技能みたいだから良いんじゃないかな?」

 信頼している仲間であるマナが力を得たのは良い事だし、それで僕の中では良いと思ってしまう。だって、九割方は勇者だからだと思うんだよね。

「つ、つまり私が戦いに参加して付いて行けたのは、マナ様のお陰だったんですね!? 流石は勇者様です!!」

 ちょっと興奮気味に喜ぶノエルさん。あー、勇者ってそういえば、尊敬や崇拝の対象でしたね。


 ユウキ達にノエルさんを宥めるのを任せる事にして、僕はこの先の事を考える。

「大迷宮の入口に戻るか、ここの転移魔法陣を使うか……どうするかな」

「支援部隊の所に一度戻るべきでしょう。その後で、必要ならばイングヴァルトの王都に跳べば良いと思いますよ」

「兵士達を救出したと証明する為に、王都フォルトゥナへ一度連れて行くべきかと思います」

 アリスとアイリの言葉に、それもそうかと頷く。


「あ、あの……私は、どうしたら良いでしょうか……」

 ノエルさんが、心苦しそうに大迷宮の方を見る。

「どう、とは?」

「……今回、私はイングヴァルトで唯一の大迷宮攻略をした人間ですよね。でも、私は自分の実力だなんて思えません……ユートさん達のお陰ですから……。でも、イングヴァルト王国、特にナブサック公爵はそうは思わないと考えたら……」

 ……実力に見合わぬ地位や役職を押し付けられるのではないか、という事か。今にも泣きそうな顔だ。


 うーん、ノエルさんは笑っている顔の印象が強いから、そういう表情は見たくないなぁ。

「……ノエルさん、どうしたいですか?」

「どう……というのは……」

「イングヴァルトに残るか、それとも……アヴァロンに来ます?」

 僕の言葉に目を見開き、ノエルさんは一瞬嬉しそうな顔をした……が、すぐにその顔は曇る。


「私は兵士としてイングヴァルトに仕える身ですから……」

「うん、だからね? ノエルさんはイングヴァルト王が認めた”勇者の従者”として、大迷宮攻略を果たした事にすればいいんじゃないかな?」

 僕の言葉に、ノエルさんが驚きを見せる。

「”勇者の従者”……ですか?」

「そ、僕では無くてイングヴァルト王国の友好国に所属する、勇者三人の従者として派遣された事にするんだ」


 その言葉に、ノエルさんは遠慮がちな視線でユウキ達を見る。ユウキ達は笑顔で首肯した。

「ノエルさんさえ良ければ、それでどうでしょうか?」

「実際にノエルさんが居てくれたから、助かったし!」

「ええ、ノエルさんのお陰で安定した戦闘が出来たと思います」


 ユウキ・マナ・メグミの言葉に、ノエルさんは頬を染め……そして、結論を出したようだ。

「わ、私で良ければ……今後共よろしくお願いします……」

 そう言って、ノエルさんはペコリと頭を下げたのだった。


「んー、私はどうするべきなのかなー?」

「ヒルドは、魔人族の神の眼を避けるために、アヴァロン王国で保護するだろう? だから、僕達の仲間だと言い張ればいいよ」

 仲間が増えるとか、この界隈ではよくある話だ、多分。

「……成程、ゴリ押し……」

「ユートさん、ゴリ押し得意ですからね……」

 クリスとリイン、変なこと言わないの。


 結局、僕達は部屋の転移魔法陣は使わず、自前の門弾ゲートバレットで大迷宮の入口付近に転移する。

 僕達が大迷宮から出ると、何かあるのが恒例行事みたいになっている。だから、マップで王都の方まで確認してみよう……。

「あ、うん……魔王国や竜王国の時みたいな事態にはなっていないね……トラブルの種はあるけど」


 国家存亡の危機レベルの事態ではない。が、僕にとっては面倒事の予感しかしないな。

 眼鏡のマップで、ユウキも気付いたらしい。

「あー……ナブサック公爵……」

 そう、ナブサック公爵が大迷宮前に陣取っているのである。

「……どうするかなぁ」

「碌でもない事を言い出しそうですね……」

 全くもって、面倒臭い。


「考えられるのは、根源魔法アカシックレコードを会得するのに協力しろ、とかかな。あ、ノエルさんやヒルドはまだアヴァロン王国に所属していないとか言い張って、自分の騎士団に入れるという可能性もある」

「ナブサック公爵なら、やりかねません……」

 困ったような表情で苦笑するアリス。


「さて、こういう時に便利なのが、コレだ」

 取り出した遺失魔道具アーティファクトに、納得したように頷く者や「あー……」と苦笑する者で分かれた。それの詳細を知らないヒルドとノエルさんが首を傾げる。

「なに、大した事じゃない……ちょっとばかり、予定を前倒しにするだけだよ」

 後は、口裏合わせね。


************************************************************


 一時間後。

 大迷宮の入口から出た僕達に気付き、ナブサック公爵が鋭い視線を向けてくる。

「……アヴァロン王、随分とお早いお帰りでしたが……攻略はどうなされたのですかな?」

「攻略なら完了した。このイングヴァルト王国の大迷宮……アレキサンドリア大迷宮で会得できるのは、”強化”の根源魔法アカシックレコードだ」


 僕の言葉に、ナブサック公爵は視線を鋭くする。

「左様で……それで、全員が習得されたのですかな?」

「あぁ、そうだが?」

「そうですか、それはおめでとうございます……ところで、我が国の兵士を救出して頂いたようで。それに……そちらは冒険者ですかな? 一介の冒険者を保護なさるとは陛下は実にお優しい。彼女も私が責任を持って保護致しましょう」

 来たね、やはり。


「ちょっと何を言っているのか解らないな。ノエル・アイングラムは、大迷宮攻略任務を終えたらアヴァロン王国に所属する勇者の従者となる事が、事前に決まっているのだが」

「何ですと? そんな話は聞いておりませんが……?」

 仕方ないなぁ……という表情を作り、宝物庫ストレージから二通の証明書を出す。

「これが、イングヴァルト王とアイングラム子爵直筆の証明だ」

「な、なんだと……!?」


 円卓の座ラウンドワンで連絡を取り、アンドレイ叔父さんに証明書を書いて貰ったんだよね。アイングラム子爵も文官で王城勤めだから、事情を説明して証明書を書いて貰った。

 これで、ノエルさんはアヴァロン王国・イングヴァルト王国公認の、勇者の従者だ。


「それと、彼女はアヴァロン王国に所属する冒険者だ。たまたま大迷宮内で会ったので、同行させた。ヒルド、ライセンスカードを」

「はーい、陛下ー」

 間延びした声が緊張感を削ぐ。


 そのライセンスカードは、先程発行し直した物で……国籍欄に”アヴァロン王国”と記載されている。

 まだ、アヴァロン王国には冒険者ギルドが無い。なので、アヴァロン王国所属である事を証明するために、ライセンスカードに国籍を記載しているのだ。無論、これも証明書と一緒に用意して貰った。


「ぬ……ぐぬぬ……!」

 目論見が外れたようだな、ざまぁ。

 イングヴァルト王国は出身国みたいな感じだし、愛着も抱いている。だが、だからといって何でもかんでもするわけではない。

 特にこういうナブサック公爵みたいな奴は、気に食わない。なので、こうして目論見を丁寧に潰して差し上げた。


「さ、左様で……所でアヴァロン王、我が国の兵士を救出なさったのは良いのですが、何故そのまま連れて行かなかったので? まるで、我が国の兵士達が大迷宮を攻略すると困るような対応ではありませんか」

 今度はそう来たか。

「負傷したり、衰弱したりしている兵士を連れて行けと?」

「アヴァロン王ならばやりようはいくらでもあると思いますが?」

 ふざけんな、何でそこまでしなければならない。


「無理を言ってくれるな、ナブサック公爵。ただでさえ魔法を使えない状況下で、そこまで出来るとでも? 入口への転移魔法陣を使うだけで精一杯だ。それでも、相当に魔力が消費される状態だった」

 これは事実だ。魔力の回復手段が一応あったが、それを使うにしても宝物庫ストレージを開くので、魔力は相当消費する。


「第一、僕が引き受けたのは救出であって、同行じゃない。もしかしてイングヴァルト王国は他国の兵士に対して、無償でそこまでするのか?」

「ろ、論点がずれてはおりませぬか? 何故、兵士達を入口に飛ばしたのか……」

「同じ事を言わせるな。イングヴァルト王国は、我が国に無償奉仕を強要する国柄なのか? 安全圏に飛ばした事の何処が問題なのか、言ってみろよナブサック公爵」

 戯言を遮り、強い口調で指摘する。


 ナブサック公爵はようやく不利を悟ったらしい。遅いよ公爵、トドメを刺すにはもう十分だ。

「もう良い、貴様と話すだけ時間の無駄だ。イングヴァルト王国と我が国の仲だから、兵士達の救出は無償で行うつもりだったが気が変わった。イングヴァルト王に話さなければならない事もあるので、俺達は失礼する」

「なっ……お、お待ちを!」

 聞く耳持ちませーん。門弾ゲートバレットでイングヴァルト王城へ転移する。


************************************************************


「と言うわけで、兵士の救出費用を請求するからねー」

「う、うむ……まぁそれは仕方が無いね……」

 イングヴァルトの王城で、アンドレイ叔父さん・アルファ・アレックス叔父さんと向かい合いながら話す。さっきの件の御礼と、費用請求の件だ。


 僕の宣言に、アンドレイ叔父さんが苦々しい顔をする。いやいや、叔父さんに嫌がらせをするつもりは無いよ?

 と、僕が何か言う前に、アルファが苦笑する。

「父上、ユートの本音はナブサック公爵に払わせろ、という事かと」

「……あー」

「流石アルファ、よく解ってるね」


 つまり、公爵に”本来は不要だった救出の費用を支払う必要が出た責任を取るように”とか言って、支払わせればいいのだ。

「ちなみに、負担させる額はそっちの都合に合わせてもいいよ? あ、公爵の発言力を削いでおきたいなら、爵位を下げるのもオススメ」

「ユート君、容赦無いね!?」

 アレックス叔父さんがそんなことを言うが、当たり前である。


「身内じゃないナブサック公爵に、手加減してやる義理はないからね。僕に喧嘩を売ったんだ、むしろこの程度で済んで良かったねーってレベルだよ?」

「物理的にではなく、立場的にダメージを与えるようにしただけで、容赦がないのに変わりはないだろうが」

 えー、今回の対応はまだ良い方だと思うけど。イングヴァルトの人間だから、手加減してるのよ?

 ま、コレ以上は内政干渉にもなりそうだから、止めておくか。


「さて、それでは……大迷宮攻略について、可能な限りで構わないので情報を提供して貰えるかい? 無論、情報に見合った対価を支払う事を確約するよ」

「じゃあ、こっからは国と国のやり取りって事で……イングヴァルト王国に、アレキサンドリア大迷宮の情報をお伝えしよう。後程、書面でも提出するように手配する」


 大迷宮を製作したのは、アレキサンドリア・ランスロット・ワイズマン。

 大迷宮のルートは相当に入り組んでいる訳ではなく、トラップもそこまで多くは無いので、大迷宮としては並レベル。しかし、魔物のレベルはそこまで高くないものの、魔法が使えない状況下では手強い相手が多い。

 また、奥に進めば進むほど強さや耐久力が高い魔物が待ち構えている。


 尚、魔法が使えないという情報は、正確には消費魔力三倍、魔力の自然回復が出来ない事に由来する。

 最深部を守る守護者はベヒーモス。ベヒーモス戦では消費魔力三倍を覚悟した上で、魔法による攻撃が有効。

 可能であれば、収納鞄アイテムバッグの魔道具等に魔力回復魔法薬ポーションを準備しておき、最深部手前で魔力を回復するのが望ましいだろう。


 これらの攻略アドバイスを受け、イングヴァルト王国のトップ陣が感心したように頷く。

「成程、詳細な情報ありがとう、ユート君」

「ふむ……ユート。この大迷宮攻略だが、お前の見立てではどの程度の実力を持つ者なら、踏破が可能だと見る?」


 んー、そうだな。

「今回参加した兵士だと何人居ても無理、最低でもアルファ・エミリオ・シャルクラスの実力が必要だね」

「我々と同程度……か」

「うん、それくらい居れば……まぁ、それも僕の遺失魔道具アーティファクトやら何やらがあってっていうのも正直ある。だから遺失魔道具アーティファクト抜きだと、同レベルの人間が十人は最低でも必要だな」


 僕達が短時間で大迷宮を攻略できるのは、遺失魔道具アーティファクトと連射が可能な銃という要素があってこそだ。

 真実の目プロビデンスでマップを確認して進み、銃で遠距離から致命傷を与え、安全に進む。うん、大迷宮殺しだな。


 イングヴァルト王国としての大迷宮攻略については、後程詳細を検討して貰うとしよう。

 そして、僕以外のメンバーを入室させる。一応、対等な立ち位置という事で僕は立っているが、他のメンバーは跪いている。


「まずは、イングヴァルト王国の王として、諸君らの大迷宮攻略達成に祝いの言葉を。そして、持ち帰ってくれた情報と、兵士達の救助に関しての報酬を支払おう」

「加えて、今回の大迷宮攻略を冒険者ギルドの方にも話を持って行った。今回の攻略達成で、アヴァロン王とそのご婚約者方・勇者殿・従者には金級の冒険者ランクが授与されるとの事だ。昇級試験は特に行われないので、後程支部長ギルドマスターが金級のライセンスカードを持参して王城に来るそうだ」

 あらら、ついに金級か。ランク昇級にはあまり積極的には手を付けていなかったが……まぁ、いいかー。


「さて、それで……話は聞いているが、ノエル・アイングラム」

「は、はいっ!!」

「勇者メグミ殿、勇者ユウキ殿、勇者マナ殿の従者として、アヴァロン王国に出向くというのは誠か?」

「は、はい。そのつもりでございます!」

 緊張しまくっているな、ノエルさん。助け舟を出したくとも、横から口を挟める状況ではないしなぁ……。


「状況はアヴァロン王から聞いている。我が国の兵士が、勇者の従者に選ばれた事は喜ばしい事だ。アイングラム子爵からも、了承を得ている。ノエル・アイングラムに勇者の従者、そしてアヴァロン王国への親善大使の任に就く事を命じる」

 成程、親善大使と来たか。流石叔父さん、これは良い口実だ。


 ナブサック公爵は軍務担当で、外交はアレックス叔父さんの職分だから口出しは出来まい。

 無論、アンドレイ叔父さんもそれを解った上でやっているだろう。

「アヴァロン王国は、ノエル・アイングラム親善大使を歓迎する」

 僕も、ここでノエルさんを歓迎する事を明言しておく。

「は、はいっ! つっ、謹んでお受け致しますっ!!」

 少々テンパりながらも、ノエルさんはそう言って臣下の礼を取る。


 親善大使という扱いだから、所属はイングヴァルト王国のままだけど、これでノエルさんも正式にアヴァロン王国メンバーの仲間入りだね。


************************************************************


 夜、宛てがわれた部屋で休んでいると、扉がノックされた。

「どうぞ、鍵は開いているよ」

「失礼するねー」

 来訪者はヒルドだった。

「どうしたんだ、ヒルド?」

「うんー、陛下に聞きたい事があったのー」

 聞きたい事か、何だろうね。


「陛下の持っている武器とかってー、遺失魔道具アーティファクトなんだよねー?」

「うん、そうだよ」

遺失魔道具アーティファクトっていうだけでも凄いんだけどー、普通の遺失魔道具アーティファクトよりも性能が高いしー、それにこの世界に無い物が多いしー、不思議なんだー」


 まぁ普通の遺失魔道具アーティファクトは、日本語による魔力文字の付与だもんね。つまり等級の高い素材を使用しても、一つの魔法の詠唱を付与して、文字数は埋まる。

「陛下はもしかして異世界の人なのかなーって思ってー。でもー、陛下はこの世界で生まれているでしょー?」

 あぁ、それか。


 ヒルド……ヒュペリオン神はこの世界の文明については熟知しているだろうが、異世界の文明については詳しくないだろう。

 そして、異世界の文明をもたらす者といえば、召喚された勇者達だ。

 しかし何らかの手段で、僕がこの世界で生まれていると解るらしい。それで彼女は、不思議に思ったようだな。


「僕は創世神様に転生させて貰った、元異世界人だよ。何故、前世の記憶が残っているのかは解らないけどね」

 創世神様の事を告げると、ヒルドは一瞬驚いた顔になり……そして納得したようだ。

「懐かしい気配がするのは、創世神様の気配だったんだねー。この世界で生まれる前の事はー、私の目では見抜けないから解らなかったわけだー」

 ほう? ヒルドの目も、何らかの力を持っているようだ。

「そうするとー、あのキリエちゃんはー……」

「創世神様の天使だね。今は僕の守護天使として付いてくれているんだけど……色々あって、婚約した」

 その言葉に、ヒルドは苦笑する。


「その気持ちはちょっと解るー」

「ちょっと言っている意味が解りません」

 何でそんな気持ちが解っちゃうのかな? 

「陛下はさー、色々と特別なんだよー。遺失魔道具アーティファクトを製作する事が出来る勇者と聖女の息子で、天空島の新王国の国王でしょー? しかも、勇者と同じ世界に生きていた前世の記憶を持っているわけだしー、はっきり言うと異常とも言えるねー」

 異常者扱いされてる……。


「それにさー、私の事も受け入れて匿ってくれてるしー。惚れてもいいー?」

「おい待てやめろ、フラグを建てるな」

「私の事は嫌いー?」

「嫌いじゃないけど、これ以上とかどうすんだよ。収集つかないよ」

 しかも、メンツが既にヤバいのに。


 創世神様の天使に、人間族とエルフ族の公爵令嬢に、魔王の妹、異世界の勇者にリアルバニーガールだぞ。その中に世界神が交じるとか、おかしすぎるだろ。

 いや、別にヒルドが嫌いなわけじゃないけど。

「えーん、遠回しにフラレたー」

「嘘泣きしない」

 こいつ楽しんでいるだろ。


「そう言えば、こっちも気になっている事があったんだ。大迷宮でヒルドがノエルさんを保護している時、二人の反応が魔法では検知出来なかったんだが」

 正確には遺失魔道具アーティファクトで、だけど。

「あー、それはねー? 神力で魔物なんかが寄って来ないように結界を張っていたからじゃないかなー?」

 成程、そういう結界も使えるのか。ヒルドは出来る事が多そうだな、流石神様。


「とりあえず、私は魔人族の世界神・ディスマルクから管理権限を奪い返す為の力を蓄えようと思うんだー」

 まぁ、それはそうだろうな。

「だからねー、大迷宮攻略には同行させて貰いたいんだー。その分、勿論私にできる事なら協力するつもりだよー」

「あぁ、大丈夫だよ。他のメンバーにも聞いてはみるけど、ノーとは言わないと思うし」

「ありがとう陛下ー!」

 こらっ、抱き着くなし!!

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