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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第10章 イングヴァルト王国Ⅱ
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10-03 幕間/救出部隊

 イングヴァルト王国の大迷宮。その通路を駆け抜ける者達が居た。

 迷宮内で繁殖したり、生み出された魔物達はそれを見て、獲物が来たと歓喜していた……その生命の灯が消される寸前までは。


「邪魔だよっ!!」

 ドワーフ族の少女が振るう巨大な斧で、ゴブリンの胴体が断ち切られる。

「しゃらくさいのよっ!!」

 竜人族の少女が放った飛び蹴りで、コボルトの首の骨が折れる。

「どいたどいたーっ!!」

 人間族らしき少女の振るったメイスが、オークの頭部を粉砕する。


 そんな勇猛果敢に通路を爆走する少女三人に向けて、疾走する狼型の魔物が三匹。

「僕の恋人達に、近付けると思っているのか?」

 眼鏡をかけた少年が、素早く少女達に迫る狼型の魔物の首を落とす。遅れて血が噴き出すが、その血が少年を汚す事は無かった。


「いやぁ、ユウキも随分とユート兄に毒されて来たねぇ」

「今の言い回しとか、ユート君そっくり!」

「確かに。身のこなしや狙う所なんかも、ユートと変わらなかったわよ」

 女性陣の評価に、ユウキは苦笑する。似て来て当然だろう、自分の目標は正にあの暴君なのだから、と。


「まだまだ暴君モードのユートには遠く及ばないけどね。それに、ただユートの模倣をするだけじゃ意味が無い……僕は僕らしい戦い方を見つけないといけないからさ」

 そんな事を口にして、ユウキはもう一度苦笑した。


 召喚された当初は、自分がこんなに積極的に戦いに臨むだなんて思いもしなかった。マナだってどちらかと言えば、戦闘に対して消極的だったはずだ。

 そんな自分達が、大国であるイングヴァルト王国の兵士達を助ける為に、魔物の跋扈する大迷宮で大暴れしているのだ。


「……人生って、解らないもんだね」

 思わず呟いた言葉に、恋人である三人が首を傾げる。

「いや、大した事じゃないんだ。それより、兵士達が逃げ込んだ場所が近い、早く救出に行ってあげよう」

 ユウキの言葉に、三人は首肯して答える。


 そんな中、ユウキはある魔物を視界の端に収め……その魔物の手に持った()()に視線が固定される。透けた身体の魔物の名はレイス……そのレイスが手にしている存在に、ユウキは見覚えがあったのだ。


************************************************************


 一方、別の場所に居るイングヴァルト王国の兵士達は、戸惑っていた。

 突然現れ、大型の魔物を駆逐し切ってしまった少年・少女達……そんな彼らの姿に、見覚えが無い。無いのだが……その衣装はちょっと見覚えがあった。

 確か、あの衣装は……。


「兵士の皆さん、もう大丈夫! 私達はアヴァロン王国の救援部隊だよっ!」

 赤みがかった茶髪の少女が、腰に手を当てて発育の良い胸を強調するように身を反らしながら、そう宣言する。

 そう、この衣装は確かアヴァロン王国の人達が身に纏う服だったはず!!


「エイルさん、兵士の皆さんがびっくりされています」

「我々はアヴァロン王国の国王より、皆様の救援を任された救出部隊です。他の二箇所に避難している兵士の方々の所にも、別動隊が向かっていますのでご安心下さい」

「これより皆様を、大迷宮の入口まで転移魔法で避難させます、よろしいですか?」

 女性陣の言葉にコクコクと首を縦に振りつつ、兵士達は慌てて問い掛ける。


「あの! 貴女方のお名前は……!?」

 ちょっと、状況に酔ってしまったのだろう。極限状態の所に現れた、見目麗しい少女達。その中の誰か……誰か一人でも、お近付きになれればと……!

 しかしそんな期待は、容赦なく打ち砕かれる。

「私の名前はリイナレイン、アヴァロン王の婚約者の一人です」

「同じく、アヴァロン国王陛下の婚約者で、アイリと申します」

「私も陛下の婚約者、メグミ・ヤグチです」


 その自己紹介に、兵士達は心折れた。

 アヴァロン王は複数の女性と婚約していると聞いていたが、まさかこんな所で格差を見せつけられるとは……!!

 しかし、一部の兵士は折れていない。まだだ、まだ可愛らしい少女が居る!

「私はエイル・アーカディア・アヴァロン。アヴァロン王の義理の妹だよ!」

 義理の! 妹!

 つまりは王妹、彼女と親密になったならば、もしかして……!?


「もしかしたら、その内お兄ちゃんの婚約者とかになっちゃうかもねー!」

 兵士達は、ちょっと何を言っているのか解らなかった。

「……い、妹君なのですよね?」

「そうだよー? でもキリエお姉ちゃんも、元々はお兄ちゃんの義姉だったし! 私もお兄ちゃんとならお嫁さんも良いかなーって思うんだよね、最近」


 無論、これはわざと言っている。エイル的に、一兵卒でしかない彼らに対して興味は無い。その為、面倒事にならないように、屈託のない笑顔で暗に「君達眼中にないからね!」と言っているのだ。

 エイルの宣言に、顔を綻ばせる婚約者三人は、兵士達の表情の変化に気付いていない。


「……イングヴァルトの公爵令嬢に、ヴォルフィードの公爵令嬢、更には魔王の妹に獣王国の英雄……そして、勇者の一人。その上義理の姉と妹まで……流石は陛下、将来安泰ですな」

 黙して立っていた竜人男性が、何かウンウンと頷いていた。兵士達の目は死んだ魚の目になっているのに気付かないまま。

 竜人男性ことフリードリヒは……ちょっと空気が読めない男だった。

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