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09-05 クロイツ教国へ/勘違い

これまでのあらすじ:第3回世界会議が無事に終了した。

 世界会議から二日後。一緒に付いて行きたそうな、キリエとエイルを除く婚約者達に見送られ、僕達はクロイツ教国へ向かって出発する。

 ついでに、その途中でファムタール騎士国に寄るつもりだ。

「さて、それじゃあ行こうか~」

 そんな僕達の装いは、アヴァロン正装という名前が正式に決まったいつもの服だ。


 既に存在が公になり、住民達も「あっ、アヴァロン王国の車だ!」と慣れた様子を見せる魔力駆動四輪じどうしゃでイングヴァルト王国を駆け抜ける。

 イングヴァルトとファムタールの国境には関所があり、両国の兵士達が合同での身元確認などをしているようだ。


 元々、イングヴァルト王国とファムタール騎士国の建国王が、親しい間柄だったらしい。そんな縁もあって両国は長い歴史の中で、友好関係を維持しているそうだ。

 僕達も、そんな関係を同盟国と結べたらいいね。


 そんな事を考えて関所の列に並んでいると、イングヴァルトの兵士が僕達の所まで出向いて来た。

「失礼、アヴァロン王の御一行でしょうか?」

「あぁ、ユート・アーカディア・アヴァロンだ」

 そう返答すると、兵士は恭しく一礼した。


「御尊顔を拝謁でき、光栄ですアヴァロン国王陛下。イングヴァルト王より、優先してお通しせよと命を受けております、どうぞこちらへ」

 そう言って、僕達を先導する兵士。

 あー、そう言えば僕は王様だっけか。冒険者時代の感覚が抜けず、普通に並んじゃったよ……魔力駆動四輪で。お陰で目立ったわ。


 難なく関所を通過した僕達は、騎士王国の王都へと向かう。

 一国の王とその婚約者、そして勇者が国を横断させて貰うわけだからね。礼儀として、騎士王への挨拶に出向かなければいけないだろう。


 道中は特に大したトラブルもなく、王都キャメロンへ入る……のだが。王都の門を潜った所で、僕達を待ち受けている人物が居た。

「待っていたよ、ユート殿!!」

 バッとポーズを取るのは、カミーユ・フォン・ファムタール第三王子である。何故に荒ぶる鷹のポーズなのか。

「やぁ、カミーユ。相変わらず濃いな……キャラが」

 おや、後ろに二人の青年が控えている……もしかして?


 僕の視線に気付いたようで、カミーユの横に並ぶ二人の青年。

「お初にお目にかかる、アヴァロン王。俺は第一王子のクロードだ」

「同じく、第二王子のキルトです。お会い出来て光栄です、アヴァロン王」

 やはりそうだったか。まだ会った事が無かった、騎士王国の第一・第二王子だ。


「初めましてクロード王子、キルト王子。出迎えに感謝する」

 一応、対応は王様モードだ。

「これから王城へ挨拶に行こうと思っていたのだが、王都門まで出向いて迎えてくれるとは思っていなかった。心遣いに感謝するよ」

 そう言うと、カミーユは一々ポーズと取って答えて来た。

「ユート殿が婚約者と勇者を連れてくるならばっ!! 盛大に、歓迎をしなければ!! と、思ってね。兄上達に声を掛けたのさ」

 ねぇ、何でシャルル殿下はいないん? コイツを止める為、シャルル殿下のプロレス技が必要だ、今。


「そりゃ、ありがたいけど……良かったのか、王子が三人も出向いて。ほら、国の立場的にとか……」

 すると、キルト王子が苦笑した。

「世界同盟の盟主と名高いアヴァロン王を出迎えるのには、これでも足りないと思っていますよ」

 そんな大したもんじゃないんだけど。


「しかし、本当にアヴァロン王とは友人なのか、カミーユ……不肖の弟が申し訳ない……その、色々と」

 ……苦労、しているんだろうね。そして、若干言い難そうにクロード王子が切り出してきた。

「アヴァロン王、もし差し支えなければで良いのだが……我々とも、友人になって頂けぬか?」

 あぁ、そんな事か。友人が増えるのは大歓迎だ、特に男子。周りの女性比率が高いからね。


「勿論良いとも……じゃあ、口調も崩させて貰うね。二人も楽にしてくれていいからさ」

 王様口調は疲れるんだよね。

 僕が差し出した手を、二人は笑顔で握りしめた。

 ……しかし、大抵の王子・王女は友人関係になるのか。成程、確かに普通からは少しズレているね。


************************************************************


 王城へ辿り着くと、シャルル殿下とミレイナ嬢が待っていた。

「お待ちしておりました、アヴァロン国王陛下、ご婚約者様方、そして勇者の皆様」

「先日は素晴らしい場にお招き頂き、ありがとうございました」

 カーテシーで挨拶をしてくる二人。

「出迎え感謝する、シャルル殿下にミレイナ殿。ファムタール騎士王にも連絡はしたのだが、おられるか?」

「はい。ご案内致しますわ、アヴァロン国王陛下」

 そう言って歩き出すシャルル殿下とミレイナ嬢。


 二人の後に続きつつ、声をかける。

「ファムタール騎士国は、良い国だね。ここまでの道中、大半の国民が生き生きとしていたよ。うちも見習わないと」

「ありがとうございます、きっと騎士王も喜びますわ」

 シャルル殿下、王女モードは完璧な美少女だよなぁ。しかし、やはり堅いよね。


「シャルル殿下も肩の力を抜いて下さい。ユーちゃんと王子のお三方が友人になった事ですし、こちらは女同士で友達になりませんか?」

 キリエの言葉に立ち止まると、驚き……それと、期待を滲ませるシャルル殿下。

「よ、よろしいのですか?」

「はい、勿論です」

「あーっ、私も!」

「私とも友達になってくれますか?」

「当然、私もねー!」

「もちろん、ミレイナ殿もね!」

「わ、私もよろしいのですか?」

 女性陣は、なんだか盛り上がってきたな。


 その様子に苦笑しつつ、僕は先を促す。

「はいはい、後でゆっくり時間取るから。騎士王を待たせるわけにもいかないだろ」

「あっ、そうです! 失礼しました、陛下!」

「いや、責めてないよ。うちの子達をよろしくね。シャルル、でいいのかな?」

 フランクに呼び掛けると、少し躊躇い気味にシャルル王女改めシャルルが頷いた。

「は、はい! えっと……ユートさん、でよろしいでしょうか!」

「勿論。うちの女性陣共々、よろしくね」


 案内された部屋で待っていた騎士王が立ち上がり、出迎えてくれる。

「ようこそ、ファムタール騎士国へ。先日は素晴らしい体験ばかりだった。感謝するよ、アヴァロン王」

「喜んで貰えて何よりだ。騎士王とクエスト王の加盟のお陰で、実に収穫の多い会議になった」


 握手を交わしながら会話する僕と騎士王を見て、シャルルが苦笑する。

「ユートさんは、色々な顔を持つのですね」

 そんな言葉に、カミーユも頷いた。

「確かにそうだ。王としての顔、そして僕達に見せる気さくな顔。まだまだ、他にも見ていない顔がありそうだね!」

 通称・暴君モードとかありますが。


 そのまま、その日はファムタール騎士国に一泊する。僕達は王城に泊めて貰う事になった。

 話が弾み、互いの呼び名や口調も親しいものに変化していく。定番となってきた僕達の冒険などの話をすると、殿下達が興奮し出した。

「私も、お姉様達のような強い女性になるっ!!」

 手を突き上げて、そんな宣言をするシャルル殿下。何か、生涯に悔いが一片もなさそうなポーズである。

 ちなみにお姉様達っていうのは、うちの女性陣だ。どうやら懐いたらしい。

 ……この王女、磨けば光ると思うけどね。現時点で、凄まじいプロレス技を披露してたし。


「改めて聞くと、ユート達は凄いな。一年足らずで一国の王にまで上り詰めたわけだし」

「うん。ユート君達の冒険譚とか出版したら、ベストセラーになるんじゃない?」

「やめろキルト、それだけは絶対にやめろ!」

「ハッハッハ、良いのではないかユート殿?英雄たる者、民に娯楽を提供するのも務めだぞ!」

 そんな事を言いつつ、僕の背中をバシバシ叩く騎士王。痛いよ、まったく……さては、この人も脳筋タイプだな?

 そんなわけで、サロンで話しながら僕達は交友を深めていた。


************************************************************


 翌日、朝には僕達は出発する事にした。早めに出るのは、一応念の為だ。クロイツ教国に入る以上、何があるか解らないからね。

「では、また会おうアヴァロン王よ」

「見送りに感謝するよ、騎士王。今度は、ゆっくりと時間がとれるようにしたいものだ」

 僕達は見送りに来てくれた騎士王達に挨拶をしている所だ。


「アヴァロン王は他国の文化や風習に興味があるんだったか。では、次は色々と案内できるように準備をせねばならんな」

「お心遣い、感謝する。では騎士王、また」

 握手を交わし、僕達は魔力駆動四輪に乗り込む。服装を普通の冒険者風の服装に変え、僕達はクロイツ教国の教都へ向かう。


************************************************************


 魔力駆動四輪を飛ばしたお陰で、半日とかからずにクロイツ教国の教都へ辿り着いた。

 それも無理はあるまい。マップで人通りの無い所を確認して通り、人が居る所では認識阻害の刻印付与魔法を発動。普通の馬車の倍以上の速さである。

 最近、自重してない自覚はある。


 魔力駆動四輪を降りて、街道を歩いて数十分。辿り着いた教都の門では、古い冒険者のライセンスカードを身分証として提示する。

「ほぉ、冒険者か」

「明日、勇者様達の集まりがあると聞いたもので、見物にね」


 僕とキリエは古い物で、アーカディアという家名の入っていない頃の物。メグミとユウキ・マナは変装済み、エイル・マリアはそのままだ。皆、新たに登録した銀級のライセンスカードで、それぞれ名前しか書かれていない。

 エルザは先日銀級に昇級したので、新しいカードになっている。ふむ、全員が銀級冒険者だね。


「よし、通っていいぞ」

 特に問題なく、門を潜る事が出来た。

「さて、顔合わせとやらは明日みたいだが……もう、勇者達は来ているのかね?」

「ユートが解らないなら、僕らにも解らないよ」

 苦笑するユウキに、それもそうかと頷く。竜眼のレベルが上がったら、もっと出来ることも増えるのかねぇ。


 とりあえず、既に一度”解析アナライズ”している教皇やマサヨシならばマップで動向が解るので、確認してみよう。

「教皇は神殿内だな。多分執務中か? マサヨシは……げっ、近くに居るな。今は接触を避けよう」

 厄介事にしかならないだろうからね。


 そして、僕達はとりあえず宿を取ろうとして、教都の街道を歩き始め……ある人物と出会した。

「……げっ」

「……おや」

 グレン……銀級冒険者にして、女好きの馬鹿男である。


「こんな所で出会うとは。それにご無沙汰しています、勇者ユウキ様、マナ様、メグミ様。おや、そちらの……竜人族の方と、可憐なレディは初めて見る顔だね」

 性懲りもせずにウチの女性陣にまたコナかける気なら、そろそろ息子さんが天に召されるぞ。


「そして……付与魔導師君、ちょうど良かったよ。少々、君と話したい事があるのだが、時間を貰っても良いかね?」

 ……あれ、前よりも少しまともな対応に見える。


 マップを見れば、光点が赤ではなく青になってる……? だから気付かなかったのか……しかし赤は敵意・青は味方を示すんだが。

 話したい事とやらに関わるのだろうか。

「話は……まぁかまわない。だが、済まないが場所を変えたいんだ」

「ならば、人が滅多に立ち寄らない良い場所がある。こっちだよ」

 地元民でもないグレンの奴が、何でそんな場所を知っているんだ。あれか、男女の野外運動会でもするためか。


 グレンに案内されたのは、教都の中枢から少しだけ離れた場所にある林の中だ。

「それで、話って?」

「そうだね。まずは建国おめでとう付与魔導師君。いや、もうアヴァロン国王陛下と呼ぶべきだね」

 四カ国会談……第一回世界会議には居なかったが、流石にそのくらいの情報は得ていたようだな。


「魔王国を出た後、私達も様々な場所を巡ってね。そして、先日興味深い話を聞いたんだ。アヴァロン王が、竜人族の国を悪魔族から救ったとね」

 随分と最近の話だな。

「そして、その際……アヴァロン王は、黒い鎧を身に纏っていたと聞いたんだ。そこで確認したい事が出来たんだよ……クエスト王国の王都で、君は同じ鎧を着ていなかったかい?」


 あぁ、そういう事か。あの時、バハムートと名乗った人物の正体が、僕ではないかと思ったわけだな。

「あぁ、あんたにあの時バハムートと名乗ったのは、僕だ」

「……やはりそうだったか。あの時の助力に感謝するよ」

 そう言って、グレンは頭を下げた……すっごく意外。


「世界同盟の事も、ファムタール騎士国でとても話題になっていたね。そして、昨日ある話を聞いたんだ。明日、この教国で勇者達の集いが行われる……ってね。もしかしたらと思い、急いで来たんだよ。馬車で」

「そいつは軽快なフットワークだな。安くなかっただろうに」

「魔王国での報奨がなければ、出来なかっただろうとも」

 あぁ、こいつらも報奨を受け取ってたな、そう言えば。


「さて、この国に来たということは、勇者達の集いに出席する気だね?」

「まぁ、そりゃあね。アヴァロン王国の立場としては、参加しないで余計な敵意を向けられるのはよろしくない」

「やはりそうか。私もそう考え、ここで君達に会えるかも知れないと思ってやって来たんだ」

 こいつに笑顔で話しかけられると、何かすごく違和感があるんですが。


「バハムートの正体を知るために、そこまでするもんか?」

「それも理由の一つだが、それが全てではないんだよ」

 そう言うと、グレンは跪いた……嫌な予感がする。

「アヴァロン国王陛下、この私をアヴァロン王国の末席に置いては頂けませんか」

 やっぱりね!? っていうか、何でこいつがそんな事を言い出したのかが解らない!


 そこで、キリエが一歩前に出た。その視線は鋭い。

「冒険者グレン、アヴァロンに仕えたいというその理由は何ですか」

「ご挨拶が遅くなり失礼致しました、キリエ・アーカディア女男爵様。理由は簡単です……自分の不甲斐なさを自覚してようやく気付いたのです。陛下君の実力と、その人柄に」

 陛下君ってなんだよ! ツッコミを入れるかどうか迷っていたら、キリエが頬を引き攣らせつつ先を促す。

「……と言いますと?」


 そうして、グレンは魔王国を出た後の話をし出す。

「勇者メグミ様とクリスティーナ殿下の叱責を受け、私は自分が何も出来ていない事にようやく気が付いたのです。そして、自分を見つめ直すべく、この一ヶ月あまりの時間を旅に費やしたのですが……そこで、向かったのは古巣であるイングヴァルト王国でした」

 そして、ある村に立ち寄ったそうだ……東の森に近い村に。そう、ゴブリンファミリー大虐殺を行ったあの村である。なんと、グレンはあの村の出身だったらしい。


「そこで聞いた話は、驚くべき内容でした。ゴブリンの群れを討伐し尽くした冒険者二人。容姿から、陛下君とキリエ様だと確信しました」

 村人達からその話を聞き、グレンは王都フォルトゥナへ向かったらしい。そこで聞き付けた僕達の噂。


魔物の氾濫スタンピードの鎮圧、ミリアン獣王国の王都防衛、ヴォルフィード皇国の貴族と悪魔族の討伐、そして私も知る魔王国での活躍に、アヴァロン王国の建国……そのどれもが、英雄を讃えるものだった。そしてつい先日の、竜王国でのご活躍」

 そこで、魔導装甲を纏った僕と、クエスト王国で出会ったバハムートの関係性に気付いたってわけね。

 まぁ、クエスト王がそれを国民に布告するって言っていたし、バレても問題はないけど。


「不思議と、あの黒騎士バハムート様は陛下君だという確信がありました。そして、クロイツ教国の声明……ここに来れば会えるかもしれないと思い、この国に参りました」

 そして、真剣な目でグレンは僕を見る。


「これだけの活躍、それにあの黒騎士バハムートとしての姿……それで私は確信したのです。陛下君の真の姿に」

 ……ん? 真の姿も何も、これが真の姿だぞ?

「そう! 天空の島に住むという竜神!」

 ……んんっ!?

「陛下君は、竜神をその身に降ろす依代なのだとっ!!」

「ちょっと何言ってるのか解かんないです」

 コイツの頭のネジが何本緩んでいるのか知りたい。


「みなまで言わずとも構いません! 恐らく、公にする事が出来ない理由があるのでしょう! ご安心下さい、このグレン! 陛下君が竜神の依代という事は、例え拷問されても決して他言しないと誓いましょう!」

 うん、この思い込みの激しさ。良かった、グレンはグレンだったよ。

「陛下君に数々の無礼を働いてきた私は、その過ちを正すにはどうすべきか考えました! そして悟ったのです! 陛下君に謝罪し、お仕えする事で償おうと!! どうか、私に贖罪の機会を!!」

 ……あっ、悪かったとは思ってるのか、過去の事。


 うーん、どうするかな……ここは、他のメンバーにも確認してから返答すべきだろう。

「話は解った。アヴァロンにいる他の者にも話をし、その上で返答しよう」

「感謝するよ、陛下君!!」

 だから、その呼び名は何なんだよ!!

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