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09-02 仕官/理想郷

これまでのあらすじ:各国の皆さんをラ○ンドワンにご招待。

 国も種族も大陸も越えて、共に笑い合い語り合っている世界同盟の加盟国メンバー。どのブースも盛り上がっているようだ。

 思えば、この世界って娯楽が少ないんだよね。唯一と言っていい娯楽が、剣闘士による闘技場での戦いとか、あまり気持ちの良いものではない。

 こういった、健全な娯楽を広めていくのもいいかもしれないな。それならば、やはりスポーツが良いか。すぐにでもできそうなのは、やはりサッカーかな?


 そんなことを考えていると、僕の方へ一組の男女が歩み寄って来る。あれは確か、ファムタール騎士国のカミーユ第三王子と、その婚約者のミレイナ嬢だったか。

「失礼致します、アヴァロン国王陛下」

「これはカミーユ王子殿下にミレイナ嬢。楽しんで貰えているかな?」

「ええ、それはもう」

「とても刺激的で、時間を忘れてしまいましたわ」

 表情を見る限り、お世辞ではなさそうだな。それなら用意した甲斐もあるというものだ。


「アルファルド殿下から、陛下の話を色々聞いておりまして。不躾ながら、ご友人になれないかと思いお声をかけた次第です」

 そっか、イングヴァルトとファムタールは元々友好国家なんだったな。それで、アルファとも旧知の間柄だったわけか。

「喜んで、カミーユ王子。さて、友人なら肩の力を抜いて話さないかな? 僕より王子の方が年上なんだし、堅苦しいのは無しにしようよ」

 その言葉に、カミーユ王子は表情を緩め……。


 バッ!! と両手を掲げた。

「やはり、アルファルド殿下から聞いていた通りの人柄だ!」

 ……んん? 


「常々アヴァロン王にお会いしたいと思っていたのだ。弱きを助け悪しきを挫く、その武勇伝! そして、身分を問わずに懐に入れてしまうその器量! 正に騎士道精神ではないかとっ!」

 何で、言葉の端々でポーズ取ってんの、この王子。そして、それをキラキラした目で見ているミレイナ嬢は、どっかのネジが緩んでいない? 

「我が友アルファルド殿下が絶賛していたアヴァロン王、やはり僕が見込んだ通りの人柄! こんなに素晴らしい出会いはそうそう無いだろう!」

 皆の視線が、こっちに集まっているよ。逃げたい。


「新たなる我が友、アヴァロン王……いや、ユート殿呼ばせて欲しい! 僕の事も、カミーユと呼んでくれて構わないっ!!」

 そのポーズ、いくつバリエーションあるん?


「私も、ミレイナとお呼び下さい。ユート様、とお呼びしても構いませんでしょうか?」

 ミレイナは一見すると普通だ、良かったー。でもこのカミーユを受け入れている姿勢は、きっとこの娘の根底も普通じゃないだろうな。

「よろしくカミーユ、ミレイナ……とりあえず、クールダウンしない?」

「おっと、これは失礼した。喜びのあまり、つい熱が入ってしまったようだ。しかし、それも無理はあるまい! こんな素晴らしい出会いがあったのだからっ!!」

 だから、ポーズを取るな、熱を込めるな。

 ……大丈夫か、騎士国。第一王子と第二王子もいるんだろ? 上の二人もこんなのじゃないだろうな。


 ——そんな何とも言えない空気に割って入る、一陣の風。

「落ち着けバカ兄貴っ!」

 ドレス姿でドロップキックをかます、淑女らしからぬ姿。着地もバッチリ決めているところを見ると、これ蹴り慣れているぞ!?

 ふっ飛ばされ、そのままボーリングのレーンを滑っていくカミーユ!  カッコーン!! と小気味の良い音が響く……ストライクじゃないですか。

 ミレイナ嬢を見ると、あらあらって顔で微笑んでるぞ!? 

 なに、このカオスな空間は!! 


 思わずドロップキックをかました少女に視線を向けてしまった。少女は照れ笑いしつつ、カーテシーで名乗りを上げる。

「大変お見苦しい所をお見せした事と、大変暑苦しい馬鹿兄貴が失礼を致しました、アヴァロン国王陛下」

「や、気にしないでいいよ……ちょっと驚いたけど」

「ありがとうございます。申し遅れました、ファムタール騎士国第一王女のシャルルでございます」

 シャルとシャルル、名前が似てて混乱しそうね。


「シャルル殿下、カミーユは大丈夫かな? 芸術的なまでのドロップキックとストライクだったけど」

「大丈夫でしょう、いつもの事ですから」

 日常茶飯事ですか、そうですか。

「済みません、クロードお兄様とキルトお兄様は落ち着いているのですが、カミーユお兄様は万事あんな感じでして……」

 疲れたような表情、心中お察しする。

「シャルル殿下……めげずに頑張るのだよ」

「超ありがとうございます、アヴァロン国王陛下」

 騎士国は何か、凄いのが揃ってるな。騎士王は普通だったんだけど……もしや、あの人も……?


************************************************************


 その後、目を覚したカミーユはミレイナとシャルル殿下に押し付け、僕はそれぞれのブースの様子を見に行った。無論、抜け出す口実である。

 シャルル殿下は致し方無し、という顔で手を振っていた……苦労していそうだな。


 ダーツは四組に別れ、ホスト役も解説しながら一緒にプレイしているみたいだ。

 ベンツ氏とジーナ王女にはアイリとジル。クエスト王とファムタール騎士王にキリエ。フェアランド公爵とボルト北方伯にユウキ。マックとダーム王子にジョリーン。

 三〜四人で、互いを讃えたりしているあたり、安心かな。


 ビリヤードは、二人一組になっているらしい。

 リイン・アリス・クリス・マナはその側で、ルールなどを教えながら観戦中かな? 

 組分けはアルファとリアのカップル。アマダムとミランダの異色コンビ。皇帝陛下と公爵閣下のエルフ王族兄弟。ビッグス伯爵とゲイル南方伯……つまりアングルスの伯爵コンビ。ジオとクラウスというこちらも異色のコンビだ。

 ふーむ、こちらもそれなりに盛り上がっているみたいだ。


 ボーリングは何か凄い事になっていた。

 エイル・メグミ・メアリー・エルザ・マリアの、チームアヴァロン。ブリックとマチルダに、グラムとエミリオとシャルの若者チーム。獣王陛下と竜王陛下、更にアンドレイ叔父さんの王族チーム。アレックス叔父さん、ビスカンド東方伯・キルシュタイン西方伯に、リカルド宰相、デリド宰相の幹部チーム。

 四組に別れ、合計点が一番高いチームを競っているようだ……しかし、聞こえてくる音がおかしい。刻印付与している物じゃなければ壊れてるぞ。

 特に凄いのが獣王陛下と竜王陛下。人数が二人足りないので、王様チームはこの両者が二人分投げてるんだけど……ピンが弾けとんでない? まぁ、ピンにも刻印付与しているから大丈夫だけども。


 おや、ところでフリードは……あ、いたいた。フリードは皆の様子を見ながら、フムフムとか頷いている。

「フリードはやらないの?」

 声を掛けてみると、フリードは笑顔でこちらに向き直った。

「えぇ、実はアヴァロン国王陛下にお話ししたい事がございまして……その後で、輪に加わろうかと」

 話? ってか、その為に待っていたのか? 


「声を掛けてくれても良かったのに」

「いえ、私は爵位も何もない一介の平民ですから。陛下方の交流のお邪魔をするわけにはいきませんので」

 堅いな、相変わらず。

「もっと肩の力抜いてくれて良いんだよ?」

「……まぁ、これから話す事に関わるので、多少力は入っていますね」

 そういや、話があるんだったか。


「それで、どんな話かな?」

 すると、フリードが突然跪く。何事!?

「恐れながらこのフリードリヒ、アヴァロン王国国王であらせられるユート・アーカディア・アヴァロン陛下にお仕え致したく、竜王陛下に同行させて頂きました」


 え……アヴァロンに仕官すんの? えっ、竜王陛下やリンドおじさん達は知ってるって事よね? 

 チラッと竜王陛下に視線を向けると、ボーリングチームがこっちに注目していた。竜王陛下は、苦笑しながら首肯している。

 それどころか、ダーツチームやビリヤードチームもだ。おぉう、何という公開処刑。いやいや、処刑は違うな。


 さて、では……。

『突発念話でアヴァロン会議! フリードの仕官に異議がある人!』

 アヴァロンメンバー全員に念話する。

『良いと思いますよ』

『竜騎士の息子ですか、更にアヴァロンに大物が……!』

『真面目そうな人ですねぇ、色々と力を貸してくれそうです』

『良いと思いますよ〜!』

 婚約者やコアメンバーから異議はなし。では、確定だ。

 僕の意見? 最初からOKに決まってる、フリードは従兄弟みたいなものだからね。


「……」

 何かフリードが緊張してる。あっ、返答待ちだったか!

「フリード用のアヴァロンコートは何色にするかねぇ。希望はある?」

「っ! それでは……!!」

「フリード、これからよろしくね」

 笑顔で手を差し出す。すると、フリードはその手に……お手した。何でお手!?


 ちょろっと会場を抜け出し、フリード用のアヴァロンコートをブラン服飾店で購入。新規参入ということで、フリードは白コートに黒縁にした。

 速攻でアヴァロンに戻り、皆に見守られながらフリードの肩にコートをかける。

「新しい仲間として歓迎するよ、フリード。よろしくね」

「はっ、誠心誠意お仕え致します、陛下!」

 まだ跪いてるし。この辺、少し慣れて貰わないとねー。


 ……そうだ、折角遊戯も中断しているし、時間も丁度いい。

「丁度いいから、皆外に出てみないかな? もう一つ、試して貰いたい物があるから」

 僕の言葉に、ゲスト勢が首を傾げる。

「ユート君、まだ何か用意していたのかい?」

「ここまで興味深いものが揃っていて、まだ隠し玉があるのか……」

「ユートがわざわざ言うくらいだ、きっととんでもない物に違いない」

 失敬なアマダムとマックである。同盟加盟国にはメリットがある内容だというのに。


 ……


「はい、こちらが量産型魔導兵騎でーす」

 僕が宝物庫から取り出した魔導兵騎を見て、初見のメンバーが目を剥く。

「な、何だいこれは!?」

「何か……とんでもない予感がする!!」

 戦慄を隠せない面々。


 そういや、量産型と専用機も見比べて貰うべきかな? よし、僕のバハムートを出そう。

 魔導兵騎は、変身しなくても装着や起動が可能である。量産型を使う人全員が変身するのは……ねぇ。

「今見て貰っているのが量産機で……こっちが専用機だ」

 バハムートを出しながら、各国のゲスト達に魔導兵騎を解説する。

 これは魔力で起動し、稼働する強化アーマーである事。

 量産機には陸戦型・空戦型の二種類を製作している事。

 専用機は両方のタイプに対応している事。


 それらを説明すると、獣王陛下が興奮気味に問い掛けてくる。

「ユート殿、これはもしや譲渡して貰えるのだろうか!? 対価はどれ程なのだ!?」

 そう思うよねぇ……しかし、この魔導兵騎についてはある考えがある。まぁ今は、言及しない方が良いな。

「その話は明日、会議の場で話し合いをしたいので」

「ふむ……承知した」

「とりあえず、今日は希望者には実際に乗ってみて貰おうかと」

 乗る事が出来ると聞いて、各国の男性陣が沸いた。男はいつまで経っても、少年の心を忘れないって言うからね。


 尚、量産機でノウハウは掴めたから、婚約者達の専用機製作にも着手するつもりだ。

 試作した十機の魔導兵騎に代わる代わる乗っている面々を見つつ、僕は明日の会議に思いを馳せる。了承してくれるかなぁ……。


************************************************************


 その日の夜は、パーティールームで盛大なパーティーが開かれた。

 娯楽は人の心に潤いを齎すらしいね。遊戯室で交流を深めたお陰か、あちこちで皆が話をしている。大陸・国・種族関係なくだ。


「ユート君、楽しんでいるかね?」

 ふと横を見ると、アンドレイ叔父さんがやって来た。

「勿論。叔父さんも楽しんでいる?」

「うむ。こんなに楽しいのは、いつ以来だろう」

 その表情からして、本当に楽しんでいるらしいな。


「なぁ、ユート君。私には本当に、アヴァロン王国が理想郷に思えるよ。人間と獣人が杯を交わし、エルフと魔人が同じ料理を食べ、ドワーフと竜人が話に花を咲かせているだろう?」

 アンドレイ叔父さん、今日は何かしんみりしてる気がする。

「私やレオ達が作りたかった物が、今ここにあるんだよ。少しばかり、ユート君が羨ましいと思ってしまうんだ。我々が届かなかった理想を、いとも簡単に実現してしまったのだからね」

 ……成程、そういう風に思ってたのか。


「叔父さん、忘れてる事があるでしょ」

「……忘れている事?」

「叔父さん達が居たから、今この光景があるんだよ?」

 僕の言葉に、叔父さんは面食らう。全く、まだ言わないとダメそうだなぁ。普段は頼りになるのにね。


 ——父さん達が邪悪な勇者シマや、先代魔王オルバーンを討伐したから。

 ——父さんと母さんが、僕を産んでくれたから。

 ——キリエが姉さんになってくれたから。

 ——叔父さん達が島に来てくれたから。

 ——五年前にイングヴァルト王国に行けたから。

 ——旅に出た僕を、皆が支えてくれたから。

 ——エイルが加護をくれたから。

 だから、僕達はここにいるんだ。


「この光景は僕だけが作り上げたものじゃないでしょ。ここに居る皆や、これまで力を貸してくれた人達……そして、父さんや母さん、叔父さん達。皆で作り上げたものだ……違う?」

 僕の言葉に、叔父さんは目を潤ませてしまった。

「ありがとね。叔父さん達のお陰で、僕は冒険者として頑張れた。支えてくれたから、何とか建国とか王様仕事とか、出来ている。そして、こうして世界同盟も発足できたんだよ。一緒に作り上げたこの光景……これからも、一緒に守っていこうよ」

 あっ、ついに叔父さんの涙腺が崩壊した!! 

「本当に、本当に立派になったねぇ……」

「泣かなくてもいいじゃないか! えーと、何か涙を拭くもの……は……」


 ……いつの間にやら、僕と叔父さんの会話に皆が聞き入っていたようだ。

 何か、他の人達もちょっと涙腺ゆるんでたり、既に涙がだばーってしてたり、隣の人と乾杯してたりしてんだけど!?


「ユート殿、素晴らしい言葉だった……不覚にも、涙が出そうだ」

「出てる、既に出てるよ獣王陛下!」

「いやぁ、歳を取ると涙腺が弱くなっていかんなぁ……」

「歳の話はやめない? 成人男性くらいにしか見えねぇよ皇帝陛下!」

「ユート……お前の言葉、じつに嬉しかったぞ」

「見た目十歳のお前が泣くと、居心地悪いんだよアマダム!」

「胸に響く言葉だった、ユート殿! グハハハハ!」

「飲み過ぎじゃないっすか、竜王陛下!」

「これがアヴァロン王か……世界同盟への加盟は、やはり間違っていなかったな」

「その通りだな騎士王よ。我等も、世界同盟の一員となった今、手を取り合って平和の実現を目指そうではないか」

「あっ、何かうまくまとまってる!? この流れで!?」

 何か、恥ずかしいんですけど!? 


「ユート殿っ! やはり、やはり君は素晴らしい人物だっ!! 今僕はっ!! モーレツに感動しているっ!!」

「声のトーン落とせ、ポーズを一々取るなっ!!」

 カミーユが暴走を始め僕を賛美し出した。そこから、何か僕を持ち上げる形でパーティーが更に盛り上がっていく。

「は、恥ずかしいからやめてくれる!? やめろ! やめろ下さい何でもしますから!」

「んっ? 今何でもするって……」

「使い古されたネタもやめろーっ!」

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