09-01 方針/新たな加盟国
これまでのあらすじ:竜王国から帰還しました。
さて、もう明後日には第三回世界会議だ。今回は、各国家合同のイベント案を出すという話なので、アヴァロン王国としても何か出し物を……と考えている。
その結果、僕達が出す案は……。
「やはり、ライブだな」
前世の文化をこの世界に広めるのも良いと思うの。折角、この国には勇者がいるわけだしね。
「あの、ユートさんって地球の事を知ってませんか?」
「だねぇ……今のライブ発言もだけどさ。遺失魔道具だって、明らかに地球の知識があるとしか思えない物を作ってるし」
そう言えば、二人にはまだその辺りを話していなかったな。
彼等はもう僕達の友達であり、仲間であり家族でもある。ならば、話してしまって構わないだろう。
この場には僕と婚約者達、そしてユウキとその恋人二人しか居ないから、丁度いい。もう一人の恋人であるマリアは、ここには居ない。アヴァロン王国に移籍する手続の最中だ。
ちなみに、マリアは勇者ユウキ・マナの従者、という扱いになる。これはエルザも同様で、アヴァロン王国が認定する身分になるらしい。
勇者の従者は、勇者同様に尊敬の対象なのだそうな……まぁ、父さんと七人の英雄を見てれば想像は難しくない。
僕の事を話せる範囲は……まぁ、ここまでかな。クラウス達やマルク達に話しても良いと思うんだけど、それは婚約者達に止められた。
理由はわからないが、真剣な顔をしていたので従った。
「聞きたい? 僕の秘密」
悪戯っぽくそう言うと、ユウキが真剣な表情で僕を見る。
「……当ててみても良いですか?」
おっ? 中々に新しい切り口、これは面白いかもしれない。
「あ、じゃあ私も!」
「ユート兄の秘密……かぁ。あたしも参加してみる!」
マナとエルザも参加するらしい。
「僕の予想では、ユートさんは異世界転生……生まれた時から、前世の記憶があるんじゃないかと思ったんです」
おっ、正解だ。しかし、ユウキは更に続ける。
「それと多分……僕達を召喚した神様の関係者じゃないですか?」
んー、微妙な所なんだよなぁ。彼等の上位にいる創世神様にお会いした事はあるけど、世界神は会った事無いしなぁ。
「ちなみに、ユート兄は絶対メグミンと前世で知り合いだったよね!」
「メグミンが先輩とか呼んでるから、これは絶対あるでしょ!」
エルザとマナも正解。
「良くぞ当てたな。褒美にオ○ーナを買う権利をやろう」
「「一番いらない権利だ!?」」
「なに、何の話!?」
冗談は置いておいて。
「ほとんど正解。僕は前世で色々とファンタジーな原因で死んだんだ。その原因が、邪神とかいうヤツでさ」
「あぁ、何か読めた……邪神のせいで死んだユート君を、神様が転生させてくれたんでしょ!」
絶対、マナはそういうラノベとか読んでいたなこれ。
「そうだよ。それに、守護天使まで付けてくれたんだ。まさか、僕の親に養子にしてくれなんて言い出すとは思わなかったけどね」
三人の視線が、キリエに向かう。
キリエはにこにこして、その視線を受け止めている。
「……て、天使なんですか」
「美人すぎるとは思ってたけど、まさかの天使とは!」
「キリエさん、すげー……マジ天使」
エルザは、一体何処でその辺の言い回しを知ったのか、その内問い詰めたいと思う。
「ちなみに、転生させてくれたのはこの世界の神……世界神じゃない。その更に上、最高神である創世神様だ」
「世界神とか創世神とか、スケールの大きい単語が当たり前のような顔で出て来るんですけど!?」
「ユート兄、本当にヤバい人なんじゃない!? 神様の関係者とは思わなかったよ!!」
「最初は鏑木くんあたりが主人公だわーと思ってたけど、真の主人公が目の前にいたわー!!」
そんな大層なものでは無いんだけどね。
「ちなみに、私と先輩の関係は大当たりです。アルバイト先で知り合った、私の恩人で初恋の人なんですよ」
初恋、でしたか。それは、何か……うん、嬉しいね。
「そう言えば、私もユート君が初恋の相手ですね」
「私もユート様です」
「確かに、思い返せば初恋はユートさんですね」
「……ユートが、初恋」
「私も初恋はお兄ちゃんだねぇ」
「そうですね、私も初恋はユーちゃんです」
全員じゃねぇかよ、やったー!
「ニマニマしてる所済みません。ユートさんは、この世界で何を目指すんですか?」
「ん? 最初はまぁ、平和に生きて平和に死ぬ、だったんだけどね。五年前に色々な体験をして、この世界を巡る旅をして色々な文化や風習に触れたり、未知の物を見たりしたいなーとか思って冒険者になったんだよ」
「そして色々なトラブルに首を突っ込んで、気付いたら王様になっていた……と」
マナ、それは言わなくていい。
「成程、よく解りました」
「いやぁ、確かにこれは秘密だねぇ」
「本当にね。むしろ聞いて良かったの?」
今更な言葉に苦笑してしまう。
「良くなきゃ話さないさ、それくらい君達を信頼しているからね」
その言葉に、三人は一瞬顔を見合わせて……そして微笑んだ。
「次の世界会議にマリアが正式にアヴァロン王国に来るんだろ? そうしたら、マリアにも話しておこうかね」
ユウキの未来の嫁だからね。
「で、結局どう? ライブでいいかな。学生なアイドルの祭りみたいにやればいいかな。それとも僕がユートPを名乗ってアイドルをマスターレベルまでプロデュースすればいいのかな」
「ユートさん、その発言はアウトです」
「面白そうだし、私はやってみたい……かも」
「う……ん、私も、先輩が望むなら……」
地球組はそれなりに乗り気と判断した。そうなると……やはり、現地組には見せてみないと解らないよなぁ。
「よし、実際に少しやってみて、どんな感じか実感して貰おうか」
「それは良いんですが、世界会議の準備がありますから、今すぐは無理でしょうね」
……そうでした。
「世界会議が終わったら、少しやってみよう。で、皆の感想や意見を聞く感じで」
僕の提案は、満場一致で可決された。
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さて、世界会議前日にある連絡が届いた。一つは、クロイツ教国絡みだ。
”十四人の勇者が一同に会する機会を設け、神の威光を世に知らしめる必要がある。民の不安を取り除くべく、クロイツ教国にて勇者達の顔合わせを行う”
そんな声明が出され、世界各国に使者が送られたらしい。
アヴァロンには来てないが、イングヴァルト王国には使者が来たそうだ。それでアンドレイ叔父さんが、先程報せてくれたのだ。
その報せを受けて、僕の方針としては……。
「他の勇者とやらのツラでも、見に行くか」
僕の発言に、全員が目を剥いた。
「どうしたの、そんなに驚いて……」
「い、いえ……絶対に無視すると思ってましたから……」
流石のキリエも、驚きを隠せなかったらしいな。
「僕個人ならそうするよ? でも、アヴァロン王国の事を考えたら、少なくとも参加だけはしておこうと思ってね。それに、他の国から余計な揉め事を持ち込まれない為にも、一発釘を刺しておく必要がある」
「……ごっすんと?」
「ごっすんと」
僕とマナの守備範囲が、多分近いよコレ。
「そうですか……では、行くメンバーはいつもの通りですか?」
「ハハハ、いやだなぁ何言っているんだユウキ。明らかにオーバーキルだろ?」
「潰す気満々なセリフじゃないですかやだー!!」
マナのオーバーリアクションに、苦笑する。最近は特に生き生きとしているよね、この娘さん。
「それに、留守を狙う輩がいないとも限らない。だから、今回は勇者三人と……僕と、あと二人か三人くらいじゃない?」
「はい! はいはーい! あたし行く!」
ユウキとマナが行くなら、絶対そう言うと思った。
「じゃあエルザには、ユウキとマナの随員を命じる」
「イエス、任せて陛下!」
この娘のノリ、王に対するものではない……が、個人的にはそういうエルザは(妹分として)好きなので、このままでいいや。
「そしたら、あと二人かな?」
そう呟いてふと気付けば……メグミを除く嫁達+エイルが、視線を交錯させていた。
「後でですね」
「ええ、会議ですね」
じゃんけんでいいじゃん。
そして、もう一つの報せ。もう一つと言うか、二つと言うか……。
「クエスト王国とファムタール騎士国、か。ふむ……どちらも世界同盟に加盟する意志がある、と」
そう、イングヴァルト王国とクロイツ教国の間に存在する、ファムタール騎士国が世界同盟に名を連ねたいと打診があったのだ。
これはイングヴァルト国王……つまり、アンドレイ叔父さんの働きかけによるものだ。何でも、イングヴァルトとファムタールは元々友好国だそうで。
そして、ヴォルフィード皇国は西の大陸に存在する国家に、声をかけたそうだ。すると真っ先に手を挙げた国があった……ドワーフ族の国家であるクエスト王国だ。
クエスト王国はマルク達の母国だし、魔物の大量発生の後のちょっとした案件で国王の対応が中々良かったから、友好国になってくれるならば願ったり叶ったりかな。
「では、アヴァロン王国の中核を担う諸君。この新たな二カ国の同盟参加に異論がある者は?」
折角なので、王様モードで決を採る。慣れないといけないからね。
特に反対意見が出て来ない。まぁ、だよねー。
「では、明日の世界会議にて同盟国の決を採り、可決されたら二カ国の新加盟を決定する……よし、今の内に色々準備しないと。とりあえずは宿泊場所とー、玉座とー」
「このユート君の変わり身……」
「これでこそユート様ですね」
「……ユート、面白い」
王様を何だと思ってんの、君達。まぁ、王様の自覚薄いのは認めるけどさ。
ちなみに、三つ目の報告もあった。今回は同盟各国の料理人を連れて行くのに加え、食材もそれぞれ持参して料理をしてくれるそうだ。なので、レイラさん率いるメイド部隊が大分楽になるね。
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そんなこんなで迎えた、世界会議当日。
今回も新加入候補の国がある為、魔力駆動四輪イベントを敢行する。なので、前回同様に五人以下に抑えて貰った。
という事で、イングヴァルト王国からは、アンドレイ叔父さん・アルファ・アレックス叔父さん・エミリオ・シャルだ。
ミリアン獣王国からは、バナード獣王陛下・ブリック・宰相のデリド氏・兵士団長コルト氏……なのだが、今回は副団長のザブル氏ではなく、宰相の娘でブリックの婚約者……そして、仲間に加わっているマチルダが参列する。
ヴォルフィード皇国からは、メイトリクス皇帝陛下、第一皇子のマックに第一皇女のリア、ヴォークリンデ公爵だ。
オーヴァン魔王国も前回同様に魔王アマダムと、ボルド北方伯・ゲイル南方伯・ビスカンド東方伯・キルシュタイン西方伯。
ジークハルト竜王国はフレズヴェルグ竜王陛下、第一王子であるジオと第二王子であるグラム、宰相のリカルド氏……そして、リンドおじさんの息子フリードリヒ。
そしてこの五人とは別口で、アヴァロンに移籍が正式に決まった紅玉のマリアンヌは先行して転移して来るそうだ。転移魔法陣を開くのは、当然僕です。
……さて、ここまでは既知の相手なのだが、第三回世界会議には新たな参加者が居る。
まず、イングヴァルト王国の隣国であるファムタール騎士国。コーバッツ・フォン・ファムタール騎士王、カミーユ第三王子、シャルル第一王女。
更に、副騎士団長ランスロット・フォン・フェアランド侯爵と、その娘でカミーユ王子の婚約者ミレイナ嬢が参列するとの事だ。
そして、僕達も訪れた事があるクエスト王国。国王であるドルガ陛下、ジーナ王女、ダーム王子。
宰相であるビッグス伯爵と、その息子でありジーナ王女の婚約者であるベンツ氏が、今回の参列者である。
さて、面子を見て僕は少し気が抜ける。あんたらもうちょい警戒心持てよ、国家の上から数えた方が早い連中しかいねぇよ。
今、控室ではどうやら各大陸のトップ達はユルユルしてるらしい。そう、東にはキリエとアリス、南にはアイリとメグミ、西にはリインとエイル、北にはクリスをホスト役に向かわせているのだ。
しかし、各控室で行われているのは、国家間の緊張感溢れる応酬ではなく、のんびーりとした雑談会らしい。
緊張していた僕が馬鹿みたいじゃない?
そんな僕の側に控えているのは、ユウキとマナの勇者コンビだ。エルザとマリアは残念ながら、接客のサポートに回してしまっている……その辺のフォローはユウキに丸投げします。
「何と言うか、平和だねぇ」
僕の緊張感に欠ける言葉に、二人の勇者が苦笑する。
「そもそも、陛下が一日目は交流会にするって言ったからでしょう?」
「そうだよー、会議は明日の一日でしょ。今の内に英気を養うつもりじゃない?」
そう、今回の日程は二泊三日の長丁場……と見せかけて初日は交流の為の時間とした。二日目は完全に会議一色、三日目は各々の自由時間にするつもりなのだ。
「折角作った物は使って貰いたいからねぇ……いやぁ、皆驚くかなー。僕的には久し振りにビリヤードがやりたいなぁ」
「めちゃくちゃご機嫌で作ってましたよね……遊具」
そう、歓迎のつもりで僕は色々な遊具を製作した。ビリヤード・ボウリング・ダーツ。なんというラウンド○ン。
遊びに関しては本気で行く、手は抜くつもりはない。
更に今回は、量産型魔導兵騎の試乗会までやるつもりだ。さて、折角の交流イベントだ。
フハハハハ、各国の代表達よ、思う存分楽しむが良い!!
まぁ、その前に顔合わせですがね!!
控室から案内された各国家五人ずつの賓客は、僕の婚約者の案内で大会議室に集まった。
「ようこそアヴァロン王国へ。国王のユート・アーカディア・アヴァロンだ」
流石に公式の場なので、僕も王様モードだ。
「まず、最優先にすべき事項から行きたいと思う。この度、ファムタール騎士国とクエスト王国より、世界同盟加入の表明があった。この二カ国の世界同盟加入に、否定意見はあるだろうか」
否定意見を口にする者はいない。そりゃそうだろう、既に加盟国のの王同士で、世界の窓越しに決を採ってるからね。
「二カ国の加入に反対する者は無いものとし、ファムタール騎士国とクエスト王国の世界同盟加入がここに決定した。新たな同志を拍手で迎えよう」
そう言って拍手をする僕に、ファムタールとクエスト以外の参列者が拍手をする。
二カ国の王を除いた面々は、表面上は毅然としているが肩の力が抜けている……どうやら、ホッとしたみたいだね。
「それでは此度の日程だが、まずは新加入の二カ国の為にも、初日は交流の為に費やしたい。二日目にこの場所で世界会議を執り行う。三日目は各々にアヴァロンを見て貰いたいと思っているが、如何か」
「異議なし」
「うむ」
「良いだろう」
特に反対意見が出ないので、このまま交流会に突入しようか。
「ではこれより会場を移し、アヴァロンが用意した遊戯室で交流を深めたいと思う」
大会議室から、地下に新設した遊戯室へ案内する。
「はーい、ようこそアヴァロン王国の遊戯室へ!」
用意した遊戯室を見て、アヴァロン王国以外のメンバーが唖然としていた。
うん、まずはダーツだ。
「それじゃあ、見本を見せまーす! キリエ」
「はい、それでは……えいっ」
綺麗なフォームでダーツを的に投げるキリエ。おぉ、ど真ん中!!
ダーツが刺さると、的の上にある液晶画面に点数が表示される。
「おぉ……!?」
「ユ、ユート殿? これは一体?」
「これは、勇者達の故郷にあるダーツという遊戯です。一定の距離から、この手投げの矢を投げます。的に描かれている数字が得点ですね」
みんな、興味津々だな。
「得点の優劣を競うゲームですが、ルールが色々あるんですよ。五台用意していますから、五人レクチャー役を用意しています」
レクチャー役は、キリエとアイリ・ジル・ジョリーン・ユウキだ。
「それでは、次のブースです」
各人を連れてきたのは、ビリヤードスペース。
「……また、何だかよく解らんが……どんなゲームなのだ?」
やはりこちらにも、皆さん興味津々。
「では、手本を……リイン、頼むよ」
「えぇ、お任せ下さい」
にこやかに微笑み、リインがキューを手に位置につく。
ブレイクショットから見せた方が良いよね。白い玉をキューで突き、固まっていた1から9までの玉が弾けたように散らばる。
「おぉ!?」
「む? この六箇所の穴に、玉を落とすのか!」
おっ、竜王陛下が言い当てたな。
「そうです。白い真っさらな玉だけをこのキューで突いて、他の玉をポケット……この六箇所の穴に落とすゲームですね。こちらも色々とルールがあるので、解説役を用意しました」
こちらのブースは、リイン・アリス・クリス・クラウス・マナに担当して貰う。
「さて、最後はこれです」
「何だユート、それは砲弾か?」
アマダムの言葉に、数名が警戒心を見せる。
「んな訳無いだろう。これはボールだよ……ボウリングの」
「……ぼーりんぐ?」
実際にやった方が早いな。
「ここも見て貰うか。それじゃあ頼むよ、エイル」
「任せて!」
そう言って、エイルがボールに指をはめる。教えた通りの、綺麗なフォームでボールを投げると、一直線に進んでいき……おっこれは! レーンを転がった玉が、正三角形に並べられた十本のピンを弾き飛ばす。
「ストライクだ、お見事!」
「そうか、こうやって玉を投げ、倒した玉の本数を競うのだな?」
「あぁ、正解だよジオ。でも、計算方法が少し特殊でね。十本全てを倒した場合はストライクって言ったり、色々これにもルールがある。だから、ここも解説役を付けるよ」
ここにはエイル・メグミ・メアリー・マルク・エルザ・マリアを配置する。
「とりあえず、一通り試してみて下さい」
そう言うと、各々気になるブースへ向かったようだ。トランプやオセロ、チェスや麻雀も用意したかったんだけど、間に合わなかったのよね。次回は間に合わせよう。
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さて思い思いに散る各国のメンバーだが、僕の所へやって来る人達も居る。クエスト王国勢と、ファムタール騎士国勢だ。
「改めて挨拶させて貰おう、アヴァロン王。余がクエスト王国を治めるドルガである」
「私はコーバッツ・フォン・ファムタール。ファムタール騎士国の国王だ」
その後の随員も、一斉に頭を下げる。
「ユート・アーカディア・アヴァロンだ。両国の参入を心から歓迎する……で、何か気になるものありました? 僕のオススメはビリヤードです」
王様モードで挨拶をし、すぐに通常モードに切り替える。今日は、皆にエンジョイして貰うのが目的だからね、堅苦しいのは明日に回そう。
そんな僕の意図に気付いたようで、両国王は苦笑しながら頷いた。
「イングヴァルト王に話は聞いていたのだよ、将来有望な甥っ子が居ると」
「余も、ヴォルフィード皇帝に話を聞いていてな。それでだ……アヴァロン王、もし知っていたらで構わぬのだが……”バハムート”という名の黒い騎士……心当たりは無いか?」
クエスト王、これは既に気付いているな? ならば良いだろう、身内に対して隠しだてするつもりもない。
「えぇ、知っていますよ……」
そう言いつつ、円卓の座を出して起動する。
二度スワイプし、刻印をタッチ。鳴り響く待機音に、両国は警戒の色を見せるが……まぁ、見て貰うのが一番だからね。
「変身」
スワイプと同時に、広がる魔法陣。そして装着されるスキンとアーマー。黒騎士バハムート……まぁ、あの時よりバージョンアップしてるけどね。
「お探しの騎士は、こんな感じかな?」
「……やはり、アヴァロン王がバハムート殿だったのか……!」
やはり、予想はしていたみたいだね。
「訳あって名乗り出るわけにはいかなかったんですけどね」
そう言うと、クエスト王が歩み出て手を差し出してくる。
「魔物の大群から、王都カルネヴァーレを守った英雄にようやく会えた。遅くなったが、礼を言わせて欲しい」
その手を握り返し、僕は首肯する。
「その後の王都はどうですか」
「お陰でたいした被害も無かったからな。すっかり落ち着いているとも……アヴァロン王、バハムート殿の正体を国民に報せてもよろしいか?」
「構いませんよ。先日、竜王国でこの姿を見せていますし」
そう返答すると、クエスト王は安心したように微笑んだ。
 




