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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第8章 ジークハルト竜王国
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08-10 幕間/勇者ユウキ・サクライの独白

 僕は、今自分が置かれている状況に付いていけない。何が起こっているんだろうか?

 目の前では、睨み合う三人の女の子。

 魔導師で、僕と同じ異世界から召喚された勇者であるマナ・ミナヅキさん。

 ドワーフ族で冒険者のエルザさん。

 そして、ジークハルト竜王国で出会った、紅玉のマリアンヌさん。


 その三人が、睨み合っているんだけど……その理由が、意味不明だった。

「私は絶対に引かないから!!」

「私だって引く気はないから!!」

「私も引いたりしないから!!」

 何故、こんな事になったのだろう。


************************************************************


 事の発端は、ジークハルト竜王国の危機を救った後だった。

「……ねぇ、ユウキ。後でちょっと時間取れない?」

 これから、うちの陛下の要請で僕達は石化した竜人達や竜達を救う為に、回復や解呪の遺失魔導具アーティファクトを死ぬ程撃たなければならない。

 そんな中、エルザさんがそんな事を言ってきたのだ。


「あ、はい……えっと、この件が終わったらで大丈夫ですか?」

「うん、それでいいよ! ありがとっ!」

 そう言いながら、エルザさんは持ち場に走っていった。

 相変わらず、露出度高いんだよなぁ。恋人いない歴=年齢の僕にとっては、目のやり場に困る。


 ……その時は、ミナヅキさんとマリアさんが僕達のやりとりを見ていた事に気付いていなかった。


 ……


 気が狂いそうになる程に、石化した人達に解呪ディスペルの付与がされた弾を撃ち続け、全てが終わったのは深夜だった。回復班のエルザさんは大丈夫だろうか、話があるみたいだったけど……。


 そこへ、ある人物が現れる。ユート・アーカディア・アヴァロン……アヴァロン王国の国王陛下で、何か色々と凄い人だ。

 その凄い人が、まるでゾンビのようである。凄いな、リアルにバイオ的なハザードでも起きたんじゃないだろうか……いや、竜王国で実際に起きたんだけど。


「お疲れ……皆大丈夫か?」

「いや、ユートさんこそ大丈夫なんですか? 顔が死んでますよ」

 まぁ、それも仕方ないよな。僕達に比べたら、ユートさんの仕事量は倍どころじゃないんだから。

回復薬ポーションなんかは、後でいくらでも補充するから使っていいぞー……もう俺は寝たい……」

 一人称が”俺”になってる……陛下的には相当な激戦だったみたいだ。


 我等が陛下は、普段はノリと勢いで生きているように見えて、皆に優しい人なんだけど、時折その性格が激変する。

 一人称が”僕”から”俺”に変わったら、ありとあらゆる力を尽して敵を蹂躙するのだ。僕は、個人的に暴君モードと呼んでいる。


 そんな暴君も、千を越す竜人達や百匹以上いる竜の石化を解除するのは、相当骨が折れたみたいだけど。

「ろくに労えなくて済まないが、皆も早めに休んでくれ……明日はあれだ、もう休みだ。勝手に日曜日、以上」

 そう言って、よたよたと歩いていく姿は王様に見えない。まぁ、実際に言われないと王様っぽくないけどさ。


 もちろん王様に向いていないとは思わない。優しさも厳しさも持ち合わせ、自分を貫く姿は尊敬してる。僕には出来そうもないからね。


 それにしても、”日曜日”か……。

 やっぱり、ユートさんには僕らと同じ地球の知識があるとしか思えない。

 銃、バイク、車、それにあの魔導装甲や新兵器……魔導兵騎だっけか。それに会話の端々に、地球を連想させるセリフが多いんだよ。

 何よりも、矢口さん……彼女が先輩って呼んでいるのは、地球で知り合いだったんじゃないかな……? 何者なのかね、うちの国王陛下は。


 エルザさんを探していたら、あっちも僕を探していたようで、手を振ってこちらに歩いてきた。

「いやぁ、ヘトヘトだね!」

 エルザさんが担当していた方も、相当大変だったんだろう。表情に疲労の色が濃く浮かんでいた。

「ねぇ、ちょっと……外の空気吸わない?」

「そうだね、少し夜風に当たりたいかな」

 僕達は、連立って外へと向かった。


************************************************************


 この前、竜王国の殿下達と席を囲んだテラス。僕はエルザさんと一緒に、そこへ来ていた。

「……それで、話って?」

「うん……えーと、まずはさ。ありがとね、助けてくれて!」

 あぁ、そのお礼が言いたかったのか。律儀な人だな、エルザさん。


「気にしないでいいって。それよりエルザさんが無事で良かったよ」

 そう言ったのだが……エルザさんは不満そうな表情を浮かべた。

「あの時みたいに、エルザでいい。呼び捨てにしてよ」

 ……そう言えば、感情が昂ぶっていたせいか、エルザさんを呼び捨てにしてしまったんだ。しかし、お許しが出たんだし、いい……のかな?

「じゃ、じゃあ……エルザ」

 そう言うと、エルザさん……じゃない、エルザはにっこり笑った。可愛いな、この人。


「あの時のユウキ、すごく格好良かったよ。ユート兄より格好良かったかも」

 あの暴君様より上は無いだろう。容姿は普通って感じだけど、何かオーラというか、そういうのが違うんだよな、うちの陛下。

 そんな事を考えていたせいか。その後に告げられた言葉の意味を理解するのに、僕は少しの時間を要した。


「ユウキ、私を……恋人にしないかな?」

 ……今、なんて言われたんだ?

「ご、ごめん……い、言っている意味が……」

「……っ、だから! 私はユウキが好きだから、恋人にして欲しいって意味よ!」

 ……なん、だと!? 僕が、まさか僕が告白されるだなんて!?

 地球ではクラスの中に一人か二人はいる、影が薄くて目立たないヤツの、僕が!?


 しかし、そこへ闖入者が現れた。

「「ちょっと待ったー!!」」

 おぉっと、ここでちょっと待ったコール!?

 その声の主は、僕と同じ勇者であるマナ・ミナヅキさんと、紅玉の部族の族長の娘であるマリアンヌさんだ。

「ミ、ミナヅキさん、マリアさん!? 何でここに!?」

「よし、サクライ君。いや、ユウキ君! これからは私をマナと呼ぶのよ!」

「呼び捨てでマリアって呼びなさい、あの時みたいに!」

 二人から同時にビシッと指を突き付けられ、僕は更に混乱した。何で、いきなり、そんな事を?


「エルザさんに先を越されたけど、私もユウキ君が好きだから!」

「……やっぱり、マナさんもそうだったかぁ。で、マリアさんももしかして……」

「そうよ、あの時助けて貰って、ユウキに惚れたのよ!」

「くぅ、私と同じパターン……!」

 三人が正面から、視線をぶつけ合う。まるで、目を逸らしたら負けみたいな雰囲気だ。


「ちなみに、ユウキはどうなの? 私達三人、誰を選ぶ?」

「正直に言っていいからねー!」

「そうよ、フラれる覚悟無しに告白なんてしてないから」

 そ、そんな事言われても!?

「い、今はまだ、三人共、いい仲間って思ってて……正直、いきなり好きって言われても、選べって言われてもすぐには答えなんて出なくて……!!」

 とりあえず、正直に話した。


「……まぁ、いきなりだったしね」

「それもそうだよね」

「ならこれからが勝負って事ね」

 三人共、何でそんな……優しい顔で笑ってるんですか? 逆に、何だか怖いんですが!?


「あ、これは聞いときたい。私達と恋人になるとしたら、あり? なし?」

「聞きにくい所を切り込むわね!?」

「しかし、その意気や良し!」

 ……真面目に考えて返答しないといけない!


 三人を、恋人に……?

「……ありだよ、すっごくありだよ……」

 僕の返答に、三人は嬉しそうに笑った。くっ……三人共……可愛いなぁっ!?

 この三人の、誰かを……? 何だよ、何でいきなりこうなるんだよ! 凄まじい難問だよ!


「ならば……勝負しましょう!」

「受けて立つわ!」

「相手にとって不足なしよ!」

 三人は、真剣な顔で……しかし、口元には笑みを浮かべて睨み合う。

「「「誰がユウキを振り向かせるか、勝負よ!!」」」

 女の戦いっ!?


「私は絶対に引かないから!!」

「私だって引く気はないから!!」

「私も引いたりしないから!!」

 何故、こんな事になったのだろう。

「「「ユウキの恋人になるのは、私よ!!」」」

 名ばかりの勇者である僕に、モテ期が到来していた。


************************************************************


 尚、この数日後に勝負は意外な形で決着した。


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