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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第1章 イングヴァルト王国
11/327

01-01 旅立ち/再会

これまでのあらすじ:五年が経ちました。



 今日、僕は十五歳の誕生日を迎えた。

 父さんから一カ月前にある話を受けていたので、僕は朝起きると同時に支度をする。顔を洗ったら、チュニックとズボンに着替え、その上から革鎧を身に付ける。

「よし……行くか」


 父さん達が待っているのは家の中ではない。鍛錬場代わりの、程良い広さの樹も草も無い場所だ。

「おはよう。準備は出来たか、ユート」

「ユート、おはよう」

「ユーちゃん、おはようございます」

 白銀の鎧を身に纏った父さんと普段着の母さん・姉さんが、こちらを見て挨拶してくる。

「おはよう」


「成人おめでとう、ユート。明日、お前達は自立し旅に出る。じゃあ……一戦やるか」

 今日行うのは父さんとの腕試し……もしくは両親の庇護下からの卒業試験だ。

 父さんは手に持った剣を抜く。白銀の両刃の直剣で、鍔には金色の装飾がされている。初めて僕に見せる剣だ。あれが魔王討伐に使った剣なのだろうか。

「解った」

 僕も、両手で銃剣を構える。

「合図は私が出します。二人とも、くれぐれも怪我をしないように」

 母さんが、仕方ないなぁ、という表情で間に立つ。姉さんは母さんの後ろで、無言で見守っている。


「それでは……始め!」

「手加減無しで行くぞ、ユート!!」

「んなもんしたら、一生許さないからな父さん!!」

 瞬間、父さんが鋭い踏み込みで距離を詰めて来る……十メートル程の距離を数秒でだ。流石、“魔王討伐の勇者”という称号は、伊達ではない。


 僕は素早く銃口を父さんの両足に向けて引き金を引く。銃声が二発鳴り響く。迫り来る銃弾を見切っていた父さんは、手に持つ剣で銃弾を叩き落した。

「マジか!!」

 距離を詰められた僕は、銃剣の刃で迫り来る父さんの剣と切り結ぶ。

「弾を剣で弾くとか、規格外過ぎだろ!!」

「お前の“指輪”に入ってる物の方が、俺からしたら規格外だよ!!」

 鍔迫り合う僕達の口元は、きっと笑みの形になっているのだろう。


 ……


 開始から二十分程経過して、勝負はついた。結果は僕の敗北だ。

「いってぇ……」

「はいはい、治癒しますよー」

 キリエ姉さんが法術で切り傷やら打ち身やらを、治療してくれる。


「もう、レオ。本当に手加減無しでやるんだから……」

「そう言うなよ、アリア。大体、本気でやらねぇとユートに失礼だろうが。コイツは今日から、一人前の男なんだからな」

 その言葉が、素直に嬉しい。

 とは言え、父さんは攻撃魔法を使っていなかったし、これでも手加減していたはずだ。まだまだ、父の背中は遠いようだ。

(しかし、付与満載で自分の不足を補い、更に遺失魔道具アーティファクトがポンポン出て来る。ありゃ悪夢だな……聖鎧に“精霊の加護”が無けりゃ、こっちが押されてただろうなぁ……)


************************************************************


 翌日、父さんと母さんに見送られて、僕達は独り立ちする。

「イングヴァルトの王都で冒険者登録するんだろ?」

「うん、そのつもり」

 そう、僕達は冒険者登録をし、世界を旅する事にした。

 冒険者ギルドに登録する事で、討伐した魔物の素材や依頼報酬で生計を立てるつもりだ。


 僕の装備は昨日の立会いと同じ装備。

 そして、姉さんは白いチュニックに濃紺のキュロット、茶色のブーツと革鎧。濃紺の髪をツインテールにしており、白いリボンで結っている。

 尚、姉さんは天使なので外見を自由に弄れる。身長も胸も、前世における十六歳の平均レベルで、程良い大きさだ。何かこだわりでもあるのだろうか。


「それではお父様、お母様。行って参ります」

「行ってきます」

「おう、行ってらっしゃい。たまには顔見せに帰って来いよ」

「行ってらっしゃい、腕によりをかけてご馳走作るからね」

 いや、それは待て。

「父さん、やめさせるんだ」

「いけません、お母様」

「アリア、料理なら俺が作るから……」

「えー……」

 残念そうな顔をするが、ここで甘い顔をしてはいけない。母さんは……料理の天災だからな、決して台所に立たせてはいけないのだ。


 ……


「さて、ピクニックですね」

「旅だよ、旅」

 何故いきなりピクニックなのか。

「うーん、ピクニックデート気分だったんですけど」

「ピクニックって家に帰るでしょ、帰ったら独り立ち出来てないじゃない」

 第一、ピクニックって家から屋外に出かけて、自然の中で食事して帰る事じゃないのか? 帰ったら自立にならないじゃないか。

「それもそうですね、じゃあデートで」

「旅だって」


 さて……僕達は現在、自作したボートで孤島からイングヴァルト王国の海岸に辿り着き、街道を歩き始める所だ。

「ボートを仕舞って、行こうか」

「そうですね」

 僕は右手の中指に嵌めた指輪をボートの方に翳す。すると、一瞬でボートが姿を消した。

「便利ですね」

「付与するイメージが固まるまで、苦労したけどね」

「全く……まさか、あんな方法で付与するとは思いませんでしたよ。ビックリです」


 ——遺失魔道具アーティファクト宝物庫の指輪ストレージ”。

 この指輪型遺失魔道具アーティファクトには、時空魔法”収納空間”と”時間停止”の二つを付与をしてある。

 この“宝物庫ストレージ”は、姉さんにも渡してある。なので、お互い身軽に旅が出来るという優れものなのだ。


 ちなみに、指輪自体は“三等級”の素材を使っている……つまり、ただの鉄だ。

 この世界の文字で収納空間の詠唱呪文を付与するには、相当な文字数になる。そして、魔石ならば制限なく文字を付与出来るが、高価で簡単には手に入らない。

 五年前に拝見したショウヘイさんの遺失魔道具アーティファクトは、詠唱を日本語で付与して製作されていた。しかし、素材は“八等級”という高価で希少な物を使用していたし、付与されていたのは“体力回復”一つだけだ。

 さて、三等級の素材に付与できる文字は、たった四文字。

 しかし、僕は「三等級の素材」に「魔石無し」で”収納空間”の付与魔法を実現させ、更に”時間停止”を付与した。


 そのカラクリ……僕が付与魔法に使ったのは文字じゃない。

 ——“絵”である。

 詠唱を頭の中で思い浮かべ、付与の効果をイメージしながら、魔力を篭めて描いた絵だ。それを、一文字扱いにして付与してみた。

 本当にふと思いついて、実験してみたのだ。正直、最初は無理かもしれないと思っていたんだけど……なんと、出来てしまったのだ。


 僕は描いた絵を“刻印”と呼んでいる。

 そう、僕はただの付与魔導師ではない。 “刻印の付与魔導師エンチャンター”だ。

 ……もちろん、自称だ。何か痛々しい気がする、廚二病っぽい。

「カッコいいと思いますよ?」

 心を読んでくれるな、姉さん。


 ……


 僕と姉さんは、イングヴァルト王国の街道を歩き、王都へ向かう。一度通った道だ、経路はちゃんと覚えている。

 魔物の大量発生があった森を通り過ぎ、王都まであと半日くらいだ。しかし、既に日も傾いている。

「今夜はこの辺りで野営かな」

 ここまでの道中で、野営に備えて鳥を捕まえたり、魚を採ったり、山菜を採ったりしている。


「じゃあ、テント出してもらえますか?」

「了解」

 “宝物庫ストレージ”を起動して、魔法陣からテントを出す。このテントにも勿論、僕の付与魔法がかかっている。

 テントの布部分には“認識阻害”。魔物が近寄って来ても、視覚でも嗅覚でも察知できない。無理矢理やったのは否定しない、だが私は謝らない。

 骨組みに風魔法“気流”と火魔法”温度”に加え、光魔法“発光”の付与。空調、照明完備だ。

 ちなみに供給魔力は、電池の様に魔力を蓄積できるある()があり、それを供給源としている。


 ——これぞ遺失魔道具アーティファクト快適安全空間セーフゾーン”だ。ネーミングセンスに難があるのは認める。


 それで、だ。

「やっぱ一緒に寝るのね」

「それはそうです、折角見張りもいらないんですから」

 姉さんと僕は一つの布団に寝ている状態だ。

 ちなみに、シャワーも遺失魔道具アーティファクトで済ませたのだが、やはりそちらも乱入されました。だって断ったら哀しそうな顔するんだもん。

 長い戦いの末に、こっちが折れるのは毎日の恒例行事になっている。眼福でした!!

 ちなみに、布団を床に敷いているわけではない……ベッドも収納に入れてあったのだ。それにしても、テントの中にベッドって変な感じだな。


「それにしても、ユーちゃん? どうせなら移動手段も用意すれば良かったのでは?」

「うん、それも考えたんだけどね……というか、バイクなら八割までは作ってる」

 呆れたような目で見られた。

「進めてたんですか? しかもバイクとは……」

「うん、そういう反応になるよね。めっちゃ目立つだろうから、途中で止めてる」

 この世界にバイクなんて無い、あったら逆に驚いて差し上げよう。

 そんな物に乗ってあちこち走っていたら、確実に目立って騒ぎになるだろう。そしたら、僕の付与魔法が特殊な事が、バレるの待った無しだ。

 無闇に付与魔法の事を知られないようにすると、父さん達と約束しているからね。


************************************************************


 翌朝、遺失魔道具(アーティファクト)の恩恵をフルに活用した野営を終え、僕達は再びイングヴァルトを目指して移動を開始した。

 イングヴァルトまで半日、その途中でも魔物には出会う。しかし……。

「ハッ!!」

 銃剣の刃の部分で、猪の魔物……ダッシュボアの右前足を切断する。バランスを崩したダッシュボアは、顔面の右側から地面に倒れこむ。

「そこです!!」

 レイピアで、ダッシュボアの頭を突き刺す。脳を一突きにされたダッシュボアの身体から力が抜け、動かなくなった。


 ちなみに、姉さんはジョブを“剣士フェンサー”という事にしている。

 無論、姉さんは剣士以外にも“神官プリースト”や“魔導師ウィザード”、“賢人セージ”というジョブにもなれるらしい。元は天使だからね、それくらい出来ても不思議じゃない。

 武器は父さんが鍛えたレイピアを、僕が改造した物だ。銃機能を盛り込んだレイピアに、攻撃魔法の付与を盛り込んだ魔改造品である。それに加えてある付与もしているが、それは今後のお楽しみだ。


 無論、僕は“付与魔導師(エンチャンター)”。

 一般的には戦力とされないハズレジョブで、バフ・デバフ支援と魔道具製作を行えるジョブだ。

 魔導師で近接戦闘が行えるレベルまで鍛える者は、少ないのだそうだ。そして付与魔導師は、攻撃魔法や防御魔法を実戦レベルでは使えない。

 この世界での付与魔導師は、魔道具製作を生業とするか、辻バフで小銭を稼ぐのだと言う。

 最も、僕は戦える付与魔導師だ。そのスタイルを確立する為に、これまで頑張って来た。


 魔物を倒し、討伐証明となる魔物の部位と素材、心臓の辺りにある魔力の源となる核……魔核を剥ぎ取り、回収しながら街道を進む。ちなみに、ダッシュボアの討伐証明部位は牙だ。

 討伐証明部位は、僕と姉さん両方が持っている鞄に入れておく。無論、ポーチには付与魔法で収納魔法をかけた、遺失魔道具アーティファクト収納鞄アイテムポーチ”だ。

 こちらは五年前、アルファに連れて行って貰った宝物庫で魔道具版の実物を見ていたので、簡単に作れた。一応、遺失魔道具アーティファクトである事を誤魔化す為に、魔石っぽい物をあしらっている。


 ……


 さて、五年ぶりの王都だ。

 王都の門で税金を払うのだが、こちらは物品や魔物討伐部位、魔核でもいいらしい。なので、ダッシュボア二匹分の牙を差し出す……のだが。

「身分証明書が無いとなると、通すわけにはいかん」

 門番さんが悪いのではない。そういうルールなのだから、仕方が無いのだ。

 五年前は、アルファと一緒だったから入れたんだろうなぁ。


「孤島育ちが身分証明書を持っているはずもないしな」

()()をお見せするしかないでしょうね」

 僕達の会話を訝しげに見ていた門番さんが、警戒心を強めたようだ。

「身分証明書の代わりとなる物がございますので、確認頂けますか?」

 周囲の視線を警戒しながら、僕達が取り出したのはイングヴァルト王家のメダリオンだ。母さんに返した物ではなく、五年前にアンドレイ叔父さんから下賜された物である。


「なっ……!!」

「騒ぎになるのは困ります、落ち着いて下さい」

 大声を上げそうになる門番さんに、姉さんが注意を促す。効果があったようで、門番さんは声を上げるのを耐え、大きく息を吐いた。

「王家縁の御方とは存じず、大変御無礼を……」

 土下座しそうなくらい恐縮する門番さんだが、それも止めて頂きたい、目立つから。

「いえ、気になさらないで下さい」

「職務に忠実な門番さんのお陰で、この王都の平和が守られているのですから」

 その言葉に、門番さんは心底安堵した表情を浮かべた。


 そうだ、念の為聞いておこう。

「ちなみに、冒険者ギルドの登録証ならば身分証明になるんですよね?」

「はい、登録証は身分証明書として使用できます。ギルドへご案内致しましょうか?」

「一度来た事がありますから、大丈夫です。ありがとうございます」

 門番さんに挨拶をして、王都の門を潜る。


 とは言え、ギルドは後回しにして、僕達はイングヴァルト王城へと向かう。

 王城では先に門兵達にメダリオンを見せ、城門へ招き入れられる。門兵の一人が走っていったので、叔父さん達にも僕達が来た事をすぐに知るだろう。

 僕達は騎士達に先導され、控室へ案内された。


 ……


 王城の侍女達にお茶を振舞われていると、先程の騎士がやって来て謁見の間へ案内される。

 謁見の間へ入ると、玉座の横には相変わらずの美貌を誇るジュリア叔母さんがいた。相変わらず若い、二十代後半にしか見えん。

 その横には、ジュリア叔母さんに似た桃色のストレートヘアで、ティアラを乗っけている少女……九歳になったシルビアだ、少し大人びて見える。


 玉座の逆側には百八十センチメートル程の、長身の少年が立っている。長身細身で、切り揃えられた金髪の美少年……十五歳に成長したアルファだ。

 その横に立っているのは幼い金髪の少年。アクセル第二王子、五歳である。アンドレイ叔父さんから生まれたとは聞かされていたが、会うのは初めてだ。


 更にその横に、少し白髪交じりになったアレックス叔父さん。苦労しているんだろうか……してるんだろうな、イングヴァルト王家はユルいからな。まぁ、アレックス叔父さん自身もユルいんだけどね!!


 他の数人の貴族らしい人は、僕達を見て穏やかな表情をしていた。多分、五年前に会った事がある人かな?

 そんな事を考えていると、衛兵が声を張り上げた。


「イングヴァルト王国国王、アンドレイ・フォルトゥナ・イングヴァルト陛下のご入場!!」

 その言葉に、その場に居る全員が跪く……勿論、僕や姉さんも跪いている。耳に届く足音で、アンドレイ叔父さんが入場して来たのが解る。

「皆の者、楽にせよ」

 顔を上げると、威厳を感じさせるアンドレイ叔父さんが口上を続ける。


「キリエとユート。五年ぶりの訪問を歓迎しよう。そしてユートよ、成人を迎えた事を喜ばしく思う。世の為人の為、その才能を役立てる事を期待する」

 そして、アンドレイ叔父さんが階段下に立っているアレックス叔父さんに目配せをする。

「例の物を」

 アレックス叔父さんに促され、入室してきた侍女達が持って来たのは黒と白の革鎧だ。


 ある事情で常時発動している“解析アナライズ”によると、どちらも金貨十枚の相場である。

 今身に付けている革鎧はボロボロだから、まだ付与はしてなかったのだ。新調する手間も省けたので、有難く頂く事にしよう。

「これは余からの成人祝いだ、冒険者として活動するのに役立てると良い」

「陛下の御厚意を無駄にせぬよう、励む所存で御座います」


 ……


 謁見は恙無く終わり、王家一家とアレックス叔父さん以外は退室した。

「では、堅苦しい挨拶はここまでにしよう。五年ぶりのイングヴァルト王国はどうだね、二人とも」

「いきなりユルくなってるよ、叔父さん」

 僕達に投げかけられたアンドレイ叔父さんの第一声は、相変わらずユルかった。そんな相変わらずの叔父さんに苦笑してしまう。


「ふむ、その左目は義眼なのだろうが……一見すると本物に見えるな」

 アレックス叔父さんは、僕の左目をまじまじと見て、感心したように言った。

「自信作なんだ、リアリティの追求が大変だった」

 勿論、この左目の義眼も例の物だ。


 ——遺失魔道具アイーティファクト真実の目プロビデンス


 コイツは“視覚共有”という、使い魔等が見ている物を自分の視覚に繋げる魔法を付与している。この魔法のお陰で、左目として普通に機能するスグレモノだ。視神経に作用させて、義眼が捉える光景が脳に情報として送られて来るのだ。

 同時に“解析アナライズ”や“遠視”等、調子に乗って刻印を付与しまくった。そんなわけで、”目”には苦労して探した六等級の素材を使用している。


 そんな“真実の目プロビデンス”に表示されているのは……もう、何と言うかゲーム画面だ。

 常時表示されるのは、“解析”による視界に入る相手の名前。

 左上には自分の体力や魔力量、”自己確認”によるHPとMP。

 そして“空間把握”と”地図”という、所謂マップ表示が右上にちょこんと。

 このマップ、人を示す丸い光点を色分けする事が出来る。青なら味方、赤なら敵意を持つ者、という感じである。これは色々いじる事が出来るので、便利だ。

 うん、これはまさしくゲーム画面だ。もちろん、ON・OFF可能。


 おっと、余計な事を考えている内に、叔父さん達が何か話を進めていた。

「ユート、父上から聞いてはいたのだが……お前が作った武器と言うのを見せて貰えるか」

「あぁ、構わないとも」

 ”宝物庫ストレージ”から銃剣を出し、アルファに差し出す。

「ううむ……これは随分と洗練された印象を受ける銃だ。それに、剣としても使えるとは……」

 そこは、ロマンを追い求めた結果だったりする。ちょっと若かりし頃の難病が、ひょっこり顔を出してしまったのだ……人はその病を、厨二病と呼ぶ。


 ちなみに、流石の日本人も、拳銃やライフル、マシンガンの構造を知っている人は召喚されていない。なので、口頭で齎された情報から再現できたのは、所謂火縄銃とか、マスケット銃みたいなヤツだ。

 じゃあ、何故僕がそんな物を作れたかって聞かれたら、頼りになる姉が居ますからって答える。全部、姉さんが教えてくれました。

 ちなみに、その辺の相談をすると姉さんはとても喜ぶ。何でもかんでも聞かないように、自重はしているんだけどね。


 ……


 その夜、僕達は王宮に一室を用意された。これからは一成人として頑張るという誓いを立てていたので、僕と姉さんは普通に街で宿を取ろうと思っていたのだが……。

「一晩くらいは甘えてもいいじゃないか、私は確かに王だが、それと同時に君達の叔父なのだから」

 とはアンドレイ叔父さん。


「折角の再会だ、互いの近況を話す機会くらい設けさせろ。明日からは、冒険者として活動する事にすればいいではないか」

 とはアルファ。確かに、顔を合わせてそれじゃあ失礼、なんて悲しいもんな。


「アリスに会っていかないと、後が大変だと思うぞ? 君達に会えるのをずっと心待ちにしていたのだからな。というか、引き止めないと私が……ここは一つ、助けると思って」

 とはアレックス叔父さん。ちょっとアレックス叔父さんが顔を青褪めているんだけど、アリスってば一体どんな成長を……?


 結局、その有難い申し出に応じる事にして、僕と姉さんは一晩だけ王城にお世話になる事にした。

 あからさまに安堵しているアレックス叔父さんに、これからアリスに会うのがちょっと怖くなってきたんだけど? 


 ……


 そのまま晩餐にお呼ばれし、会場を訪れる。

 ……そこには、純白のドレスに身を包んだ美少女がいた。

 流れるような長い蒼銀のロングヘアは、極上の絹糸の様だ。整った顔立ちはうっすらと化粧しているようで、素材の良さを引き立て彩っている。

 伸びた身長、スラリと細い身体。そして、豊かに育った胸が女性らしさを強調している。女の子から女性へと進化を遂げる最中の彼女は、五年前より更に魅力的だ。

 アリシア・クラウディア・アークヴァルドは、非の打ち所の無い美少女に成長していた。


「お久し振りですね、ユート君、キリエさん」

「久し振りだね、アリス」

「アリスさん、お久し振りです」

 鈴を転がすような声も、また彼女の魅力を引き上げていると思う。少し潤んだ瞳は、五年前の別れの日を思い出させる。

「今日この日を、ずっと楽しみにしてました」

「あぁ、僕達も楽しみにしていた……また会えて、嬉しいよ」

 その言葉に、アリスは昔と変わらない花の咲くような微笑みを見せてくれた。


 晩餐会で、互いの近況を話す僕達。

 アンドレイ叔父さん以外は、本当に五年ぶりだからね。

 そう、アンドレイ叔父さんだけは、孤島に月に一度は遊びに来ていたのである。父さんと母さんに、色々愚痴やら何やら吐いていた。

 どうやら、僕らに国王と言う立場を明かして以降は、遠慮や自重という概念を王城に置いて来ているらしい。

 他の人達は五年後の再会を楽しみにする、と同行を辞退していたらしい。実際は、成長した自分を見せて驚かせる! と意気込むアルファとアリスが原因だったそうな。二人の視線が痛かったから行けなかったと、アレックス叔父さんがこっそり教えてくれた。子供の方が強いんじゃないか、この王家……。


 そんな事はさておき、会話は続く。

「それでは明日、ギルドで冒険者登録をするんですね」

「ああ、明日からいよいよ新しいスタートだよ」

 両親の庇護下を離れ、姉と二人で世界を巡る旅。いよいよ始まるのだと思うと、今からワクワクする。


「ですがユートお兄ちゃん、冒険者として登録した国から、他国へ渡る事が出来るのは……たしか鉄級から銅級に昇格しないといけないのですよね?」

 シルビアの言う通り、そんな制限がある。

 鉄級冒険者は、駆け出しも駆け出しの初心者だ。今後、有望かもしれない冒険者が不慮の事故で失われるのを防ぐため、鉄級冒険者は国外へ出られないのである。


 と言うのも、冒険者には等級があり、登録したばかりの鉄級アイアンが最下位。そこから、銅級ブロンズ銀級シルバー金級ゴールド聖銀級(ミスリル)聖金級(オリハルコン)へと上がっていく。

 銅級に昇格するには「ギルドの依頼を連続で十回成功させる」というルールがある。それに加えて一ランク上の依頼……銅級の依頼を一つだけ受けて、依頼達成すればいいのだ。

 ちなみに鉄級で依頼を十回連続で失敗すると、冒険者登録が抹消される。


 この辺りは、全て父さんが教えてくれた。と言うのも……父さんは聖金級オリハルコンの冒険者だったのだ。

 魔王オルバーン討伐の功績を認められ、聖金級オリハルコンに昇格したらしい。それ抜きで聖銀級ミスリルだったということだ。

 やはり父さんは凄い冒険者だったのだろう。


「大丈夫です、シルビアさん。ユーちゃんと私なら、半月で銅級に昇格出来ます」

 すごい自信である。しかし、半月に反応するアンドレイ叔父さん。

「いやいや、ユート君のビックリ箱ぶりを知れば、半月と言わず十日で十分ではないかね?」

「そ、そんなに短いのですか、陛下?」

 十日という短さに、今度はアリスが驚く。やめろ、フリはやめるんだ。


「そんなに急ぐつもりは無いよ、五年ぶりのイングヴァルト王国も見て回りたいんだから」

 まぁ、最もやろうと思えば……。

「全力でやろうと思えば、三日もあれば終わらせられる」

 その言葉に、場が静まり返った。

「……三日?」

「うん、三日」

 ……なんでそんな目で見るんだよぅ。


「あ、あの……」

 そんな中、第二王子であるアクセル君が僕に話しかけてくる。

「ぼ、僕も……シルビアお姉様のように、ユートお兄ちゃんと呼んでもいいですか?」

 恐る恐ると言う表情で、こちらを伺うようにそんな事を言って来た。

「勿論構わないよ、好きな様に呼んでくれていいからね」

「は、はい! ユートお兄ちゃん!」

 何だろうこの可愛い生き物。本当に、何だろうこの可愛い生き物。

 何だか無性に、弟が欲しくなって来たよ……里帰りしたら、普通に出来ていそうで怖い。


 ……


 晩餐を終えた僕達は、アルファに連れられてサロンに居た。

「じゃあ、コレね」

 アルファとアリスに、指輪とネックレス、腕輪を差し出す。

「しかし、本当に魔道具を大量製作しているとはな……父上から聞いた時には信じられなかったが……」

「しかも……遺失魔道具アーティファクトだなんて……」

 差し出したアクセサリーは、僕が製作した遺失魔道具アーティファクトである。


 イングヴァルト王家とアークヴァルド公爵家には、僕が遺失魔道具アーティファクトを製作出来る事を知られている。情報元は、月一で愚痴りに来る某国王様おじさんだ。

 勿論、これらの情報は王家と公爵家以外には漏れない様に徹底して貰っている。


 指輪は勿論、”宝物庫ストレージ”だ。

 そしてネックレスは“解毒”と”回復”、“障壁”の付与を施した“守護の首飾りタリズマン”である。王族や公爵令嬢ともなれば、身を守る術は必要だろう。

 そして、腕輪は“念話”という刻印の付与。十字架をあしらったこの腕輪は携帯電話……いや、“腕輪型携帯念話クロスリンク”。スマホ程便利じゃないけどね、これでいつでも連絡が可能になるのだ。

 ちなみに、各人に渡したそれの機能は変わらないが、外観はそれぞれに合わせて変えている。


「国宝級の贈り物だぞ、これは……お前、本当にどうやって作っているんだ……?」

 呆れたように言うアルファが、渡された遺失魔道具アーティファクトを見つめて苦笑している。

「それは内緒だ」

 遺失魔道具アーティファクトの製法に関しては、姉さん以外には教えていない。姉さんと相談した結果、世界に遺失魔道具アーティファクトが簡単に溢れ返り、醜い争いの火種になりかねないという判断からだ。

 自分の技術で、世界に混乱を招きたくは無いからね。

次回、投稿予定日は2月19日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかと思いましたがやっぱりお姉さんも一緒に旅立つのですね… 世界観が好きなだけにチョット残念。 なぜ天使さんをお姉さん設定にしたのかなぁ… それさえなければなぁ… 私個人的な趣向なんで…
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