08-08 ヴェルファーレ/それぞれの戦い
これまでのあらすじ:女性陣の魔導兵装は、完全に僕の趣味です。
ジークハルト竜王国の王都ヴェルファーレ。この王都に、突如現れた触手を生やした竜人達や動物、魔物達が一斉に押し寄せる。その襲撃により、ヴェルファーレに住む住民達は、混乱の最中に居た。
襲い掛かって来る触手は人から人へと寄生していき、既に多くの竜人が触手に支配されていた。
平民街に居る触手に支配された者達、その数はゆうに三百人を超えている。
そんな街角で、竜人の少年が妹を抱き締め物陰に隠れ、触手に支配された者をやり過ごそうと、震えていた。
しかし、現実は非情である。触手の制御下にある竜人達が、続々と二人に向けて歩いて来ている。
「ひぃっ!!」
「お、お兄ちゃん……!!」
その身体からズルリと姿を覗かせる触手。
二人は恐怖の只中に居た。しかし、少年は歯を食いしばって妹の前で両手を広げ、触手に支配された者達に叫んだ。
「ティナには……ティナには指一本触れさせるか! 僕だって竜人だ、絶対に守ってやる!!」
その声が耳に届いたのか、触手の宿主達は歩みを止めた。そして、一斉に哄笑し出す。
「……っ!?」
その不気味な光景に、少年は一歩後退る。
『キヒャヒャヒャヒャヒャ!!幼さ故の蛮勇、いいじゃな~い!』
気味の悪い声に、少年の精神は磨り減らされていく。
『幼気な子供、実にいいじゃない。それじゃあ……早く触手でその身体をグチャグチャにしてやって、苦痛の叫びを聞きたくなるじゃな~い!!』
その宣言に従い、一斉に宿主達が歩みを再開する。
「……ひっ!?」
「お……お兄ちゃん……!!」
涙を流しながら、兄にしがみつく妹。二人の命運は、最早尽きた……はずだった。
「そうはいきません」
――パァンッ!!
宿主の一人に、何かが直撃する。すると、その宿主は見る見るうちに石になっていった。
「……え?」
そして、二人の目の前に立ちはだかる、不思議な格好をした女性。
「大丈夫ですか?」
優しい声色で声をかけて来る女性に、二人は不思議と安心感を抱いた。
「は、はい……あの、あなたは?」
「通りすがりの謎のお姉ちゃんです。あちらの方に、無事な人達が集まっています。走れますか?」
女性が指で示した場所には、大人の竜人達が確かに集まっているようだった。
そして、そこには人間族の姿があった……そして、目の前の女性と似たような出で立ちの、白い女性もいる。
きっとこの女性の仲間だろう。少年はそう判断し、頷く。
「いい子ですね、妹さんと一緒に頑張って走りましょう。大丈夫です、あなた達には指一本触れさせません」
そう言って、女性は黒い鉄の塊を何処からともなく手にした。
『何者なのか解んないじゃない? お前、誰じゃな~い?』
「答える義理はありません。そして座して死を待ちなさい、悪魔族。貴方は私達の旦那様の勘気に触れました」
黒い布地に紺色の縁取りがされている扇情的なスーツに身を包み、その上に黒い装甲と紺色の装飾がされた鎧を着込んだ女性は、両手に持った鉄の塊を構える。
鉄製の物体の名は銃。刻印の付与魔導師お手製の、異世界における現代兵器。
『ほざいたな女! 貴様も触手でグチャグチャにしてやろう!!』
その言葉と同時に、一斉に歩み寄る宿主達。
「耳障りです、もう黙りなさい」
そんな宣言と共に、連続して放たれる最愛の男が託した特殊な銃弾……石化弾。
連続して放たれた石化弾により、宿主達は次々と石化していく。それらを左手の中指に嵌めた“宝物庫の指輪”へ収納しながら、次々と宿主達を石化させていく。
その様子を尻目に、少年は少女の手を引いて一目散に走り出した。大人達の近くに行けば、あの女性の仲間達がきっと守ってくれるのだろう。
そう思い必死で走り……突如、横から出て来た宿主達が、その進路を阻んだ。
「うわあぁっ!?」
「きゃああぁっ!!」
悲鳴を上げて急停止するが、宿主達は目と鼻の先だ。
すぐに逃げなければ……逃げなければ……!! そう思い、少年は逃げ道を探すが……何処にもそんな物は無かった。
そう……逃げ道を作り出されるまでは。
突然、足元の雑草が伸びたと思ったら、宿主達の足を拘束し出した。そして、乾いた銃声が何発か響く。すると、宿主達は先程の者達同様に石化していった。
「あ……!」
「さっきと、同じ……」
視線を向けると、銃を構える金髪の人間族の男性と、杖を掲げている金髪ウェーブのエルフ族の女性。
助けてくれたのだと気づいた少年は、妹の手をもう一度強く握りしめて走り出す。先程の男女の傍らに控えていた、騎士鎧の男性と魔導師らしきローブの女性が駆け寄ってくる。
「大丈夫か、君達」
「よく頑張ったね、偉いよ!」
そう言うと、二人は兄妹を抱き上げる。
それを見咎めた宿主達が迫るが、二人は落ち着いた様子で銃を抜き撃つ。
――パァンッ!!パァンッ!!
平民街に響く銃声、連続して放たれる石化の銃弾。
抱き抱えられて移動する少年は、ふと空を見上げた。先程から、竜達がブレスを撃って来ていたが、いつの間にか止んでいる事に気付いたからだ。
……そして、見てしまった。
黒い巨大な鎧が、空を縦横無尽に飛び回る姿を。
そして気付いてしまった。その胴体部分に、黒と金の鎧を着た人影がいる事に。
更に言ってしまえば、その巨大な鎧の左肩に、自分達とそんなに歳が変わらないであろう少女が居る事に!!
「な、何、あれ!?」
思わずあげてしまった悲鳴じみた声をあげてしまう。それに答えたのは、一人の女性だった。
「あの人は、そうですね……空の王様でしょうか」
声の方を見ると、先程の黒い女性と似た装いの白い女性。
先程の女性が騎士っぽいならば、目の前の女性は魔導師か神官のように見える。白い布地に蒼銀の縁取りがされた衣服の上に、同配色の短いマントと前垂れがそれを想起させるのだろう。
その手には槍の様な、杖の様な物を持っている。
「空の……王様?」
そう言うと、女性はニッコリ微笑んだ。何だか、数年前に亡くなった母親を思い起こさせる優しい微笑みだった。
「実は、私達の旦那様なんですよ」
そう言われても、返答に困ってしまう。
ともあれ、少年達は無事に大人達に合流し、父親とも再開した。
「あ、あれを見ろっ!!」
一人の竜人が指を指す。その方向には……触手を生やした獣や魔物の群れ。
「ちっ、あれは殲滅で構うまい?」
「そうですね。殿下達は寄生された竜人をお願いします。あちらは、私が」
そう言って、竜人達の前に歩み出る女性。
「お、お姉さん!!」
思わず声をかけてしまうが、言葉が続かない。そうして言い淀む少年に、女性はまた優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、安心して下さい」
そう言って、女性は杖を掲げた。
「“来たれ地の精霊十柱、我が声に耳を傾けよ。我が求むは物言わぬ石榑、あらゆる物を覆い固めよ”」
魔法の詠唱。しかし、聞き覚えの無い詠唱。それもそのはず……何故ならば、一般には失伝したと言われている魔法である。
同時に、女性が手にしていた宝石のような石が砕け散る。これは女性が適性外の属性魔法を扱えるようにと、彼女達の未来の旦那が託した遺失魔道具であった。
「“吹き荒べ、石化の息吹!!”」
突き出された杖の先から放たれた、灰色の風。扇状に広がるそれが、魔物や動物達を飲み込んでいく。
そして、その風が通り過ぎたそこに残されたのは、石像のようになってしまった魔物や動物達の成れの果てであった。
「一つ一つ回収するのは手間ですね。一気に済ませてしまいましょう……“来たれ空と時の精霊十四柱、我が声に耳を傾けたまえ。我が求むは狭間の鍵、狭間の扉を開く鍵。扉を開き、我が求める宝物を此処に。宝物庫”」
瞬間、魔物や動物達……そして、先程から続々と石化していく宿主達の足元に蒼銀色の魔法陣が展開される。すると、石化したそれらがズブズブと沈み込んでいく……!!
またもや見た事が無い魔法に、竜人達は目を見開いて驚いていた。
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貴族街は、突然の異常事態に混乱していた。
貴族達は邸宅に閉じ籠ろうとした所で、押し寄せて来た宿主達に襲われた。そのまま命からがら逃げ出して、決死の思いで走っていき……そして、追い詰められた。
そこは王城であり、既に城門は閉ざされていた。
竜王は、王竜の助力を仰ぐべく念話の魔法を試みているのだが、うまく届かない。既に、王竜達が寄生生物に侵食されている等とは思いもよらなかったのだろう。
必死に逃げて来た貴族達を迎え入れようにも、城門を開けては王城が惨劇の舞台となる。
無論、高潔な為政者であり武人でもある竜王が、民を見捨てるはずもない。縄梯子を降ろし、貴族達を城壁の上へと避難させるべく兵士達も奮闘していた。
その中に、紅玉のマリアンヌの姿もあった。
「くっ……こんな事って!!」
竜人の男達は、女子供を優先させて縄梯子を登らせようとする。
しかしマリアンヌは竜人族の、一部族の族長の娘だ。男達に交じって、かよわい子供や女性を縄梯子まで通していく。
しかし、既に城壁の目の前にまで宿主達が迫っていた。縄梯子を登るのに間に合わないと確信した貴族達は、命を諦めかけていた。
「ダメよっ! あきらめちゃダメッ!!」
必死で貴族達を鼓舞しようとするマリアンヌだったが、その凛とした顔立ちが恐怖に歪む。
……自分のすぐ側に、不気味な形状をした触手が迫っていた。
「あ……あ……っ!!」
マリアンヌは、自分も目の前にいる宿主達の仲間入りをするのだと悟った。心に去来するのは、絶望……。
その時だった。
「マリア!!」
自分の名前を呼ぶ、少年の声がした。
蒼いコートを身に纏った、錬成魔導師が目の前に飛び込んで来た。彼は手にした銃の引き金を引き、宿主達を石へと変えていく。
「あ、あなた……」
更に現れたのは、五人の若者達。内二人は不可思議な装束に身を包んでいる。
その片割れが、毅然とした様子で宿主達に向き直り……その手に持った大盾を構えた。
「聖域、展開!!」
勇ましい掛け声と共に、不可視の壁が宿主と謎の少女を隔てる。
行使するのはアヴリウス大迷宮を踏破した者だけが会得できる、防御の概念魔法。聖域と呼称される、不可侵の結界。
彼女の背後で、先程まで追い詰められていた貴族達が腰を抜かして目前の光景を見ていた。宿主達が、不可視の壁に遮られて前に進む事が出来ないのだ。
一体、彼女は何者なのか……そんな疑問が胸中を満たしている。
決して名乗ることは無いだろうが、白い布地と桜色の縁取りのスーツの上に、同じ配色の装甲鎧を身に着けた彼女の正体……それは、異世界から召喚された盾の勇者である。
そして、マリアンヌにかけられる声。
「ケガは無い?」
「あなたは……確か、ユウキ……? 勇者ユウキよね?」
「もう大丈夫だ、僕達に任せてくれ。リインさん、皆を安全な場所へ!」
「ええ、お任せ下さい」
ユウキに声をかけられ返事をしたのは、スーツと両手足と腹部を覆う軽量装甲、そして腰布の配色が、白ベースに緑の縁取りがされた装束を身に纏う少女。
彼女が地面の草に何かの魔法をかけた瞬間、草は勢い良く成長し出した。そして、その草によって貴族達は城壁の上へと持ち上げられ、九死に一生を得る事となった。
竜人族の兵士達が、貴族と一緒に城壁の上に上がって来た少女に誰何する。
「我が国の国民を救ってくれた事に感謝する……しかし、貴殿等は一体何者か」
そう問いかけると、少女は残念そうに首を振る。
「申し訳ありません、私の一存でそれを明かす事が出来ない事情が御座います」
その言葉に、兵士達の警戒心が膨れ上がる。
「ですが、これは信じて頂きたく存じます……我々は竜王国をの危地に対し、力となるべく馳せ参じた者に御座います。では、仲間が下で奮闘している為、詳細は後程……」
そう言って、少女は何処からともなく手にした弓と銃……それに、刃が一緒になった物を城壁の下に向けて構える。
気付けばそこから少し離れた場所に、エルフ族らしい男性……そして、何処かで見たようなコートを着た人間族の少女の姿があった。
「それでは……参ります!!」
謎装束の少女が、弓銃から立て続けに銃弾を吐き出す
兵士達が眼下を見下ろせば、同様に盾の少女の傍らで銃撃を開始するコート姿の少年と、赤いビキニ鎧の様な格好の小柄な少女が居た。
更に、城壁に登っていた男性と少女も、銃を構えて狙撃を始める。見れば、次々と宿主達が石化していった。
「せ、石化……確かにそれならば……しかし、我が国の民が!!」
それに反論するのは、エルフ族の男性だ。
「安心したまえ兵士君。石化は彼らを救う為に必要な措置の一つなんだよ」
銃撃を続けつつ、軽い調子でそんな事を言うエルフ族の男性。
「そんなバカな話があるか、冗談じゃない!」
石化させた者は、高額な回復魔法薬でなければ治らない。それを知る兵士は激高する。
しかし、エルフ男性は穏やかな表情を崩さずに頷いた。
「そうだね、僕も最初はそう思ったんだけど……アイツが出来るって言うんだから、出来ると思うよ。そういう所で冗談や嘘を吐く男じゃないからね」
全く理解不能だった。しかし、現在助かっているのは事実……。
その兵士は、謎の援軍らしき者達の情報を、竜王陛下の耳に入れるべきと判断した。その旨を隊長に進言して許可を得、その場を離れていく。
さて、城壁の下では盾の勇者と錬成の勇者、そしてドワーフ族の冒険者が奮闘していた。防御の概念魔法の内側から、銃撃を撃つだけの作業であった。
しかし、もう一つやるべき事がある……石化した者達を、宝物庫に回収しなければならないのだ。
「そろそろ斜線が通らないかぁ、それじゃあ収納だね……」
そう言ってドワーフ少女が、不可視の壁から外にある……石化した宿主に手を伸ばした。
悪魔族は、その瞬間を見てほくそ笑む。
『チャンスじゃな~い!!』
石化した宿主を陰にして隠れていた触手が、ドワーフ少女の腕を取る。
「ひゃぁっ!?」
「エルザさんっ!!」
そのまま、壁の内側から引き摺り出されてしまったドワーフ少女……そこへ、宿主達が群がる。武器を振るって防ごうにも、そちらの手にも触手が巻き付いてしまっている。
「や、ヤバっ!?」
そして、少女の顔に向けて触手が勢い良く迫った……その瞬間。
「だああぁっ!!」
勢い良く投げられた刃物が、少女の顔に迫る触手を斬り飛ばす。更に連続して、その両腕を拘束していた触手も同じように斬り飛ばされた。
それを成したのは、蒼いコートの少年だった。
「……た、助かった!?」
しかし、触手は高速で再生する。
すぐさま生えた触手が再び少女に襲い掛かろうとして……更に斬り飛ばされた。連続して、触手だけを狙って投げられる柄のない刃物……それは円形をしていた。所謂、チャクラムだ。
彼の武装に、そんな物は無かった……つい、先程までは。そう、彼は瞬時にそれを造り出したのだ。
彼が持つ、その技能によって。
――異世界の知識。
――アヴァロン王国での鍛錬。
――ユートやマルクと共に造り出した、数々の武器。
――そして、仕える王の……ある日の言葉。
「戦う覚悟を決めるなら、自分の持ち味を生かす術を模索しろ」
あの日から、何が出来るのかをずっと考え続け……そして、辿り着いた。武器の高速錬成による多彩な攻撃という、錬成魔導師だからこそ出来る戦術。
それを可能にしたのは、ユートと出会ってから積み重ねてきた経験。そしてディアマント大迷宮攻略において、レベルアップしたお陰であった。
刃物を触手に投げながら、少年はドワーフ少女の前に立ちはだかる。
彼の名はユウキ。錬成の勇者、ユウキ・サクライ。
「……エルザに触れるな!!」
更に彼の手に形作られていく刃物。その堂々とした姿は、勇者の称号がピッタリ当てはまる頼もしさだった。
「迫る触手は僕が止める。エルザは石化を頼む!」
勇者を見てポーっとしていたエルザだったが、その声に我を取り戻した。
「わ、解った! 任せて!」
その様子を見て、無意識下で魔法の威力を上げる魔導の勇者。そして、何故か壁を殴る竜人の娘が居た。
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所変わって、ヴェルファーレの商業区。
普段は商人や買い物客で賑わう場所なのだが、この日市場に響く声は威勢のいい商人の声でも、子供達が母親に果物を強請る声でも無かった。混乱の悲鳴一色だった。
「うわあぁぁっ!!」
「に、逃げろっ!!」
次々と触手に侵食され、新たな宿主となった竜人達が、更なる犠牲者を求めて徘徊する。
家や倉庫に立て籠もろうにも、宿主の口からズルリと這い出した寄生する触手が僅かな隙間から侵入し、それに気付いた時には時すでに遅し。
こうして量産されていく悪魔の触手の被害者達が、市場のメインストリートを歩き進んでいく。
そこへ現れたのは、六人の人影だ。
「……これ以上、させない……」
小柄な少女が、怒りを籠めた声色で言う。
彼女は、黒と紫の縁取りの衣装を着込んでいた。その上に、これまた黒と紫の配色の両手足と腹部を覆う軽量装甲と、腰布を装備している。
「今回は殴れねぇなぁ……」
「ええ、近付くのは危険ですわ殿下」
獅子獣人の男性がそう言うと、苦笑する白虎獣人の女性。
そして、その前に立つ兎獣人は両手に銃刀を構える。
「手早く済ませましょう。こうしている間にも、犠牲者が増えていそうです」
そう言う彼女も、また黒い布地に灰銀の縁取りと一部が透ける魅惑的なスーツを着ていた。更に纏うのは、両胸・下腹部・腕や足を覆う同配色の鎧。
「うむ、お前達の言う通りだな。早々に片を付け、ユートの奇策を見届けるが良いだろう」
そう言って、金色の髪をなびかせた十歳程の少年が歩み出る。その手には、友に託された銃が握られている。
最前列で歩み寄って来る宿主に、一発の銃弾が命中し石化した。平民街において使用されたのと同じ、石化の魔弾だ。
「銃というのは中々に興味深い物だな……狙うのが、無辜の民でなければ気分の良いものだっただろうに!!」
更に、連続して放たれる弾丸。
「全くだ!!」
そう言って、獅子の獣人も銃弾を放ち始める。射撃が苦手なので、彼にはスコープ付きのライフルが手渡されていた。
「早く解放して差し上げましょう。その為にも、心苦しいですが当てさせて頂きます!!」
両手に持ったマシンガンが、激しい勢いで銃弾を吐き出し始める。アヴァロン王国で銃に触れて以来、彼女はマシンガンがお気に入りだった。
しかし平民街や貴族街の二の舞いを避けるため、悪魔族は手を打っていた。そう、寄生された者達は、悪魔族の意思で動かせるのだ。
不意を打たせる為に、宿主達を物陰に潜ませたり、屋根の上に登らせたりして包囲網を敷いていた。
悪魔族は、メインストリートを練り歩いていた宿主達に集中して、銃で石化させていく面々を寄生生物越しに見てほくそ笑む。
彼等を支配下に置いた後、平民街の連中を……その後で支配した仲間達に、空を飛んでいる二人を襲わせよう。
そんな悪魔らしい悪辣な策を練り、包囲網を形成してゆく。
準備は整った、いよいよだ。
「さぁ、ショウタイムじゃなぁい♪」
一斉に宿主達を動かし……。
「見切っています!!」
「……甘い」
攻撃に参加していなかった二人が、一斉に屋根の上や物陰から飛び出してきた宿主達に、石化の銃弾を浴びせていく。
『ば、バカな!? なぜじゃないっ!?』
明らかに、その方向に宿主達がいると解っていたとしか思えない、一糸乱れぬ攻撃だった。
これは、周到な戦略のはずだった。彼らの位置からは、決して気付かれないように配置したというのに、何故解ったのか。
悪魔族は知らない。
彼女達の魔導装甲の、バイザー部分が規格外の遺失魔道具である事を。刻印の付与魔導師の左目と同じ機能……そう、真実の目と名付けられた義眼と同じ機能がある事を。
マップに表示される交点、それが宿主だと解っていた彼女達は、伏兵に対応すべくわざと攻撃に参加していなかったのだ。
『お、おのれぇっ!! お前らごとき、めちゃくちゃにしてあげちゃうじゃない!! キャヒャヒャヒャヒャッ!!』
そんな悪魔族の言葉に、眉間に皺を寄せる救援者達。
しかし、その表情はすぐに和らいだ。ある少年の声が、頭に直接響き渡ったからである。
『面白い冗談だな、悪魔族マァモン。自分は安全地帯でコソコソ隠れて、高みの見物か?』
その少年は、これまで幾度となく悪魔族の野望を打ち破って来た、悪魔を狩る者。
『……っ!?誰じゃない!?』
その少年の名は。
『アヴァロン王国国王、ユート・アーカディア・アヴァロン……お前達、悪魔族の天敵だよ』




