08-07 新装備/魔導兵騎
これまでのあらすじ:ディアマント大迷宮を攻略した直後、異常事態を察知しました。
一日半かけて攻略した大迷宮から王都近辺に転移した僕達は、王都を襲う謎の反応…そして何故か大迷宮付近にいるグラム達らしき反応に気付いた。
”真実の目”によると、どうやらグラム達は悪魔生物に身体を乗っ取られているらしい。
王都の竜人達は謎の反応に対して反撃しているようだ。
「…悪魔族の仕業か」
毎度毎度、碌でもない事をしてくれる。
さて、これは同盟国が悪魔族の侵攻を受けているという事になる。
ならば、やる事は一つだろう。
「アヴァロン王国国王として宣言する。同盟国であるジークハルト竜王国を襲う悪魔族を殲滅し、友好国を守る。異論はあるか」
僕の言葉に、皆は首を横に振る。
「時間が無くて、婚約者の分しか無いんだが新兵器を渡しておこう」
「新…兵器…?」
「い、嫌な予感が…」
唖然とした様子のユウキとマナ。
全く、失礼な。
「変なものじゃないよ、ホラこれ」
「これって…魔導通信機ですか?」
そう、外観は魔導通信機と変わらない。
機能としては、魔導通信機の機能に加えて、刻印付与した新機能があるのだ。
「今回の件では悪魔族の寄生生物がいるみたいだからね。おっと、このままじゃ竜王国が危ない。急ごう!」
宝物庫から魔力駆動二輪を取り出す。
「そうです、早く行かないと!」
「はい、急ぎましょう!」
皆も急行する為に魔力駆動二輪を出していき、準備は整った。
エイルはまだ専用機が無いので、僕の後ろに乗せる。
「よし、行くぞ!」
アクセルを開け、王都へ向かう。
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僕達が辿り着いた時には、空を飛ぶ竜達が王都を攻撃している最中だった。
しかし、竜の息吹による空襲…竜人といえど、これは苦戦必死だろう。
「触手型の寄生生物に、身体を侵食されているみたいだな…胸糞悪い。そうなると、取るべき手段は…うん、アレだな。よし、連絡済みのあいつらを呼ぶか」
無造作に手頃な大岩に門弾を撃つ。
「毎度お馴染みの展開か」
「おう、しかし暴れられるから俺は文句ねぇぞ」
「それにユートは監視しておかないと、何するか解らないからね」
「まぁ、未来の義弟の頼みなら、余は手を貸すのも吝かではないぞ?」
はい、いつもお馴染みの殿下勢と魔王でーす。
更に、エミリオとシャル、リアといつものメンバーに加え、新たに一緒に来たのはブリックの婚約者のマチルダだ。
先日話を聞いたところ相当な武闘派らしく、俺達の話をブリックから聞いてめでたく仲間入りを果たしているのだ。
「何か、新しい装備があると聞きましたわ」
「ユート殿、今度はどんな物を作ったのですか?」
ワクワクしているリアとマチルダ。
そんな様子の二人に苦笑しつつ、例の新兵器を取り出す。
「ユーちゃん、コレって一体…?」
キリエが手に持っているのも、例の新兵器。
「じゃ、実演がてら説明しよう。婚約者の皆も、一緒に真似してね。まず、お腹にコイツを当てます」
新兵器をお腹に当てる…と、内蔵された専用の宝物庫からベルト部分が出現!
腰に巻き付いて装備される!
「こうして装着できます」
やはりこの機構は外せないだろう!
おぉ…という表情をする面々。
そして勇者組は、事ここに至ってコレの正体が解ったようだ。
「でだ、これをスワイプ…えーと、こうスッとやるんだ。そうすると、画面が動く。コレ、誤操作防止のために二回やってね。上下左右問わないから…そうすると、このマークが出ます」
スワイプのやり方を教えると、フムフムと頷く面々。
若干三名、タッチパネルとかよく作ったなぁという顔をしている。
ちなみにマークは、パソコンとかテレビとかのスイッチマーク。
例の丸と棒を組み合わせたようなマークなんだけど、確かあれって0と一の組み合わせなんだってさ。
うん、それはどうでもいいよね。
「で、この画面をタッチ…つまり、指で軽く叩く…と」
刻印をタッチした瞬間、物体から軽快なメロディが流れ出す!
ビクッとする初見組!
芸が細かいと驚く勇者組!
「これ、待機音ね。作曲は僕」
「何故そこまで拘ったんですか…」
ユウキが疲れた顔でそんな事を言う。
決まっている、ロマンを追い求めた結果さ。
「で、この状態でスワイプ。これも、上下左右問わないから」
横にスワイプしてみせると、物体を中心に光の輪が広がる。
光の輪は上下に移動し、今着ている衣服を収納する。
同時に、装甲の下に着る刻印付与済みのスーツ…通称・スキンが体を覆う。
そして、光の輪は専用宝物庫である通称“格納庫”の出入口だ。
その中から、光を帯びて取り出されたのはマルク謹製の鎧…そう、魔導装甲。
装甲は自動的にスキンの上に装着されていくようになっている。
最後に、それっぽ〜い目の部分…アイマスクがピカッと光って、変身完了!
尚、僕の魔導装甲は、以前の物から少しバージョンアップした。
アイマスク部分を、神竜所縁という事で、ドラゴンをモチーフにした物にしてみた。
黒い鎧は、最近着ているコートと同じように金色の縁取りを追加した。
「新開発、これが魔導通信機の機能に加えて、魔導装甲への瞬間変身機構を加えた新遺失魔道具“円卓の座”だ!」
おぉ〜…と、どよめきが起こる。
それは僕の変身でも円卓の座の性能でもなく…女性陣の姿にである。
女性陣のスキンは一見すると縁取りのある水着っぽい感じで、白と黒の二通り。
僕の独断と偏見で似合うと思う方にした。
所々シースルーにしていて、縁取りとシースルー部分は僕から見た彼女達のイメージカラーだ。
両腕にアームカバー、両足にソックスと一緒になっているサイハイブーツ。
頭部はヘッドギアが装着されているのだが、このヘッドギアには認識阻害の刻印付与がされているので、無関係な者に正体がバレないようになっている。
所謂、変身ヒロイン系の装備だ。
変身した婚約者達を見て、バッ!!と手を上げる者が居た…マナだ。
「ユート君、デザインについて話があるんですけど!」
若干、視線が冷たい…正直に話すか。
「単純に、俺の嗜好だ」
「「「「「「正直過ぎる!!」」」」」」
偽っても仕方が無いからね。
「あの、ユート兄?これ防御力あるの?」
「普段からそんな装備のお前が言うか!まぁいい、現段階でも防御力はかなり高いぞ」
伸縮性に富んだ魔物由来の生地に、俺の刻印付与魔法で防御の概念魔法を盛った特別製だからな。
「ちょっと恥ずかしいですね…」
「ユート君が作った物じゃなければ着てないですよ、これ…」
黒インナーのキリエは、紺色の縁取りとシースルー素材。
アリスは白いインナーで、蒼銀の縁取りにシースルー。
「どうでしょう、ユート様」
「ううん…少しスースーする気が…」
アイリは黒インナーで、灰銀の縁取りとシースルーになっている。
リインも白である…縁取りとシースルーの色は、グリーンだ。
「…私は、これ好き」
「うぅ…コスプレ感が…」
黒いインナーのクリスは、紫色の縁取りとシースルーになっている。
メグミは白いインナーで、縁取りとシースルーは桜色にしてみた。
最も、これはデフォルトの状態である。
ここからが、俺の本領発揮だ。
「この状態はあくまでベースだ。現状は五形態しか使えないが、今回の実戦で得たデータを元に個人向けの調整を行う」
それでは、スタイルについて説明していこう。
「ベルト部分の画面を上下左右にスワイプすると、近接武器・格闘・魔法行使・狙撃の四種類の戦術に対応した形態への換装機能があるんだ」
左へは、武器を使用した戦闘に対応するスタイル。
右は、射撃に長けているスタイル。
上は、魔法行使に長けたスタイル。
そして下は、近接格闘専用のスタイルだ。
「それぞれに装飾も付くから、デフォルトよりは恥ずかしくないと思います。ちなみにこのデフォルト状態は、魔力駆動二輪に乗るのに適した状態だな」
「…なるほど」
早速、自分達に合ったスタイルをそれぞれ試してみるようだ。
キリエとメグミは武装スタイル。
デフォルト状態の上に鎧が装着され、防御力が向上している。
「なるほど、こんな感じですか」
「これなら、そこまで気にならないですね」
リインとクリスは射撃スタイル。
両手足と腹部を覆う軽量装甲と、腰布が付属する。
「わぁ、これなら他人の目をそこまで気にせず済みます」
「…んっ、これも可愛い」
アリスは魔導スタイル。
神官とかの法衣っぽい前垂れと、短めのマントが付属し、魔法使いっぽさを出してみた。
「あ、これならそこまで恥ずかしくないです…」
アイリは下の格闘スタイル。
胸元・下腹部・両手足等、各所に軽装の鎧が付属する状態だ。
「成程、こんな感じなのですね」
さて、では準備完了という事で。
「よし、では分担して対応するぞ。まず空の竜達だが、そっちは俺が対応する。皆は寄生された者達に対する対処を頼みたい」
俺の言葉に、仲間達が首肯で応える。
「竜王国にとって竜は尊敬の対象だ。そして寄生された連中も、竜王にとっては尊い国民だ…だから、今回は殲滅じゃない」
ちょっと、考えがあるのだ。
「石化弾を宝物庫共有化で開放する。これで寄生された竜人や竜を石化しろ。その後の策はちゃんとあるから、宝物庫に収納してくれ」
俺の言葉に、仲間達は少し戸惑いながらも頷いた。
その表情には信頼の色が伺える。
信頼し合える仲間…良いものだな。
「魔導装甲を纏っている限り、寄生はされない。纏っていない者は、可能な限り後方からの援護射撃に留めろ。後で何とかするが、仲間が寄生されるなんて御免だからな」
全員がしっかりと頷く。
これならば、突出したりといった無理はすまい。
「ふむ…寄生された対象の群れが三箇所に集中しているな。それじゃあ、こちらも四チームに分ける」
魔導装甲組の前衛と後衛を考慮して振り分けないとな。
結果、平民街の方へは、キリエとアリスに加えて、アルファ・リアの婚約者コンビに、護衛のエミリオ・シャル。
商業区へはアイリとブリック、マチルダの獣人組と、クリスとアマダムの魔王兄妹組に加える。
貴族街担当はリインとマック…リアを除いたエルフ組と、メグミとユウキ、マナの勇者組、それにエルザだ。
そしてエイルは…
「私はお兄ちゃんと行く!竜を相手にするんでしょ、なら連れて行って!」
と言い張って聞かないので、止む無く連れて行く事にした。
それでは、空の敵に対抗する手段だが…。
常々開発していた秘密兵器の出番である。
初陣には丁度良い。
ベルトの画面部分に指を伸ばし、円形になぞり…そしてタッチ。
待機音声が流れ出した所で、皆の視線が俺に集まる。
特に何も言わず、俺は画面をスッと下にスワイプする。
光を帯びて格納庫から現れたのは、複数の大きな鉄の塊。
それに向かって跳び上がると、両手足と背中にその鉄の塊が飛んで来る。
鉄の塊は巨大な腕・脚型の稼働型装甲。
それが装着され、最後に背中には飛行用の翼。
これが今回の秘密兵器、対空戦用スタイル・魔導兵騎だ。
「やらかした!?やらかしましたね!?」
「な…な…なんじゃそりゃあぁっ!!」
「何ですかそれぇっ!?」
「これも、どっかで見た事があるんですけど!!」
キリエと勇者組が驚愕を露わにする。
驚くのも無理はないか。
ぶっちゃけ、アニメとかで流行っていたパワードスーツ系の作品を参考にした。
勿論、伊達や酔狂で造ったのではない。
先代神竜との戦闘で、空を飛ぶ敵や巨大な敵に対応する手段が必要だと思ったのだ。
「俺はコイツで空の連中を相手してくるから、地上は任せるぞ」
引き攣った表情で、仲間達がコクコクと頷く。
大分驚いたみたいだな。
しかし、グズグズしている場合ではない。
「それじゃあ行動開始だ、悪魔族の企みをぶっ潰すぞ!!」
「「「「「お、応っ!!」」」」」
よしよし、無事に気を取り直したな。
「さぁ…反撃の時間だ!!」
俺の号令に仲間達は力強く頷き、魔力駆動二輪を駆って疾走し出した。
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仲間達を見送って、俺は空を睨む。
五十体前後の竜達の姿が見える。
「…それじゃあ、行くか。振り落とされるなよ、エイル」
「任せて!」
俺の魔導兵騎の肩に乗って、エイルが頷いた。
魔力を通して魔導兵騎を起動させ、飛行の刻印付与で空に舞い上がる。
目指すは王都上空を飛び回る竜。
こちらに気付いた竜達が、口や鼻等から次々と触手を出して襲い掛かろうと体をこちらに向ける。
「遅ぇよ」
魔導兵騎の両腕に格納庫から取り出した大口径版の銃剣で、石化弾を放つ。
攻撃が命中した竜は石化して、地上に落ちそうになる…のだが。
「狙い撃つよっ!!」
エイルが手にしたライフルから放った、新開発の収納弾で宝物庫へ飛ばす。
行先は全て同じ宝物庫にしておいた。
そこからは、竜の集団による突進や爪による攻撃をかわし、尻尾による叩き付けや触手を避けて空中を駆け巡る。
「お兄ちゃん、凄いねこれ!」
「先代の神竜と戦う事を想定して作ったんだが…予定変更だ、エイルと空のドライブする為って事で!」
「それ、最高っ!」
そんな軽口を叩き合いながら、俺達は竜の攻撃を尽く回避し、俺が石化弾を撃って竜達を石化し、エイルが収納弾で宝物庫に石化した竜を収納していく。
しかし、状況は更に悪い方向に向かっていた。
「あれは…」
「紅玉竜…だけじゃないな」
紅玉竜に加え、瑠璃色の鱗の竜、琥珀色の鱗の竜、翡翠色の鱗の竜が飛来する。
その身体からは、やはり触手が蠢きながら覗いて見えている。
「王竜達まで、か…」
エイルの表情を覗き見る。
ディアマントと別れの挨拶をした時と同じ、哀しそうな表情。
あー、うん。
これはアレだ。
悪魔族、コロス。
俺の身内にこんな顔をさせたんだ。
この世に生まれてきた事を後悔させてやる。
「掴まれ、エイル」
「えっ!?あ、はい!!」
噴射口に刻印付与した風属性魔法“風の噴射”を発動。
飛行と並行して使用し、王竜達に急接近する。
既に攻撃準備が整っていたらしく、王竜達は触手が蠢く口を大きく開けた。
「ゴガアアァァァッ!!」
火、水、地、風の四属性を司る竜達。
その口から放たれた竜の息吹が、俺とエイルに襲い掛かる…が、なっていないな。
「甘いんだよ。エイルの竜の息吹に対抗出来るように作られた魔導兵騎が、その程度で捉えられると思うな」
四つの竜の息吹の隙間を縫うように、風の噴射を駆使してかわしていく。
そして、四匹の王竜達が飛ぶ空域…その、ある一点へ。
「突っ込むぞ」
「ラジャーっ!!」
最大出力で噴射する風の噴射で、一直線に飛ぶ。
その勢いのままに、俺達は四匹の王竜の中間を通り抜け…その瞬間。
「ちゃんと元に戻してやる、今は少し休んでいろ」
錐揉み回転するように飛来しつつ、四匹の王竜の巨体に石化弾を連射する。
「ゴアアァッ!!」
「グオォンッ!!」
「ギャギョッ!?」
「グギャアッ!!」
しかし、その巨体故に完全には石化していない。
しばらくは耐えていたが、翼が石化し始めて飛ぶ事が出来なくなった王竜達は、重力に従い落下する。
今のままでは石化し切っていないせいで、宝物庫には収納できない。
俺は急降下し、石化していない場所に石化弾を連射し続けて周囲を飛ぶ。
眼下の地面が急速に迫るが、王竜達をこのまま落下させたら石化した身体が砕けてしまうかもしれない。
それは、エイルやマリア、竜人族達…そして王竜達の為にも、出来ない。
魔導兵騎の装甲にマシンガンやガトリングガンを連結させ、石化弾を連射しまくる。
そして、まずは琥珀竜が完全に石化し、エイルがすかさず収納弾を撃つ。
次に、瑠璃竜。
そして、翡翠竜
最後の紅玉竜は…間に合わないか。
即断した俺は、紅玉竜の真下に潜り込む。
その巨大を魔導兵騎で持ち上げるようにしたら、再び風の噴射で上空に向けて飛び上がる。
「ギリギリセーフ…」
「流石お兄ちゃんっ!…あっ!?」
紅玉竜の口から伸びた触手が、エイル目掛けて突進して来て…
「ギャギャギャッ!?」
その触手を、魔導兵騎の操縦桿から手を離した俺の左手が掴んだ。
「…俺の妹に、触れるな」
更に、右手に愛用の銃剣を構え…
ドパァンッ!!
触手をレールガンで消し飛ばす。
そのまま、再び操縦桿を握って紅玉竜の身体を放り投げる。
「これで終わりだ」
石化弾を放ち、紅玉竜は完全に石化した。
「…また後でね」
エイルが撃った収納弾は寸分違わず命中し、紅玉竜の身体も宝物庫に収納される。
ようやく、王都の空に平和が戻って来た。
最も…地上は、まだ混乱の最中だ。
 




