07-18 幕間/ある日のアヴァロン王国
「どうしてこうなった?」
イングヴァルト王国のとある建物で、一人の少年からそんな呟きが漏れた。
彼の名は、ユート・アーカディア・アヴァロン。天空に浮かぶアーカディア島に建国された新王国、アヴァロン王国の国王である。
彼の目の前に居るのは……五百人程の多種多様な種族の者達。彼等は、アヴァロン王国への移籍を希望する者達であった。
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事の始まりは、突然だった。第二回世界会議で、獣王バナードが溜息交じりにユートに告げた一言がきっかけである。
「アヴァロン王国へ移籍したいと言う者が出ているのだ」
それに、他国も追随する。
どうやら、新興国であるアヴァロンに、各国家で移籍希望者が何人も出ているのだそうだ。それらの対応に追われ、今回の議題であったはずの催しの案などに、手が付いていないらしい。
「あー……各国家の都合とかもありますよね。ちょっと、こちらも仲間達と相談させて貰えますか?」
他国の貴族や、重職にある者は引き抜くわけにはいくまい。それは他国との関係に深い溝を作る事になってしまう。
その時点でのユートの考えは、正しく慎重なものだった。
……
「という話なんだけど、皆にも意見を聞きたい」
ユートの相談に、アヴァロン王国に所属する面々は苦笑する。目の前の王様は欲が無い……と。
最も、だからこそ自分達は付いて来た訳であって、その相談に対してベストな回答を返したい。
そう考え、それぞれは考え抜いて意見を出し合った。
「人材確保と言う点では、貴族や要職にある者を引き抜きたい所ですが……」
「ええ、でもそれはユーちゃんの本意ではないみたいですしね」
「それならば、孤児や違法奴隷を保護と言う名目で移籍させてはどうでしょうか?」
「生活に困った浮浪者等にも、開拓の仕事を任せられますね」
「魔物の襲撃を受けた村などは、住む所にも困るのが実状ですよね」
「鑑定板で賞罰を確認しなきゃいけねぇんじゃないですかい?」
「鑑定板よりも、ご主人様の製作した解析プレートの方が確実でしょう」
「確かに、国が持て余す人を受け入れると言うのは、不安要素が大きいですね」
「その来歴や、情報の精査は必要でしょう。面接は必須ですね」
「ユート様が遺失魔道具を保有しているのは、もう広く知られていますよ」
「遺失魔道具による、賞罰や来歴の確認を行うと言えば……人数は絞れるかもしれませんね」
会議は長時間続き、関係各国へは以下の返答を返す事になった。
一つ、貴族や騎士等、国において責任ある者の受け入れは不可とする事。
一つ、浮浪者や孤児、違法奴隷、避難民を受け入れる事。
一つ、賞罰確認を行い、確認の結果受け入れられなかった者は捕縛するので、所属国にて処罰する事。
一つ、種族の違いに関して差別意識や敵対心を持つ者は、アヴァロン王国は何人たりとも受け入れない事。
一つ、移民後は、所属権をアヴァロン王国が有する事。
正直、各国としてはスラムや違法奴隷問題、難民問題の解決において、願ったり叶ったりだった。
その為、自国の王都を中心にスラムや難民達に呼び掛け……想像以上の数が集まった。
厳正なるくじ引きの結果、イングヴァルト・オーヴァン・ヴォルフィード・ジークハルト・ミリアンの順番に、移民面接を行う事となったのだが……初日のイングヴァルトの時点で、移民希望者は五百人前後になった。
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「よし、帰ろう」
「許しませんからね?」
「ユート君、王としての責務です」
キリエとアリスが今日の同行者である。
「し、神竜の卵が孵る気がするんだよ!」
「ダメです、王様として仕事をしましょう」
「大丈夫ですよ、私達も一緒に居ますから」
二人の婚約者に説得され、ユートは折れた。
今日は、夜まで帰れないのだろう……そんな事を考えながら。
とりあえず、緊急連絡会を開く。確認したところ、やはり他国でもアヴァロン王国への移籍希望者は凄まじい人数らしい。
そこでユートは、余程の事が無い限りは一国につき、最大百人まで受け入れると連絡。各国家の了承を得て、移民面接を開始した。
「はい、君は三十二人の女性を殺害した罪で捕縛! 行先はアヴァロンじゃなくて牢屋だよ!」
「貴方は男爵家の三男でしょう、貴族は移民対象外と通達があったはずです」
「所属がマルゲリタ子爵家となっていますね。貴族関係者である以上、移民対象には入りません」
……こんな状況が、何日か続いた。
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選考で移籍を認められた者達は、十日後にアヴァロン王国の所属となった。彼等がそこで見たのは……。
「はーい、それでは注目! 今日からアヴァロン王国の国民となる二百名の皆さん! 国王のユート・アーカディア・アヴァロンです!!」
国王陛下直々の出迎え!! 選考でも同席した、美人揃いのお妃様までいる!! とりあえず跪く!!
「おっと、まぁそう来るだろうけど、とりあえず速攻で言おう、楽にしたまえ諸君!!」
あれっ、跪いたままじゃなくて良いの!? いみんたちはこんらんしている!!
「まず、成人前の子供達。君達は、孤児院を設立したのでそこで暮らして貰います!! あっ、家族がいる子は別だよ!!」
孤児院は確かに各国にあるけれど、数十名の孤児だ。そんな多数の子供を受け入れる国って一体……!?
「農民経験のある皆さんは、王都外にある四つの開拓村に向かって貰います!! あ、とりあえず開拓優先だから、四グループで一つの居住区に住んで貰うね」
案内されたのは、一つの大きな建物!! 三十世帯が何不自由なく暮らせるレベルの部屋が一つの建物に纏まっている!!
召喚された勇者は言った。
「うわぁ……」
「これ、結構稼いでいる会社員が買えるマンションじゃん……」
ワンフロアで六世帯が入居出来る、五階建てのマンションである!! ちなみに、バリアフリー完備。
「あと、兵士希望者がいるって聞いてます。兵士希望者は、そっちにいるコートを着た狼獣人の前に行ってね。あぁ、その人達にも兵舎を用意したから、そこで暮らして貰うからね」
こちらもワンルームタイプ、それもちょっと高給取りが住む様なマンションである!! アヴァロン王は自重しないのだ!!
「とりあえず、今は六の月に入ったばかりだよねー。じゃあひとまず来年の六の月の終月までは、税金とか無いから! 一年は開拓や仕事探し、起業に充てて貰おうかね。仕事の斡旋とかを受けたい人は、王都の王城手前に専用の仕事斡旋事務所があるから、そこで日雇いとかしてみてね」
なんという派遣アルバイト!!
しかも、この事務所は起業や正規雇用をも募集している。なんというこんにちはお仕事!
移籍民達は、本当に何もされたり、したりしなくていいのかと不安になっている!
「さて、それではこの国に所属する君達に、必ず守って欲しい事があります」
……来た!! どんな無理難題を言われるのだろうか!?
「我が国では種族の違いによる差別を禁じる。我が国には貴族階級等は今現在は無く、誰もが平等である。我が国は同盟各国との協定に従い、侵略行為を決して行わないものとする。我が国の王族は民の為、民は同じ民の為に働き、互いを尊重し合う関係を築く事を心掛けるものとする。以上」
……無理でも何でもないけど、ある意味難題が来た。困惑する民衆に、アヴァロン王は笑顔でのたまった。
「それでは改めて、ようこそアヴァロン王国へ!!」
移籍民達は一斉に思った。
――この人、王様だよね?




