00-10 幕間/ある日のキリエ
どうも、キリエです。
男の子って工作とか、そういう感じの物作りが好きですよね。私の可愛い弟であるユーちゃんも例に漏れず、物作りが大好きみたいです。
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あれから三年の月日が流れました。
イングヴァルト王国から帰還した後、私達は孤島での日常に戻りました。もっとも、今までとは少し違う日常になりましたが。
——それは、ある日の事。
「ユート、昨日お前が作ってくれたトイレ凄いぞ!?」
「水が自動で流れるなんて……と言うか、これ魔道具!?」
ユーちゃんは我が家のトイレを改造して、水洗トイレにしてしまいました。しかも、ウォシュレット付きの上、換気もバッチリです。
——ある日の事。
「ユート、こいつぁ便利だな! 料理がしやすくて最高だ!」
「この設備も凄いわ! まさかこんな方法で水洗いが出来るなんて!」
我が家のキッチンは、ユーちゃんの手によってコンロと蛇口が取付けられました。更に、今ユーちゃんが作っているのはオーブンレンジのようです。
あとお母様、絶対に台所には立たないで下さい、お母様は食材を毒物に変える才能に溢れているんですから。
——ある日の事。
「おぉー、これは凄いな! 便利じゃないか!」
「とても明るいわね、ランプよりも使いやすいわ」
今日は、我が家のありとあらゆる部屋の天井に照明が設置されました。もちろん壁には点灯・消灯のスイッチがあります……調光スイッチまで作るなんて。
——ある日の事。
「すげぇなぁ、このシャワーってやつ!」
「うふふ、浴槽にもお湯を張る事が出来て、薪も節約できるわね」
浴室からそんな声が聞こえてきます。勿論シャワーや給湯の魔道具を設置したのは、ユーちゃんです……まさかジェットバス機能まで付けるとは、私も予想外でした。
ところで、未だにお父様とお母様は一緒にお風呂に入っています。新たな弟や妹ができる日は近いかもしれません。
とまぁ、こんな感じでユーちゃんは、思い付いた物をどんどん作っていったんです。
——それも、魔道具ではなく……遺失魔道具を。
「ここは孤島だからいいんですけど、島の外では無闇に作るのはダメですよ?」
「わかってるよ、姉さん。遺失魔道具が外で貴重な事も、魔石が高額で売られている事も理解しているから」
悪戯が成功した子供のような顔で笑うユーちゃん。うーん、ちょっと可愛い。
「もう、失うのも痛いのも嫌だからね。僕の力不足は文字通り痛感した。命は左目みたいに代わりがきかないから」
ちなみに、ユーちゃんの失われた左目……そこには、自作した義眼を嵌め込んでいます。
勿論それも遺失魔道具……それも、この世界の魔法技術レベルで考えたらとんでもない物だったりするんですが……今は割愛しましょう。
魔石はこの世界全体で見ても、非常に貴重な物です。
貴重な魔石は高額で取引され、その多くは各国の王侯貴族が買い求めます。その多くは武器や防具として高位の付与魔導師が付与を行い、高貴な身分の人に献上されるのが大半。
つまり、生活用品を魔石で製作する者はそうそういないのです。
しかし、ユーちゃんが製作しているのは遺失魔道具。だから、魔石を必要としないのです。
一般的には未だに製法が解明されていない、遺失魔道具。その製法を、ユーちゃんは見つけ出したという事です。
きっかけはイングヴァルト王国のお城で、アルファ君に見せて貰った遺失魔道具の剣。
製作者は“日本人”……そう、ユーちゃんが転生前に生きていた地球出身の日本人でした。それで興味を抱いたユーちゃんは解析を最後まで行い、遺失魔道具がどう製作されたのかを知る事が出来たのです。
その製法とは“文字”にあります。
この世界の物質には等級が存在します。その等級ごとに、付与できる“文字数”が違うのです。
等級は全部で十等級まであり、一等級は一文字、二等級は二文字。三等級は四文字、四等級は八文字、五等級は十六文字。等級が上がるごとに、二倍の文字数が書き込めるのです。
それに気付いたユーちゃんは、物の等級を確認しては文字を付与して色々と実験を行い、効果を確認して……。
「実験を重ねて、遺失魔道具の製法は確立できた。もう少し付与する魔法を吟味したら、本命に手を付けるよ」
ついに、遺失魔道具の製法という謎を解き明かしてしまったのです。
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そして、更に一年の月日が流れました。
「いよいよ、武器を作るんですね」
ユーちゃんは、素材を前に真剣な顔で立っています。用意した素材は魔物の牙だったり骨だったり、甲殻だったり。等級は魔物から採れる素材の方が、高いですからね。
「うん、一年後に備えないとね。この世界の旅って危険と隣り合わせだからね。理不尽や暴力に、抗う力が要る。それじゃ、あとの事はお願いね」
そう言って、ユーちゃんは作業に取り掛かりました。
ユーちゃんはお父様の工房を借りて、延々と作業を繰り返していました。それはもう、朝から晩までかけてずっとです。
その間、お父様もお母様も決して邪魔をしないように、声をかけたりする事はしません。
家の事はユーちゃんを除く三人で行い、ユーちゃんには私が食事を持って行きます。ちゃんと食べはしていました。
それに疲弊したら仮眠を取って、体力と魔力の回復をしていました。どうやらユーちゃんは、一度火が点くと突き進むタイプみたいですね。
それから三日三晩、製作に打ち込んで……ついにユーちゃんが工房から出て来ました。
「……出来たよ」
その両手に持っているのは……銃と剣が融合した武器。そう、二丁の黒い銃身と刀身を持つ、銃剣。
この世界にも銃は存在します。何せ、“過去に召喚された異世界人”が作り出して、普及させたのですから。
孤島で育ったユーちゃんは、それらの情報を知りませんでした。質問されたので、銃が存在する事は教えましたけどね。
ユーちゃんは四年の年月をかけて、付与魔法を駆使して自分のスタイルを見つけたのです。“戦う付与魔導師”としてのスタイルを。
「剣士としても、銃使いとしても戦えるのね」
お母様が、ユーちゃんの作り上げた銃剣を見て感嘆の息を漏らしています。
「ユート、そいつを使いこなす為には相手が要るだろ?」
不敵に笑うお父様に、ユーちゃんも同じような表情をします。
「そうだね、お願いできるかな、父さん」
二人は鍛錬を行う広場へと向かっていった……やっぱり男の子なんですね。
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そして更に一年、ユーちゃんは更に遺失魔道具の武器や日用品を生産し続け……ついに、旅立ちの日が来ました。
執筆スピードに合わせて、更新ペースが落ちます。
次のお話から、第1章が始まります。
投稿予定日は2月16日を予定しています。




