00-01 最期/転生
初の小説、初の投稿です。
稚拙な文章でツッコミ所も多いと思いますが、お手柔らかにお願いします。
どうも、上谷優人です。
俺はごくごく平凡な、二十歳の大学生。現在は講義を受けた後、アルバイトからの帰りです。誰に話してるんだろうね、俺は。
それは、いつもと変わらない一日のはずだった。
都会の片隅、人通りの無い路地で突然、自分の周りに現れた暗い闇の霧の様なモノに纏わりつかれる、その時までは。
俺は、気が付けば五感と思考以外の全てを失っていた。
何故、という言葉が頭に浮かぶが、口には出せない。まるで、出す権利を剥奪されているみたいに。
自分の身体なのに、自分の意志で動かせない。ただ、自分の身体を乗っ取った、得体の知れぬ何者かの行動を、見て、聞いて、嗅いで、味わって、感触を感じるだけ。
俺の身体を乗っ取った何かは、獲物を求めるかのように一人の女性の後をつけ始めた。おい、やめろ。俺は見ず知らずの女性を追い回すような、ストーカーじゃない。だが、口に出したくても出せない。
しかし、その思考に対する返答はあった。
『貴様の身体はもう私の物だ。これからあの女を甚振り、弄び、縊り殺す』
どうやら、俺の意識をこの何者かは感じる事が出来るらしい。
『そうだ、そして私の行動を感じられるように五感は生かしてやっている』
ふざけるな……誰がそんな事を頼んだ、俺の身体を返せ。
『断る、貴様はただ感じ、絶望するがいいわ』
そう言って、何者かは俺の身体を女性に接近させる。十メートルくらい距離があったにも拘らず、女性の背中はもう目の前に迫っていた。
――逃げろ!! 逃げてくれ!!
届くはずの無い声。しかし、叫ばずにはいられなかった。
「大丈夫、その必要はありませんから」
女性が振り返ると同時に、何かすっごい光を放った。次の瞬間、俺の意識は闇に包まれた。
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「本当に済まん、こちらの不手際だ」
目を覚ますと、何かいきなり謝罪された。それも、すっごい威厳のあるロマンスグレーのお爺さんが、俺に平身低頭で謝罪していた。何だろ、コレ。
「え、えーと? 状況が未だに飲み込めていないんだけど……とりあえず、頭を上げて下さい」
よく解らないけど、凄く良い人そうだし、ご年配の方は大事にしないといけないし。
「そうか……状況が解らぬのも、無理は無い。あの世界で生きていたお前には突飛な話になるだろうが、まずは説明をしても良いか?」
「んー……じゃあ、お願いします」
「驚くくらい落ち着いてますね……」
お爺さんの斜め後ろで俯いて正座していた女性が、そんな事を言った。
お爺さんの説明は、本人の言う通り突飛な物だった。
まず、目の前のお爺さんは“神様”だそうだ。しかも、世界を創造する最高位の神……それが目の前に居るお爺さんだった。
「じゃああなたが創世神様で、世界を創って、その世界にそれぞれ世界神様に管理させてる?」
世界神というのは、創世神様が創造した世界の管理を任された神で、位としては中級の神なのだそうな。
「そういう事だな。君の世界にあった学校で言えば、私は校長で世界神が担任、生徒がそれぞれの世界に生きる人間みたいなものだ」
学校で例えられると、イメージしやすいかもしれない。勿論、学級数もクラスの人数も、想像もしたくない数だろうが。
しかし……。
「それだけ多いと、どっかしらで学級崩壊しません?」
「うむ。君の身に降り掛かった不運も、その学級崩壊の影響だ」
また、創世神様は申し訳なさそうに表情を曇らせた。
「それに関しては、私からご説明させて頂きます」
そう言ったのは、斜め後ろのお姉さんだ。メチャクチャ綺麗な女性で、まるで天使みたいだなと思ったら。
「創世神様の使いとして本件を担当しました……あなたの世界で言うと、所謂天使です」
本当に天使だった、道理で綺麗なはずだ。
……
――邪神。それは、主神である創世神様の管理下に無い神。
人の欲望から生まれたり、神様達が地上に齎した神器を手にした、邪悪な者が神性を取り込み神に至ったりと、生まれは様々な要因によるものらしい。
とある世界で生まれた邪神は一つの世界を滅ぼし、別世界を支配しようと異世界へ渡った。そして、別世界の邪神に目を付けられ、身体を奪われたのが俺だったのだそうだ。
「……ええと、何で俺だったんですかね?」
「あの周辺に存在した人間の中で、最も魔法への親和性が高かったのがあなただったのです。本来は、あの周辺で最も権力がある人間に取り憑くと思っていたのですが……」
天使は、どうやらその人物の周辺を警戒していたそうだ。
しかし、邪神はその人物ではなく、魔法を使うのに適した身体を優先した。つまり、俺は邪神の器にされたらしい。
「……言われても、全然実感が沸かない……」
「あなたの世界では、魔法は眉唾ものですので致し方無いかと。それよりも……」
天使が、俺に対して深々と頭を下げた。
「私はあなたを危険に晒し、その身体を邪神に奪わせ、元の人間には戻せないと判断してこの手で命を奪いました。全て私の手落ちだと言うのに、あなたを救う事が出来ませんでした。謝罪させて下さい、申し訳ありませんでした」
生まれて初めて見る程に、綺麗な土下座である……無論、相手は俺。
「ちょっ、止めて!?」
俺は決して、綺麗な女性に土下座させて悦に入る、サディスティックな趣味の持ち主ではない。
死んでしまったのは残念だけど……過ぎた事は仕方ない。誰しも必ず、終わりを迎えるのだ。
俺はそれが早まっただけだし、その原因は邪神とかいうヤツなのだし。
「天使さんも頑張ったんでしょ、ならしょうがないじゃないですか! だから、土下座は止めて下さいよ! ってか、天使が土下座なんてよく知ってるな!?」
「あなたの国で、謝罪の意を示す最上級の態度がこれだったはずなのですが……」
「わかった、わかりました! 謝罪を受け入れますから、頭を上げて! ねっ!?」
まだ気が済んでいないのか、渋々と頭を上げる天使。
「良いと彼も言ってくれている、話を進めよ」
創世神様に促され、天使が口を開く。
「死した魂は天国か地獄に送られ、後に輪廻転生への道を歩むのですが、今回は私の過失であなたを死なせてしまいました。その為、あなたにはいくつかの選択肢が与えられるのです」
一つ、創世神様に新しい身体を創って貰い、そのまま別の世界に行く。この場合、特別な力を与えて貰い、そうそう死なないようにして貰える。
二つ、神様の庇護下で、この神界でのんびり暮らす。神の一柱というわけではないが、よほどの事が無い限り追い出さないと創世神様は言う。
三つ、普通に輪廻転生に進む。その時は、天国や地獄はスルーして良いのだと言う。
「さて、君はどの選択肢を選ぶ?」
「じゃあ、輪廻転生でお願いします」
特に間を置かず、さっくり返答する。
「……別世界じゃ無いのか? 普通に生まれ変わるだけでいいのか!?」
「……創世神様からの祝福とかも貰えますよ? レアスキルですよ!?」
「えっ、何でそんなに驚いてるんですか?」
話を聞く所によると、死んだ俺くらいの男性というのは“異世界でチート能力貰って俺TSUEEE”するのが好きなんだそうだ。
最近のトレンドは勇者になるより、勇者の目の前でチート能力を振り翳して、「お前の出番ねーから!!」なんだそうだ。
「いや、アホか」
「無論、実際にそれを叶えられる者なんぞ、そうそういないのだがな」
「いえ、世界神様の中には、そういう願望を持つ者の願いを叶えて、その行く末を眺めると言うのが最近流行っているそうです、暇潰しとして」
「そのアホのリストを後で提出しろ」
「アホな世界神がいるのか」
「いるようだな……嘆かわしい事に」
創世神様も苦労していそうだ……労って差し上げたい。
「俺はチート能力なんかより、自分で積み上げたものが形になるのがいいですね」
俺は、中学時代は部活で剣道部だった。剣道は自分を鍛え上げた結果が、勝負に表れるスポーツである。
鍛えた分だけ、頑張った分だけ、努力が成果として表れる。
「だから、また一から人生を頑張って、生を満喫出来ればそれで十分ですよ」
「……欲が無い奴だな」
「ですが、とても素晴らしい考え方だと思います」
「ではその世界で、最も心優しき夫婦の間に生まれるよう、手配するのはどうだ?」
「じゃあ……それでお願いします」
優しい両親に恵まれるだけで、十二分にありがたい。
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少年が輪廻転生の道を与えられる、その場へと案内された後。その去っていく背中を、創世神と天使は見送っていた。
「欲の無い、真っすぐな者であった。今時珍しいのではないか?」
「そうですね、近頃のあの年の頃の少年は、欲を出して色々強請る物なんですが」
そう言って、天使は立ち上がる。
「それでは、先程のリストをお持ちします」
「うむ、頼んだ」
幾らかの後、天使が調べ上げたリストを手に創世神の元を訪れる。
「大変お待たせ致しました」
「ご苦労。さて……」
リストをめくり、アホな所業を行う世界神と、その管理する世界を見ていた創世神だったが……。
「なんだと!?」
「どっ、どうされましたか!?」
一枚のリストに目を留めた創世神が、立ち上がる。
「先程の少年、彼が輪廻転生する世界が、リストに乗っているではないか!!」
「な、なんと!?」
「彼は……もう転生の門を潜ってしまったか!!」
創世神の差し出したリストに、天使も目を通す。
眉間に皺を寄せていた創世神だが、不意に口を開いた。
「……そう言えば、彼にはまだ祝福も何も与えておらぬ」
「え、あ、はい……彼がそれを良しとしませんでしたから」
「お前にも、今回の罰をまだ与えておらぬな」
「……如何様な罰も謹んで御受け致します、創世神様」
創世神は、目の前の天使を見る。
彼女は、邪神討伐を任せられるだけの信頼を置く、創世神の使いである。本来ならば、彼もああ言ってくれた事だし、罰を与えるつもりも無かったのだが。
大義名分には、丁度良かった。
「お前には、あの少年……上谷優人の守護天使を命ずる」
「!!」
「彼にはこの私、創世神の祝福を一つ授ける。守護の仕方はお前に任せる。良いな?」
創世神の言葉に表情に喜びを浮かべた天使だが、すぐに顔を引き締め、頭を垂れる。
「創世神様の御命令、謹んでお受け致します」
――こうして一人の少年と、一人の天使の物語の幕が上がった。
色々書いて、自分の中で書きたい話が積もっています。
だんだん、はっちゃける予定です。
2018/9/16 諸事情により、タイトルを『最期/新生』から『最期/転生』へ変更しました。