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「ほう、もうリラとアオに会ったのですか」
朝食を終えて部屋に戻ろうとした時、主が屋敷の入り口に立っているのが見えた。彼は手招きをして、僕と二人で外で話がしたいと言った。
屋敷を出てすぐ、森の中へと続く小道をするすると抜けると、急にひらけたと思えばそこには屋敷と同じほどの広さはありそうな庭園が広がっていた。
どうやら手入れの行き届いたたくさんの種類の花が混雑していたが、僕はどうも花に詳しくはないのでわからなかったが、おそらく主の好きなものしかおいてはいないのだろう。前に主もそういっていたから。
「なかなかお茶目でしょう。私はあの子達、よく気に入っていますよ」
「お茶目……」
僕は主の後ろをついて歩いていた。時々足を止めると、元気のない花を見つけては水を撒き、なにやら呟いたりする。僕にはよく分からなかった。
「全員に会ってみて、どうです?皆の印象は…」
どう、と言われても。まだたったほんのすこししか会って、話していないのに。特にこれといった感情は浮かんでこなかった。
「みなさん、いい人だと思いました。モモさんは最初に会った時から優しかったし、サクラちゃんもなかよくしてくれて。ハギくんも朝話せたし、リラさんとアオくんも楽しくて。でも、ツゲさんは………まだよくわからなくて」
主はふっと笑うなり、不思議そうな僕の目を見ながら言った。ツゲのことだろうか。
「彼は人見知りなんですよ。あまり初対面の人には心を開いたりしません。私も実際そうでした」
この庭園を囲んでいるのは一見すると草が形作ってできた塀のようだが、これには花が咲いているようだ。あまり見たことのないであろう、小さくて黄色い花だった。主はその花に指先を触れると、ゆっくりと指の腹でその小さなものを撫でていた。
「一番最初にここにきたのがツゲで……私と彼の二人、とても気まずくて、私もどうしようかと思いました。でも、何ヶ月か一緒にいると、段々と向こうからも話してきてくれるようになって…私はすごく、その時は嬉しかった」
懐かしむように空を見上げながら主は言った。そして僕の方をちらりと見ると、のんだか楽しむかなように口角をあげてみせた。
「私から言うのもなんですから、是非ツゲとも仲良くしてあげてください。話してみると、案外面白いんですよ、彼」
僕は頷いた。
ツゲの事を話す主は、どこかいつもより雰囲気が柔らかく感じた。黄色い花を愛でながら、まるでそれを通して何かに語りかけているようにも見えた。