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窓の外に、鳥が二羽楽しそうに踊っている。花を風が揺らし、まるでドレスを纏っているようにも見える。
小鳥たちの声で目が覚め僕は背伸びをした。昨日の予想は当たったのか今日はとても目覚めが良かった。
目が覚めてすぐに部屋を見回すと、やはり少し落ち着かない所もあった。環境の違いか、まだ緊張したりすることも多い。僕は小さくため息をついた。
ベッドから起き立ち上がると、扉の隙間から一枚の紙が顔をのぞかせているのが見えた。フラフラとした足取りでそれをとると、紙には朝食の時間が書いてあった。
「九時 食堂」
テーブルの上に置かれている置き時計に目をやる。
ぼやけててよく見えず、じりじりとにじり寄っていくと、どうやら九時は越しているようだった。僕は紙を机に置いて、バタバタと支度をした。
「あ、ユリさん、おはようございます」
急いで階段を駆け上がったせいか、息切れが激しかった。胸元を抑えながらボサボサになった髪の毛を整え、口を開く。
「ごめんなさい、起きたら九時で……」
と言いかけたところで、僕はハッとする。
目をこらしてよく見ると、どうやら食堂にはまだハギしか見えていないようだった。皆寝ているのだろうか、それとも時計がおかしかったか。
「大丈夫ですよ、みんなも多分寝坊です」
ハギはホカホカのブレッドとジャムを手に、僕に隣に座るよう勧めた。静かに椅子を引いて遠慮なく座らせてもらう。
「いつもこんなあつまりの悪さですよ。モモは起きているはずだけど、寝起きの悪いサクラをどうにかするので精一杯。ツゲも中々起きれなくて、早起き出来るのは僕と、ユリさんがまだ会えてない二人かな」
「そうなんですか…」
「とりあえず食べましょう、美味しいものは出来立てが一番です」
僕は手を合わせ、まずは紅茶をカップに注ぐ。砂糖をひとすくい入れかき混ぜ、両手を添えて口に運ぶ。
「主さんも、朝は弱いんですか」
「いえ。主は朝食だけは一人でとるんです。僕もなぜか知らないんですけど」
今度はスコーンを手にしながら、ゆったりとした口調で答えるハギ。ハギといると、どこか心が落ち着くような気持ちになる。
「ユリさんは寝起きは悪いんです?」
「そこまでじゃないけど。少しフラフラしたりする位で」
ハギの食べるのを見ていて、クリームと一緒に食べるスコーンはとても美味しそうだと思った。じっと見つめてしまっていたのか、笑いながらハギに勧められた。遠慮なく食べる。
「……あの、さっき言ってた、まだ会ってない二人って」
「あ、リラとアオの事ですか。あの二人は、ちょっと厄介かなあ。……ちょっとじゃないかも」
ハギはすこし面倒くさそうな顔をしながらスープを飲む。僕はスコーンを平らげ、口元を拭いていたところだった。
「二人は双子で、ここに来た時も二人一緒だったみたいです。僕はその二人の後にきたんですよ」
ハギは口を拭きながら今度はサラダに手をつけようとしていた。
「あ、そのサラダ私のだから食べないでよ〜」
「ていうか、そのスコーン僕にも取ってくれない?」
「アオは自分で取って。リラ、サラダは僕が先に取ろうとして………」
僕とハギは顔を見合わせた。
目の前に、見知らぬ二人組がまるで最初から座っていたかのようにゆうゆうと食事を取っていたからだ。
「どうしたの?そんな面白い顔して」
「どうしたのって………」
ハギは大きなため息をついた。僕はどうしたらいいかわからないので、とりあえず手を差し出している男の子の方にスコーンとジャムを一つ取ってあげた。
「ありがとうユリさん」
男の子はニコニコしながらスコーンを摘みたてのブルーベリージャムにつけて食べた。女の子の方もサラダを皿に
盛り付けて食べ始めている。
「主は寝起きがものすごく悪いから朝ごはんは一人で食べるんだよ。知らないの?」
「あと、私たち別に厄介じゃないよ。明るくて一緒にいると『楽しい』っていうんだよ。ハギにはまだ分からないかあ〜」
双子っていうのは多分、いやおそらく、確実にこの二人のことだろう。瓜二つのような、男女の差はあるもののほとんどそっくりな顔立ち。声も、見なければ多分どちらの声かもわからないかもしれない。目も髪も肌の色も同じの二人は美味しそうに朝ごはんを口に入れていた。
「ああ、そう。双子っていうのはこの二人で…男の方がアオ、女の方がリラです」
『よろしくね、ユリさん』
二人は声を揃えていった。綺麗に重なったその声は、朝を告げる小鳥のさえずりよりも美しいかもしれないハーモニーだった。