7,
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『ユリちゃん』
名前を呼ばれた。
僕は重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。
目を開けると、一気に光が差し込んできた。思わず目がくらむ。
『こんな所で寝たらダメじゃない』
声の主は僕の頭をさらりと撫でた。その手はそのまま僕の肩におかれ、僕は心地が良くて思わず目を閉じそうになる。
しかし閉じようとした所で、彼は僕の身体をゆらゆらと揺さぶってしまった。
『だから寝ちゃだめだって言ってるでしょう?』
彼はそう言って僕のおでこにチョップした。少し痛い。
僕は少ししてからゆっくりと起き上がり、彼の顔をみる。
しかし、何かモヤがかかってそれを伺うことが出来なかった。僕は思わず首を傾げる。
どうやら今まで、僕は彼の膝の上で眠っていたようだった。
彼はふっと笑ってみせる。
『……やっぱり、ずっと変わらないのね』
彼はそう言うと、僕の髪の毛を一束とると、すん、と鼻を近づけた。
『この匂いも、表情も、その細い腕も、白い肌もなにもかも全部、あの時と同じまま』
彼は僕の首元に手を持ってくると、そのままぐいと顔を近続けてきた。
つん、と鼻が触れる。彼はまた微笑んだ。
指が絡まる。そのままぎゅっと握られ、僕も握り返す。
彼の手は、誰かと違って温かかった。温もりがあった。
そして彼は口を開いた。
『いつでも会いに来て。アタシはずっと、ユリちゃんの近くにいるから。なにかあったら、すぐに呼んで』
彼はそう言って僕の前髪をかきあげ、おでこに唇を触れさせた。
懐かしい。
嬉しい。
寂しい。
そんな感情が心の中に渦巻いて、消えていく。
どんどんと記憶は薄れ、彼の顔も既に思い出せない。
もやがかかったまま、僕は目を閉じる。
温もりが消えない。
触れられた部分が、熱を持ったまま冷めてくれなかった。
僕は目から何かが流れていくのを感じた。
………
……