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花の一生  作者: mp
7と1
7/10

7,





……


…………



『ユリちゃん』


名前を呼ばれた。

僕は重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。


目を開けると、一気に光が差し込んできた。思わず目がくらむ。


『こんな所で寝たらダメじゃない』


声の主は僕の頭をさらりと撫でた。その手はそのまま僕の肩におかれ、僕は心地が良くて思わず目を閉じそうになる。

しかし閉じようとした所で、彼は僕の身体をゆらゆらと揺さぶってしまった。


『だから寝ちゃだめだって言ってるでしょう?』


彼はそう言って僕のおでこにチョップした。少し痛い。

僕は少ししてからゆっくりと起き上がり、彼の顔をみる。

しかし、何かモヤがかかってそれを伺うことが出来なかった。僕は思わず首を傾げる。


どうやら今まで、僕は彼の膝の上で眠っていたようだった。

彼はふっと笑ってみせる。


『……やっぱり、ずっと変わらないのね』


彼はそう言うと、僕の髪の毛を一束とると、すん、と鼻を近づけた。


『この匂いも、表情も、その細い腕も、白い肌もなにもかも全部、あの時と同じまま』


彼は僕の首元に手を持ってくると、そのままぐいと顔を近続けてきた。

つん、と鼻が触れる。彼はまた微笑んだ。

指が絡まる。そのままぎゅっと握られ、僕も握り返す。

彼の手は、誰かと違って温かかった。温もりがあった。

そして彼は口を開いた。


『いつでも会いに来て。アタシはずっと、ユリちゃんの近くにいるから。なにかあったら、すぐに呼んで』


彼はそう言って僕の前髪をかきあげ、おでこに唇を触れさせた。



懐かしい。

嬉しい。

寂しい。


そんな感情が心の中に渦巻いて、消えていく。


どんどんと記憶は薄れ、彼の顔も既に思い出せない。


もやがかかったまま、僕は目を閉じる。


温もりが消えない。

触れられた部分が、熱を持ったまま冷めてくれなかった。

僕は目から何かが流れていくのを感じた。



………


……


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