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道玄坂の家(2)

 俺達これを見て良かったんだろうか……色んな意味で。


「けど、俺のばあちゃんがどうかしたのか?」


「司クンの祖母君の旧名は(すみか)智世(ちせ)様だったよね?」


「そうだけど……何で知っているんだ?」


「陰陽五家は協力関係ではあるけど、深入りはしないというのは知っているよね? 理由としてはそもそも同じ一族ではない他家に技術を盗まれる訳にはいかないからというのも」


「えっ、知らないけど」


「え゛っ」


 てっきり人の家庭に口出ししない的な意味だと思ってた。


「……と、とにかく! そういう訳で。暗黙の了解があるんだ。それが他の四家との交際、婚姻の禁止。技術の流出を防ぐ為に、時代によっては魔導に関わる家に嫁いだり婿入りするのも禁止で、無理を通そうものなら消されるという事もあったらしい。……そして、栖智世様は我々粉白の血筋の者だ」


「そうだったの? 俺、ばあちゃんの事はじいちゃんの話でしか聞いたことないから全然知らなかったよ。大体惚気話だったし…………ん? 時代によっては消される事もあったんだよね……?」


「ああ。陰陽五家が必要の無い時代で、衰退していく一方であったという事もあったけど、それでも君の祖父母君は幸せになったんだ。それはとても素晴らしい事だと、私は思うよ」


「……ありがとう」


 自分の事ではないのに何だか照れ臭い。孫の前だと剽軽な爺さんではあったけど、何だかんだ出来る人だったのかもしれない。


「ちなみに粉白の祭具を無くしたのは智世様だ」


「何かゴメンナサイ!」


 えっ、何? 繁じいちゃんはあれだけど、ばあちゃんの方もあれだったの?! ちょっとしんみりした気分になってたのに吹っ飛んだんだけど。


 けど、そんな気分に浸るのはもう少し後でも良いだろうし、丁度良かったのかもしれない。アルバムを調べるのを再開する。……じいちゃんとばあちゃんの写真ばっかだけど。


「……これ調べる意味あったのかな」


 アルバムも後二頁。途中からはやはり二人だけの写真が殆どであった。あとは一度捲ってしまえばお仕舞いである。髪が黒く髭も蓄えていない若い頃の写真もあった。


 そうして最後の頁。この流れならば例え口付けしている写真が来ても驚きはしない。こちらが恥ずかしくなってしまうので、あまり見たくはないけれど。


「あれ?」


 だけど違った。そこには二枚だけだけど、繁じいちゃんと智世ばあちゃんだけでは無い写真が挟まれていた。


 一枚は赤子を抱いた黒い髪の女性の写真。病衣を着て、笑顔を浮かべている事から、抱かれている赤子が生まれた直後の写真だろう。


 また、繁じいちゃんと智世ばあちゃんの写真の状態と比べると比較的新しい事から恐らくこの写真は……。


「俺と母さんの写真……だと思う……」


 俺がそう言うと、玲は「ああ、通りで」と何やら納得した様子で笑みを浮かべる。


「何だよ」


「君のお母上は少女の様な見た目をしているだろう? だから君はお母さん似なんだと思ってね」


「それ褒めてる? っていうか、そんな若いか?」


 確かに若いと言えば若いかもしれないけど、十六年ほど昔なのだからそりゃ若いだろう。……少女に見えない事も無いのかもしれないけど、自分の母親なので正直よくわからない。


 まあ、それはそれだ。個人的にはもう一つの写真の方が興味を惹いた。


 それは仲の良さそうな六人の子供達が写っている写真だった。中には俺と來依菜も居る。けれど、残りの四人が誰なのかはわからなかった。


「あれ? これ私だ」


「え゛っ」


 玲が指差したのは長髪の凄く可愛い女の子……に見える子。いやいやそんな馬鹿なとは思ったけど、確かに顔立ちや髪色には今の玲の面影がある。


「可愛いだろう? これでも幼い頃は天使の様だった自信があるんだ」


「今も綺麗な顔はしているもんな」


 中身はあれだけど。


「……えっ……」


「何その反応」


 顔を赤くして絶句する玲。照れられても困るんだけど。というか自分で言い出した事なのに何だそれは。


「い、今はそれは関係無いな! うん! ち、ちなみにこの二人は遊火先輩と斎先輩だ!」


「だから大事な事をさらっと流すんじゃない」


 玲が指差した二人が遊火先輩と斎先輩だと言われてみると確かに先輩二人っぽい。元気の良さそうな遊火先輩に肩を組まれて慌てた様子の斎先輩は、玲よりも今の面影が感じられて分かりやすかった。


「そ、それよりも! 司クンの左腕にしがみ付いている可愛らしい女の子が司クンの妹の來依菜ちゃんかな!?」


「ああ、自慢の妹だ」


「君のそういう所、嫌いじゃないよ」


「何が……?」


 何を言っているのか理解出来ない俺に対して、肩を竦める玲。一体何だと言うんだ。


「なあ、玲、この俺の隣の茶髪の子は誰だ?」


 とは言え、そこは気にしたってしょうがない。


 そこで俺の知らない残り一人、俺の右隣で照れながらも笑顔を浮かべている、目が隠れるほど長い茶髪の可愛らしい……恐らく女の子を指差してみるけれど、どうやら玲も知らないらしい。


「玲の関係者とかじゃないのか?」


「いや、それこそ司クンの幼馴染かと思ったんだけど違うのかい?」


「…………そもそも俺達って会った事あったんだな……」


「……確かにそうだね。一応、当時私達は幼子なわけだし、繁様や私達の父上等を通して遊んでいても不思議では無いかな。そうなると、この気弱そうな可愛らしい子は私達に巻き込まれた近所の子だとも考えられる」


「巻き込むって……巻き込みそうだけどさ。けど、そうなると俺達薄情だよな、覚えていないわけだし」


「私達自身がお互いに忘れてしまう程、頻繁には会っては無かったのだろうし、それも仕方ないという事にしておこう。残念だけど、あちらも忘れているかもしれないしね。もし会えて、忘れていなければ一緒に謝ろうじゃないか」


「……それもそうだな。それに、先輩達にも覚えているか聞いてみるのも良いだろうし」


 アルバムは以上だ。隠し部屋も探してみたけど、特にこれと言った発見は無かった。勿論これ以上の隠し部屋は無い。


「やっと捜索終わった……。思った以上に疲れるな、これ。…………けど、現実問題どうしようか。鞘は本物っぽいのが一つあったけど、他は無いし。そもそも刀は模造刀でも高いだろうし、そんな重要な物が安い物だと簡単に見抜かれそうじゃないか?」


「そうだね。……儀式の為とは言え手痛い出費になるだろう。出来れば私もサポートしたいが、当主ではなく次期当主候補、そこまでの権限は持ってはいない。――――だが、手が無いわけではない」


 玲はそう言い悪戯な笑みを浮かべる。


「本来君は陰陽の家と関わる筈では無かった。そうだろう、司クン?」


「ああ」


「ならば、責任を取って貰う他はないだろう」


「……成る程、そう言う事か。名案だ」

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