足跡(9)
そう言うと玲は「成る程……」と納得したような口振りで何度か頷く。……こんな言葉、まるで赤色の目をした茶髪オールバックのあいつが言いそうな言葉だ。俺があの変態が口にしそうな事を言うなんて……正直、ちょっとあれだけど。でも、同時に彼方の世界での事を思い出した。ほんの少し前の事なのに、もう大分前の様に感じてしまうのは世界を跨ぐ必要があるからなのだろうか。
それでもあの世界で過ごした時間は、色々と辛いこともあったし、今でも割り切る事が出来ない事もあったけど、かけがえのない大切な日々だ。
だから、玲に言った事は俺が実際に体験した事だ。……まあ、あいつみたいにさらっと言ってのけれたらもっと格好がつくんだけど、如何せん俺はこういうのに慣れていなくて少し照れが入ってしまうのだけれども。
面映ゆくて、少し茶化そうと思ったものの、幸いだろうか、玲は何やら思案顔をしていた。
「さっぱりわからん」
そして、真面目な顔でそう口にする。
「オイコラ」
これでもちょっと良い感じの事は言ったと我ながら思ったんだぞ。何だこれ、一人で勝手に恥ずかしがったりして、尚更恥ずかしいじゃないか。
玲は「いや、いや、違うんだ」と直ぐに弁解を始めた。
「これでも君の言葉自体は理解しているつもりなんだ。要するに、私と司クンはもう友達、って話と似たような事なのだろう? しかし私はこうも考えてしまうんだ、それならばそこに至るにはどうすれば良いものかと、どうしてそこに至ったのかという、具体的な事がわからなくて困ってしまっていたんだよ」
「あー……確かにそうだよなぁ。いつの間にか友達だって言っても、そもそもどうすれは友達が出来るかってのは解決してないよな…………そうだ、俺の幼馴染みを紹介するよ。友達の多いやつだからそいつと仲良くなれれば、玲も友達の作り方とか仲良くなる方法とかもわかってくるんじゃないか?」
「おお、ありがとう司クン! ……でも、私と仲良くなれるだろうか……」
「なれるよ、きっと。そいつバカだけど凄く良いやつだからさ、バカだけど」
何と無くだけど、俺が玲と話しやすいと感じていて、現にこうして気軽に話が出来ている理由がわかった気がする。色々とぶっ飛んでる所とか、でも悪いことが出来ない所とか、そういった所が少しつむじと似ているのだ。
きっと、玲はつむじと仲良くなれる。……二人が揃うとそれはそれで何をやらかすのか不安を感じない訳ではないけど、もしやらかしたとしても最後は笑顔で終われるだろう。
「けど、その前に二つ約束だ」
「約束……? 何だか友達らしくてワクワクするね!」
「まずは一つ、目前の事だ。ちゃんとクラスでも自力で友達を作れよ?」
「それは勿論、多いにそのつもりだ!」
「それともう一つ。俺と玲はクラスが同じになった友達だ、俺の幼馴染みや近しい人と仲良くなったりしても、五家関係の話はしないで欲しい。頼む……」
「……そうだったね。君は本来ならこちら側で暮らす事なんて無い筈の人間だったね。偶々五家の事情に巻き込まれただけで、君の周りの人々は君以上にこっちと接点なんてない筈の人々だ。わかった、約束する。私は君の友人として君の大切な人達を巻き込まないし、出来る限り貰い火を払おう」
俺の頼みに玲は快く応えてくれた。本来は誰かに頼むような事では無いかもしれない。本人達に伝えてしまえば終わる話かもしれない。……それでもやっぱり本来関係の無い人達を巻き込むのは嫌だった。俺のエゴだとしても。
「ありがとう、助かるよ」
「何、元素は違えど同じ陰の気を司る家の誼だ。それに私個人としては“クラスが同じになった友達”っていうのは、それはそれで嬉しいんだ。何故なら私達の出会いは、司クンは特にだが、必ずしも良い出会い方だったというわけではないだろう? それでも私を友として扱ってくれる、だから私としてはそれはそれで嬉しくも思うよ」
玲は微笑み、そして「少し長話をしてしまったね、もうそろそろ先生も来るだろうし、君を立ったままにするのも申し訳無い、話はまた後にしよう」と言い、俺の席を指差す。
「何で玲が俺の席を確認済みなんだ」
「ほら、友達の席は覚えていた方が良いだろう? やってみたいんだ、手紙交換とか」
「女子か」
けれど、今は携帯電話なんて便利な物もあるし、そんな世の中だからこそ玲はベタな事をやってみたいのかもしれない。
……そういえば、あっちの世界は生活水準や食文化は似たようなものだったけど、携帯電話は無かったな。向こうにもそういうのがあったら、皆と今でも気軽に話せたのだろうか…………いやでもそもそも世界が違うし使う技術も違うから、其々の世界に居る間は連絡は取れないか。
けど、落ち着いて暫くすれば、その内あっちの世界との行き来も楽になったり連絡も可能になったりもするだろうから、取り敢えず今は目の前の事を大事にしないと。
俺もちゃんと友達を作らないと玲と……ついでにつむじに『えぇぇ? ぷぷっ、司くぅん友達居ないのォ?』と笑われるだろうし、玲の言う通り折角の学園生活なのだから楽しまないと損だろう。
自分の席について、そんな事を考えていると、ふと前が空席な事に気付いた。もう少しすればチャイムも鳴るのに、初日から休みだろうか。運良く気楽な一番後ろの席だったのは良いけれど、ある意味これは運が悪いのだろうか。
しかし、そう思った矢先、一人の男子生徒が俺の前の席に登校してきた。その生徒の髪は染めているらしく、少し固そうな髪質の金髪で、両耳にはピアスが幾つも付いている。
目付きは鋭くは無いものの、纏う雰囲気は少し刺々しく、座る際に粗野な物音を立てたりはしなかったが、フレンドリーな印象は無い。
怖っ。これはあれか、俗に言うヤンキーと呼ばれる様な人なのか。……い、いやいや、人は見掛けに依らないとも言うし……。
「あのさ」
「あ゛あ゛ん?」
「ごめん、何でもない」
怖っ! 俺まだ肩を軽く叩いて呼び掛けただけなのに何で威嚇されてんの?! 何でそんなに不機嫌そうなの?! 一応にこやかにフレンドリーに話し掛けたつもりなんだけど。
「はあ? 何も無かったら何でもないなんざ言うわけねぇだろ」
「悪い悪い、不機嫌な時に話し掛けちゃったからみたいだったからさ」
「……テメェもそういう奴か。やめとけ、もう俺に話し掛けんな」
「えっ、ちょ」
ピアスの男子生徒はそう言うと、こちらに向けていた体を黒板の方へと向けて頬杖をつきながら
、睨むようにも見える表情でつまらなそうに携帯電話の画面を眺めだした。
意外と会話が出来るかと思いきや、直ぐに打ち切られてしまった。『そういう奴』ってどういう奴だよ……。
しかし、それについて聞いたりと、粘り強く話し掛けてもみようと思ったが、そうはいかなかった。丁度というタイミングにチャイムが鳴り、直ぐに担任の教師が入ってきたからだ。
そして、自分の名前は席を探す時やクラス分けの時に確認したけど、教師の名前とかは確認していないな――――なんて呑気な事も考えられなかった。
「初めまして担任のショウシだ」




