第4話 隣の席は…
三月の末になり、新入生オリエンテーションの日がやってきた。頼輝と瑛一は、待ち合わせをして学校に向かった。合格発表からこれまで、課題に追われてほとんど家から出ることのなかった瑛一にとっては、久々の外出だった。まだ田植えが始まっていない茶色い田んぼを眺める通学路だったが、家の中にこもっているよりもはるかに気分転換になる。入学したらほぼ毎日通うことになるであろう通学路は、長い道のりの中で、気持ちよく風を切る二人をだんだんと受け入れていくのであった。
学校に着くと、自転車を隣同士に止めた。まだクラス分けが決まっていないので、どこでも止められるからだ。上級生はまだ春休みのため、周りはほとんど新入生ばかりだ。初々しさと緊張感のある顔、そして少し大きく、まだ不格好に見える制服。中学の同級生同士で来ているのか、周りはほとんどが何人かでまとまって行動している。
自分もあんな感じなのかな。
外からしか見えない自分の姿を気にしつつ、頼輝と、人の流れに沿って昇降口に向かう。
合格発表の日に頼輝と会った中庭を抜けると、一方をプール、三方を校舎に囲まれた広場
のような場所に出る。中庭を横切る道を抜けて、渡り廊下の方に回り込むと、昇降口が目に入ってくる。
昇降口のガラス戸には白い紙が貼られており、そこに新入生が群がっている。
仮クラスの掲示だ。新入生オリエンテーションでは仮クラスで課題の回収などが行われるため、毎年昇降口に張り出されるのだ。
人ごみをかきわけ、紙の前に行き、自分の名前を探す。
「えーっと…?どこだ…あった」
一年五組の所に名前を見つける。出席番号は二番。
「ヨッシーは?」
「二組だった」
「じゃあ、別だな」
一年生は、一組から三組までが二階、四組から七組までが一階にある。そのため、瑛一と頼輝は必然的に階も別になる。
「まあほら、仮クラスだから、正式なやつは一緒になるかもな」
「だといいね。それじゃ、下駄箱こっちみたいだから」
「おうよ」
昇降口の前で別れ、それぞれが自分のクラスに向かう。
周りとうまくやっていけるか、瑛一は不安で仕方なかった。小学校から中学校に上がった時は、二つの小学校から同じ中学校に上がるだけであったため、一人になることなどなかったからだ。それでも行くしかない。
教室のドアを開けると、すでに半分以上の生徒がいる。仲の良いグループは既に打ち解けていて、もはや騒ぐに近い状態だった。喧騒が苦手な瑛一にとっては、なかなかの苦痛だ。
教室の前の黒板を見ると、席が指定してある。もちろん窓側の前から二番目に名前があった。そそくさと教室を横切り、自分の席に着くいてあたりを見渡すと、自分の周りの五つの席のうち、隣だけが荷物が置いていなかった。
やはり隣の席は気になって仕方ない。
誰が来るんだろう…。話せればいいけど。
喧騒から気をそらすために窓の外を眺めながら待っていると、隣に人の気配を感じた。開いていた席を見やると、控えめそうな、短髪で小柄な男子がそばに立っていた。瑛一の隣の席に置かれた荷物に手がかけられていることから、隣の席の生徒であることが分かる。いきなり瑛一に見られたせいで、その男子は完全に固まってしまっている。
と、とりあえずあいさつしないと…。
「あっ、東瑛一です。…よろしく」
瑛一も緊張でこわばっているものの、あいさつ作戦は成功だった。その一言で彼の緊張がそれなりに解けたらしい。
「あ、加藤慎太郎です。よろしくお願いします…」
お互いに緊張は解け、かろうじて慎太郎は席に着いたものの、このまま話し続けたほうがいいのかもう話さないでいいのか結局わからず、騒がしい教室の中で一か所だけ異質な空間を作り上げてしまっている。
ど、どうすれば…。
そんな異質な空間を打破できる存在が一つだけあった。
「よしじゃあ席に着けー」
先生、ナイス!
なんとも絶妙なタイミングで先生が教室に入ってきたのだ。勢いよく入ってきた男の先生は、教卓の前に立ち、教室を見渡す。先生の勢いに気圧されたのか、騒がしかった教室がだんだんと静かになる。
先生のおかげで助かった二人は、ようやく教室内の空気に溶け込むことができた。
一週間ぶりの投稿です!(というかこれからこのペースで行く予定です(笑)
今回も読んでいただきありがとうございます。
また次回(一週間後)もお楽しみに!