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譜めくりの恋  作者: ゆぶ
73/95

第73小節



 今日はクレアの演奏の番。


 クレアの1回目。


 クレアの衣装は淡いブルーのブラウス。

 

 譜めくりはわたし。


 クレアのピアノは研ぎ澄まされていた。


 昨夜、先生を呼んで猛練習したのだろうか。


 そのクレアの演奏がさらにわたしに火をつけた。


 クレアは風と空のシリーズから2曲、わたしとかぶらない選曲をした。


 よく考えられた選曲だった。


 その2曲が揃うことで、何かひとつのテーマが毅然とあらわれてくる、そんな組み合わせに感じた。


 たとえば、ブルーとホワイトのような。


 わたしがイメージしたのは、空から羽をひろげて舞い降りてくる天使の姿だった。


 のちにこの演奏会でのわたしとクレアのピアノを聴いていた(おそらく理事長から招待されていた)ある音楽評論家の記事を読んだ。


 そこにはこう書かれてあった。





【わたしはふたりの演奏をふたりがまだ幼い頃より聴いていたが、正直その違いがどこにあるのかわからなかった。実際、ふたりの演奏はよく似ている。正確無比でスケールの大きな演奏がそうだ。ふたりはともに天才少女と呼ばれ、ビジュアル的にも申し分なく、そして美しく順調に育ちいまに至っているところなどもそっくりだ。それもそのはず、ふたりは中学からは同じ学園のクラスメイトであり、それは一貫教育のその学園の大学生になったいまでも変わらない。しかも聞けばふたりは親友という間柄らしい。そばにいて良い部分をお互いに吸収しあってきたのだろう。だから似るのはあたりまえなのかもしれない。しかし、違いはあった。それがこの夏、この海辺の白いホテルで行われた演奏会を聴いてわたしにはわかった。それは、牧野美風はメルヘンチックで、柊クレアはノスタルジックだということだ。もっとかみ砕いて言えば、夢見がちなあこがれと、哀愁をおびた悲しみとでも言えようか。どうりでどちらも琴線にふれるのはそういうことだったのかとハタと理解したしだいだ。最近、柊クレアにより成長が感じられるのは、その悲しみを彼女が何かに変え、その演奏に、より確かな重みが加わったからではないだろうか。わたしにはそんなふうに感じられた、潮風がささやいているような夏の夕べの、ふたりの素敵なピアノ演奏会だった……】






 ビジュアル的にも申し分なく、ってところにわたしはマーカーで線を引いた。


 すぐにそこに目がいくように。



 

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