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第64小節
夜10時が近づいていた。
忘れることにしたはずなのに、そればかりが頭に浮かんでくる。
部屋着のままでわたしは1時間まえからソワソワしていた。
気になって窓から桟橋のほうを眺めたり。
いやいやあれは夢だからと寝ようとしてみたり。
それを何度もくりかえしていた。
桟橋には外灯がひとつ真ん中あたりにあるだけだった。
その光がおよぶ範囲で人影はなかった。
台風が、接近しているようだった。
けれど嵐のまえの静けさといった感じで、波はおだやかにメトロノームのように正確に浜辺へと打ち寄せていた。
月がいつもよりやたらにおおきく見える。
誰もいない。
誰もいない。
何かが起きる不吉さがよぎるたび、わたしはそうやって呪文のようにひとつずつうち消しては、ベッドに横になってそのまま寝ようとしていた。
でもやまないソワソワは、しだいにドキドキに変わっていった。
いなければ、いないでいい。
それで安心して眠れるのだから。
わたしはスマホの時刻を見た。
10時、5分まえだった。
わたしは立ち上がって、また窓に向かった。
桟橋にちらっと、動く人影が見えた。
わたしは急いでワンピースに着替えた。




