第62小節
帰りのバスに乗ってまたいちばん後ろの席に座ったら、乗客は行きのときとまったく一緒だった。
老夫婦らしいおふたりと20代なかばくらいの女性。
それとわたし。
ほかには乗客はいなかった。
見た目がそう見えるというのではなく、まったくの同一人物だった。
こんな偶然があるのかなとふしぎに思いながら、わたしは海に近づいてゆくバスの車窓を眺めていた。
途中、これから水泳の練習に向かうのであろう自転車に乗ったジャージ姿の少年とすれ違った。
少年が左に曲がるのを追いかけて見てると、その彼方には学校のような建物が小さく見えた。
すると20代なかばくらいの女性が信号待ちのあいだにわたしのとなりに席を移ってきた。
「暑いですね」
と女性はいった。
「えっ? ああ、そうでね」
「わたしのことおぼえていますか?」
そういった女性の顔をわたしはまじまじと見た。
何でか、まゆ毛に目が行った。
左右のまゆがしらが渦を巻いたように生えていた。
薄いので間近で見ないと気づかない。
その、つむじが何とも愛らしかった。
「ごめんなさい。どちらでお会いしましたっけ」
とわたしはいった。
「無理もないです。この世界ではちゃんとからだがありますから」
「ちょっと意味がよくわからないんですけど」
女性は可笑しいらしくてクスクスと笑った。
「何の冗談ですか?」
とわたしはいった。
「今夜10時、あの桟橋にきてくれたらわかるわ」
「何がですか?」
「あなたがいまいちばん知りたいこと」
そういって彼女はわたしの肩に手を置いた。
その瞬間、わたしはハッと目覚めた。
どうやらうたた寝していたようだった。
まえを見ると、老夫婦らしいおふたりと20代なかばくらいの女性は席を変わらずにそのまま乗車していた。
いまの夢は何だったんだろうと、しばらくわたしはポカンとしていた。
バスがおおきくカーブして森のなかに入っていった。




