表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
譜めくりの恋  作者: ゆぶ
5/95

第5小節



 担当の女性スタッフに案内されて部屋に入った。


 2階の廊下の突きあたりにあるツインの部屋だった。


 ホテルの向こうに見えた桟橋側の部屋。

 

 担当の女性スタッフは島田さん。


 島田さんは用事があるときや何か聞きたいことなどがあったら遠慮なくフロントに電話して下さいと、カーテンをあけながらいった。


 ある程度の説明を終えた島田さんが去ると、まずわたしは窓からの景色を眺めた。


 窓からの景色の左はんぶんは木立ちがあって、それによって桟橋は隠れて見えなかった。


 右はんぶんはどこまでもつづく浜辺と真っ青な海が見渡せた。


 それからわたしは部屋のすみに置かれたふたつの大きな旅行ケースをあけて、じぶんの部屋らしくするために時間をかけて私物を好みの場所へと配置していった。


 あれはこっちかな。


 やっぱりこれはあっちだな。


 ひとつ迷いはじめたらほかのものも気になってくる。


 きりがないのでひとまずはといったところの配置をし終わると、のどが乾いたので冷蔵庫をあけてみた。

 

 そこにあったのはホテルによく置いてあるワンボックスの冷蔵庫ではなく、ひとり暮らしサイズの真っ赤な冷蔵庫だった。


 なかにはペットボトルとパック入りの飲み物がびっしりと入れてあった。 


 ミネラルウォーターにお茶にさまざな果汁飲料。


 わたしは迷ったあげく、最終的にはどれにしようかなと指で選んで、それでパック入りのオレンジジュースを手に取った。


 立ったままで、付いてたストローをさしてひとくち飲んで、すぐさまもうひとくち飲んで、それからパックに書かれてある販売者などをまじまじと見た。


 そうしてしまうくらい美味しかった。


 そこには、はじめて見るメーカー名が印字されていた。


 そこの住所はこのホテルのものと途中までおなじだった。


 一応、ホテルの住所は万が一のときのためおぼえている。


 ご当地飲料ってやつかな?


 それとも地域限定ってやつ?


 それにしたってオレンジジュースってこんなに深い味わいがあったっけ。


 まるで宇宙じゃん。


 表現があれで伝わらないかもだけど、とにかくそれはオレンジジュースの本来の味をしらしめる美味しさだった。


 わたしは飲み終わったらパックをきれいにひろげて、洗って、拭いて、そしてたたんで、それを記念に持って帰ろうとシミュレーションした。


 わたしは窓をあけてからベッドに腰掛けた。


 なまぬるい風が入ってきた。


 それとひきかえに、波音も。


 わたしはBGMのように聴こえてくる波音に耳を傾けながら、のこりのオレンジジュースをじっくりと味わって飲んだ。


 それにしたって。


 妄想のなかには登場しなかったピアニスト。


 野崎京介。


 まさか、あの野崎京介だなんて。


 わたしはよろこびのあまり肩をすぼめてぐふふふふふと笑った。



 


 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ