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譜めくりの恋  作者: ゆぶ
48/95

第48小節



 演奏会がはじまる30分まえにわたしはホールへと向かった。


 それくらいがちょうどよくて体調的にもベストなことがわかった。


 ホールのロビーにはすでにスタッフさんたちがいた。


 お客さんも何人かソファーで談笑していた。


 扉がひらかれたままのホールのなかからかすかにピアノの音色が聴こえてきていたので、そばにいたスタッフさんに許可を得てなかに入った。


 衣装に着替えたクレアがピアノを弾いていた。


 ホール内の壁際にふたり、男性と女性のスタッフさんが立っていた。


 その人たちに軽くお辞儀をして、わたしはクレアのそばに行った。


 演奏している曲はわたしの知らない曲だった。


 クレアがわたしに気づいた。


「何してるの?」

 とわたしは聞いた。

「見ればわかるでしょ?」

 と彼女は演奏をやめてピアノに向かったままいった。

「ピアノを弾いてるのはわかるけど、なぜピアノを弾いているのかを聞いたのよ」 

「だからプレコンサートよ」

「プレコンサート?」

「そう」

「わたしが提案したら、彼がそれはいいねって」

「それはいいねっていったの?」

「いった」

「ならいいけど」

「べつにあなたの許可はいらないわよ」

「そうだけど」

「あなたも弾いたら? どう? 交代で弾くのは」

「わたしはいいかな」

「何で」

「何を弾けばいいかわかんない」

「何でもいいって彼が」

「ふ~ん。で何弾いてるの?」

 とわたしは譜面をのぞきこんだ。

「わたしのオリジナル曲よ」

「作曲したの?」

「ううん。作曲してもらったの」

「誰に?」

「彼に」

「ふへっ」

「何。ふへって。あ、これね、クレアっていう曲よ」

「うひょ」

「今日はまた感嘆詞がゆたかね」

「カンタンシ?」 

「長くなりそうだからこんど説明してあげる」

「そっ」

「どうやったら作ってもらえるの?」

「作ってくれるわよ、いえば」

「そんなお金ないもの」

「お金払って作ってもらった曲じゃないわよ」

「そうなんだ」

「16歳の誕生日に彼が贈ってくれたのよ。そのときも彼には会えなかったけど。まあ、ずっと会えなかったんだけどね」

「この演奏会は彼に会えるチャンスでもあったのね」

「そうね」

「でもいいなあ、彼に作ってもらえるなんて」

「だからいえばあなたなら作ってくれるって」

「無理よ」

「んじゃ、わたしからもひとこといおうか」

「どうしよっかな~」

「えっらそうに。どっちよ」

「じゃあさ、いま思ったけど、やっぱりほかの人の曲じゃだめなんじゃないの? 何でもいいってさっきいったけど」

「彼の演奏会なんだからほかの人の曲じゃだめでしょ」

「そうゆう意味か。まあそれはそうよね」

「そりゃそうよ。とりあえず彼の曲で好きな曲弾けばいいじゃない?」

「にゃるほどね」

「んで、着替えなくていいの?」

「あっ!」


 クレアのピアノが流れはじめるなか、わたしははや足で控え室に向かった。

 

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