第48小節
演奏会がはじまる30分まえにわたしはホールへと向かった。
それくらいがちょうどよくて体調的にもベストなことがわかった。
ホールのロビーにはすでにスタッフさんたちがいた。
お客さんも何人かソファーで談笑していた。
扉がひらかれたままのホールのなかからかすかにピアノの音色が聴こえてきていたので、そばにいたスタッフさんに許可を得てなかに入った。
衣装に着替えたクレアがピアノを弾いていた。
ホール内の壁際にふたり、男性と女性のスタッフさんが立っていた。
その人たちに軽くお辞儀をして、わたしはクレアのそばに行った。
演奏している曲はわたしの知らない曲だった。
クレアがわたしに気づいた。
「何してるの?」
とわたしは聞いた。
「見ればわかるでしょ?」
と彼女は演奏をやめてピアノに向かったままいった。
「ピアノを弾いてるのはわかるけど、なぜピアノを弾いているのかを聞いたのよ」
「だからプレコンサートよ」
「プレコンサート?」
「そう」
「わたしが提案したら、彼がそれはいいねって」
「それはいいねっていったの?」
「いった」
「ならいいけど」
「べつにあなたの許可はいらないわよ」
「そうだけど」
「あなたも弾いたら? どう? 交代で弾くのは」
「わたしはいいかな」
「何で」
「何を弾けばいいかわかんない」
「何でもいいって彼が」
「ふ~ん。で何弾いてるの?」
とわたしは譜面をのぞきこんだ。
「わたしのオリジナル曲よ」
「作曲したの?」
「ううん。作曲してもらったの」
「誰に?」
「彼に」
「ふへっ」
「何。ふへって。あ、これね、クレアっていう曲よ」
「うひょ」
「今日はまた感嘆詞がゆたかね」
「カンタンシ?」
「長くなりそうだからこんど説明してあげる」
「そっ」
「どうやったら作ってもらえるの?」
「作ってくれるわよ、いえば」
「そんなお金ないもの」
「お金払って作ってもらった曲じゃないわよ」
「そうなんだ」
「16歳の誕生日に彼が贈ってくれたのよ。そのときも彼には会えなかったけど。まあ、ずっと会えなかったんだけどね」
「この演奏会は彼に会えるチャンスでもあったのね」
「そうね」
「でもいいなあ、彼に作ってもらえるなんて」
「だからいえばあなたなら作ってくれるって」
「無理よ」
「んじゃ、わたしからもひとこといおうか」
「どうしよっかな~」
「えっらそうに。どっちよ」
「じゃあさ、いま思ったけど、やっぱりほかの人の曲じゃだめなんじゃないの? 何でもいいってさっきいったけど」
「彼の演奏会なんだからほかの人の曲じゃだめでしょ」
「そうゆう意味か。まあそれはそうよね」
「そりゃそうよ。とりあえず彼の曲で好きな曲弾けばいいじゃない?」
「にゃるほどね」
「んで、着替えなくていいの?」
「あっ!」
クレアのピアノが流れはじめるなか、わたしははや足で控え室に向かった。




