第47小節
朝食が終わったら話があるのでフロントに声をかけてほしいと支配人にいわれたのでそうした。
支配人はこちらへとといって、1階のホールへの通路とは反対側の厨房やクリーニング室やスタッフルームなどがある通路のほうへわたしを案内した。
支配人は鍵を取り出して、ある部屋のドアをあけた。
うながされ、わたしは部屋に入った。
そこはまぎれもなくカラオケルームだった。
わたしのいるツインルームの倍ほどの広さの部屋に真新しいカラオケ機種が設置され、ソファーもテーブルも新品のものが置かれてあった。
「防音もしっかりされてますので、心置きなく」
と支配人はいった。
「もうできたんですか?」
「はい」
「ひと部屋使ってしまってご迷惑おかけしたんじゃないですか?」
「いえ、もともとここは休憩室みたいなところでしたから問題ありません」
「えっ。みなさんの休憩室なくなったんじゃないですか?」
「ご心配なく。休憩室はここよりいい部屋になりましたから」
「それを聞いて安心しました」
「お優しいんですね」
「いえいえ。えっ。でも、すごいお金かかってるように見えますけど」
「サービスです。会長からの依頼となれば、これくらいはメーカーさんは初期投資としてサービスでやってくれますから」
「へえ~」
「グループ全体のホテルや施設で使われるようになれば莫大な利益になりますからね。それに会長はサービスに対してはかならず何倍にもして返してくれる方ですからみなさんよろこんでやってくれるんですよ」
「そうなんですね」
「これがルームキーです」
と支配人は鍵を渡してくれた。
「どうも」
といって受け取ったわたしは、鍵につながれた細長く四角いアクリル製のキーホルダーの部分に107と数字が書かれているのに気づいた。
「107(いちまるなな)」
とわたしはいった。
「ああ。カラオケルームとはいわずにその部屋番号でいって下さい。まあいわゆるホテル内の隠語です。この部屋はあなた専用でなるべく秘密にしておいてもらいたいので」
「わかりました。いちまるななでいいんですか?」
「いいですよ。いちまるななで」
「じゃあいちまるきゅう的な感じで」
「何ですか?」
「いえ。何でもないです」
「そうですか。それでは。ああ。一応、掃除は入りますから、ゴミなんかは置いといていいですからね」
「ありがとうございます」
「さっそく歌ってみますか?」
「さっそく歌ってみてもいいですか?」
「いいですよ」
「じゃあ、おことばにあまえて」
「どうぞ」
支配人はそういうと部屋をでてドアを閉めた。
わたしはとりあえずソファーに座って部屋を眺めた。
うれしさがこみあげてきてわたしはしばらく笑みが消えなかった。
このあと演奏会があるので今日は3曲くらいにとどめて、あとはお楽しみとしてとっておくことにした。
わたしは真新しいリモコンのスイッチを押した。




