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譜めくりの恋  作者: ゆぶ
46/95

第46小節



 朝食をレストランでとりはじめて少ししたら、突然目のまえの席にジャージ姿の少年がおはようございますといって座った。


「あら」

 とわたしはいった。

「今日のパンはどうですか?」

「うん。いつものように美味しい」

「よかったです」

「朝練?」

「ええ」

「そう」

「ぼくここの朝食フリーパスなんです」

「へえ~」

「朝練の帰りにはたいていきてます」

「もう食べたの?」

「はい」

「学校は近くなの?」

「ここから1キロくらいかな」

「ふ~ん」

「おばあさまの具合はどう?」

「何だか原因がわからないみたいで」

「心配ね」

「ええ」

「またおしゃべりしたいって、いってたって、ねっ」

「はい、伝えておきます」


 そこへ、支配人がやってきた。


 食べすぎではなかったけどやってきた。


「おはようございます」

 と支配人はいった。


 わたしたちは、おはようございますとあいさつした。


「真田くんとはお知り合いだったんですか?」

 と支配人がわたしに聞いた。

「ああ、たまたまあの桟橋で少しお話ししてから、ねっ」 

「はい」

 と少年。

「そうでしたか」

「支配人とはスイミングスクール仲間なんです」

 と少年はいうと支配人とハイタッチした。

「へえ~、もしかして、そのスイミングスクールはこちらとおなじくグループの系列ですか?」

 とわたしは聞いた。

「そうです」

 と支配人は答えた。

「なるほど」

「となり町にあるんですけどね。わたしもその町に住んでいるものですからよく」

「そうだったんですね」

「あなたはいまもそのスイミングスクールに?」

 てわたしは少年に聞いた。

「ええ、学校のが使えないときなんかは」

 と少年は答えた。

「そっか。夏以外はそうよね」

「はい」

「じゃあ、もしオリンピックで金メダルなんか獲ったら、ものすごいスクールの宣伝になるわね」

「期待してます」

 と支配人は声を張った。

「金メダルはどうかな」

 と少年は首をかしげた。

「ねえ」

 とわたしはいった。「もし獲って、わたしも国際コンクールで優勝したらこのホテルで対談しない? あっ、わたしピアニストなんだけどね。柊学園のね。わたしもあなたを指名するし、あなたもわたしを指名して、ねっ」

「いいですね。かならずそうします」

 と少年は目をかがやかせた。

「それは素晴らしい」

 と支配人が拍手した。

「そのときはこちらのホテル使わせて下さい」

 とわたしは頼んだ。「できたら対談は専用ラウンジで」

「かしこまりました」

 と支配人は軽くお辞儀した。

「じゃあ、約束」

 といってわたしは小指を少年に差しだした。


 少年は恥ずかしそうに小指を差しだして、わたしたちは指切りげんまんをした。


 支配人も小指を差しだしてきたので、わたしは、ああ、となって支配人ともした。


 支配人と少年はおたがい躊躇して、しなかった。


 ハイタッチはしたのに、とわたしは思った。


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