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譜めくりの恋  作者: ゆぶ
43/95

第43小節


 

 わたしはそれから部屋もどって仮眠した。


 昼過ぎに起きて、今日の公演の予習をした。


 そして持ってきていた小説のつづきを読んだり、地元テレビの情報番組を観ながら時間をすごした。


 夕方になり、わたしはシャワーを浴びて、身支度をした。


 ホール横の控え室に入ると、すでにクレアが衣装を着てソファーに座って楽譜を見ていた。


「よいしょっと」

 とわたしはいって彼女の向かいに座った。

「ねえ」

 と彼女はいった。

「うん」

「さっき桟橋で一緒にいたの、真田くんでしょ?」

「真田くんっていうんだ彼。全国2位の水泳の選手だってね」

「そう。地元の期待の星よ」

「へえ~。何、よく知ってるの? っていうか、そんな時間にもうホテルにきてたの?」

「えっとね。まずあとのほうのことに答えるとね、ここの朝食が食べたくなってきてたのと、それからまえのほうのことに関してはね、子どものときからこのホテルにはよくきていたの、夏休み期間中にはきまってここへね」

「そうだったの」

「ちょっと変わったバタフライなのよね、あのコ」

「どんなふうに?」

「水しぶきがすごいのよ」

「どうゆうこと」

「つまりね。下半身ていうか、そうね、キック力がね」

「へえ~」

「かえって進まないんじゃないかってくらいなのよ」

「それでも全国2位なんでしょ?」

「そう」

「ふ~ん」

「そうそう、聞いた?」

「聞いてない」

「まだ、何も聞いてないじゃない」

「だから、何を?」

「桟橋の伝説よ」

「桟橋の伝説?」

「そう」

「何? その桟橋の伝説って」

「聞きたい?」

「はんぶんはんぶんかな」

「どっちよ」

「いまめんどくさい」

「えっ!!」

「いま聞きたい」

「オッケー。あのね、人魚返りの場所なの、あそこは」

「人魚返りって?」

「人魚が人間になってあらわれる最初の場所ってこと」

「まさかあ」

「ほんとだって」

「ほんとなの?」

「いやね、ほんとっていうか、だから伝説だって」

「伝説でしょ」

「でも見たもん、わたし、夜中に」

「何をよ」

「人魚が人間になるとこを」

「はいはい」

「ほんとだって」

「ちっちゃいときでしょ? 夢よ」

「いや違う」

「夢だって」

「知ってるもん、その人」

「誰?」 

「真田くんのおばあちゃん」

「あの人?」

「知ってるの?」

「桟橋でちょっと話したことがある程度よ」

「ふ~ん」

「でもちょっと待って。おばあちゃんになるのはやくない?」

「ああ、あのおばあちゃんがその人魚のそばにいたの。だから彼女もそうだってことになるわけよ」

「そういうことか……って、そういうことになるのかな」

「そこであなたはある事実に気づかないかしら?」

「えっ」

「気づかないかしらね?」

「何か腹立つ」


 クレアはふふふふっと、笑った。


「真田くん」

 と彼女はいった。

「真田くん?」

「あのバタフライ」


 わたしは、ハッとなった。


「でも、お孫さんになるわけでしょ」

「調べたけど、完全な隔世遺伝よね」

「調べたんだ」

「調べるわよ、それは」

「えー、でも、偶然じゃない?」

「あれは人魚の泳ぎ方よ」


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