第41小節
朝食がまたいちだんと美味しくて、わたしは毎度襲いくる食欲とのあくなきたたかいに今日も挑もうとしているときだった。
そのタイミングで登場してくるのは支配人で、やっぱり支配人はやってきた。
ぜったい見てる、と思う。
そしてぜったいタイミングを計ってると思う。
食べすぎじゃないかってあたりの、その頃合いを。
だからキョロキョロしてわたしはさがさない。
その姿を見てしまったらこれから夢にでてきそうだから。
「おはようございます」
と支配人がいった。
「おはようございます」
「おはやい練習でしたか」
「ええ、何だか、いてもたってもいられない感じがしてしまって。禁断症状みたいなものですかね。あっ、ご迷惑かけましたか」
「とんでもない。どうぞご自由に」
「よかった。ありがとうございます」
「会長から指示がありまして」
「ええ」
「何でも、希望されているものがおありになるようで」
「ああ、昨夜そんなことを聞かれましたね。あのホテルにあったらいいなというものありますかって」
「カラオケルームだとか」
「ごめんなさい。つい調子に乗ってしまって、すみません」
「いいえ。会長は、あの素晴らしい演奏会はすべてあなたにかかっているからとおっしゃられまして」
「そんなことないですよ」
「ですので、全面的にバックアップするようにと」
「いやしなくていいですよ」
「命令ですから、お察し下さい」
「そうですよね。お察しします」
「ご理解をどうも」
「いえ」
「できあがったらお知らせしますから、楽しみに待っていて下さいね」
「ということは、つくっていただけるってことですか」
「はい。手配済みでございます」
「ほんと、何だかすみません」
「いいえ。あっ、それから、本日より牧野様と呼ばせていただきます」
「それも、指示ですか?」
「いえ。会長の意図はそういったことだと思いますので、それを胸に刻んでおくためにもそうさせて下さい」
「そうですか」
「はい」
「わ、わかりました」
「では」
「どうも」
支配人は微笑みをのこして去っていった。
支配人が去ったあと、わたしはいってみるもんだなとかなり思い上がったことをつぶやいてしまって、ハッとなって思わず手で口をふさいだ。
それでもしだいに込み上げてくるよろこびを隠した口もとは、そうとうにゆるんでいた。




