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譜めくりの恋  作者: ゆぶ
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第30小節



 雨は1日中降りつづいた。


 わたしは彼との風シリーズのリハーサルを終えると、夕食をとり、部屋にもどって、ユニットバスの小さな湯船に長いあいだつかってからあがった。


 髪はバスタオルで拭いただけにして部屋着を着た。


 そのとき朝の電話を思い出して、持ってきていた腹巻きを旅行ケースからだしてつけた。


 冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取りだして3分の1ほど飲んだ。


 社会情勢を知るべきだと思って、ベッドに寝ころんでリモコンでテレビをつけた。


 ニュース番組にした。


 政治があり、事件があり、事故があり、天気予報があった。


 明日の朝には雨はあがるといっていた。


 空梅雨でダムの貯水率が気になっていたけど、その情報はなかった。


 ないってことは、心配ないってことなのかなと思った。


 この1日の雨でどれくらい上昇するのか変に気になってスマホで降った地方のダムを調べてみたら、貯水率はほとんど変化がないようで、そこでやっぱりダム付近に降らないと水不足解消にはならないのだというゆるぎない事実をいままで知らずにいたことに軽いショックを受けて、スマホを切った。


 テレビはバラエティー番組になった。


 現役アイドルがMCをしていた。


 わたしは高校生のときクレアにピアノで負けつづけるなかで、もうひとつのひそかな夢であったアイドルになろうと、そう本気で考えていた時期があった。


 オーディション雑誌を買い、新しく誕生するあるアイドルグループに応募するだけはと応募してみた。


 ピアニストのアイドルなんて珍しくはなかったけれど、そこに80年代アイドルポップスが大好きな女のコというキャラがあればいけるんじゃないかって思っていた。


 ゆくゆくは80年代アイドルポップスのカバーアルバムを出したいという願望もあったし、それに賛同してくれるファンもけっこういるんじゃないかなって思ったりしていた。


 しかしまあ歌がめちゃくちゃうまいわけではなかった。


 さりとてむちゃくちゃ下手でもなかった。


 カラオケボックスの採点ではたまに90点以上はだせた。


 じぶんでも音程が正確なだけの歌声だなって思っている。


 でもそれはまだ何色にも染まっていないってことだと、涙ぐましいほどのポジティブさでじぶんを励ましていた。


 そんなことを思い出していたらカラオケボックスにいきたくなった。


 リゾートホテルにカラオケルームみたいなのはないだろうなと思いながらホテルの案内図を見た。


 やっぱりなかった。


 わたしはまたスマホを取って近くにないか調べてみた。


 みごとに1軒もなかった。


 いちばん近くてもとなりの駅までいかないとない。


 念のためホテルのバーに行ってみようかと一瞬迷った。


 迷ったとたんにまだ未成年だったことに気づいてやめた。


 だいたいもしあったとしてもとても恥ずかしくて歌えない。


 だいたいリゾートホテルのバーにカラオケは置いてないわ。


 いや置いてあるところもあるかもしれないけど。


 まあいいや、この夏が終わったら思いっきりいけばいい。


 わたしはそう決めて、MCのアイドルの顔がアップになったところでテレビを切った。

 


 


 


 


 

 


 



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